王子と婚約するのは嫌なので、婚約者を探すために男装令嬢になりました

Blue

文字の大きさ
10 / 36

気を失ったようです

しおりを挟む
 一足先に騎士団に戻り、団長とジャンに報告する。
ジャンにはアンジェロはどうだったか聞かれたが、行動を共にしてないからわからないと答えた。

実は横目で盗み見ていたのだが、そうしていたことがジャンにバレると何を言われるかわからないので黙っておく。大抵は、初めての討伐、しかもビッグベアなんて怖気づくようなものなのに、全くそんな素振りはなかった。何よりもあのスピードは称賛に値する。まるで舞でも舞っているかのような、軽やかな剣術に心臓が騒がしくなったことは誰にも言えない。

 報告も終わり、普段なら自分の仕事に戻るのだがどういう訳か気になって、途中まで奴らを迎えに出向く。そして、すぐに見つけた。
金に輝く髪をなびかせた彼を。しかし、すぐに顔色が良くない事に気が付いた。思わず彼の所まで駆けて行く。

すると、目の前でスローモーションのように彼が倒れていった。慌てて支える。意識はないようだが、特にケガをしている様子はない。

俺は、騎士団棟にある医務室へ行こうとそのまま彼を抱き上げた。あまりの軽さに驚く。ちゃんと食事を摂っているのだろうか?これは軽すぎるだろう。そう思いながら医務室へ向かう。

すると、慌てた様子でライが追いかけてきた。
「すみません、代わります」
「いや、もうすぐそこだからこのまま運ぶ」
ライの提案を断りそのまま医務室まで運んだ。衝撃を与えないようにそっとベッドに寝かせる。

抱いていた時はわからなかったが、彼の寝顔の美しさに驚いてしまった。本当に男なのかと疑いたくなるほどの美しさだ。思わず見入っていると、荒々しく扉が開き、ジャンが入ってきた。
「アンジーが倒れたですって!?」
「ああ、初めての討伐が終わって緊張の糸が切れたようだ」
「なんだ、別にケガとかではないのね」
「まだ医師に診てもらってはいないが、ケガはしていないようだ」
「そう、よかった」

ライが申し訳なさそうに言う。
「本当にお世話になりました。あとは俺がいますので副団長方は戻ってください」
「だがしかし」
「いや、本当に大丈夫です。もし目が覚めて副団長方が揃っていたら恐縮してしまううでしょうし」
「……そうか。ならば任せるぞ」

そう言って出て行こうとするがふと足を止める
「ライ、アンジェロは随分軽いようだから、ちゃんと食べるように言ってやってくれ」
「……はい、わかりました。ありがとうございます」
そう言われ、今度こそこの場を後にする。

執務室へと向かいながら自分の手のひらを見る。
本当に軽かった。そして柔らかかった。ベッドにそっと置いた時、すぐ近くに顔が接近した瞬間、良い匂いがした気がする。

寝顔も美しかった。起きている時よりも寝ている時の方が、女性っぽく見えたな。
そう考えた途端、否定するように首を大きく振る。いやいや、何を考えているんだ。男相手に柔らかかったとか、良い匂いがしたとかそんな感想ないだろう。考えることを止めようと、急ぎ足で仕事に戻ったのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「アンジーは大丈夫なの?」
心配そうにアンジーの傍にあるイスに腰掛けながらジャン副団長が言う。
エミリアーノが言うには、ケガもしていないし無理なこともしていない。ほんの少し前までは普通に元気だったそうだ。ただ、気付いた時は浅い呼吸で苦しそうに見えたらしい。

「……多分、さらしのせいだと思います」
「さらし?」
「はい、胸潰してるんで」
「なるほどね。いつもは学園帰りだったから、こんな長時間の締め付けは初めてだったのね」
「そうです。今、ディア姉付きの侍女にこちらにきてもらっています」

「じゃあ、アタシは皆に報告しておくわ。緊張の糸が切れて軽い貧血になったとでも言っておこうかしらね」
「すいません。お願いします」
すると、コンコンと扉がノックされる。
「どうやら来たようね。じゃあアタシは報告に言ってくるわね」
そう言って扉を開け、侍女を中へ迎え入れてからジャン副団長は出て行った。

「すまないな、こんなむさくるしい所まで来てもらって」
「いいえ、こんな事がないとこちらに来ることはありませんから、新鮮で楽しいですわ。アンジー様のご様子はいかがです?」
「寝てるよ。多分、長時間のさらしで苦しくなったんだと思う」
「そうですわね。じゃあ見てみます」
「わかった。俺は外で待ってるから終わったら呼んでくれ」
「はい、かしこまりました」

少しして
「もう大丈夫ですよ」
扉を開けて中に入るように促された。
「どうだった?」
「ふふ、多分朝からの訓練なので絶対に外れてはいけないと、相当きつく巻いたのでしょう。結び目もキツかったので、切るしかありませんでした」
「全く、心配させやがって。済まなかったな。城までまた送らせるよ」
「はい、ありがとうございます。今日はもうさらしは巻かない方がいいと思います」
「そうだな、わかった。皆にバレないように帰らせるよ」
「よろしくお願いいたします。ディアナ様には私の方から報告させて頂いても?」
「ああ、そうしてくれ。俺が行くとぶっ飛ばされそうだ」
「ふふ、わかりました。お任せくださいませ。では、失礼いたします」
そう言って侍女は帰って行った。

どうやって帰らせようかと考えていると、再び扉がノックされる。俺は侍女が何か言い忘れた事でもあったのかと深く考えずに言ってしまった。
「どうぞ」
入ってきたのは侍女ではなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多
恋愛
 クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。  両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。  おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。  でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!  そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……

毒味役の私がうっかり皇帝陛下の『呪い』を解いてしまった結果、異常な執着(物理)で迫られています

白桃
恋愛
「触れるな」――それが冷酷と噂される皇帝レオルの絶対の掟。 呪いにより誰にも触れられない孤独な彼に仕える毒味役のアリアは、ある日うっかりその呪いを解いてしまう。 初めて人の温もりを知った皇帝は、アリアに異常な執着を見せ始める。 「私のそばから離れるな」――物理的な距離感ゼロの溺愛(?)に戸惑うアリア。しかし、孤独な皇帝の心に触れるうち、二人の関係は思わぬ方向へ…? 呪いが繋いだ、凸凹主従(?)ラブファンタジー!

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

処理中です...