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王都への道中編
亜人と枯れない涙
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(……あれから、4日)
私たちを乗せた野猪車は、日中の移動と夜間の休憩を繰り返し、ただひたすらに走り続けた。一日のほぼ全てを狭い檻の中で過ごす私にとって、それは退屈で、望みの絶たれた代わり映えがしない毎日。
(お風呂……。入りたい……)
◆
昨日、リータに手を引かれ、新しい子どもが檻の中に入れられた。まだ7、8歳の男の子だ。獣人でも、エルフでもなく、黒い髪に黒い瞳は、私が見慣れた人間の子どもだった。
男の子は、荷台に乗り込む前から泣いていて、檻の中に入れられたあとも泣き止むことはなかった。一夜明け、今は泣き疲れたのかぐっすりと眠っている。
(こうやっていろいろな場所で、子ども達を仕入れているんだ。あいつは……)
その時、コルストンが「おいっ、リータ。準備しろ」と大声で呼びかける。するとリータは「はい」と返事をし、檻から出て荷台の後方に移動した。
そして野猪車は、徐々にその速度を落としていく。
すると、次第に外からは人の声が聞こえるようになった。どうやら、このあたりには人が多くいるようだ。
(もしかして、目的地に着くのかな……)
私は、身体を起こして膝を抱えるようにして座った。周りでは他の子ども達も起き出し、同じように外の様子を気にし始め、落ち着かない様子だ。
野猪車が、いつでも停まれるほどの速度になった時「おいっ! こっちだ! こっちに寄れ」と男の人の呼びかける声が聞こえた。
「よぉおおし! よぉおおおおおし! 止まれ、止まれー!」
コルストンが大きな声で指示を出すと、野猪車は停止した。
(一体、なんだろう……。停められたみたいだったけど……。もしかして、検問……? もしそうだとしたら……)
しばらくすると、荷台の横から複数の足音が聞こえた。
『おい、お前。「登録証」と「商業登録証明書」を見せろ』
「はい、こちらです」
大きな声で野猪車を停めた男の人と、コルストンが後方へ向かって歩きながら話している。
「ところで、あの……。アクセルさんはいらっしゃらないんですか?」
「あぁ? いないな。それより、荷台の中身はなんだ」
「ええ。亜人ですよ、亜人」
「……亜人? 申請は終わっているのか?」
「はい。終わっているのもいますが……、ここで申請させていただく亜人もいます」
二人は荷台の後方で話しをしている。その間を隔てているのは――1枚の布。
(声さえ出せたら……。「助けて」と言えたのに……)
リータに目をやると、以前と同じ表情だった。私が助けを求めようとして、大きな音を鳴らそうとした――あの時と。あの眼を見ていると、怒り、逃げたいという思い、その他全ての感情を失ってしまいそうだ。
「中。確認するから開けてくれ」
外にいる男の人がそう言った。
(――ッ! やった! これで! これで、私達のことに気付いてもらえる!)
「はい、分かりました。少し、お待ち下さい」
コルストンが返事をし、覆われていた布の紐を解いている。
(助かるかもしれない。 私、助かるかもしれない――……!)
ゆっくりと布が開くと、そこにはコルストンと、体格のいい鎧を着た男の人が立っていた。
(人だ。……私、助かる……)
その瞬間、もう涙なんて出ないと思っていた私の目からは涙が溢れ出し、リータやコルストンの前だということは、どうでもよくなっていた。
私は両手で檻を掴み、その人の顔を見る。私の知っている「人」だ。そして、自然と私の口は「おねがい、たすけて。おねがい、たすけて」と声も出ないのに、何度も何度も叫び続けた。
私の無言の訴えに気付いたのか、男の人がその視線を私に向ける。
(そう! 私は掴まったの! その男に掴まったの! ……お願い! 助け――)
「――おい、何だその顔は。こっちを見るんじゃねえ」
(え――……)
「チッ。くっせーな。ちゃんと洗っておけ。おい、さっさと申請書の一覧を見せろ。一体、何人いるんだ」
(この人……。今……なんて……)
「はい。こちらです。……あ、アクセルの旦那!」
涙で滲んだ私の視界に、鎧を着た別の男の人が現れた。
私たちを乗せた野猪車は、日中の移動と夜間の休憩を繰り返し、ただひたすらに走り続けた。一日のほぼ全てを狭い檻の中で過ごす私にとって、それは退屈で、望みの絶たれた代わり映えがしない毎日。
(お風呂……。入りたい……)
◆
昨日、リータに手を引かれ、新しい子どもが檻の中に入れられた。まだ7、8歳の男の子だ。獣人でも、エルフでもなく、黒い髪に黒い瞳は、私が見慣れた人間の子どもだった。
男の子は、荷台に乗り込む前から泣いていて、檻の中に入れられたあとも泣き止むことはなかった。一夜明け、今は泣き疲れたのかぐっすりと眠っている。
(こうやっていろいろな場所で、子ども達を仕入れているんだ。あいつは……)
その時、コルストンが「おいっ、リータ。準備しろ」と大声で呼びかける。するとリータは「はい」と返事をし、檻から出て荷台の後方に移動した。
そして野猪車は、徐々にその速度を落としていく。
すると、次第に外からは人の声が聞こえるようになった。どうやら、このあたりには人が多くいるようだ。
(もしかして、目的地に着くのかな……)
私は、身体を起こして膝を抱えるようにして座った。周りでは他の子ども達も起き出し、同じように外の様子を気にし始め、落ち着かない様子だ。
野猪車が、いつでも停まれるほどの速度になった時「おいっ! こっちだ! こっちに寄れ」と男の人の呼びかける声が聞こえた。
「よぉおおし! よぉおおおおおし! 止まれ、止まれー!」
コルストンが大きな声で指示を出すと、野猪車は停止した。
(一体、なんだろう……。停められたみたいだったけど……。もしかして、検問……? もしそうだとしたら……)
しばらくすると、荷台の横から複数の足音が聞こえた。
『おい、お前。「登録証」と「商業登録証明書」を見せろ』
「はい、こちらです」
大きな声で野猪車を停めた男の人と、コルストンが後方へ向かって歩きながら話している。
「ところで、あの……。アクセルさんはいらっしゃらないんですか?」
「あぁ? いないな。それより、荷台の中身はなんだ」
「ええ。亜人ですよ、亜人」
「……亜人? 申請は終わっているのか?」
「はい。終わっているのもいますが……、ここで申請させていただく亜人もいます」
二人は荷台の後方で話しをしている。その間を隔てているのは――1枚の布。
(声さえ出せたら……。「助けて」と言えたのに……)
リータに目をやると、以前と同じ表情だった。私が助けを求めようとして、大きな音を鳴らそうとした――あの時と。あの眼を見ていると、怒り、逃げたいという思い、その他全ての感情を失ってしまいそうだ。
「中。確認するから開けてくれ」
外にいる男の人がそう言った。
(――ッ! やった! これで! これで、私達のことに気付いてもらえる!)
「はい、分かりました。少し、お待ち下さい」
コルストンが返事をし、覆われていた布の紐を解いている。
(助かるかもしれない。 私、助かるかもしれない――……!)
ゆっくりと布が開くと、そこにはコルストンと、体格のいい鎧を着た男の人が立っていた。
(人だ。……私、助かる……)
その瞬間、もう涙なんて出ないと思っていた私の目からは涙が溢れ出し、リータやコルストンの前だということは、どうでもよくなっていた。
私は両手で檻を掴み、その人の顔を見る。私の知っている「人」だ。そして、自然と私の口は「おねがい、たすけて。おねがい、たすけて」と声も出ないのに、何度も何度も叫び続けた。
私の無言の訴えに気付いたのか、男の人がその視線を私に向ける。
(そう! 私は掴まったの! その男に掴まったの! ……お願い! 助け――)
「――おい、何だその顔は。こっちを見るんじゃねえ」
(え――……)
「チッ。くっせーな。ちゃんと洗っておけ。おい、さっさと申請書の一覧を見せろ。一体、何人いるんだ」
(この人……。今……なんて……)
「はい。こちらです。……あ、アクセルの旦那!」
涙で滲んだ私の視界に、鎧を着た別の男の人が現れた。
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