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一章 はじまり
第九話 狙われる者
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「して、この下郎どもの始末いかがしようムクロー殿。ヤれと言うのならば今すぐここで」
ニコがゴキゴキッと指を鳴らす。いつでも準備はできていると言わんばかりに。
「ニコ、あまり彼らを怖がらせるようなことは言わないでほしいんだ」
無苦朗はその様子を見てニコにやめてほしいとお願いする。
「見かけは怪しいけれど多分、悪い人たちじゃないから」
一人はまだ分からないけど。
無苦朗たちの眼下には縄で縛られ、横並びに座らされた人物たちの姿があった。馬男と牛男、般若面メイド――ハイネの三人である。
「助けてください! 何でもしますから命だけはご勘弁を!」
「ばか野郎ゴーズ! テメエはもっと志を高く持ちやがれ!」
「その志も命あっての物種だろッ!」
「なんだと俺に口答えするつもりかァ!」
「 口 を 閉 じ ろ ッ ! 」
「……」「……」
途中から喧嘩のするように言い争そう馬男と牛男だったが、ニコの一喝でパタッと口を閉ざした。
「ムクローよ我にはどうもお主の言う、悪い奴等でないという評価は当てにならんと思っているのだがの」
無苦朗の横にいるヘレナが言う。
それは心外だ。見る目があるとは言わないけれど節穴とまではいかないハズだ。
「汝、ムクロー殿が信じられないと言うかッ」
「我を普通の童子だと思い、助けに入ってきたほどだぞ?」
「グッ……⁉」
ヘレナへ食って掛かるように言うニコだったが、その一言を聞くと途端に何も言わなくなった。
「? 女の子が襲われそうになっているんだから、止めるのは当たり前のことじゃないのかい?」
「分かった分かった、ムクローはそのままで構わぬよ」
なんだか適当にあしらわれたような気がする無苦朗だった。
「あのう、お話し中のところ失礼いたしますでございますが」
その場にいた全員の目が一人に集中した。
先程まで黙りっぱなしだったハイネが口を開いたからだ。
ハイネは視線に臆することなく、いや、ニコとはできるだけ目を合わせないようにしているようだが、話し始めた。
「そちらの人間「ムクロー殿だッ」……ムクロー様が魔王様と、その、勇者を甦らせたということでよろしいのでございますよね?」
「え⁉」「どういうことだ甦らせ」
「 黙 っ て い ろ ッ 」
「……」「……」
ハイネから無苦朗がヘレナとニコを甦らせたと聞いて驚く二人組だったが、すぐにまた口を閉ざされた。
一方、無苦朗はハイネが何を話すのか気になるので、二人組に申し訳ないと思いつつ見てみぬふりを決行した。
「それがどうかしたのかの」
ヘレナが話しの続きを促すようにハイネへと話しかける。
ニコの一喝に驚いている様子のハイネだったが、それに反応したのかまた話し始めた。
「その事と、『骨装義体』の体を見るに、ムクロー様は死霊魔術師とお見受けするでございます。そして甦らされた魔王様と勇者は彼の……配下になられたという事でよろしいございますか?」
死霊魔術師――確かにあの頭の中で響いた声が言っていた言葉だ。しかし配下とはいったい。
思い出したその言葉と配下になるとはどういう意味なのか知りたい無苦朗だったが、話しの腰を折るわけにもいかないと疑問は後回しにした。
「ククク、まあ、とりあえずお前の言ったこと全て、肯定はできるとだけ言っておこうかの」
ヘレナは喉を鳴らすと、そうどちらとも取れそうな答えをハイネに返した。
「時期が早すぎるとは思っていたでございますが……なんということでございますか……」
その答えを聞き、ハイネがパタリと倒れてしまいそうな雰囲気をかもし出した。
自分の想像していたことが事実だと分かってショックを受けたのだろうか。確かにどんな経緯であれ、他人が自分の知り合いを生き返らせたら当然かもしれない。
なにか慰められる言葉はないかと悩む無苦朗だったが、そもそも自分が原因だったのを思い出し、さらに悩むことになった。
「フンッ! ムクロー殿、そのような顔をすることはないぞ。おおかた復活したばかりの魔王を幽閉し、己の力としようとでも計ったのだろうからなッ」
ニコはそう言いとハイネに向かって指を差した。ハイネがビクリと体を震わせる。
「……ありがとうニコ。でもあんまり人を悪く言っちゃいけないよ。まだ僕たちは彼女のことをなにも知らないんだし」
そう言いながらも無苦朗は自分に気を遣ってくれたニコに感謝した。
「う……む。ムクロー殿がそう言うのであれば」
「そもそもニコよ、今のところ、まずそんなことはありえぬよ」
ヘレナがニコの言葉を否定した。
「だから名前で呼ぶなとッ――で、どうしてそう言い切れるッ?」
「こやつが仮面を取っておらんからかの」
「?」
ニコの眉間にシワが寄る。無苦朗もヘレナが言わんとしていることが分からなかった。
「……魔王様。不肖このハイネ、お伝えしたいことがございます」
すると黙っていたハイネが口を開いた。
「許そう。言ってみよ」
「今すぐお逃げください! あの者たちが――『天魔四恐』が魔王様のお身体を狙ってございます」
「ほう! 『天魔四恐』だとッ!」
それを聞き、声を上げたのはヘレナでなくニコだった。その顔は愉快そうに口の端をつり上がらせていた。
彼女はその『天魔四恐』というのを知っているのだろうか。
「人間のみならず同族である魔族からも恐れられ、魔王以外であれば四人のいずれかが魔界を支配すると音に聞く――あの天魔四恐かッ!」
ニコは心底嬉しそうに言う。
話しを聞いているとそんな愉快な人たちには思えないんだけどな。
「ヘレナを狙ってるって、どういうことなんですか?」
狙っているだなんて流石に穏やかな話しじゃない。そう思った無苦朗はハイネに事情を聞こうとする。
「それは――」
「おい、なんだあれ⁉」「空から何か来るぞッ!」
すると今までニコの言う通りに口を閉ざしていた二人組が急に騒ぎだした。
どうしたんだ、と無苦朗が周りを確認すると、二人組だけではなくヘレナやニコも上空を睨みつけていた。無苦朗も皆と同じように空を見上げる。
「――⁉」
無苦朗は絶句した。
空にあったのは、あのいまだに巨人の半身が出ている魔方陣と。
「さっそくお目見えのようだの」
それよりもさらに上空、巨人よりはるかに巨大な西洋の城が――逆さまで浮いている光景だった。
ニコがゴキゴキッと指を鳴らす。いつでも準備はできていると言わんばかりに。
「ニコ、あまり彼らを怖がらせるようなことは言わないでほしいんだ」
無苦朗はその様子を見てニコにやめてほしいとお願いする。
「見かけは怪しいけれど多分、悪い人たちじゃないから」
一人はまだ分からないけど。
無苦朗たちの眼下には縄で縛られ、横並びに座らされた人物たちの姿があった。馬男と牛男、般若面メイド――ハイネの三人である。
「助けてください! 何でもしますから命だけはご勘弁を!」
「ばか野郎ゴーズ! テメエはもっと志を高く持ちやがれ!」
「その志も命あっての物種だろッ!」
「なんだと俺に口答えするつもりかァ!」
「 口 を 閉 じ ろ ッ ! 」
「……」「……」
途中から喧嘩のするように言い争そう馬男と牛男だったが、ニコの一喝でパタッと口を閉ざした。
「ムクローよ我にはどうもお主の言う、悪い奴等でないという評価は当てにならんと思っているのだがの」
無苦朗の横にいるヘレナが言う。
それは心外だ。見る目があるとは言わないけれど節穴とまではいかないハズだ。
「汝、ムクロー殿が信じられないと言うかッ」
「我を普通の童子だと思い、助けに入ってきたほどだぞ?」
「グッ……⁉」
ヘレナへ食って掛かるように言うニコだったが、その一言を聞くと途端に何も言わなくなった。
「? 女の子が襲われそうになっているんだから、止めるのは当たり前のことじゃないのかい?」
「分かった分かった、ムクローはそのままで構わぬよ」
なんだか適当にあしらわれたような気がする無苦朗だった。
「あのう、お話し中のところ失礼いたしますでございますが」
その場にいた全員の目が一人に集中した。
先程まで黙りっぱなしだったハイネが口を開いたからだ。
ハイネは視線に臆することなく、いや、ニコとはできるだけ目を合わせないようにしているようだが、話し始めた。
「そちらの人間「ムクロー殿だッ」……ムクロー様が魔王様と、その、勇者を甦らせたということでよろしいのでございますよね?」
「え⁉」「どういうことだ甦らせ」
「 黙 っ て い ろ ッ 」
「……」「……」
ハイネから無苦朗がヘレナとニコを甦らせたと聞いて驚く二人組だったが、すぐにまた口を閉ざされた。
一方、無苦朗はハイネが何を話すのか気になるので、二人組に申し訳ないと思いつつ見てみぬふりを決行した。
「それがどうかしたのかの」
ヘレナが話しの続きを促すようにハイネへと話しかける。
ニコの一喝に驚いている様子のハイネだったが、それに反応したのかまた話し始めた。
「その事と、『骨装義体』の体を見るに、ムクロー様は死霊魔術師とお見受けするでございます。そして甦らされた魔王様と勇者は彼の……配下になられたという事でよろしいございますか?」
死霊魔術師――確かにあの頭の中で響いた声が言っていた言葉だ。しかし配下とはいったい。
思い出したその言葉と配下になるとはどういう意味なのか知りたい無苦朗だったが、話しの腰を折るわけにもいかないと疑問は後回しにした。
「ククク、まあ、とりあえずお前の言ったこと全て、肯定はできるとだけ言っておこうかの」
ヘレナは喉を鳴らすと、そうどちらとも取れそうな答えをハイネに返した。
「時期が早すぎるとは思っていたでございますが……なんということでございますか……」
その答えを聞き、ハイネがパタリと倒れてしまいそうな雰囲気をかもし出した。
自分の想像していたことが事実だと分かってショックを受けたのだろうか。確かにどんな経緯であれ、他人が自分の知り合いを生き返らせたら当然かもしれない。
なにか慰められる言葉はないかと悩む無苦朗だったが、そもそも自分が原因だったのを思い出し、さらに悩むことになった。
「フンッ! ムクロー殿、そのような顔をすることはないぞ。おおかた復活したばかりの魔王を幽閉し、己の力としようとでも計ったのだろうからなッ」
ニコはそう言いとハイネに向かって指を差した。ハイネがビクリと体を震わせる。
「……ありがとうニコ。でもあんまり人を悪く言っちゃいけないよ。まだ僕たちは彼女のことをなにも知らないんだし」
そう言いながらも無苦朗は自分に気を遣ってくれたニコに感謝した。
「う……む。ムクロー殿がそう言うのであれば」
「そもそもニコよ、今のところ、まずそんなことはありえぬよ」
ヘレナがニコの言葉を否定した。
「だから名前で呼ぶなとッ――で、どうしてそう言い切れるッ?」
「こやつが仮面を取っておらんからかの」
「?」
ニコの眉間にシワが寄る。無苦朗もヘレナが言わんとしていることが分からなかった。
「……魔王様。不肖このハイネ、お伝えしたいことがございます」
すると黙っていたハイネが口を開いた。
「許そう。言ってみよ」
「今すぐお逃げください! あの者たちが――『天魔四恐』が魔王様のお身体を狙ってございます」
「ほう! 『天魔四恐』だとッ!」
それを聞き、声を上げたのはヘレナでなくニコだった。その顔は愉快そうに口の端をつり上がらせていた。
彼女はその『天魔四恐』というのを知っているのだろうか。
「人間のみならず同族である魔族からも恐れられ、魔王以外であれば四人のいずれかが魔界を支配すると音に聞く――あの天魔四恐かッ!」
ニコは心底嬉しそうに言う。
話しを聞いているとそんな愉快な人たちには思えないんだけどな。
「ヘレナを狙ってるって、どういうことなんですか?」
狙っているだなんて流石に穏やかな話しじゃない。そう思った無苦朗はハイネに事情を聞こうとする。
「それは――」
「おい、なんだあれ⁉」「空から何か来るぞッ!」
すると今までニコの言う通りに口を閉ざしていた二人組が急に騒ぎだした。
どうしたんだ、と無苦朗が周りを確認すると、二人組だけではなくヘレナやニコも上空を睨みつけていた。無苦朗も皆と同じように空を見上げる。
「――⁉」
無苦朗は絶句した。
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