【外伝】 白雪姫症候群 ースノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第2章 魔女たちの暗躍編

第3話ー⑯ 毒リンゴの力

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 部屋に着いた優香はそのまま自室のベッドの身体を預ける。

「疲れたなあ。一日調査で歩き回った後にあの騒動だもん……疲れるのも無理はない、か」

 キリヤ君、大丈夫かな……さすがにこの年で感情の制御が利かないことはないだろうから、暴走の心配はないとは思うけど。でもやっぱり心配だな――

 そう思いながら、ため息を吐く優香。

「こんな時、暁先生ならキリヤ君に何か言ってあげられるんだろうけど……」

 私じゃ、キリヤ君の心はきっと救えない。何とかしてあげたいのに――

「私、どうしたら……」
「自分の思う通りに行動したらいいのじゃ」
「そうですよね。それはわかるんです、が? え?」
「ほほほ!」

 変な笑い声を上げながら、初美はベッドの下から現れた。

「田川さん!? いつからそこに!?」
「まあまあ」

 この人はまったく――そう思いながら、初美を見る優香。

「それでどうしたんじゃ? キリヤに元気がないと聞いてな! 部屋に行っても入れてもらえんかったから、代わりに優香の部屋に忍び込んだわけなんじゃが!」

 初美がどや顔でそう言うと、

「普通に部屋に入ってくるという選択肢はなかったんですか?」

 優香は呆れつつ、初美にそう告げた。

「おお、そうか。その手もあったな! 次からはそうするわい! ほほほ!」
「お、お願いします……」

 やっぱり私、この人のことは苦手かもしれません――

 優香はそう思いながら、初美を見た。

「それで? 任務先で何があったんじゃ?」
「え!? うーん」

 あまりこの人に話したくないな――優香がそう思い、怪訝な顔をしていると、

「ほれほれ! 話してみい! 楽になるかもしれんじゃろ?」

 初美はそう言って笑った。

「まあ確かに、それは一理あるかもしれませんね。実は――」

 優香は任務先であったすべてのことを初美に伝えた。

「ほう……そういうことがあったのじゃな」
「ええ。でも私、キリヤ君に何も言ってあげられなくて。それで……」

 そう言って俯く優香。

「なるほど、なるほど。あんなに大きなため息をついていたと」
「はい」
「まあ惚れている男が悩む姿は見たくはないものじゃしな。何とかしたいという気持ちもわからんでもない」

 初美はニヤニヤとしながらそう言った。

「ほ、惚れてなんて!! ただ、パートナーとして心配なだけで!!」
「わかっておるよ。うむうむ」

 そう言いながら頷く初美。

 この人は一体何がわかったというのか――と優香は心の中でそう思った。

「まあでも。優香が惚れているかどうかはさておき。キリヤがこのままふさぎ込んでしまうのは、『グリム』にとってもいい状況ではないことは確かじゃなあ」

 そう言って顎に手を当てて考える素振りをする初美。

「そう、ですね」

 そんな初美を見た優香は、あくまでこの人は仕事上で私たちが必要と思っているだけなんだろうな――とそう思っていた。

 この人に相談することは正解だったのだろうか。もしかしたら花咲さんや白銀さんの方が、彼のことを考えた答えを出してくれたんじゃないかな――

「それで優香はどうしたいんじゃ?」

 唐突な初美からの質問に驚いてはっとする優香。

「わ、私、ですか?」
「そうじゃ」
「私は……キリヤ君を、救いたい。前に私を救ってくれたみたいに、私もキリヤ君を助けたいです」

 優香のその言葉を聞いた初美は、

「そうか。じゃあわしから何か言うことは何もないわい」

 そう言ってニコッと笑った。

「え、どういうことですか……?」
「ほほほ。あんなに悩んでおったくせに、自分のやるべきことがわかっとるようじゃからな」
「私のやるべきこと?」
「まだわからんのかい! キリヤを助けたいんじゃろ? じゃあこんなところでうなだれている場合じゃないって話じゃ」

 確かに田川さんの言う通りかもしれない――そう思った優香は微笑むと、

「そう、ですね。私が困っていた時、彼は何も考えず部屋の中に飛び込むような人でした。私もこんなところでどうしたらいいかなんて悶々と考えるんじゃなくて、やりたいようにやろうって思います!」

 初美の顔を見てそう言った。

「うむ。それでよい」
「じゃあ。私、キリヤ君のところに行ってきます!」
「うむ。任せたぞい!」

 優香はそれから部屋を出て、キリヤの部屋を目指したのだった。


 ***


 優香の部屋の前。初美は部屋からゆっくりと出てくる。

「ふふ。珍しいな。初美が人助けなんて」
「おお、つばめか。聞いとったなら、入ってくればよかったのにのう」

 その声の方を見た初美の視線の先には花咲つばめが壁に背中を預けながら、微笑んで立っていた。

「初美の手柄を奪うわけにはいかないからな」
「手柄なんて、そんなもんじゃないわい。ただ青い果実は大切に育てたいと思っただけじゃよ」
「そうか」

 そして2人は優香の走り去った廊下を優しい瞳で見つめたのだった。
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