乙女ゲームに転生したことに気づかない～氷上の舞姫～

共通プロローグ

女子フリー1

　今日は女子フリーの日。座席は全て埋まっており、報道陣がショートよりも多いことから注目度の高さが伺える。




「緊張する～。」


「楓、祝賀会で何を食べたい？」


「んー、カリッカリの唐揚げかな。
カロリーは高いけど、たまにはいいでしょ？」


「ジャンプを全て成功させたらいいわよ。
それくらいのカロリーは消費するだろうし。」


「プレッシャーをかけるね………。」




　今日のジャンプ構成は以下の通りだ。


5回転アクセル
5回転ルッツ+4回転ループ+4回転トウループ
5回転アクセル
5回転フリップ+4回転ループ
5回転アクセル
5回転ループ
5回転サルコウ
5回転トウループ+4回転ループ


　4回転を4回に減らし、5回転を8回にした。
ショートで4回転を7回跳んだが、あれくらいでは負担にならない。もっと増やしておけばよかったかもと
今更ながら思う。


5回転も跳べなくはないが、加減が難しいんだよなあ。


ミスなく跳べたら229.7。加点も入れたら250は超すだろう。ショートでのプログラム見直しは後でするとして、今はこっちに集中しよう。




(いつ見ても凄い集中力よね。)




　コーチの白川優那はそう思う。


　自分は物心ついたときからフィギュアをしていた。
国内大会のみならず四大陸選手権みたいな主要国際大会での優勝経験もあった。


怪我で引退し、後進育成のためにコーチになると決意したわけだが、原石には出会えなかった。


　彼女と出会えたのは奇跡。実家を訪ねたついでに
リンクでも見に行くか、となり、近くのスケートリンクを覗いたのだ。


始めてから5年も経っていないとは思えないほどの
身のこなし。専属コーチがいないと聞き、頼み込んで
コーチを務めることになった。
10カラットのちゃちな原石ではない。
世界最大のダイヤモンドと言われている、3106カラットのカリナンレベルの原石だ。


　楓の滑走は最終グループの1番目。
今滑っているのが4グループ目の3番手。
出番が近づくにつれ無口になり、極限の集中力状態にはいる。




「最終グループの方、準備をしてください！」


「楓、行くわよ。」


「うん。」




　強豪国ロシアをデビュー戦に選んだのは注目度を高めるため。日本もそれなりに選手層が厚いがロシア程ではない。注目度を高めることによってフィギュアへの関心が高まり、競技人口を増やせればと思ってのことだ。


楓は絶対的女王としてフィギュア界に君臨するだろう。
ライバルがいない状態では意欲の低下が懸念される。


　願わくば女子でも4回転が当たり前となる時代へ。
白川はそう思いながら楓と一緒にリンクへと向かった。