異世界行ったら勇者と魔王が従者になった僕は平和に暮らしたい

ぎんぺい

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一章 はじまり

第七話 甦らせた者

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 女の子の体ってこんなに堅いものなのか――いや違う、相手が鎧を着ているからだ。

 鎧騎士がギュッと体に抱きついてくる。

「ご主人様ぁ」

 しかも先程からしきりに猫なで声で呟かれるこの言葉。
 彼女は本当に僕たちがさっきまで戦っていた鎧騎士なのだろうか。
 無苦朗は困惑と疑念のこもった目で鎧騎士の顔をジッと見つめる。

「……そんな熱い視線を向けるな、照れるぞ」

 こちらの視線に気付いたのか、鎧騎士は顔を横にそらした。目線はこちらに向けたままだが本当に恥ずかしいのか顔が赤くなっていた。
 まさかどこかで中身が入れ替わったのではないか、と無苦朗はわりと本気で考えそうになる。

「と、とにかく離れてくれっ」

 このままではらちが明かないと、無苦朗は抱きつく鎧騎士の肩を掴み、乱暴にならないよう力をいれて自分から引き剥がそうとする。

「あん♪ そんなお戯れを」

 鎧騎士はそう言いながらも抵抗せず、逆に自ら一歩うしろへ退いた。

「なかなか愉快なことになっとるの」

 そう口の端をつり上げて言うのはヘレナだ。
 まずい、鎧騎士が起きたってことは、また彼女に襲いかかってくるんじゃないか。
 そう思った無苦朗は鎧騎士から庇うようにヘレナの前に立つ。しかし、ちょんちょんと後ろから背中をつつかれた。

「落ち着けい主殿。いまのところアヤツからは戦う意志が感じられん」

「のう? 勇者よ」とヘレナが鎧騎士に向かって言う。

「汝に私の何が分かるかッ、と言いたいところだが――」

 鎧騎士が無苦朗を一瞥する。

「――ご主人様の手前もある。だが覚えておけ、汝とはあくまで一時休戦にすぎんッ」

 戦っていた時の苛烈さほどではないが、鎧騎士の雰囲気がもとへと戻る。
 無苦朗は二重の意味でよかったと思った。しかし、ハタと思い出す。

「そう言えばあの怪物はどこにっ!」

 あの一つ目の巨人はどうしたのだろうか。

「安心してくれご主人様、あれだったら既に片付けた」

 鎧騎士が人差し指を立てると天に向ける。
 それにつられて無苦朗は顔を天に向けた。

「も、もしかしてあれがッ」

 そこにはあの巨人らしきものが見えた。
 巨人は頭隠して尻隠さずを体現するように、上半身だけが巨大魔方陣に飲み込まれ、残った下半身がブラブラと空中に垂れ下がっているという状態だったのだ。

「……」

 その姿は無苦朗に敗北者の悲惨さというものを感じさせたが、それと同時に驚異が去ったことも理解させた。
 あとは、と例の般若面のメイドへと目を向ける。しかし。

「……」

 般若面の女は変わらず同じところを浮かんでいた。
 白目をむけて。

「カカッ、汝をあの程度のやからで捕らえようとするとは愚かなやつ」
「そこは相性というものがある。実際いい線は行っていたしの」

 一時休戦と宣言したためか何事もなく会話をする二人。

「どうして――」

 すると気がついたのか、意識はもともとあったのか、般若面のメイドの瞳が紺色に戻り、口を開いた。

「どうして勇者が生きているのですかァーッ⁉」

 般若面のメイドは姿勢を大きく崩し、余裕をどこかへかなぐり捨て、全身で驚きを表現する。
 巨人のものよりはるかにマシだが、大きな叫びが辺りに響く。

「 や か ま し い ! 」
「――ッ‼」

 それをはるかに凌駕する鎧騎士の轟く一喝。
 般若面のメイドはビクゥッと分かりやすい脅えた反応をする。若干、涙目にも見える。
 何だか、かわいそうに思えてきた。
 見かねた無苦朗は鎧騎士へ待ったをかけようとするが。
 そういえば、この人の名前はなんて言うんだろう。
 自分が鎧騎士の名前を知らないことに気づく。

「キミ、あー、勇者、さん?」

 とりあえず、皆が呼んでいる勇者で声をかけてみる。
 自分が話しかけられたことに気づいた鎧騎士は、般若面のメイドへ向けていた不機嫌そうな顔とは一転、しとやかささえ感じさせる雰囲気で無苦朗へと振り向いた。

「ご主人様、そんな勇者などとは言わず、私のことはニコと呼んでほしいぞ」

 勇者と呼ばれるのが嫌なのか、鎧騎士、いや、ニコは自分のことは名前で呼んでほしいと言ってくる。

「じゃあ……ニコ」
「はい♪」

 無苦朗から名前で呼ばれたためか、ニコの頬が桜色に上気する。
 その姿が鎧を着けていることを除けばただの女の子にしか見えなくて、無苦朗はなんだかホッとした。

「……なぜ勇者が……勇者は魔王様と共に死んだはず……どういうことでございますか……」

 ぶつぶつと呟く声が般若面のメイドから聞こえてきた。

「……魔王様、つかぬことをお伺いいたしますが、あなた様は『魔皇転生』レザレクションによって復活なされたのでございますよね?」

 その呟きが止まると、彼女は最初に現れたときと同じようにピッと背筋をたて直し、ヘレナへと質問を投げ掛けた。

「違うの」
「なッ――⁉」

 そう間もないほどの早さでヘレナは答えた。般若面のメイドがまたもや驚愕の声をあげる。

「でしたら何故」
「それはの、この――」

 般若面のメイドが言い終えるより前に、ヘレナは口を開くと無苦朗の腕と自分の腕を絡ませながら言った。

「主殿のおかげよの」
「?」

 般若面のメイドが首を小さく傾げる。
 無苦朗も同じ反応をした。

「分からぬか」
「……まさか!」

 分からない。

「ククク、せっかくだがお前が分かっても、我が主殿が分かっておらんようだから口に出して言うてやろう」

 ヘレナがこちらへ顔を向けてくる。

「なに、実に簡単な話しよ。我とそこにおる……ニコも含めて」
「汝がその名で呼ぶなッ」

 ヘレナから名前を呼ばれたニコが剣気を放つ。
 しかし当のヘレナは全く気にならないといった様子。
 そして無苦朗もヘレナの雰囲気にのまれ、彼女以外が目に入らなくなっていた。
 今のヘレナの顔は最初に見たときのように実に妖艶で。

「我らはの、そなたに呼ばれたのだ」
「……僕が、君たちを?」
「そうだ主殿――そなたが我らを――」


 甦らせた。

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