笑い方を忘れた令嬢

Blue

文字の大きさ
53 / 71

新たな生命

しおりを挟む
 しかし、ジルヴァーノの顔は穏やかなままだった。
「大丈夫です。とっくに話は終わって、母がピアを連れて帰りましたから」
「そうだったのですね。良かった……ピア様は大丈夫でしたか?随分と落ち込んでいらしたようでしたが」
「仕方ありません。もう大人になったというのに、引き際を誤ったピアが悪かったのです」
分かってはいるけれど、傷ついたであろうピアの事を考えると、アリアンナの胸が痛む。

彼女の心情を悟ったジルヴァーノは、彼女の頬に手を置いた。そして優しく頬を撫でる。
「あなたが心を痛める必要はありません。これはピア自身の問題なのですから。彼女は決して心から竜たちと仲良くなりたいと思っていた訳ではなかったのです。それが竜たちにもわかっていたのでしょう」

ジルヴァーノの言葉に、アリアンナは何も言えなくなってしまう。なんとなくわかっていたのだ。ピアがロワと仲良くなりたいと思っている理由を、銀の竜はわかっているのだろうと。だからと言ってそれを責める筋合いはない。それだけピアは、ジルヴァーノの事が好きだったのだと言えるのだから。

『ピア様の正直さが羨ましいと思ってしまう』
自分の想いに少し前まで確信が持てず、宙ぶらりんになっていたアリアンナからすれば、ピアの真っ直ぐな気持ちは羨ましく思えた。そんな事を思っているとは知らないジルヴァーノが、彼女を気遣うように言葉を紡ぐ。

「ピアももう休暇が終わります。学園に戻っていつも通りの生活をするようになれば、すぐに忘れるでしょう」
「……そうなるといいですね」
本当になるといい。学園で楽しい事をたくさん見つけられるといい。そう思うアリアンナだったが、果たしてそれはピア自身を思っての事なのか自分の願望なのか……

そんなアリアンナの頬を撫で続けていたジルヴァーノの手が、不意に止まる。
「アリアンナ様、そんな顔をなさらないでください。あなたが彼女の事で悩む必要はありません」
そう言った彼の手は彼女の頬から離れ、スッと髪の間を滑るように首元を滑りながら肩へ移動した。

そのまま互いに見つめ合う。そして、まるでそうなる事が当然のように、二人の距離が近付いた。ドキドキと鳴り響く鼓動を感じながら、戸惑いつつも受け入れる姿勢を見せるアリアンナ。あと少しで二人の影が重なろうとしたその時。二人の間にぬぼっと銀の竜の鼻先が入り込んできた。そのままフンと鼻息を出す銀の竜。
「……ふ、ふふふ」
「……あははは」
可笑しくなった二人は、暫く笑っていた。


 休暇が終わり、再び社交界が賑やかになる。ピアも学園に戻った事で、竜舎には平和が戻って来た。アリアンナも竜舎は勿論、お茶会やら夜会やらと忙しくしていた。気付けば春の訪れを感じる季節になっていた。

「!」
王太子の執務室で仕事を手伝っていたアリアンナは何かを感じ、窓辺に立ち周囲を見渡した。
「どうした?」
「なんだろう、何かに呼ばれたような……そうでないような」
「どっちなんだい?」
王太子が突っ込む。ドマニも不思議そうにアリアンナを見るが、彼女自身も上手く説明が出来なくて首を傾げてしまう。

しばらくすると、何やら部屋の前が騒がしくなった。
「なんでしょう?」
ドマニが確認しようとドアに近づくと、タイミングよくノックの音が響いた。
「はい?」
ドマニが扉を開けると、そこに立っていたのはジルヴァーノだった。

「竜舎から走って来たのですか?」
ゼイゼイしているジルヴァーノをドマニが中に通した。アリアンナが慌ててお茶の準備をする。
「どうした?おまえが慌てるなんて珍しいな」
王太子が言うと、ジルヴァーノは汗を光らせながら答えた。

「すぐに、知らせなくてはと、思い、まして」
息が続かないジルヴァーノに、アリアンナがお茶を渡す。竜舎から執務室までは結構な距離があるにも拘らず、一気に走って来たのだろう。温めに淹れたお茶を一気に飲んだジルヴァーノが、大きく息を吐き出した。

「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。ですが、すぐにでもお知らせしたかったので」
「わかったから落ち着け。それで?一体どうした?」
大きく呼吸をしたジルヴァーノが、真っ直ぐに王太子を見た。

「ロワが卵を産みました」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

[完結]私を巻き込まないで下さい

シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。 魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。 でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。 その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。 ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。 え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。 平凡で普通の生活がしたいの。 私を巻き込まないで下さい! 恋愛要素は、中盤以降から出てきます 9月28日 本編完結 10月4日 番外編完結 長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

妹と人生を入れ替えました〜皇太子さまは溺愛する相手をお間違えのようです〜

鈴宮(すずみや)
恋愛
「俺の妃になって欲しいんだ」  従兄弟として育ってきた憂炎(ゆうえん)からそんなことを打診された名家の令嬢である凛風(りんふぁ)。  実は憂炎は、嫉妬深い皇后の手から逃れるため、後宮から密かに連れ出された現皇帝の実子だった。  自由を愛する凛風にとって、堅苦しい後宮暮らしは到底受け入れられるものではない。けれど憂炎は「妃は凛風に」と頑なで、考えを曲げる様子はなかった。  そんな中、凛風は双子の妹である華凛と入れ替わることを思い付く。華凛はこの提案を快諾し、『凛風』として入内をすることに。  しかし、それから数日後、今度は『華凛(凛風)』に対して、憂炎の補佐として出仕するようお達しが。断りきれず、渋々出仕した華凛(凛風)。すると、憂炎は華凛(凛風)のことを溺愛し、籠妃のように扱い始める。  釈然としない想いを抱えつつ、自分の代わりに入内した華凛の元を訪れる凛風。そこで凛風は、憂炎が入内以降一度も、凛風(華凛)の元に一度も通っていないことを知る。 『だったら最初から『凛風』じゃなくて『華凛』を妃にすれば良かったのに』  憤る凛風に対し、華凛が「三日間だけ元の自分戻りたい」と訴える。妃の任を押し付けた負い目もあって、躊躇いつつも華凛の願いを聞き入れる凛風。しかし、そんな凛風のもとに憂炎が現れて――――。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

殿下、毒殺はお断りいたします

石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。 彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。 容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。 彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。 「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。 「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。

【完結】 婚約破棄間近の婚約者が、記憶をなくしました

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
 その日、砂漠の国マレから留学に来ていた第13皇女バステトは、とうとうやらかしてしまった。  婚約者である王子ルークが好意を寄せているという子爵令嬢を、池に突き落とそうとしたのだ。  しかし、池には彼女をかばった王子が落ちることになってしまい、更に王子は、頭に怪我を負ってしまった。  ――そして、ケイリッヒ王国の第一王子にして王太子、国民に絶大な人気を誇る、朱金の髪と浅葱色の瞳を持つ美貌の王子ルークは、あろうことか記憶喪失になってしまったのである。(第一部)  ケイリッヒで王子ルークに甘やかされながら平穏な学生生活を送るバステト。  しかし、祖国マレではクーデターが起こり、バステトの周囲には争乱の嵐が吹き荒れようとしていた。  今、為すべき事は何か?バステトは、ルークは、それぞれの想いを胸に、嵐に立ち向かう!(第二部) 全33話+番外編です  小説家になろうで600ブックマーク、総合評価5000ptほどいただいた作品です。 拍子挿絵を描いてくださったのは、ゆゆの様です。 挿絵の拡大は、第8話にあります。 https://www.pixiv.net/users/30628019 https://skima.jp/profile?id=90999

病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。 たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。 そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…? 傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。

処理中です...