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詰め込まれた初恋の行方
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放課後にまたあのベンチに行ってみた。
バイトが急になくなって、時間を持て余した。家にすぐに帰る気にもなれなかったから、ただそれだけ。前にここに座った時はピアスを開けるなんて思いもしなかった。けれど、たった少し歩く先を変えるだけで辿り着く先は変わるのかもしれない。
ベンチでぼーっとしていたら、誰かの歩いてくる音がする。スマホから顔を上げるとあの人だ。
「またお前か。本当によく会うな。」
「後から来てるのそっちなんだから、どちらかと言うと私のセリフなんですけど。」
「はいはい、まあ確かにな。あ、お前本当に開けたの、ピアス。似合ってんじゃん。」
「そう。私も好きな人がピアスバチバチでさ。いいなって思って。」
「何だそれ。真似すんなよ。」
あぁ、この人の目には私なんて映っていない。もうそれは笑ってしまうほどに。
それでも少しくらいはその視界に映りたかった。多分無理なのに、それでも写真に映り込むホコリくらいにならなれるんじゃないかと、あのキラキラした有象無象くらいにならなれるんじゃないかと、そんな事を心から願ってしまった。だからこそ口走ってしまったのかもしれない。それが何なのかも知らないままに。
「ねえ、先生好き。」
「んー、サンキュ。でもな、言ったろ?俺は好きな人いるんだよ。んで、その人追いかけてオーストラリアに行くんだわ。悪いな。」
「そっか。じゃあ私ピアス開け損じゃんね。ねえ、諦めるから先生のその黒いピアスちょうだい。」
「変な奴だな。ほらやる。ちゃんと消毒してから使えよ。」
そう言ってその人は立ち上がり、手をひらひらと振って去っていった。
本当にひと月も経たないうちに学校を辞めて、いなくなってしまったのだ。
私の初恋は黒い小さいピアスに永遠に詰め込まれた。こんな小さな装飾品の中に。
あの時のあの人が型破りな、適当な話をしてくれた事で救われた。何をしたいでもない、何も目標もない。そんな私に正しさを振りかざす事はなく、当たり前を押し付けなかった。
初恋は実らない。だけど忘れない。
忘れたとしてもずっと私の一部であり続ける。この黒くて小さい何でもないピアスが私の手元にある限り、いつまでも。自然に壊れる事はない、いつの間にか無くなる事もない。私を捕らえ続ける、あなたに届きもしなかった私の初恋はこれから先もずっと。あまりにも一瞬の出来事で、多分すぐに声も顔も忘れるだろう。二度と手には入らないから、もう会う事はないから、だからこそその思い出は磨かれ続けて私の糧になる。
いつか、私の本当の恋に出会うその日まで。
バイトが急になくなって、時間を持て余した。家にすぐに帰る気にもなれなかったから、ただそれだけ。前にここに座った時はピアスを開けるなんて思いもしなかった。けれど、たった少し歩く先を変えるだけで辿り着く先は変わるのかもしれない。
ベンチでぼーっとしていたら、誰かの歩いてくる音がする。スマホから顔を上げるとあの人だ。
「またお前か。本当によく会うな。」
「後から来てるのそっちなんだから、どちらかと言うと私のセリフなんですけど。」
「はいはい、まあ確かにな。あ、お前本当に開けたの、ピアス。似合ってんじゃん。」
「そう。私も好きな人がピアスバチバチでさ。いいなって思って。」
「何だそれ。真似すんなよ。」
あぁ、この人の目には私なんて映っていない。もうそれは笑ってしまうほどに。
それでも少しくらいはその視界に映りたかった。多分無理なのに、それでも写真に映り込むホコリくらいにならなれるんじゃないかと、あのキラキラした有象無象くらいにならなれるんじゃないかと、そんな事を心から願ってしまった。だからこそ口走ってしまったのかもしれない。それが何なのかも知らないままに。
「ねえ、先生好き。」
「んー、サンキュ。でもな、言ったろ?俺は好きな人いるんだよ。んで、その人追いかけてオーストラリアに行くんだわ。悪いな。」
「そっか。じゃあ私ピアス開け損じゃんね。ねえ、諦めるから先生のその黒いピアスちょうだい。」
「変な奴だな。ほらやる。ちゃんと消毒してから使えよ。」
そう言ってその人は立ち上がり、手をひらひらと振って去っていった。
本当にひと月も経たないうちに学校を辞めて、いなくなってしまったのだ。
私の初恋は黒い小さいピアスに永遠に詰め込まれた。こんな小さな装飾品の中に。
あの時のあの人が型破りな、適当な話をしてくれた事で救われた。何をしたいでもない、何も目標もない。そんな私に正しさを振りかざす事はなく、当たり前を押し付けなかった。
初恋は実らない。だけど忘れない。
忘れたとしてもずっと私の一部であり続ける。この黒くて小さい何でもないピアスが私の手元にある限り、いつまでも。自然に壊れる事はない、いつの間にか無くなる事もない。私を捕らえ続ける、あなたに届きもしなかった私の初恋はこれから先もずっと。あまりにも一瞬の出来事で、多分すぐに声も顔も忘れるだろう。二度と手には入らないから、もう会う事はないから、だからこそその思い出は磨かれ続けて私の糧になる。
いつか、私の本当の恋に出会うその日まで。
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