笑い方を忘れた令嬢

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笑い方を忘れた令嬢

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 すぐに医者が呼ばれた。
「身体的に異常がある訳ではないようです。きっと精神的なものでしょう。感情を封印する事でご自分を守っていたのではないかと思われます」

医者の診断結果を聞いて、王妃が声もなく泣いた。
「それほどまでに辛かったのね……あの子の苦しみを少しでもいいから分けて欲しい」
国王はそう言って泣く王妃を抱いた。
「これから少しずつでいい。私たちの娘として愛情をたくさん注いでいこう。不幸を幸福で上書き出来るように」

アリアンナは正式に国王と王妃の娘となった。



「喜怒哀楽の感情は、普通より乏しいようですがきちんとお持ちです。ただ、表情が動かないだけで、感情そのものは正常なのだと思います」
医者の見立て通り、王太子が面白い事を言うとアリアンナは、感情で出せない代わりに言葉で表す。

王城で働いている者たちには正直に話した。ドメニカ元王女が下手に隠し立てする方が、憶測でアリアンナを傷つける者たちが出るだろうと言った事で、王家は全てを公表する事にしたのだ。

中には面白おかしく受け取る下世話な者たちもいたが、概ねアリアンナに同情し気遣う反応を見せた。それからは、アリアンナを見ると面白い話を聞かせたり、やって見せたりと、なんとか笑顔を取り戻そうとする者たちが日に日に増えて行った。

特に若い男性たちの間では、アリアンナの笑顔を見てみたいという願望で、挑戦する者たちが後を絶たなかった。

そしていつしか、アリアンナを笑わせる事が出来た者は、アリアンナに求婚する権利が得られるという噂がまことしやかに囁かれるようになった。

「誰もそんな事言ってないのだけれどね」
兄になった王太子が、書類を睨みながらぼやく。
「そんなおとぎ話、ありましたよね」
返事をしたのはドマニだ。ドマニは王太子の側近になっていた。

「金のガチョウが来たくらいでは、アリアンナは笑わないよ。大体、私の大事な妹を、その辺の男にくれてやる訳がない」
ぼやきが止まらない王太子に、ドマニが笑った。
「要は、アンナに男たちが群がる事が気に食わないんですよね、殿下は」

笑うドマニをジト目で見る。
「ドマニだって同じようなものだろう。聞いたぞ。数人の男たちがアンナを笑わせようとしている場に出くわしたおまえが、おっそろしい顔つきで無言のままアンナを連れて行ったってな」

「それはそうでしょう。鼻の下を馬鹿みたいに伸ばした男たちに囲まれているなんて。危険極まりない。だから私はアンナを助けただけです」
「私の事をとやかく言える立場ではないな」
二人が笑う。

「はあ、本当にどうしてもっと早く助けられなかったのだろうと、悔やまない日はないよ。いくら父上が倒れて公務を全て担っていたとしてもな」
「それを言うなら私もです。あの変態がいる王都に居たくないという思いだけで、領地から出ようとしなかった。変態が文書を改ざんしている事に気付けないまま、アリアンナは幸せにしているという嘘を信じてしまった」
二人の表情が沈んだものになる。

「アンナの背中の傷は消える事はないだろう。アンナは既に結婚そのものを諦めているようだ。口には出さないがな。確かに普通の貴族の男たちは、傷のある娘を嫁にと望む事はほとんどないからな」
王太子の言葉にドマニが決意したように言う。
「その時は、私がアンナをもらいます」

「……どうしてか受け入れ難いな」
王太子の意外な返答に、ドマニが肩を竦めた。
「真剣に言ったんですがね」
「アンナにはもっとこう、全てにおいて強い男がいいなと」
「すみませんね。母の才能を受け継がなくて」
ドマニは身体を使うより、頭を使う方が得意なのだ。

「まあ、まだ16歳前だしな。これからゆっくり見繕うとしよう」
「殿下……兄というより父親のようですね」
ドマニが笑うと、王太子も「だな」と言って笑った。
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