笑い方を忘れた令嬢

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伯爵令嬢

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「あなた方とだけですか?」
アリアンナの問いに、ニッコリとした令嬢。
「お母様たちの年齢の方にはわからないような楽しいお話を、ね」
彼女の言葉に夫人の方がピクリとなる。どうやらこの方がビガーニ伯爵の令嬢のようだ。
本人は小声で言ったつもりなのかもしれないが、良く通る声のせいでほとんどの人たちに聞こえてしまっていた。

「私は、このままでも十分楽しませて頂いておりますが」
嗜める意味も込めてそう返事をするも、ビガーニ伯爵令嬢はクスクスと笑うだけ。全く通じてないようだ。通じてないどころか、ますます失礼な物言いになる。
「そんなに気をお使いになる必要はありませんわ。ね、私たちだけでお話しましょうよ」

『これでは確かに、ジョエル兄様の伴侶にはなれないわ』
伯爵位の中でも、上位の格であるにも関わらず品がない。これではとても王太子妃になどなれる訳がないだろう。周りのご婦人方も、眉をひそめている。

これに焦ったのは伯爵夫人だった。ここは娘を遠ざける方が得策だと思ったのだろう。
「アリアンナ様。良かったら娘たちにお付き合いくださいませんか?」
すがるような視線でアリアンナを見る。そんな視線を向けられてしまっては、アリアンナも同意せざるを得ない。
「……そうですね。では、あちらでお話いたしましょうか」

奥にあるソファへと席を移す。勿論、ジルヴァーノもアリアンナが座ったソファのすぐ後ろに待機した。座った途端、またもやビガーニ伯爵令嬢が失礼な物言いをする。

「私、アリアンナ様がいらっしゃってからずっと拝見しておりましたけれど、アリアンナ様って本当に笑わないんですね。あ、笑えないんでしたっけ」
どうやら思った事がすぐ口に出るタイプのようだ。他の三人の令嬢たちがピキリと固まった。背後では威圧的なオーラがぶわりと膨らんだ。

ジルヴァーノの怒りを感じたアリアンナは、後ろを向き彼の銀の瞳を見つめながら首を振った。彼が「何故⁉︎」と心の中で言っているのが、手に取るようにわかる。しかしジルヴァーノの怒りとは逆に、アリアンナは少しも怒ってはいなかった。

ここに来る前に国王たちからビガーニ家の話を聞いていたので、これくらいの事は言われるだろうと予想していたのだ。だからなのか、それともジルヴァーノが先に怒ってくれたせいなのか、アリアンナの心は凪いでいた。

それでも、このまま黙っている訳にはいかない。
「ビガーニ様、あなたがおっしゃる通り私は笑う事が出来ません。ですがその事でビガーニ様にご迷惑をお掛けした事などないはずですが?」

少し強めに言ったアリアンナ。ビガーニ伯爵令嬢はこの時初めて、自身の失言に気付いたようだった。
「申し訳ございません。失言でした」
少しばかり焦った表情で、謝罪する。

「いえ、わかってくださればいいのです」
先程とは打って変わって穏やかな口調を意識したアリアンナ。固まっていた三人の令嬢たちもほっとした様子になった。

それからしばらくは、流行のドレスの話や新しいお菓子の話など、他愛のない話に花が咲く。確かに若い娘たちが好むような話ばかりだった。アリアンナも普段聞けない話に、ふむふむと頷いていた。和やかな雰囲気の中、令嬢たちの気が緩んできた頃だった。一人の令嬢が、ジルヴァーノに熱い視線を送りながらアリアンナに問いかけた。

「アリアンナ様。今日はどうして、ジルヴァーノ様を護衛に連れていらっしゃるんですか?」
アリアンナが答えるよりも早く、ジルヴァーノ本人が答える。
「陛下からの要請です。陛下にアリアンナ様から離れないようにと言われております」

「でしたら、ジルヴァーノ様もお席に座ったらいいんじゃないかしら?私、ジルヴァーノ様とお話したいです」
「私も。夜会などでもめったにお見かけしないし、いらっしゃっても常に王太子殿下の傍にいらっしゃってお話し出来る機会がないんですもの」
口々にジルヴァーノを求める声が上がる。

アリアンナがジルヴァーノを見上げるのと同時に、大きな溜息がジルヴァーノから吐かれた。
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