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初めて怖いと思ってしまいました
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お姉様とのお茶会を終え、フィエロ殿下の執務室へと向かう。そこでライ兄様と待ち合わせをしているのだ。角を曲がれば執務室という所で、会いたくない人に会ってしまった。
「おや、アンジェリーナじゃないか、偶然だな。こんな所で会うなんて、やはり私たちは運命の赤い糸で結ばれているんじゃないか?」
「ごきげんよう、カッシオ殿下。残念ながら私の赤い糸は殿下と結ばれてはいないと思いますわ」
こんな場所、今まで何度となく通ったけれど、一度も会ったことなどなかったではないか。どうせ影でも使って待ち伏せていたのだろう。
「またまたそんな気のない事を言う。そうやって実は俺の関心を引こうとしているんじゃないのか?」
はああ、このおめでたい頭を誰かカチ割って欲しい。
「関心を引くならその辺の野良ネコにしますわ」
「野良猫まで愛するのか、可愛いじゃないか」
遠回しに言っても何も気付けないバカ。本当にフィエロ殿下と半分でも血がつながっているのか怪しいくらいだ。
「あの騎士団の者と婚約無効になったんだろう?やっぱり俺と結婚しろと神がおっしゃっているんだと思わないか?」
「いいえ、全く思いませんが。以前お話させていただいたと思いますが、私と結婚したとしても暗部は手に入りませんよ」
「ああ、暗部は手に入らないがお前の身体が手に入るじゃないか」
全身に鳥肌が立った。今、こいつは何と言った?
「はい?おっしゃっている意味がわかりかねますが」
「前から思っていたんだ。お前、良い身体してるよな。その身体を堪能することが出来るならそれも悪くないとな」
「あなたとの結婚を強いられるなら、私は命を絶ちますわ」
「そう言う女ほど、快楽に溺れるそうだぞ」
ぞっとした。このクソ王子は私自身に照準を合わせてきた。こんな男に掴まったら最後だ。思わず一歩後ずさってしまった。
「こんな所で我が弟は一体何をしているのかな?」
私のすぐ後ろから聞こえたのはフィエロ殿下だった。そのすぐ後ろにいる人物を見て涙が浮かぶがぐっと堪えた。
フィエロ殿下がそっと私の肩を掴んで自分の方へ引き込んでくれる。
「何やら穏やかじゃない話が聞こえたけど?」
「ちょっとしたじゃれ合いですよ」
「じゃれ合いにしては品のない言葉が聞こえたんだけどなあ」
「まあ、いいじゃないですか。近いうちにアンジェリーナを婚約者として迎えるのですから」
「それは、誰も望んでいないんだよね。父上もね」
「そんな事はないと思いますよ。きっと婚約受諾書にサインをくれると俺は信じてますから。では失礼」
イヤな笑い方をしながらカッシオ殿下は去って行った。
「アンジー大丈夫?」
「はい、なんとか」
「とりあえず、執務室の中へ入ろう。あそこなら影も入り込めないから」
「はい」
部屋の前まで行くとフィエロ殿下の後ろにいたルディが扉を開けてくれた。彼の横を通って部屋へと入る。彼の匂いが鼻を掠めて胸が高鳴った。
「この中なら誰にも見られないからいいよ」
殿下がそう言ってくれた瞬間、ルディにきつく抱きしめられた。私も彼の背中に腕を回す。
「会いたかった、アンジェリーナ」
「私もです。会えなくて苦しかった」
堪えていた涙が頬を流れ落ちる。先ほどディアナ姉様の所で散々泣いたのに、涙は枯れることがないらしい。そんな私の頬をルディは優しく拭ってくれた。
「あーあ、私もディアナに会いたくなっちゃったなあ」
「今朝、仕事の前にイチャイチャしていたじゃないですか」
「ジル、君はちゃんと恋愛をした方がいいよ」
「そうだぞ、ジル兄。遊ぶことも大事だからな」
「そんな事言って、ライも恋愛には逃げ腰なくせに」
「だって、女性は怖い」
「そうじゃない人を探すんだよ。なんなら今度はライが侍女になって潜入してみるかい?」
「ブッ、俺が女装?超絶似合わないと思いますけど」
「くっくっく。やってみればいいじゃないか、ライ」
「じゃあ、ジル兄もやるんだぞ」
「お、二人揃って女装か?それは面白そうだな」
「私がやる訳ないでしょう」
「ジル兄ったらノリが悪い」
「まあ冗談はともかくドルフ、そろそろいいかな」
「チッ」
「わあ、舌打ちしたよ、この子。一応私、次の王なんだけど」
「王だろうがなんだろうが、邪魔なので」
「うん、そうだね。ごめんね。でもそろそろ本題に入ろう」
「……わかりました」
ルディは抱きしめていた私をそっとはな……さなかった。私を横抱きに抱え直しそのままソファへ座る。
「ええと……うん、まあいいか」
殿下は諦めたようだ。
「それ以上不埒な事をするようなら切り捨てる」
ジル兄様が冷たい視線でルディを見下ろすが全く効かない。
「まあまあ、ここを出ればまた離れ離れになっちまうんだから、もう少しくらいいいじゃないか」
ライ兄様が間に入ってなんとか落ち着いた。
「さあ、じゃ暗部の報告を聞く前に、さっきのあんぽんたんの言ったこと話せるかい?」
ああ、やっぱりニコロのあんぽんたん呼びはこの人だった。そう思いながらも
「はい」
返事をする。そして先程のやりとりを詳しく話した。
「殺す」
ルディとジル兄様の言葉が重なった。
「やっぱりクソ王子だな」
ライ兄様も怒ってくれる。
「本当にごめんね、アンジー。愚弟のせいで怖い思いさせてしまったね」
「怖かったですけれどお義兄様が助けてくれたから大丈夫です。まさか、この辺りに姿を見せるなんて思ってもみなくて油断していた私も悪いのです」
「そうなんだよね。こんな仕事で俺やジルなんかが行き来する場所になんて、今までただの一度も現れた事なんてないんだよ。それなのに、アンジーが来ることがわかっていたかのように待ち伏せていた。そしてあの言い草だ」
「婚約受諾書のくだりですね」
ルディが不機嫌な顔で言う。
「そう。アイツ、婚約を許してもらえるのを信じてるんじゃなくて、婚約受諾書にサインしてもらえることを信じているって言ったんだ」
「おや、アンジェリーナじゃないか、偶然だな。こんな所で会うなんて、やはり私たちは運命の赤い糸で結ばれているんじゃないか?」
「ごきげんよう、カッシオ殿下。残念ながら私の赤い糸は殿下と結ばれてはいないと思いますわ」
こんな場所、今まで何度となく通ったけれど、一度も会ったことなどなかったではないか。どうせ影でも使って待ち伏せていたのだろう。
「またまたそんな気のない事を言う。そうやって実は俺の関心を引こうとしているんじゃないのか?」
はああ、このおめでたい頭を誰かカチ割って欲しい。
「関心を引くならその辺の野良ネコにしますわ」
「野良猫まで愛するのか、可愛いじゃないか」
遠回しに言っても何も気付けないバカ。本当にフィエロ殿下と半分でも血がつながっているのか怪しいくらいだ。
「あの騎士団の者と婚約無効になったんだろう?やっぱり俺と結婚しろと神がおっしゃっているんだと思わないか?」
「いいえ、全く思いませんが。以前お話させていただいたと思いますが、私と結婚したとしても暗部は手に入りませんよ」
「ああ、暗部は手に入らないがお前の身体が手に入るじゃないか」
全身に鳥肌が立った。今、こいつは何と言った?
「はい?おっしゃっている意味がわかりかねますが」
「前から思っていたんだ。お前、良い身体してるよな。その身体を堪能することが出来るならそれも悪くないとな」
「あなたとの結婚を強いられるなら、私は命を絶ちますわ」
「そう言う女ほど、快楽に溺れるそうだぞ」
ぞっとした。このクソ王子は私自身に照準を合わせてきた。こんな男に掴まったら最後だ。思わず一歩後ずさってしまった。
「こんな所で我が弟は一体何をしているのかな?」
私のすぐ後ろから聞こえたのはフィエロ殿下だった。そのすぐ後ろにいる人物を見て涙が浮かぶがぐっと堪えた。
フィエロ殿下がそっと私の肩を掴んで自分の方へ引き込んでくれる。
「何やら穏やかじゃない話が聞こえたけど?」
「ちょっとしたじゃれ合いですよ」
「じゃれ合いにしては品のない言葉が聞こえたんだけどなあ」
「まあ、いいじゃないですか。近いうちにアンジェリーナを婚約者として迎えるのですから」
「それは、誰も望んでいないんだよね。父上もね」
「そんな事はないと思いますよ。きっと婚約受諾書にサインをくれると俺は信じてますから。では失礼」
イヤな笑い方をしながらカッシオ殿下は去って行った。
「アンジー大丈夫?」
「はい、なんとか」
「とりあえず、執務室の中へ入ろう。あそこなら影も入り込めないから」
「はい」
部屋の前まで行くとフィエロ殿下の後ろにいたルディが扉を開けてくれた。彼の横を通って部屋へと入る。彼の匂いが鼻を掠めて胸が高鳴った。
「この中なら誰にも見られないからいいよ」
殿下がそう言ってくれた瞬間、ルディにきつく抱きしめられた。私も彼の背中に腕を回す。
「会いたかった、アンジェリーナ」
「私もです。会えなくて苦しかった」
堪えていた涙が頬を流れ落ちる。先ほどディアナ姉様の所で散々泣いたのに、涙は枯れることがないらしい。そんな私の頬をルディは優しく拭ってくれた。
「あーあ、私もディアナに会いたくなっちゃったなあ」
「今朝、仕事の前にイチャイチャしていたじゃないですか」
「ジル、君はちゃんと恋愛をした方がいいよ」
「そうだぞ、ジル兄。遊ぶことも大事だからな」
「そんな事言って、ライも恋愛には逃げ腰なくせに」
「だって、女性は怖い」
「そうじゃない人を探すんだよ。なんなら今度はライが侍女になって潜入してみるかい?」
「ブッ、俺が女装?超絶似合わないと思いますけど」
「くっくっく。やってみればいいじゃないか、ライ」
「じゃあ、ジル兄もやるんだぞ」
「お、二人揃って女装か?それは面白そうだな」
「私がやる訳ないでしょう」
「ジル兄ったらノリが悪い」
「まあ冗談はともかくドルフ、そろそろいいかな」
「チッ」
「わあ、舌打ちしたよ、この子。一応私、次の王なんだけど」
「王だろうがなんだろうが、邪魔なので」
「うん、そうだね。ごめんね。でもそろそろ本題に入ろう」
「……わかりました」
ルディは抱きしめていた私をそっとはな……さなかった。私を横抱きに抱え直しそのままソファへ座る。
「ええと……うん、まあいいか」
殿下は諦めたようだ。
「それ以上不埒な事をするようなら切り捨てる」
ジル兄様が冷たい視線でルディを見下ろすが全く効かない。
「まあまあ、ここを出ればまた離れ離れになっちまうんだから、もう少しくらいいいじゃないか」
ライ兄様が間に入ってなんとか落ち着いた。
「さあ、じゃ暗部の報告を聞く前に、さっきのあんぽんたんの言ったこと話せるかい?」
ああ、やっぱりニコロのあんぽんたん呼びはこの人だった。そう思いながらも
「はい」
返事をする。そして先程のやりとりを詳しく話した。
「殺す」
ルディとジル兄様の言葉が重なった。
「やっぱりクソ王子だな」
ライ兄様も怒ってくれる。
「本当にごめんね、アンジー。愚弟のせいで怖い思いさせてしまったね」
「怖かったですけれどお義兄様が助けてくれたから大丈夫です。まさか、この辺りに姿を見せるなんて思ってもみなくて油断していた私も悪いのです」
「そうなんだよね。こんな仕事で俺やジルなんかが行き来する場所になんて、今までただの一度も現れた事なんてないんだよ。それなのに、アンジーが来ることがわかっていたかのように待ち伏せていた。そしてあの言い草だ」
「婚約受諾書のくだりですね」
ルディが不機嫌な顔で言う。
「そう。アイツ、婚約を許してもらえるのを信じてるんじゃなくて、婚約受諾書にサインしてもらえることを信じているって言ったんだ」
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