獣人アイスクリーム 獣人だらけの世界で人間のボクがとろとろにされちゃう話

谷村にじゅうえん

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50,お願い! 工場長

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 ――翌朝。

「あの! ぼくにお手伝いできることはありませんか? 力仕事でもなんでもいいんで、やらせてください!」

 類は工場の入り口で、朝礼をしていた工場長に申し出た。
 すると工場長だけでなく、そこに並んでいた従業員たちが、怪訝そうな顔でこちらを見る。

「えーとその……」

(ああ……ほらやっぱり、これはナイって雰囲気だよ、冬夜……)

 類は心の中で、焚きつけてきた冬夜に苦情を言った。

「類さんがやるべきことは工場の仕事じゃなくて、もっと違うことだと思うけど……」

 工場長が黙っているので、従業員のひとりが申し訳なさそうに口を開いた。

「でもぼく、工場の仕事についても知りたいし、今日はたまたま時間があるので……」

 たまたまというのはもちろんウソで、このために時間を調整してきている。 つまりすべては工場長に近づくための口実だった。
 それなのに、朝礼は類を無視して呆気なく終わってしまう。

「えー、では解散!」
「って待ってください、工場長ー!」

 涙目になる類を置いて、工場長もみんなも続々と作業エリアに入っていってしまった。
 そちらへは衛生服がなければ入れない。

(うう……。初めからこうなるとは思ってたけど、心が折れそう……)

 類はアクリル板越しに、それぞれの持ち場へ散っていく彼らを眺めるしかなかった。

 この工場には複数の製造ラインがあり、それぞれのラインで日々割り当てられたものを製造している。

(試作用に空けてもらってたラインってどこなんだろ?)

 見ているうちにすべてのラインが動き始め、類は少し、その光景に凹んだ。

 そんな時、大きな釜のようなミキサーに原材料を投入していた従業員が、アクリル板越しに拳を握るようなジェスチャーをする。
 
(え……?)

 何度か話したことがある、鹿型獣人の青年だった。確かな前は竹田さんだったか。

(あれはもしかして、ぼくにガンバレって言ってる?)

 思わずアクリル板に貼り付いてパチパチまばたきしていると、彼は類に親指を立ててみせた。

(ああっ。やっぱりそうなんだ!)

 ここに味方は誰もいないと思っていたのに、類はひとりじゃなかったんだ。そのことにとても励まされる。

(うん、そうだね。めげずにまた顔を出そう!)

 類はそう心に決めて一旦工場を離れた。

 それから数日。

「あ、類さん!」

 仕事の合間に工場へ顔を出そうとしていると、外のベンチから声をかけられる。
 鹿型獣人の竹田さんだ。

「竹田さん。休憩中ですか?」
「うん。昼メシ食って戻ってきて、今はちょっと時間潰し」

 彼はベンチで炭酸飲料を飲みながら、スマホをいじっていたようだった。

「ご一緒してもいいですか?」
「もちろん、座ってください!」

 彼が類のために荷物をよけてくれる。

「工場長に会いに来たんですよね?」
「うん、なんとか話を聞いてもらいたくて」
「あれから状況は変わらず?」
「そもそも話せてないんだ。ぼく、工場長に嫌われてるのかも……」

 そんなことを言っても仕方がないのに、類はつい弱音を吐いてしまった。
 竹田さんは驚いたようにまばたきする。

「いやいや! あの人は誰に対してもああですよ。類さんだけじゃないです!」
「え、そうなんですか?」
「ぼくなんて1回原材料を間違えて“明日から来なくていい”って言われましたからね。あれは会社にとってもエライ大損害だったんですが……」
「そんなことがあったんだ?」

 その時のショックを思い出してしまったのか、竹田さんはなんだか青い顔をしていた。

「はい……。工場のラインを動かすっていうのは、ぼくなんかには責任が重いです」

(そっか……)

 工場長はラムレーズンがダメだと言っていたけれど、試作のアイスを簡単に作ってもらえないのには、それなりに理由があることなんだろうなと思った。

 そんな時、駐車場の方で行われている、配送トラックへの積み込み作業が目に留まる。

「あれって……?」
「どうしました? 類さん」
「なんか様子が変じゃない?」

 よく見ると、パレットに積んだアイスの段ボールがバラバラに崩れてしまっているようだ。

「大変だ、手伝いに行こう!」

 さっと立ち上がった竹田さんを追いかけて、類もトラックに駆け寄った。
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