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一章
16話 地獄の始まりまで
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「え、え、つ、付き合ってないんすか!?」
「いや、私も渚もそんなことは言ってないよな?」
「ああ。言った覚えはないんだが……」
じゃあ何故、付き合っているという話が隊全体で事実のように扱われているんだ。。まあ、どうせ誰かが「付き合っているんじゃないか?」という予想が、人に話されるうちにいつの間にか「付き合っている」という事実に変わったんじゃないだろうか。
「……もう1人の私が起きた。そして言いたいことがあるそうなので、変わる」
そう言うと、沙月さんの雰囲気がまた一瞬にして変わった。そして、突然笑い始めた。
「あははははははは! つ、付き合ってるって…っ、私と? 渚が? 笑いがっ、ははははは!」
「笑いすぎだ」
話している最中も笑いを堪え切れていなかった。……本当、貸切で良かったよ。そうじゃなかったら、他の人に迷惑になることは間違いなしだ。
「渚、良かったね!」
「何が良かったね、だ」
不服そうな渚さん。周りの皆は唖然としていた。あのアルフさんでさえ知らなかったようで、困惑していた。
「さて、私が付き合っていないってことは理解してもらえたかな? なら、本題に入ろうか」
それを聞いて、全員が真剣な顔つきに変わった。本題と言われても私はあまり理解できないが、周りはそれをよく理解しているのだろう。
「そろそろ絶対零度の子を止めなきゃダメだ。このままじゃ、マイヤが全部凍って滅ぶ。ユトリアも少し氷漬けになる」
「沙月ちゃん、ユトリアも!?」
ユトリアは確かマイヤの南隣にあった国だ。面積はマイヤよりも大きかった。そこまでいくとなると、かなりの面積が凍るだろう。
「うん。精神が保たないんだろうね。3年以上も1人だし、会おうにも中心部まで近づけないし。食べ物は食べてくれてるみたいだから、体は大丈夫かもしれないけど…」
沙月さんかその仲間が食料を送っていたのか。それでも3年以上も1人で誰とも会えない状況だ。自らこのような状況にしたのならまだいいかもしれない。だが、力を制御できずその中心部に自分がいるせいで誰も来れないとなると、精神もおかしくなるだろう。
「で、今回が最後のつもりで行った。結果がこれだよ。皆には悪いけど、これは私が死んででも止めるべきことだ。会社とかは伯父さんたちがどうにかしてくれるしね」
「でも、ユトリアが凍っても少しだけなら問題ないのでは……?」
1人の男性がそう質問した。確かに少しだけなら余程の重要な場所でもない限り、世界中に影響を与えるほどの大惨事にはならなさそうに感じる。
「うん。それだけならまだいいんだよ。……核を落とすんだ」
その言葉に全員が反応する。核といえば魔女にも落とされている。それが絶対零度の能力者にも落とされるということだ。
「そうなったら、あの辺はしばらく使い物にならない。長期的に影響がヤバイから止める必要があるんだ。助かる人も助からない」
「助かる人も助からない……とは?」
その部分がピンとこなくて、沙月さんに訊いた。後に出る失業者などは助かる人とは少し違うような気がした。もう既に被害を受けている人を指しているようなーー
「氷漬けされた人は生きている、ってこと。全員が全員ってわけじゃないけどね」
やっぱりか。生きている? 普通は氷漬けにされれば生きることは不可能なはずだ。SFの世界でもない限りーーSF? まさか……
「コールドスリープ?」
「……それが何かは分からないけど、人工冬眠とか、冷凍睡眠とかって呼ばれているやつだね。条件が整っている人だけ助かってる。その条件が何かはあまり分かってないけど」
コールドスリープを知らない? 結構有名なものだから、名前くらいは聞いたことはあるはずなのだけれど……ああ、異世界だからか。SFとか、そういうものは超能力者の影響とかであまり好まれていないのかもな。
「それをあのバカどもは……技術もない上に、何も知らないくせに無理に氷の中から助けようとして死なせてる。あれだけ私がやめろと言ったのに。バカな世界だよ、本当」
そういうことをする人となると、国か国際組織かそれに関係する組織だろう。氷の中に閉じ込められたら、一刻も早く助けなければという気持ちは分かる。けど、何も分からないのに助けるのはどうかと思う。沙月さんの意見も却下されたのだろう。
「後は、絶対零度の子が死ぬ時に力が一瞬だけ暴走する。そうなったら、数年は世界中が手に負えないほどの異常気象になるよ」
手に負えないほどの異常気象ということは、私達の世界で言うところの地球温暖化くらいのものなのだろうか。あれもかなりの問題になっていた。
「それに加えて、世界中が大不況だ。これで私が危険を冒してまで行った理由が分かるかな。だけど、失敗してしまったから期間はもう短い。1ヶ月もしないうちに大惨事だ。世界が滅びるとかはないけど、数年はその一歩手前の地獄は味わうと思った方がいいよ」
それを聞いて、本当にまずい状況なのだと痛感する。私の元の世界での今の地球温暖化の状況よりは確実にヤバい。しかも、爆発的に起こるから対処ができない。あっという間に世界中がパニックになる。
「1ヶ月ってことは……絶対零度の能力者が死ぬのはその時ですか?」
「うん。もう私にはどうしようもない。皆に分かりやすく言うと、魔女が起こした程度のことが世界中で起きると思った方がいいよ」
その言葉を聞いて周りがざわつく。私もその脅威を知ってはいるが、皆の方がよく理解しているだろう。1つの大きな国が滅んだのだから、その時のパニックも不況も皆は知っている。一方で、私はそんなことは全く知らない。この先の惨状は皆の方がよく分かるだろう。
「ど、どうしようもないって……それじゃ!」
「私にはって言ったよね。つまり、私以外に対処できる人間がいるんだよ」
また周りがざわつく。そんな人物がいるとすれば、同じS級の能力者か、それと同程度の能力者くらいだろう。そんな能力者が、この群青隊にいるというのか。
「光ちゃん。君しかいないよ」
「ああ、はい。私ですか。……私? ……私? ………ええええええええ!?」
状況を飲み込むのに10秒近くかかってしまった。私? 何故? 私に何ができるというの? 人柱ですか? それとも誰かの盾というか、肉壁となるのですか? それとも自殺行為にも等しい特攻ですか?
「ああ、うん。ある意味では特攻だね」
「何故私の思考が分かった…!?」
「いや、顔に思いっきり出てる」
沙月さんに真顔で即答されてしまった。自覚は全くないが、余程顔に出ていたらしい。
「正直に言うと、光が死ぬ未来だってある。だから、これはやりたくなかった。それでも……それでも、やる?」
「はい。やります」
「そうだよね。誰もやりたくない……って、えええええ!?」
さっきからの私の発言も含めてしまえば、茶番か何かだろうか。真面目な話をしているのに、どこからか笑い声が聞こえてくる。気持ちは分かるけど。
「ってか、未来視で結果は見えてるんじゃないんですか?」
「断られると思って……見てなかった。まさか、即答だとは……」
沙月さんの未来視は制御できるらしい。勝手に見えているのではなくて、見たいものを見ることができるのだろう。だから驚いたのか。
「異常気象に加えて不況ってことは、災害や自殺で死者も増えますよね。私も災害に巻き込まれて死ぬかもしれません。多くの人が死ぬなら、私の命も懸けましょう。沙月さんと同じ気持ちですよ」
多分、沙月さんが命を懸けた理由の本質はこれだろう。災害や不況が起ころうと、それが原因で誰も死ななければ特に大きな問題はない。だが、現実はそう甘くないのだ。災害に巻き込まれれば死ぬことだってあるし、不況が起これば倒産で職を失ったり、就職できなくて路頭に迷う人は確実にいる。そして、どうしようもなくなって自殺してしまう人だって多くいるだろう。
「よし。じゃあ、最後の懸けだ。一番最適なのは……明後日だね」
「明後日って……沙月ちゃん、正月だよ?」
アルフさんがそう言った。正月が最適なのであれば、私は行こう。私の正月はいつもおせちを食べたりして家でゴロゴロしているだけだ。無くても特に困ったことはない。……まあ、お年玉は貰えないけど、私は皆からすれば他人だし、群青隊のおかげで私は死なずに済んだのだから贅沢は言わない。
「構いません。行きましょう」
「ありがとう。なら、私も頑張らなくちゃなっ、と!」
そう言うと、沙月さんは突然ベッドから飛び起き、降りた。その瞬間に周りが動揺したのがよく分かる。勿論、私もその1人だ。
「え、えーと……沙月ちゃん、体は?」
「ん? 平気だけど?」
それを平然と言える沙月さんが恐ろしい。この人、実はかなりタフなんじゃないか?
「んじゃ、改めてよろしくね、光」
「はい!」
私と沙月さんは握手を交わし、改めて群青隊の一員だと実感した。
——物語はまだ、始まりに過ぎない。
「いや、私も渚もそんなことは言ってないよな?」
「ああ。言った覚えはないんだが……」
じゃあ何故、付き合っているという話が隊全体で事実のように扱われているんだ。。まあ、どうせ誰かが「付き合っているんじゃないか?」という予想が、人に話されるうちにいつの間にか「付き合っている」という事実に変わったんじゃないだろうか。
「……もう1人の私が起きた。そして言いたいことがあるそうなので、変わる」
そう言うと、沙月さんの雰囲気がまた一瞬にして変わった。そして、突然笑い始めた。
「あははははははは! つ、付き合ってるって…っ、私と? 渚が? 笑いがっ、ははははは!」
「笑いすぎだ」
話している最中も笑いを堪え切れていなかった。……本当、貸切で良かったよ。そうじゃなかったら、他の人に迷惑になることは間違いなしだ。
「渚、良かったね!」
「何が良かったね、だ」
不服そうな渚さん。周りの皆は唖然としていた。あのアルフさんでさえ知らなかったようで、困惑していた。
「さて、私が付き合っていないってことは理解してもらえたかな? なら、本題に入ろうか」
それを聞いて、全員が真剣な顔つきに変わった。本題と言われても私はあまり理解できないが、周りはそれをよく理解しているのだろう。
「そろそろ絶対零度の子を止めなきゃダメだ。このままじゃ、マイヤが全部凍って滅ぶ。ユトリアも少し氷漬けになる」
「沙月ちゃん、ユトリアも!?」
ユトリアは確かマイヤの南隣にあった国だ。面積はマイヤよりも大きかった。そこまでいくとなると、かなりの面積が凍るだろう。
「うん。精神が保たないんだろうね。3年以上も1人だし、会おうにも中心部まで近づけないし。食べ物は食べてくれてるみたいだから、体は大丈夫かもしれないけど…」
沙月さんかその仲間が食料を送っていたのか。それでも3年以上も1人で誰とも会えない状況だ。自らこのような状況にしたのならまだいいかもしれない。だが、力を制御できずその中心部に自分がいるせいで誰も来れないとなると、精神もおかしくなるだろう。
「で、今回が最後のつもりで行った。結果がこれだよ。皆には悪いけど、これは私が死んででも止めるべきことだ。会社とかは伯父さんたちがどうにかしてくれるしね」
「でも、ユトリアが凍っても少しだけなら問題ないのでは……?」
1人の男性がそう質問した。確かに少しだけなら余程の重要な場所でもない限り、世界中に影響を与えるほどの大惨事にはならなさそうに感じる。
「うん。それだけならまだいいんだよ。……核を落とすんだ」
その言葉に全員が反応する。核といえば魔女にも落とされている。それが絶対零度の能力者にも落とされるということだ。
「そうなったら、あの辺はしばらく使い物にならない。長期的に影響がヤバイから止める必要があるんだ。助かる人も助からない」
「助かる人も助からない……とは?」
その部分がピンとこなくて、沙月さんに訊いた。後に出る失業者などは助かる人とは少し違うような気がした。もう既に被害を受けている人を指しているようなーー
「氷漬けされた人は生きている、ってこと。全員が全員ってわけじゃないけどね」
やっぱりか。生きている? 普通は氷漬けにされれば生きることは不可能なはずだ。SFの世界でもない限りーーSF? まさか……
「コールドスリープ?」
「……それが何かは分からないけど、人工冬眠とか、冷凍睡眠とかって呼ばれているやつだね。条件が整っている人だけ助かってる。その条件が何かはあまり分かってないけど」
コールドスリープを知らない? 結構有名なものだから、名前くらいは聞いたことはあるはずなのだけれど……ああ、異世界だからか。SFとか、そういうものは超能力者の影響とかであまり好まれていないのかもな。
「それをあのバカどもは……技術もない上に、何も知らないくせに無理に氷の中から助けようとして死なせてる。あれだけ私がやめろと言ったのに。バカな世界だよ、本当」
そういうことをする人となると、国か国際組織かそれに関係する組織だろう。氷の中に閉じ込められたら、一刻も早く助けなければという気持ちは分かる。けど、何も分からないのに助けるのはどうかと思う。沙月さんの意見も却下されたのだろう。
「後は、絶対零度の子が死ぬ時に力が一瞬だけ暴走する。そうなったら、数年は世界中が手に負えないほどの異常気象になるよ」
手に負えないほどの異常気象ということは、私達の世界で言うところの地球温暖化くらいのものなのだろうか。あれもかなりの問題になっていた。
「それに加えて、世界中が大不況だ。これで私が危険を冒してまで行った理由が分かるかな。だけど、失敗してしまったから期間はもう短い。1ヶ月もしないうちに大惨事だ。世界が滅びるとかはないけど、数年はその一歩手前の地獄は味わうと思った方がいいよ」
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「1ヶ月ってことは……絶対零度の能力者が死ぬのはその時ですか?」
「うん。もう私にはどうしようもない。皆に分かりやすく言うと、魔女が起こした程度のことが世界中で起きると思った方がいいよ」
その言葉を聞いて周りがざわつく。私もその脅威を知ってはいるが、皆の方がよく理解しているだろう。1つの大きな国が滅んだのだから、その時のパニックも不況も皆は知っている。一方で、私はそんなことは全く知らない。この先の惨状は皆の方がよく分かるだろう。
「ど、どうしようもないって……それじゃ!」
「私にはって言ったよね。つまり、私以外に対処できる人間がいるんだよ」
また周りがざわつく。そんな人物がいるとすれば、同じS級の能力者か、それと同程度の能力者くらいだろう。そんな能力者が、この群青隊にいるというのか。
「光ちゃん。君しかいないよ」
「ああ、はい。私ですか。……私? ……私? ………ええええええええ!?」
状況を飲み込むのに10秒近くかかってしまった。私? 何故? 私に何ができるというの? 人柱ですか? それとも誰かの盾というか、肉壁となるのですか? それとも自殺行為にも等しい特攻ですか?
「ああ、うん。ある意味では特攻だね」
「何故私の思考が分かった…!?」
「いや、顔に思いっきり出てる」
沙月さんに真顔で即答されてしまった。自覚は全くないが、余程顔に出ていたらしい。
「正直に言うと、光が死ぬ未来だってある。だから、これはやりたくなかった。それでも……それでも、やる?」
「はい。やります」
「そうだよね。誰もやりたくない……って、えええええ!?」
さっきからの私の発言も含めてしまえば、茶番か何かだろうか。真面目な話をしているのに、どこからか笑い声が聞こえてくる。気持ちは分かるけど。
「ってか、未来視で結果は見えてるんじゃないんですか?」
「断られると思って……見てなかった。まさか、即答だとは……」
沙月さんの未来視は制御できるらしい。勝手に見えているのではなくて、見たいものを見ることができるのだろう。だから驚いたのか。
「異常気象に加えて不況ってことは、災害や自殺で死者も増えますよね。私も災害に巻き込まれて死ぬかもしれません。多くの人が死ぬなら、私の命も懸けましょう。沙月さんと同じ気持ちですよ」
多分、沙月さんが命を懸けた理由の本質はこれだろう。災害や不況が起ころうと、それが原因で誰も死ななければ特に大きな問題はない。だが、現実はそう甘くないのだ。災害に巻き込まれれば死ぬことだってあるし、不況が起これば倒産で職を失ったり、就職できなくて路頭に迷う人は確実にいる。そして、どうしようもなくなって自殺してしまう人だって多くいるだろう。
「よし。じゃあ、最後の懸けだ。一番最適なのは……明後日だね」
「明後日って……沙月ちゃん、正月だよ?」
アルフさんがそう言った。正月が最適なのであれば、私は行こう。私の正月はいつもおせちを食べたりして家でゴロゴロしているだけだ。無くても特に困ったことはない。……まあ、お年玉は貰えないけど、私は皆からすれば他人だし、群青隊のおかげで私は死なずに済んだのだから贅沢は言わない。
「構いません。行きましょう」
「ありがとう。なら、私も頑張らなくちゃなっ、と!」
そう言うと、沙月さんは突然ベッドから飛び起き、降りた。その瞬間に周りが動揺したのがよく分かる。勿論、私もその1人だ。
「え、えーと……沙月ちゃん、体は?」
「ん? 平気だけど?」
それを平然と言える沙月さんが恐ろしい。この人、実はかなりタフなんじゃないか?
「んじゃ、改めてよろしくね、光」
「はい!」
私と沙月さんは握手を交わし、改めて群青隊の一員だと実感した。
——物語はまだ、始まりに過ぎない。
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