1 / 1
僕と上司と金曜夜の・・・ 1/1
しおりを挟む
上司であり同居人でもある相楽さんは、なかなかどうしようもない人で。
僕がリビングでホラー映画を観ていたら、そっと後ろから濡れた手で首筋を触り、
別の日にキッズ向けアニメで笑っていたら、いきなり腰をくすぐってきた。
構ってほしいんだかなんなんだか、油断も隙もない。
どうしてこんなことをするのかと聞いてみると「ぞくっとしたいからホラーなんか観てたんだろ? 笑いたいからああいうアニメ観てたんだろ?」とのたまった。
何言ってるんだか。
本当にこの人は、人の気も知らないで……。
僕はあの人に触られるとドキドキしてしまうし、構われると心のどこかでその先を期待してしまう。
たぶんこれは一種の片思いみたいなものなんだと思う。
向こうは思わせぶりなことをするだけで、それ以上のことはきっと何も考えていない。
わかってるのに、いや……わかっているからこそ僕は、胸が苦しい。
「今日はこれを観よう」
その日僕が近所のレンタルビデオ店から借りてきたのは、ベタなラブストーリーだった。
パッケージに印刷されていたのは、男女がソファでキスをしている写真だ。
僕がリビングでこれを観ていたら、あの人はキスしてくれるんだろうか。
……我ながら、バカなことを考えていると思う。
飲んで帰ってきた相楽さんは、お風呂で鼻歌を歌っていた。
僕は金曜夜のいつもの夜更かしを装って、DVDをデッキに入れる。
予告編を流し見つつ、コンビニで買ってきた缶のカクテルをグラスに注いだ。
彼がバスルームから出てくる気配はない。
まだ鼻歌が聞こえている。
緊張していたせいか、本編に入った頃には僕はすでにカクテルを飲み干してしまっていた。
映画の内容は残念ながらというべきか、案の定というべきか、今の僕には退屈だ。
それはそうだ、ただ下心で借りてきたやつだから。
アルコールのせいか映画が退屈なせいか、眠くなってきてしまった。
どうする? くだらない考えは捨て、部屋に戻って寝るべきか。
ぼんやり考えながらソファの肘掛けに頭を乗せ、ごろんと横になる。
目を閉じ、数秒か、数十秒か。
人の気配が近づいてくるのを感じ、僕はまぶたを持ち上げた。
そして目の前に広がる景色に、心臓が大きく脈打つ。
いつの間にお風呂から上がってきたんだろう。濡れ髪の相楽さんがソファの背に腕を突き、僕を真上から見下ろしていた。
その顔には困惑の色が浮かんでいる。
耳に、女性の喘ぎ声が届いた。
ハッとしてテレビを見る。
そこに映し出される映画は今、なんとも間の悪いことにベッドシーンに差しかかっていた。
「これは、その……」
とっさに言い訳しようとして気づく。
中学生でもないのにベッドシーンくらいで慌てるのは変だ。
「その、なんだ?」
相楽さんが濡れて艶やかに光る髪を掻き上げながら、先を促した。
けれども、その先に続けるべき適切な言葉が僕には見当たらない。
「これはただ、お店でおすすめされてたのを借りてきただけで」
言い訳の言葉に、甘ったるい女性の喘ぎ声が重なった。
僕を見下ろしている相楽さんが、口角を意味深な角度に持ち上げる。
「へえ?」
「な、なんですか。いいじゃないですか、たまにはこういうのを観たって」
ソファから起き上がろうとすると、いきなり上から肩を押さえつけられた。
「なんだ、期待してんのかと思った」
「き、期待?」
「だからさ、こういうことをだよ」
僕の肩を押さえつけたまま、彼はソファの背をまたいでこっちに来る。
湯上がりの熱気と香りを感じ、心臓がまた変な音をたてた。
何も言えないでいるうちに、今度は唇の端にキスが降ってくる。
「これのパッケージ、こんなんじゃなかったっけ?」
「観たんですか」
「前に観た。このシーンは有名だろ」
僕の困った上司は、それから先のことも具体的に教えてくれた――。
――
読了ありがとうございました!
この2人のなれそめからを描いた『サイテー上司とデザイナーだった僕の半年』本編もどうぞよろしく。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/910358047/115250863
僕がリビングでホラー映画を観ていたら、そっと後ろから濡れた手で首筋を触り、
別の日にキッズ向けアニメで笑っていたら、いきなり腰をくすぐってきた。
構ってほしいんだかなんなんだか、油断も隙もない。
どうしてこんなことをするのかと聞いてみると「ぞくっとしたいからホラーなんか観てたんだろ? 笑いたいからああいうアニメ観てたんだろ?」とのたまった。
何言ってるんだか。
本当にこの人は、人の気も知らないで……。
僕はあの人に触られるとドキドキしてしまうし、構われると心のどこかでその先を期待してしまう。
たぶんこれは一種の片思いみたいなものなんだと思う。
向こうは思わせぶりなことをするだけで、それ以上のことはきっと何も考えていない。
わかってるのに、いや……わかっているからこそ僕は、胸が苦しい。
「今日はこれを観よう」
その日僕が近所のレンタルビデオ店から借りてきたのは、ベタなラブストーリーだった。
パッケージに印刷されていたのは、男女がソファでキスをしている写真だ。
僕がリビングでこれを観ていたら、あの人はキスしてくれるんだろうか。
……我ながら、バカなことを考えていると思う。
飲んで帰ってきた相楽さんは、お風呂で鼻歌を歌っていた。
僕は金曜夜のいつもの夜更かしを装って、DVDをデッキに入れる。
予告編を流し見つつ、コンビニで買ってきた缶のカクテルをグラスに注いだ。
彼がバスルームから出てくる気配はない。
まだ鼻歌が聞こえている。
緊張していたせいか、本編に入った頃には僕はすでにカクテルを飲み干してしまっていた。
映画の内容は残念ながらというべきか、案の定というべきか、今の僕には退屈だ。
それはそうだ、ただ下心で借りてきたやつだから。
アルコールのせいか映画が退屈なせいか、眠くなってきてしまった。
どうする? くだらない考えは捨て、部屋に戻って寝るべきか。
ぼんやり考えながらソファの肘掛けに頭を乗せ、ごろんと横になる。
目を閉じ、数秒か、数十秒か。
人の気配が近づいてくるのを感じ、僕はまぶたを持ち上げた。
そして目の前に広がる景色に、心臓が大きく脈打つ。
いつの間にお風呂から上がってきたんだろう。濡れ髪の相楽さんがソファの背に腕を突き、僕を真上から見下ろしていた。
その顔には困惑の色が浮かんでいる。
耳に、女性の喘ぎ声が届いた。
ハッとしてテレビを見る。
そこに映し出される映画は今、なんとも間の悪いことにベッドシーンに差しかかっていた。
「これは、その……」
とっさに言い訳しようとして気づく。
中学生でもないのにベッドシーンくらいで慌てるのは変だ。
「その、なんだ?」
相楽さんが濡れて艶やかに光る髪を掻き上げながら、先を促した。
けれども、その先に続けるべき適切な言葉が僕には見当たらない。
「これはただ、お店でおすすめされてたのを借りてきただけで」
言い訳の言葉に、甘ったるい女性の喘ぎ声が重なった。
僕を見下ろしている相楽さんが、口角を意味深な角度に持ち上げる。
「へえ?」
「な、なんですか。いいじゃないですか、たまにはこういうのを観たって」
ソファから起き上がろうとすると、いきなり上から肩を押さえつけられた。
「なんだ、期待してんのかと思った」
「き、期待?」
「だからさ、こういうことをだよ」
僕の肩を押さえつけたまま、彼はソファの背をまたいでこっちに来る。
湯上がりの熱気と香りを感じ、心臓がまた変な音をたてた。
何も言えないでいるうちに、今度は唇の端にキスが降ってくる。
「これのパッケージ、こんなんじゃなかったっけ?」
「観たんですか」
「前に観た。このシーンは有名だろ」
僕の困った上司は、それから先のことも具体的に教えてくれた――。
――
読了ありがとうございました!
この2人のなれそめからを描いた『サイテー上司とデザイナーだった僕の半年』本編もどうぞよろしく。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/910358047/115250863
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
雪色のラブレター
hamapito
BL
俺が遠くに行っても、圭は圭のまま、何も変わらないから。――それでよかった、のに。
そばにいられればいい。
想いは口にすることなく消えるはずだった。
高校卒業まであと三か月。
幼馴染である圭への気持ちを隠したまま、今日も変わらず隣を歩く翔。
そばにいられればいい。幼馴染のままでいい。
そう思っていたはずなのに、圭のひとことに抑えていた気持ちがこぼれてしまう。
翔は、圭の戸惑う声に、「忘れて」と逃げてしまい……。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる