私は悪役令嬢……え、勇者ですの!?

葉月

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1話 婚約破棄は唐突に

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 昔から違和感はあったのです。自分が自分ではないような、「違和感」が。


「カミラ。お前との婚約を破棄する!」

 本日は卒業パーティ。毎年恒例の一大イベントですわ。特に今年は今まで以上にとても重大な日。そんな日に、壇上に立って意気揚々に宣言した殿下。
 カミラ、というのはわたくしのこと。わたくしは殿下、つまりこの国の第一王子かつ王太子であられるディラン殿下の婚約者なのです。

 ああ、遂に取られてしまいましたの。殿下が、あの聖女とやらに。でも、不思議とショックは受けませんわ。

 そもそも、あの女のどこが聖女なのかしら。わたくしの目からすれば、聖女は殿下の腕に抱かれ、悪魔のような笑みを浮かべてこちらを見ていますの。

 ああ、あの女が腹立たしいですわ。殿下のことなど、どうでもよいほどに。

「聖女であるエリーへの非道な行い、忘れたとは言わせんぞ!」

「はい?」

 おっと、とてもお間抜けな声が出てしまいましたわ。今、殿下は何と? 非道な行い? 全く身に覚えがありませんの。

 でも、殴りたくなるくらい腹が立ったことだってありましたわ。
 だってわたくしは人間ですもの。その上、あの女は聖女なんて言えるほど綺麗な者ではないですもの。むしろ、汚いくらいですわ。

「惚けやがって……エリーに対して暴言や暴行、エリーの私物の窃盗、さらには殺人未遂まで……!」

「いや、本当に身に覚えがありませんもの」

「嘘をつかないでください!」

 そう言って聖女は泣いていますわ。嘘泣きも程々にしてほしいですわね。涙は出ているあたり、目薬でもさしたのかしら?

 強いて言って身に覚えがあるのは、暴言くらいかしら。でも、あれは暴言と言えるものではないと断言致しますわ。
 言い方は少々強かったかもしれませんが、注意はした覚えがありますわ。ですが、決して相手を貶すような言葉は使っておりません。あの「違和感」も文句は言ってきませんでしたわ。

「エリー、無理をしなくていい。この悪女め! エリーを泣かせやがって! 今すぐあいつを捕ら——」

「証拠はどちらに?」

 ……あら? これはわたくしの口から発せられた言葉ですの? これもあの「違和感」のせいかしら。
 わたくしはお馬鹿だから、こんなことは言えないはずですわ。いえ、正確にはこれも昔の自分であれば、かしら。

 わたくしは勉強が大嫌いですの。王太子妃教育なんて、どうしてする必要があるのかしらと思うくらいには。
 でも、サボってばかりだったのに成績は上がるし、いつの間にかちゃんと授業には参加するようにはなるし。今でも考えられないくらいの変わりようですわ。

「証拠だと? お前のような人間にそんな物が必要だというのか?」

 殿下はそう言って嘲笑った。
 ……なんだか、1発くらい殴ってやりたくなってきましたわ。

 ああ、これも殿下に心酔していた昔のわたくしからすれば考えられない思考ですわね。

「いつの話ですか、殿下。わたくしを学年最下位のお馬鹿と思っているのですか? 冗談が過ぎますわよ?」

 ああ、これも勝手に言ってしまいましたわ。それに、変ですわ。この学園に来てから学年最下位など、取ったことすらありませんわよ? 殿下がそのようなこと、思うのかしら。

わたくしの成績は学年1位。そして、首席での卒業ですわ!」

「えっ!?」

 これに誰よりも早く反応したのはあの聖女、エリーだった。目を見開いて、こちらを見ていますわ。
 何故そこまで驚かれるのでしょう? と思う自分がいる一方で、納得している自分もいますわ。

「ふん。ただの妄言か」

 どうやら、殿下はわたくしの言うことを全く信じていないようですわね。
 成程。あの聖女に言われて、わたくしを学年最下位のお馬鹿と思っているのかしら?

 他の生徒もいるこの場でこんな嘘をついたところで、バレるのは明白ですわ。成績は張り出されるもの。
 殿下達はそれを全くご覧になっていないのかしら?

「だが、そこまで言うのであれば、いいだろう。言ってやれ」

 相変わらずの上から目線で殿下はそう仰った。そして、あれは……この学園の生徒ですわね。それに、見覚えがありますわ。

「私はこの目で、カミラ様がエリーに暴力を振るうのを目にしました」

「俺も! ドレスを盗んでたの見た!」

 そう言って口々に証言をされたのだけど……ああ、思い出しましたわ。全員、殿下と聖女の取り巻きではありませんか。

 何が証言ですの。流石のわたくしでも、鼻で笑ってしまいそうですわ。

「目にしたのなら、さっさと現行犯で捕まえれたらいい話でしょ」

 その発言に、殿下の取り巻きの発言が止まる。
 ……え、今のもわたくしが言ったのですか? 皆がこちらを見ているのですが……ああ、「違和感」のせいですわね。

「物的証拠は!? わたくしの罪を証明する客観的な物証はどこにありますか!」

 その発言には誰もが沈黙した。その程度の用意も出来ていませんの? お馬鹿なのはどちらかしら。
 それに、わたくしは公爵令嬢。そのわたくしを敵に回すなんて、更にお馬鹿ですわ。

「お前の部屋を調べれば出てくる! お前の悪行は既に知れ渡っているのだ!」

 ザワザワと周りが騒ぎ始める。「あの噂は本当だったのか」とか「やっぱり……」とか。
 既に噂としてわたくしの悪行を流していたのですね。身に覚えは全くありませんが!

「もうよい! 王太子命令だ! 早くこの悪女を捕らえろ!」

 怒りに身を任せた殿下がそう命令を下しされましたわ。殿下の命令には誰も逆らえない上にわたくしを悪女だと信じているようですね。誰もが武器を手に、こちらを見ていますわ。
 ああ、兵士までやってきましたわね。本格的にわたくしを捕らえるつもりのようですわ。

 一方、こちらは丸腰ですの。朝、目を覚ますと部屋が荒らされ、魔法杖も含めた全ての武器が盗まれていたのはこれが狙いですのね。
 犯人は誰だが存じませんが、大方あの聖女とやらでしょう。根拠? 女の勘というやつですわ。

 魔法の精度は下がってしまいますが、魔法が使えないことはありませんわ。何とかしましょう。
 ですが、室内でこの人数を相手に、魔法だけでは厳しいですわね。確実に接近戦になるでしょうし、どれだけ魔力があっても不利ですわ。最悪の場合、自爆攻撃になってしまいますわね。

「仕方ないですわねっ……!」

 ドレスを手で破ってできるだけ動きやすくして、ヒールも邪魔でしたので脱ぎましたわ。
 不思議とその行動に躊躇いはありませんでしたの。

 ですが、この人数が相手。流石のわたくしでも防戦一方でこの会場から抜け出すこともできませんわ。せめて、剣でもあればいいのですが。

「っ……!」

 間一髪で攻撃を避けることには成功したわ。でも、避けたせいで何かにぶつかって転倒してしまいましたの。
 このままでは捕まってしまいますわね。

「……! ありましたわ!」

 先程、ぶつかった物は剣でしたわ。見覚えのある剣が突き刺さっていたのだけれど、誰かの物でしょう。拝借いたしますわ!

 不幸中の幸いですの。これなら、この状況でも戦えますわ!

 半ば強引に体勢を立て直し、剣を掴んだ。

「さあ、どこからでも……え?」

 剣を引き抜いた瞬間、会場中の誰もが目を背けるほどの光が発せられた。

 そしてわたしは、全てを思い出した。
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