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第3章 獅子と牝山羊
第12話
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「やめ……――」
止める間もなくまた首を締められる。
今度はその手に、彼の体重が乗っていた。
(嘘、まさか、本当に!?)
ユァンはもがき魔の手から逃れようとする。
今度こそ命の危機を感じたが、首にかかった手は呆気なく緩んだ。
「え……?」
涙に濡れた視界が揺らめいた。
「なんて顔をしてるの? 怯えちゃって、可愛いなあ……」
ヒエロニムスの顔が歪みながら笑っている。
「ねえ、そんなに怖かった? よく知らない他人に命を握られるって、どんな気持ち?」
耳元に彼の唇が触れる。
「キミの泣き顔、ホントたまんない。このままここで犯しちゃおうか。そんなことしたら僕がシプリアーノ司教に殺されると思うけど……。ああ、でも、考えてみたら最高だね! 司教とアイツと、2人ともどんな顔するかなあ。ユァン、キミは最高のペットだよ。キミに僕の名前の入った首輪をはめて歩かせたい」
ユァンに跨がったまま、ヒエロニムスはのどを反らせて笑っていた。
「あなたは……いったい何を言って……」
彼を見上げ、ユァンはただただ困惑する。
司教の前に折り目正しく座り、十字を切っていた彼は単に表向きの顔だったのだろうか。
あの時は、ソドミーの罪を苦に命を絶ったという若い修道士を哀れんでいるように見えたのに……。
この人は、実際にはユァンを絞め殺す気はないし、犯すつもりもないだろう。
それがなんとなく、ユァンにも分かってきた。
聖職者の枠からはみ出せないからこそ、こんなふうに鬱屈している。
罪を犯さない悪人と、罪を犯してしまった善人と。
神はどちらをより愛するのだろうか。
「もうどいてください。勝手に部屋に入ったことは謝ります。でも僕は、何を言われてもあなたになびく気がしない」
ユァンが冷静にそう使えると、ヒエロニムスの笑い声が止まった。
「……どうしてバルトロメオなんだ……」
「え……?」
「どうして、いつもアイツばかっり」
彼の瞳の奥に暗い空洞のような悲しみを見つけ、ユァンは怯んでしまった。
同情してしまったという方がいいのかもしれない。
「ブラザー・ヒエロニムス……」
上半身を起こして見つめると、無防備な唇を唐突に奪われた。
「ゃだっ、やめて!」
首を振ってキスをよける。
すると彼は今にも泣き出しそうな顔をして、ユァンを見つめた。
「僕を拒否してあんな堕落したヤツを選ぶなんて。ユァン、絶対に後悔するよ?」
(堕落したヤツ、か)
ユァンはほんの少し笑いたくなってしまう。
彼は自分勝手で物は盗むし、修道院内に携帯端末を持ち込み、世俗の音楽を聴いている。
そんなバルトロメオの堕落ぶりが、ユァンには愛おしい。
彼でなければパーティの夜、傷付いたユァンを慰めることはできなかっただろう。
修道士が修道士を抱くことは、やはり自分を捧げる行為だ。
あの罪は愛だったとユァンには断言できる。
もし仮に、以前ソドミーの罪で恋人をなくしているならなおさらだ。
「後悔はしません」
微笑みながら答えると、ヒエロニムスは重ねて聞いてくる。
「どうしてそう言い切れる?」
「それは、あの人を愛しているからです」
「理解できない」
つぶやくヒエロニムスの、その目はなんだか萎れている。
ユァンそんな彼を置いて、静かに部屋を立ち去った。
止める間もなくまた首を締められる。
今度はその手に、彼の体重が乗っていた。
(嘘、まさか、本当に!?)
ユァンはもがき魔の手から逃れようとする。
今度こそ命の危機を感じたが、首にかかった手は呆気なく緩んだ。
「え……?」
涙に濡れた視界が揺らめいた。
「なんて顔をしてるの? 怯えちゃって、可愛いなあ……」
ヒエロニムスの顔が歪みながら笑っている。
「ねえ、そんなに怖かった? よく知らない他人に命を握られるって、どんな気持ち?」
耳元に彼の唇が触れる。
「キミの泣き顔、ホントたまんない。このままここで犯しちゃおうか。そんなことしたら僕がシプリアーノ司教に殺されると思うけど……。ああ、でも、考えてみたら最高だね! 司教とアイツと、2人ともどんな顔するかなあ。ユァン、キミは最高のペットだよ。キミに僕の名前の入った首輪をはめて歩かせたい」
ユァンに跨がったまま、ヒエロニムスはのどを反らせて笑っていた。
「あなたは……いったい何を言って……」
彼を見上げ、ユァンはただただ困惑する。
司教の前に折り目正しく座り、十字を切っていた彼は単に表向きの顔だったのだろうか。
あの時は、ソドミーの罪を苦に命を絶ったという若い修道士を哀れんでいるように見えたのに……。
この人は、実際にはユァンを絞め殺す気はないし、犯すつもりもないだろう。
それがなんとなく、ユァンにも分かってきた。
聖職者の枠からはみ出せないからこそ、こんなふうに鬱屈している。
罪を犯さない悪人と、罪を犯してしまった善人と。
神はどちらをより愛するのだろうか。
「もうどいてください。勝手に部屋に入ったことは謝ります。でも僕は、何を言われてもあなたになびく気がしない」
ユァンが冷静にそう使えると、ヒエロニムスの笑い声が止まった。
「……どうしてバルトロメオなんだ……」
「え……?」
「どうして、いつもアイツばかっり」
彼の瞳の奥に暗い空洞のような悲しみを見つけ、ユァンは怯んでしまった。
同情してしまったという方がいいのかもしれない。
「ブラザー・ヒエロニムス……」
上半身を起こして見つめると、無防備な唇を唐突に奪われた。
「ゃだっ、やめて!」
首を振ってキスをよける。
すると彼は今にも泣き出しそうな顔をして、ユァンを見つめた。
「僕を拒否してあんな堕落したヤツを選ぶなんて。ユァン、絶対に後悔するよ?」
(堕落したヤツ、か)
ユァンはほんの少し笑いたくなってしまう。
彼は自分勝手で物は盗むし、修道院内に携帯端末を持ち込み、世俗の音楽を聴いている。
そんなバルトロメオの堕落ぶりが、ユァンには愛おしい。
彼でなければパーティの夜、傷付いたユァンを慰めることはできなかっただろう。
修道士が修道士を抱くことは、やはり自分を捧げる行為だ。
あの罪は愛だったとユァンには断言できる。
もし仮に、以前ソドミーの罪で恋人をなくしているならなおさらだ。
「後悔はしません」
微笑みながら答えると、ヒエロニムスは重ねて聞いてくる。
「どうしてそう言い切れる?」
「それは、あの人を愛しているからです」
「理解できない」
つぶやくヒエロニムスの、その目はなんだか萎れている。
ユァンそんな彼を置いて、静かに部屋を立ち去った。
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