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第1章 新人編
第3話ー⑫ 異変
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「優香! ねえ、起きてよ!! まさか、このまま目を覚まさないなんてことはないよね……」
眠る優香にそう呟くキリヤ。
「とりあえず今の状況をしないと――」
そしてキリヤは外で待っている八雲に急いで連絡を取り、警察の手配と研究所までの送迎を依頼した。
キリヤは優香を寝かせて、ビルの中で八雲の到着を待った。
やっぱり一人で行かせるべきじゃなかったのかもしれない――。
眠る優香を見て、そう思うキリヤ。
そしてキリヤは唇をかみしめ、自分の不甲斐なさに情けなくなっていた。
僕は優香に何もしてあげられなかった。もっと早く駆けつけていたら、もしかしたら――
「ごめんね、優香」
キリヤはぽつんとそう呟いた。
それからキリヤはスライム少年の遺体に目を向ける。少年は身体中が穴だらけで、ほとんどヒトのカタチをとどめていなかった。
優香はもしかして、お母さんの時も同じように――?
キリヤはふとそんなことが頭をよぎる。
もしそうだったとしたら、優香はずっと一人でとてつもない大きなものを背負って生きてきたのかもしれない。僕はその背負っていた重さも知らず、優香を危険な場所へ連れてきてしまった。
そして本来ならば、もう二度と同じ過ちをしなくて済んだはずだったのに、また優香に重いものを背負わせてしまったんだ――。
「僕は、目を覚ました優香にどんな顔をして会えばいいのかな」
それからキリヤはただ何も考えず、眠っている優香を見つめていた。
その後、八雲が警察関係者を連れ、ビルの中にやってきた。
八雲は警察関係者に後のことを頼むと、キリヤと優香を連れてビルを後にした。
――帰りの車内にて。
八雲はバックミラーに映る眠った優香を見ると、
「何があったんだい?」
と心配そうな表情でそう言った。
「優香の能力が暴走したみたいで、それで――」
キリヤはビルの中で見た光景を思い出す。
真っ赤な血だまりの中に転がっていた少年の死体。そして今までこんなにしっかりと嗅いだことのない血液の匂い。それは父の時とは違う、ヒトの最期の瞬間だった――
「ヒトが死にゆくところを、僕は初めて見ました……」
そう言って俯くキリヤ。
「そうか……。わかった。とにかく急ごう。優香君のことも心配だけど、キリヤ君のことも心配だ」
「僕は、大丈夫ですよ」
小さな声でそう呟くキリヤ。
「身体の話じゃない。心の話をしているんだ。……僕だって、一応研究者の端くれなんだから、君たちのことは心配なんだよ」
「ありがとう、ございます……」
それからキリヤたちは一言も話さず、研究所に到着した。
研究所に到着すると八雲から状況を聞いていたのか、所長が大慌てでキリヤたちを出迎え、そして優香を検査室に運んだ。
キリヤは検査室前の椅子で座っていた。
何かを思うでもなく、ただそこにある椅子に腰を掛けているキリヤ。
すると、そこへゆめかがやってきて、静かにキリヤの隣に腰を下ろす。
「大丈夫かい?」
ゆめかは優しい声で、僕にそう言った。
「はい……でも何でしょう。なんだかぽっかり心に穴が開いてしまったような、そんな感覚なんですよ」
淡々と告げるキリヤ。
「そうか……。きっといろんなことがたくさん起こって、まだ心がついてきていないのだろうね。ゆっくりでいい。だからいつものキリヤ君に戻ってくれ。優香君が起きた時、元気がない君を見たら、きっと悲しむよ」
「ははっ。そうですね……」
キリヤは精一杯の笑顔でゆめかに返した。
「君はもう部屋に帰って眠ったらいい。また起きた時、優香君の傍にいてやってくれ」
「わかりました……。優香のこと、よろしくお願いします」
キリヤはそう言いながら、ゆめかに頭を下げて、自分の部屋に戻っていった。
部屋に戻ったキリヤは、そのままベッドに倒れこんだ。
「はあ」
休めと言われても、今の気持ちのままじゃ休みたくても休まらないよ。こういう時、先生の声を聞きたいんだけどな――。
そう思ったキリヤはポケットにあるスマホを取り出し、アドレス帳から暁の名前を見つけ出す。
スマホに表示されている時計を見ると、時刻は7時49分と表示されていた。
「今は食堂でご飯を食べている頃かな……」
先生だったら、何とかしてくれるはず――キリヤの中でそんな気持ちが膨らんでいった。
そしてキリヤは通話ボタンを押そうするが、寸前でその手を止める。
「そうだ。僕はここに来るって決めた時、もう先生に頼らないって決めたんだよ。いつまでも先生に期待して、何もできない自分ではいたくはないから……」
キリヤは持っていたスマホを置き、天井を眺めた。
「優香……。大丈夫かな」
あの時自分がそばにいたら、もしかしたら――
そんなことを延々と考えてしまうキリヤ。
「はあ」
キリヤがため息をつくと、それと同時にスマホが振動する。
そしてキリヤはスマホを手に取ると、その着信相手に驚いた。
「え、なんで……」
――着信 暁先生
自分から着信をしていない。それなのに、なぜ先生から着信が――
「いや、今はそんなことはどうでもいい。きっと何か用事があるんだよ」
そしてキリヤはスマホにタップして、通話に応じた。
「もしもし。キリヤです」
『おう、キリヤ! 久しぶりだな! 元気にしてるか?』
声を聞く限り、暁は相変わらずの様子だという事を察するキリヤ。
「元気だよ」
『ほう』
何か、見透かされているような気がする。やっぱり先生には敵わないな――
そんなことを思い、キリヤはゆっくりと口を開いた。
「……嘘。本当は少し落ち込んでいたんだ」
『ははは。それで、何があったんだ?』
暁はいつもの優しい口調で、キリヤにそう告げた。
(先生は変わらないなあ。だからこんなにホッとするんだろうね)
久々に暁の優しさに触れたキリヤはそう思い、目からは涙がこぼす。
「うぅ……」
『ど、どうしたんだ!? そんなに悲しいことがあったのか!! いいから、話してみろって』
「実はね、優香が――」
キリヤは暁に優香が暴走してしまったことを話した。
『そうか。優香が。……キリヤは大丈夫か?』
「僕は何でもないよ」
『そうじゃなくて、心の問題だよ』
「心……」
(八雲さんも同じことを聞いてくれたっけ……)
『剛が暴走した時、俺は自分のことをすごく責めたんだよ。自分は何もできなかった。知っていたのに、無理をさせて教師失格だって』
「うん」
その時のことはよく覚えている。あの時はいつも元気な先生がどこかおかしくなっていたことを――。
『その時に、奏多や白銀さんや所長が俺らしくいてくれってそう言ってくれたんだよ。俺らしくあれば、それが誰かのためになるって』
「そうなんだ……」
そういえば、僕も白銀さんに元の僕でいてくれと言われたな――
『だからキリヤもキリヤらしくいるんだぞ。自分を見失わず、自分のやりたいことを忘れるな。いいか? 優香は、きっと目を覚ました時にいつものキリヤがそばにいてくれたら喜ぶと思う。キリヤはキリヤでいてくれよ』
「……わかった。ありがとう、先生」
そして暁の優しくて温かい言葉を聞いたキリヤは、自然と笑顔になっていた。
『それと! 困ったらいつでも連絡してくれて構わないからな。連絡がないと、俺もさみしいからさ。どんなことでもいい。また前みたいに、いつでも相談に来てくれればいいから』
「うん!」
そしてキリヤは暁との通話を終え、少し休むことにした。
起きた時、優香に元気な顔を見せるために――。
眠る優香にそう呟くキリヤ。
「とりあえず今の状況をしないと――」
そしてキリヤは外で待っている八雲に急いで連絡を取り、警察の手配と研究所までの送迎を依頼した。
キリヤは優香を寝かせて、ビルの中で八雲の到着を待った。
やっぱり一人で行かせるべきじゃなかったのかもしれない――。
眠る優香を見て、そう思うキリヤ。
そしてキリヤは唇をかみしめ、自分の不甲斐なさに情けなくなっていた。
僕は優香に何もしてあげられなかった。もっと早く駆けつけていたら、もしかしたら――
「ごめんね、優香」
キリヤはぽつんとそう呟いた。
それからキリヤはスライム少年の遺体に目を向ける。少年は身体中が穴だらけで、ほとんどヒトのカタチをとどめていなかった。
優香はもしかして、お母さんの時も同じように――?
キリヤはふとそんなことが頭をよぎる。
もしそうだったとしたら、優香はずっと一人でとてつもない大きなものを背負って生きてきたのかもしれない。僕はその背負っていた重さも知らず、優香を危険な場所へ連れてきてしまった。
そして本来ならば、もう二度と同じ過ちをしなくて済んだはずだったのに、また優香に重いものを背負わせてしまったんだ――。
「僕は、目を覚ました優香にどんな顔をして会えばいいのかな」
それからキリヤはただ何も考えず、眠っている優香を見つめていた。
その後、八雲が警察関係者を連れ、ビルの中にやってきた。
八雲は警察関係者に後のことを頼むと、キリヤと優香を連れてビルを後にした。
――帰りの車内にて。
八雲はバックミラーに映る眠った優香を見ると、
「何があったんだい?」
と心配そうな表情でそう言った。
「優香の能力が暴走したみたいで、それで――」
キリヤはビルの中で見た光景を思い出す。
真っ赤な血だまりの中に転がっていた少年の死体。そして今までこんなにしっかりと嗅いだことのない血液の匂い。それは父の時とは違う、ヒトの最期の瞬間だった――
「ヒトが死にゆくところを、僕は初めて見ました……」
そう言って俯くキリヤ。
「そうか……。わかった。とにかく急ごう。優香君のことも心配だけど、キリヤ君のことも心配だ」
「僕は、大丈夫ですよ」
小さな声でそう呟くキリヤ。
「身体の話じゃない。心の話をしているんだ。……僕だって、一応研究者の端くれなんだから、君たちのことは心配なんだよ」
「ありがとう、ございます……」
それからキリヤたちは一言も話さず、研究所に到着した。
研究所に到着すると八雲から状況を聞いていたのか、所長が大慌てでキリヤたちを出迎え、そして優香を検査室に運んだ。
キリヤは検査室前の椅子で座っていた。
何かを思うでもなく、ただそこにある椅子に腰を掛けているキリヤ。
すると、そこへゆめかがやってきて、静かにキリヤの隣に腰を下ろす。
「大丈夫かい?」
ゆめかは優しい声で、僕にそう言った。
「はい……でも何でしょう。なんだかぽっかり心に穴が開いてしまったような、そんな感覚なんですよ」
淡々と告げるキリヤ。
「そうか……。きっといろんなことがたくさん起こって、まだ心がついてきていないのだろうね。ゆっくりでいい。だからいつものキリヤ君に戻ってくれ。優香君が起きた時、元気がない君を見たら、きっと悲しむよ」
「ははっ。そうですね……」
キリヤは精一杯の笑顔でゆめかに返した。
「君はもう部屋に帰って眠ったらいい。また起きた時、優香君の傍にいてやってくれ」
「わかりました……。優香のこと、よろしくお願いします」
キリヤはそう言いながら、ゆめかに頭を下げて、自分の部屋に戻っていった。
部屋に戻ったキリヤは、そのままベッドに倒れこんだ。
「はあ」
休めと言われても、今の気持ちのままじゃ休みたくても休まらないよ。こういう時、先生の声を聞きたいんだけどな――。
そう思ったキリヤはポケットにあるスマホを取り出し、アドレス帳から暁の名前を見つけ出す。
スマホに表示されている時計を見ると、時刻は7時49分と表示されていた。
「今は食堂でご飯を食べている頃かな……」
先生だったら、何とかしてくれるはず――キリヤの中でそんな気持ちが膨らんでいった。
そしてキリヤは通話ボタンを押そうするが、寸前でその手を止める。
「そうだ。僕はここに来るって決めた時、もう先生に頼らないって決めたんだよ。いつまでも先生に期待して、何もできない自分ではいたくはないから……」
キリヤは持っていたスマホを置き、天井を眺めた。
「優香……。大丈夫かな」
あの時自分がそばにいたら、もしかしたら――
そんなことを延々と考えてしまうキリヤ。
「はあ」
キリヤがため息をつくと、それと同時にスマホが振動する。
そしてキリヤはスマホを手に取ると、その着信相手に驚いた。
「え、なんで……」
――着信 暁先生
自分から着信をしていない。それなのに、なぜ先生から着信が――
「いや、今はそんなことはどうでもいい。きっと何か用事があるんだよ」
そしてキリヤはスマホにタップして、通話に応じた。
「もしもし。キリヤです」
『おう、キリヤ! 久しぶりだな! 元気にしてるか?』
声を聞く限り、暁は相変わらずの様子だという事を察するキリヤ。
「元気だよ」
『ほう』
何か、見透かされているような気がする。やっぱり先生には敵わないな――
そんなことを思い、キリヤはゆっくりと口を開いた。
「……嘘。本当は少し落ち込んでいたんだ」
『ははは。それで、何があったんだ?』
暁はいつもの優しい口調で、キリヤにそう告げた。
(先生は変わらないなあ。だからこんなにホッとするんだろうね)
久々に暁の優しさに触れたキリヤはそう思い、目からは涙がこぼす。
「うぅ……」
『ど、どうしたんだ!? そんなに悲しいことがあったのか!! いいから、話してみろって』
「実はね、優香が――」
キリヤは暁に優香が暴走してしまったことを話した。
『そうか。優香が。……キリヤは大丈夫か?』
「僕は何でもないよ」
『そうじゃなくて、心の問題だよ』
「心……」
(八雲さんも同じことを聞いてくれたっけ……)
『剛が暴走した時、俺は自分のことをすごく責めたんだよ。自分は何もできなかった。知っていたのに、無理をさせて教師失格だって』
「うん」
その時のことはよく覚えている。あの時はいつも元気な先生がどこかおかしくなっていたことを――。
『その時に、奏多や白銀さんや所長が俺らしくいてくれってそう言ってくれたんだよ。俺らしくあれば、それが誰かのためになるって』
「そうなんだ……」
そういえば、僕も白銀さんに元の僕でいてくれと言われたな――
『だからキリヤもキリヤらしくいるんだぞ。自分を見失わず、自分のやりたいことを忘れるな。いいか? 優香は、きっと目を覚ました時にいつものキリヤがそばにいてくれたら喜ぶと思う。キリヤはキリヤでいてくれよ』
「……わかった。ありがとう、先生」
そして暁の優しくて温かい言葉を聞いたキリヤは、自然と笑顔になっていた。
『それと! 困ったらいつでも連絡してくれて構わないからな。連絡がないと、俺もさみしいからさ。どんなことでもいい。また前みたいに、いつでも相談に来てくれればいいから』
「うん!」
そしてキリヤは暁との通話を終え、少し休むことにした。
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