後悔日記

戦国 卵白

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日々の綴り その先に

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 冬の冷たく身を切るような風はどこかへ旅立ち、代わりに暖かい芽生えの音楽隊が陽気に演奏を始めた春。
日差しは柔らかく僕を包む。今日もいつもと変わらず和やかな日だ。

「斗真!またボーーーっと外見てー何考えてんだ?」
そうだ、まだ弁当食べてる途中だった。
「別になんでもいいだろ」
その後もなんか的外れなことを呟いているこいつは、笠原智也小学五年生のとき、僕が転校して右も左も分からないとき一番初めに話しかけてくれた優しいやつだ。それからずっと近すぎず、遠すぎずの関係で一緒にいて楽しい。
「そういや、斗真。お前なんか変なこと起きてないか?」
智也がお弁当のブロッコリーを箸でいじりながら訪ねてくる。
「変なこと?例えば?」
僕の質問に少し悩んで
「なんかやけにリアルな夢を見るとか?妙にデジャブることが多いとか。」
色々思い出して見たが、思い当たることが全くない。
「いや、ないかな」
そうか、と言って智也は少し考えた後いつもの調子に戻った
「わかった、俺の思い過ごしか…。ありがとう」
この問いがどんな意味であったのかその時は考えてもいなかった。

ポツポツと等間隔に穴の空いた金属の棚に、美しく整頓された黒い物体。それは、一瞬を永遠に変える魔法の道具。
それで美しい風景、力強い躍動を捉えることを夢見て僕が入部したそこは…
「アァー!そんなコンボ私は知らないですぞ!!」
「これは昨日のアプデで追加された新コンボなんだよ!」
「ぬぁぁーーー!でも、でも私は負けませんぞぉぉぉおーー!!」
いつからか普通の写真部から、全力のゲーム部に変貌していた。

「ここもいつもと変わらないな」
と、智也が苦笑する。
「ああ、でもなんだかこれはこれで落ち着くんだよな」
同じく苦笑を返し、3階の特別棟さらにその隅にある高校生活の中で一度も訪れることがない人の方が多い部室に入った。

「オッ!笠原氏に吉田氏!今日も今日とて勝利を収めたのですぞ!」
「まさか、あんな一瞬の隙を…」
「私は、どんなタイミングも逃しませんぞ!」
へいへい、お疲れさん。と、智也が軽くあしらいながらいつも通りの席に着く。
部室に入って、まず見えるのは正面にある大きめの窓。それから左には、カメラがきっちりと整頓されている棚があり、真ん中には長机が二つ。片方に3脚、両側で計6脚のパイプ椅子が並んでいる。右奥にはどこの教室から持ってきたのか、机と椅子が2セット向き合って置いてあり、そこではいつもゲームオタクどもが騒ぎあっている。
智也は長机の右奥が定位置。僕はその向かい側に座る。ちなみにオタクトリオの豊田、遠野、あと今はいないが木本は右奥が定位置だ。
「きーっいてください!吉田氏!これで見事に格闘ゲームで!遠野氏にゴォ~ジュウ連勝ですぞ!」
脂汗が滲み出る顔をグッと寄せて熱く語るのに、仰け反り距離を離しつつ、適当にあしらう。
—ガラガラガラ—
「ただいまですー」
「「「「おかえりー」」」」
みんなが揃ってそう行ったのは写真部のアイドルが帰ってきたからだ。
「どうだった?みっちゃん、なんか分かった?」
智也から尋ねられ、少し困った顔をするこの子は平 美月。サラサラの黒髪ショート。パッチリとしたブラウンの目はいつもキラキラと好奇心に溢れている。
低めの身長は彼女のキュートさをひきたて、カメラを持った可愛い一年が色んな部活の取材をしているという噂はもはや学校で知らない人はいないと言っても過言ではないほど有名であり、入学して間もないにもかかわらず、数多くの男子がアタックした。だが、みっちゃんの心は誰に傾くこともなかった。
「ダメですー。やっぱり難しいです。」
と、智也にそう返すとすぐにトテトテとかけていき、窓に向かって、でもあきらめませんからねと言っている。これは外に話しているわけではなく、彼女にだけ、何かが見えているらしいのだが、詳しいことは僕は聞いていない。
それから、写真部としての活動は全くせず終了時刻までたわいない話をして過ごし、顧問の常田 雄大。通称だーさんの「適当に終わっとけー」といういつもの言葉で解散した。

高校から歩いて五分ほどの自宅に帰り、家族と一緒に夕食を食べて少しばかり勉強をして、いつものように日記をつけようとした。

本当にいつもと同じ変わらない日々だったのだ。

その日記を開くまでは
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