黒衣の懐刀~少年期編~

金沢 精(かなざわ ひとし)

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第二話

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はぁ、先生はまだ怒ってるかなぁ。謝ってから何か良い方法がないか考えよっと。それにしても腹減ったなぁ。二刻程泣きながら走り回ったせいで体の疲労も大きかった。家に戻る頃にはもうとっくに日は沈んでいた。食堂に向かってみると先生が一人で待っていた。何かを袋に詰めているようだ。
「先生、その…昼は…」
「いい、気にするな。そこにファグトゥーとゼクの実と山羊の乳がある。食っとけ。」俺は驚いた。今までにないほど食事が豪華なのだ。
「先生、なんでこんなに?」
「最後だからだ。」
「何が?」
「ここでの生活がだ。」
「どういうことなの?」
「明日になれば分かるさ。」よく分からないままにファグトゥーという、穀物の粉を蜜で練って焼いてラーグという果実の果汁に浸したものと、ゼクの実を口に頬張って山羊の乳で流し込んだ。夢のような時間だった。ゼクの実なんて庶民が食べられるような代物ではない。今まで食べたこともなかったが甘酸っぱくてとてもおいしい。生まれてから今までで一番贅沢な食事に束の間の幸せを感じて大切なことを忘れていた。先生に謝るために(まあ、空腹のせいでもあったのだが)帰ってきたのであった。
「先生…」
「もう今日は早く寝なさい。明日の朝は早く起こすぞ。」
「いや、その…先生」
「あとギニルに手紙を書いておけ。もうギニルは先に寝たぞ。」
先生は俺になにも言わせまいとしていた。今思うとそのとき一番辛かったのは先生だったのだろう。先生は今まで育ててきた俺たち全員を手放さなくてはならなくなった上に、幼い僕らと違って本当のギニルの辛さを理解していたのだろうから。もうこれ以上言ってもまた遮られるだけだと諦めて先生の指示に従うことにした。「…はい…」
今になって俺はとても重大なことに気がついた。俺が感情的になって院を飛び出してしまったせいで残り少ないギニルと過ごす時間がなくなってしまったのだった。それにしても院のなかはシンと静まり返っている。いつもなら他のやつらのヒソヒソ声や寝息や、書物をめくる音が聞こえてくるのだ。明日朝が早いのは、俺とギニルだけではなくみんななのだろうか?それにしても極端に音がしない。というより、気配がないといったほうがしっくり来るかもしれない。部屋に入って違和感が実体化し目の前に厳しい現実を突きつけた。通常4人、もしくは5人部屋なのだが、俺の部屋には今ギニルと俺しかいない。他の三人はいったいどこへ行ったんだろう。嫌な予感がして他の部屋を除いてみるとそこには人っ子一人いなかった。もう一度自分の部屋に戻る。ギニルが静かに寝ている。みんなどこをほっつき歩いているんだろう。とか、みんな隠れていないで出てこいよ。とか、言いたいのは山々なのだが、それは考えたところで無意味だと分かっていた。だって、全ての部屋の備品も、書物などの荷物も、もう俺とギニルの分を除いてきれいさっぱりなくなっていたのだから。寝床はギニルが作ってくれたのかは分からないが、俺が作った時とは似ても似つかぬ整いかただった。ギニルがやってくれたのに違いない。ギニルが寝ているから火はつけずに暗い中で目を凝らしていたのだが、俺の布団の上に封筒があった。いくつも。いくつあるかなんて数えなくともわかっていた。兄弟たち12人と先生からに決まっていた。暗いから今は読めない。でもみんなが離ればなれになったこと、みんな不本意な形でバラバラになってしまったことは明白だった。布団にはいると、みんなとの思い出が走馬灯のように頭の中をめぐった。俺たちはみんな小さい頃からずっと一緒だった。院に来た時期はそれぞれ違っても俺は院ができた頃から先生と一緒にいた。二人目はギニルだった。それから次第に戦争孤児としてみんなを先生がつれてきた。寝食を共にし、勉学に励み、体を鍛えた。みんな本当の兄弟だった。ギニルだけではなく他の兄弟と過ごす時間も無駄にしてしまったということに気づいて泣きたくなってきた。いや、もう泣いていた。久しぶりだなあ。俺がみんなの兄ちゃんとして強くなくてはならなかったから泣くことなんてなかったのだ。涙を流すってこんなにも心が締め付けられるのか…
そして、いつのまにかギニルの手が俺の手を握っていた。
お互いなにも言わなかった。ギニルが起きてから握ってきたのかも分からない。ただ、どちらであっても俺たちは言葉にしないでもお互いの気持ちがわかっていた。さよならは永遠ではないと。自分の宿命に抗ってでも必ずいつかみんな揃ってみせると。1日の疲れがドッと溢れてきて眠りに落ちた。
 次の日の朝、先生に他の兄弟について聞いてみた。
「先生、他の兄弟の荷物がなくなってるんですけどみんなどこへ行ったんですか?」
「そうだったな、言い忘れていたよ。みんな俺の同僚に引き取ってもらったんだ。みんなそれぞれの新しい家族と暮らすことになる。全員俺が軍人だった頃の俺の部下だ。みんな根がしっかりしたいい奴だ、安心しろ。」
「全員ばらばらに引き取られて行ったの?」
「前からその予定だったんだ。みんながばらばらになる可能性も前からあったんだ。昨日言ったように俺は謀反人として追放された身だ。当時は今までの功績のお蔭で、死刑ではなく追放ですんだんだ。だが、世間に俺が忘れられた頃に俺が殺されるかもしれなかったんだ。だからもしもの時のためにすでに全員分引き取り先は決めてあったんだ。ギニルが王宮に行くんだ。王家の人間がこの孤児院にいたから誰も手を出せなかったが、ギニルがいなくなったら枢密三卿がこの孤児院をどうするか分からないからな。このときが来たらもともとこうするつもりだったんだ。」
「俺がまだ引き取られていないってことは俺は先生と一緒にいれるの?」
「いや、お前は今朝引き取りに来る。」
「みんなとはもう会えないんですか?」
「それはお前たちの絆次第だろう。安心しろ。儂なんかよりも教養のある奴らのもとに行った。皆、元武官、文官の家に行ったんだ。きっと立派な官吏に育つ。お前がまたみんなに出会いたければ励めばいいさ。それにお前にはギニルのもとに他の兄弟の中で一番早くたどり着いてほしいと思ってる。ギニルと一番長く一緒にいたんだ。それにお前は父ロランの素質を受け継ぐ者だ。ギニルがお前を必要としているんだ。新しく引き取ってくれる奴のもとでしっかり生きるのだぞ。」
「先生、俺は武術を習うなら先生からがいい。だって先生とは…」どうしたことだろう。急にしゃべれなくなった。
「いいか、ゼニル。幸せに、そして強くなれ。友と、そして父が愛した国のために。」先生の口は開いていないような気がしたのに先生の声が頭の中に響くようにして聞こえた。口を開いても俺はなにも言えなかった。心の中にグッと入り込んできて重くのし掛かられているような感覚だった。痛くもないし呼吸も苦しくはないがなにも話せなかった。それから俺は仕方なく自分の荷物を整理しに自分の部屋に戻った。荷物をまとめてギニルに手紙を書いた。しばらく部屋を掃除していると先生が外から俺を呼んだ。ギニルはまだ寝ている。
「お迎えが来たぞ!」そういわれ、どのような人なのか不安になりながら表に出た。すると、そこにいたのは長身の先生とは正反対の小柄な男だった。下手したら十代にしか見えないような華奢な体つきだ。正直、俺と三寸も違わないくらいの身長で拍子抜けした。
近くにいくと二人は厳しい顔つきで何やら話していた。その小柄な男が俺に目をやってから先生が俺に気づき、男を紹介し始めた。
「こいつの名前はナッド。儂が将軍だった頃の儂の右腕だった奴だ。」俺は耳を疑った。こんなに小さい男が国王直属部隊の軍人?信じられない。そこで俺は、きっとこの人は参謀や軍師といった、頭がよく兵法に通じた人間なのだと理解した。すると先生は俺の思考を読み取ったかのように笑いながらさらに俺を驚かせることを言った。
「ナッドは色々な武器に精通していてな、1対1の戦闘においては儂をも凌いで部隊で一番強かったんだ。」
「え?先生よりも?」
「ああ、そうだ。合戦などの集団戦においては儂やお前の父ロランのほうが長けていたがな。」
「やめてくださいよ。キューザン将軍。昔のことはいいじゃないですか、恥ずかしい。」
「ハッハッハ。事実だろう。ゼニル、儂がお前をナッドに預けるのにはちゃんとした理由があるんだ。一つはロランとナッドが良き友で、ナッドがそれを望んだからだ。そしてもう一つはお前が一番兄弟の中で武人に向いていたからだ。他の奴のなかには、今後頭脳を鍛えた方がいい奴もいた。お前の場合は体つきといい、素質といい、父のロラン譲りのところがある。儂らはお前に武人になってほしいと思っておる。正直好きなことをして生きてほしい。だが、この国とギニルを守るためにはこのままというわけにはいかぬ。今の王国に歯向かう力をつけてほしい。それでな…」
「将軍、もう…」ナッドが先生の話を遮った。
「おっと、もうこんな時間か。」もう日が登り始めている。
「ゼニル、最後に、お前はまずギニルのことはよいから自分自身のことだけ考えよ。ギニルのことはしばらく儂ら大人がどうにかする。お前は自分の修行に励め。」
「はい。」話し方からしてもう別れの時間ということが俺にも察することができた。
「あと、さっきはお前を術に…」先生がなにかをいいかけたときに遠くから馬の嘶きが聞こえてきた。急に二人の顔が強張る。
「おっと、王宮のやつらだ。将軍、あとは俺から説明しておきます。他の奴もみんな計画通りに。では、お達者で。」ナッドはそう言うと俺の方に向き直った。
「ほら、ゼニルっていったか?早くいくぞ。ここにいたら殺される。」今までのしめやかな雰囲気に投げ込まれた突然の物騒な発言に俺は驚く。
「やつらここ焼くつもりらしい。」
「何でわかるの?」
「大量の火薬の臭いだ。王子さまを王宮に連れていくのには必要ないだろう。ここを焼く以外の使い道がない。徹底的にギニルの今まで生きてきた経過を抹消したいらしい。」
もう少し話す余裕があると思っていたのだが、先生とナッドのピリピリとした態度から考えて、そう長く別れを言えるわけでもなさそうだった。別れる前に言おうと思っていたことはたくさんあった。感謝とか、文句とか。でも、一番多かったのは質問だった。俺は今の状況を全く理解できていない。聞きたいことはたくさんある。だが、その時間はもうない。言いたいことの中から一番を瞬時に選びだす。
「先生!俺、修行頑張ります。そしたらまた先生にも会えますか?」先生はこっちをみてかすかに口角を上げてから静かにうなずいた。
「そうだな、儂は今からちと旅に出る。会えるかどうかは分からんが、もし会えたときには儂より強くなっておらんと許さんぞ。じゃあ、さっさと行け!儂もそろそろギニルを起こしてこなくてはいけない。」そう言って先生は名残惜しむ時間を与えずに院の中に入っていった。俺は必死に涙をこらえていたのだが、ナッドが俺の背中を小突いた。
「ほれ、さっさと行くぞ。」そう言うと、王宮の使いが来ている方向とは逆の方向に走り出した。幼いながらも、もう先生に会えない予感はその場の雰囲気から感じ取っていた。先生が口角を上げて笑うときに目が笑ってはいなかった。何かを覚悟した顔だった。俺が十年以上暮らした皆の家が徐々に小さくなっていく。ナッドは途中から俺を自分が乗ってきた馬にのせて自分は恐るべき速さで隣を走っている。馬の歩く横を走っているのではない。早駆けをしている馬の横を顔色一つ変えずに並走しているのだ。みんな、さようなら。ギニル、いつかきっとお前のもとに行って弱虫なお前を悪者から守ってやるからな。待っててくれよ。強くなって必ず会いに行く。感傷に浸る暇もないほど慌ただしい旅立ちだった。不吉にもカラスが院の上空で騒がしく飛び回っていた。
 
 ゼニルが去った。ゼニルの他の子たちは全て昔の人脈をたどって国外に逃がした。実はこのような事態を先王が病弱だと知ってから懸念して、準備を秘密裏に進めていたのだ。一応、反逆者として追放を命じられた身だ。国の、というよりは、三卿の手下に見張られているのは気付いていた。そのため一つ一つの行動が命がけだった。独り身なら自分の命を顧みずに事を起こすこともできるのだが、くしくもこの歳になって13人の子供ができた。彼らを守ってやりながら国外にいる目的を同じにする旧友と連絡を取り合うのは至難の業だった。追放が決まってすぐに既に三卿によって国外追放されていた者たちの所在を追った。そして彼らの安否確認をすると共に、三卿が暴走の影響が民にまで及んだ時の対抗組織としてひそかに情報交換等を行ってきた。私と同期で退役を迫られた武官、文官。三卿の強硬改革で失脚した王族、貴族。家族を三卿に殺された兵たち。この国に三卿の味方はあれども、数では反抗勢力も劣っているわけではなかった。王宮や、現役政界にとどまった者たちのうち数人も息をひそめているだけで、事を起こせば我等に通じるだろうと思われる。周りが敵ばかりというわけでも、進退窮まったというわけでもない。だがそれは、必ずしも我らに勝機があると言えるわけではなかった。事が起きればどちらに義があろうともこちらは反乱軍。追い風を受けることはまずないだろう。敵には三卿の私兵、「影刃」、国王軍がいる。さらに、今内乱を起こせない理由は対外的なものもある。隣国であるミナストリア王国はガルダン王国に比べれば小さいものの、度々侵攻をしてくる。内乱が起これば嬉々として領土を切り取りに来るだろう。また、ベール草原にいる遊牧民族も、スーダ王が亡くなってからは親交もなく、この国に敵対してくる可能性も捨てきることはできない。内乱を起こす前にどうにか王国が隣国勢力を抑えてもらわねばならない。それまでは、我々反抗勢力は準備が露見しないように進め、仲間を増やしておくことが大事だ。そして時期を待つ形をとるこの反乱は長丁場になる。そのため、ゼニル達新世代の育成にも力を入れる必要があったのだ。数が少ないこちらは一人一人の質を高めることで対抗していくしかない。特に才能に恵まれたゼニルは一番信頼のおけるナッドに任せた。万が一にも国王軍につかまり殺されることは無いだろう。あと、残っている仕事はギニルを無事に三卿に引き渡すことだ。ギニルには私から3つの手紙を託してある。一つ目はギニルに宛てたもの。親から子への激励の手紙だ。これは昨日のうちに渡しているためもう読んでいるだろうから、三卿に取り上げられて捨てられても問題はない。二つ目はセミヤ旧王妃に宛てたもの。これは腹違いではあるものの、スーダ王の子であるギニルをどうにか守ってやってほしいという内容だ。セミヤ旧王妃は非常に温厚な人柄のため問題はないだろう。三つ目は王宮内の新王派最高位の内務卿への情報だった。王宮の外にいる勢力と今後情報を交換し合う手順が記されている。後者の二つの手紙は三卿に見つかってはならないため、ギニルの帯刀する宝刀の柄に仕込んだ。ギニルも知らない。私がスーダ王から下賜されたこの国の宝刀だ。それをギニルに王宮へ変換するように頼んだのだ。このことについては三卿も了解済みで、ギニルからセミヤ王妃に手渡しで剣が渡ることになっているため、大丈夫だろう。ギニルには昨日、院から他の子供たちが退去したあと話せるだけの情報を話した。ギニルは非常に頭がよく、ある程度の内容を理解したようだった。王になってもおそらく実際の政治は三卿がするであろうこと。何もせずに勉強だけしておけばよいということ。セミヤ王妃と親しくなること。三卿に逆らわないこと。必ずゼニルがいつか王宮に仕官すること。それを待つこと。必要なことは全て話した。ギニルが三卿に殺されては元も子もない。ギニルを起こして食事をとらせる。礼服を着せた上で三卿を待つ。
ドンドンッ!!「王宮からの使いである。門を早急に開けられたし!」
いよいよだ。人生最後の大戦。
 
「いやあ、お早いお着きで。ご苦労様でございます。」この通りギニル様の支度は整えさせていただきました。そう言ってギニルを前に出す。どうせすぐに着替えさせられるのだろうが、この日のために新調してやった金糸の上着を着せてある。手紙を仕込んだ剣もギニルには重いだろうがしっかりと持たせる。平静を保っているつもりなのだが、今目の前に広がる光景に私は正直驚愕していた。院を取り囲む大軍…まさか…私が想定していた自体よりもはるかに悪い。ギニルを引き渡した後、私は自分が拘束されるだろうとは踏んでいた。以前この国最強と恐れられた将軍を捕らえるのだからある程度の軍を率いてくることは想像がついていた。しかしあまりにも多すぎる。逃げられる可能性が無くなったのを嘆いているのではない。もともと逃げるつもりも抵抗する気もなかった。今ここで暴れるよりは、王都の牢でおとなしくしていた方がギニルに近いため、安心だと思っていたのだ。しかしこの軍勢を見て確信した。誰一人として罪人を捕らえるための捕具を持っているものがいない。私を捕らえるつもりなら三つ道具(刺股、突棒、袖搦)くらい持っていてもおかしくはない。だが皆青龍刀を帯刀しているうえに弓道具一式に槍を持つという徹底ぶりだ。これは王子護衛のためとは言っても大げさすぎる。この状況が意味するのはただ一つ。私の死に場所をここにして、院と共に焼き払うつもりだということだ。王宮の牢で死ぬよりこの思い出の詰まった院で死ねるのは嬉しい。だが、ギニルの行く末を王宮内部の内通者だけに託すのが非常に心もとない。
「それにしてもものものしい軍勢ですなあ。王子の護衛にこんなにもいりまするか?一応ここは王国内ですし、王子の出生を悟られぬためにも護衛はあえて少なくすべきかと思いますが。」三卿の一人で軍事担当のラムトーが今回は随行してきている。ラムトーは私の言うことなどには少しも耳を貸さずにギニルを自分たちの軍の後方に連れて行こうとしている。
「ささ、国王陛下後ろに用意した馬で一里先の幕舎まで先に共の者とお向かいください。そこに新しいお召し物等をご用意させております。我等もすぐに後から向かいますゆえ。」
この場所からギニルを遠ざけることは、私にとっても王国側としても良いことであった。王国側にとっても、私にとっても大事な存在であるギニルは、どちらにとっても人質としての効果は無い。それならば、戦闘に巻き込まれてけがをされるよりは安全なところに移すのが最善であった。ギニルは名残惜しそうにこちら側を見て、一度だけ強く口を結び、背を向けて歩きだした。ここまでが孤児たちの師であり父であった私のなすべき仕事。そしてここからは先々王のスーダ王に仕えたキューザンという一人の将軍としての仕事だ。ギニルが離れたのを見計らってラムトーは口を開いた。
「先ほどのお前の疑問に明確な答えを与えよう。ここにいる千人の兵は王の護衛であり、議会からもう一つの命を与えられている。この院及びこの村にあるすべての家屋を制圧する。」議会による決定というのは詭弁だろうが、村ごと制圧?想像をはるかに超えた事態だ。
「制圧ですと?この地は既にガルダン王国領。何故軍事力を以って制圧する必要があるのです?」
「なにをいうか、キューザン。先々代のスーダ王とその側室であらせられるメイラン様の間にお生まれになったお子を誘拐し、この村に潜伏、10数年をかけて着々と国家転覆のための計画を進めていた罪はもう既に暴かれておる。調べによればこの村の住人ぐるみでクーデタをおこそうとしていたという。この村ごと制圧して何が悪い?」
三卿はどこまでも許しがたい行為をしてくる。まず第一、ギニルはスーダ王と一般庶民の女の間に生まれた子であって、メイラン様のお子ではない。メイラン様は三卿の上司貴族にあたる反王派の側室だ。よくもまあ、こんな大ぼらをでっちあげられたものだ。狂気さえ感じられる。この院は王都より追放された私がなるべく王都から離れたところの方が危険視されまいと思って建てたものだ。この村はもともとここにあり、私のことを将軍だと知っているものすら少ない。あり得ぬ。私の苦い顔を嘲りながらラムトーは全軍に命令を出した。
「よいか、村人全員死刑じゃ。抵抗する者は斬れ!はじめよっ」死刑でそれに抵抗すれば殺されるとはなんとむごい判決。常軌を逸している。ラムトーの命で兵たちの一部が村に散り始める。


(次回はいよいよ戦闘シーンを織り交ぜた内容になります。お楽しみに…)
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