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第2章 魔女たちの暗躍編
第3話ー⑰ 毒リンゴの力
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キリヤ君に何か言わなきゃ、何かしてあげなくちゃって私は思っていた。でも言ってあげたい言葉もしてあげたいことも直接彼の気持ちを聞かないことにはわからない――
そう思った優香は、今はただ彼の傍に行くべきだと思った。
「はあ、はあ……」
そして優香はキリヤ君の部屋の前に着く。
「ふう。よし」
呼吸を整えた優香は部屋の扉を叩いた。
「……」
しかしその部屋から返事はなかった。
「うーん」
いつもの私ならここで諦めるけど、今日は違うんだから――!
「入るよ!」
そう言って優香はドアノブに手を掛けた。
「開いてる……」
そして優香はそのまま扉を開けると真っ暗な部屋の中、ベッドの上で膝を抱えて小さくなっているキリヤを見つけた。
「いるじゃん」
そして優香はキリヤ君の前に行く。
「何が大丈夫だって?」
「……」
優香の問いかけにキリヤからの答えはなかった。それから優香は何も言わず、キリヤの隣に座る。
「何も言わなくてもいいから、黙って聞いていて」
「……」
優香の言葉を聞いても、俯いたままピクリとも動かないキリヤ。
――何も言わなくてもいいとは言ったけど、無反応か。
そう思いつつ、そのまま話を始める優香。
「私がまだ施設に来たばかりの頃、良い子でいなくちゃいけないって思って我慢していたでしょ?」
――あの時の私は今度はうまくやらなくちゃってそう思って、一人で苦しんでいた。でも、君が……キリヤ君が本当の私を見つけてくれたんだよ。
その当時のことを優香は思い返しながら、キリヤに話していった。
「――突然部屋に入ってきて、僕を信じろ! なんて言っていたよね。あれからもう2年くらい経つんだよ。時間の流れって早いよね」
「……」
「私はキリヤ君に本当の自分でいてもいいって言われて、すごく救われたんだ。君があの時のことをどう思っているかはわからないけど、でも私にとって大事な出来事だったって思ってる」
「……」
「だから今度は、私が君の助けになりたい。キリヤ君、何でもいい。私に話してよ、君の今の気持ちをさ」
優香はそう言ってキリヤに微笑んだ。
そしてキリヤは伏せていた顔を上げる。その目は赤くなって、瞼は腫れていた。
きっと帰ってからずっと泣いていたんだろうな……これじゃ、せっかくの美形な顔が台無しだよ――そう思いながら、その顔を見つめる優香。
「ごめんね、優香。僕、優香にひどいことを言ったのに」
「気にしなくていいんだよ。辛いときは誰だって余裕がないものなんだから」
「ありがとう」
そう言ってキリヤは無理やり笑顔を作った。
こんなに苦しそうな笑顔のキリヤ君を、私は初めて見たかもしれない――
優香はキリヤの顔を見てそう思った。
それからキリヤは座り直し、ゆっくりと話し始める。
「僕、さっき優香に言われてようやく気が付いたんだ。僕は任務の為なんかじゃなくて、自分の為に慎太と過ごしていたんだってこと。自分ができなかった青春の日々を慎太と過ごすことで疑似体験していたんだなって」
「そう、なんだ……」
やっぱり別々じゃなくて、一緒に行動すればよかったのかな――
そんなことを思い、暗い表情になる優香。
「あはは、呆れちゃうでしょ? 優香に釘を刺されていたはずなのにね」
優香はゆっくりと首を横に振る。
「……そんなことないよ。私が逆の立場でも同じことをしたと思うから」
「優香はそんなヘマなんてしない。これは、僕の甘さが招いた結果だよ」
そう言って、顔を伏せるキリヤ君。
「……キリヤ君はさ、私と違ってずっと保護施設で生活してきたわけじゃない? 外の世界に憧れを持つことは何の不思議もないんだよ」
「でも、僕は――!」
キリヤはそう言って、両手の拳を握りしめる。
「それに私ならって言うもしもの話をしたって、仕方のないことだと思うんだ。君は君の心に従って行動したんでしょ?」
「そう、だね」
そう言いながら、キリヤは拳の力を抜いていく。
それを見た優香は優しい笑顔を作って、
「それは人間らしくて素敵なことだよ。それに慎太君はどうだった? キリヤ君と一緒にいて楽しそうだった?」
そう問いかけた。
そしてキリヤはゆっくりと顔を上げて、
「ずっと馬鹿なことばっかやって、笑っていたかな」
嬉しそうに微笑みながら優香にそう言った。
良かった。少しは元気になってくれたのかな――
そう思いながら、ほっとする優香。
「じゃあ間違ってなかったんだよ。無理に保護していたら、その時の慎太君の幸せを奪ってしまったかもしれないでしょ」
「……でもその結果がこの状況なら、幸せを奪ってでも保護するべきだったんじゃないかって僕は思うんだ」
キリヤは悲し気な表情でそう言うと、
「結果論に過ぎないよ。遅かれ早かれきっと同じだったと思う。君がどのくらい慎太君に関わるかどうかの違いくらいで。彼の中には『ポイズン・アップル』があったんだから」
優香はキリヤの顔をまっすぐに見てそう言った。
「でも――」
「彼は残された大切な時間を楽しんでいたんでしょ? キリヤ君のおかげで慎太君は幸せだったんじゃないのかなって思うんだ」
「……」
「彼と過ごした時間をなかったことにしない為、キリヤ君が今やれることは何だと思う?」
優香の問いにキリヤは俯くと、
「僕が今やれること……」
ぽつりとそう呟いた。
「うん」
「いつまでも後悔しないこと、かな」
キリヤは優香の方を向いてそう言うと、
「そうだね」
と優香は笑顔でそう答えたのだった。
そう思った優香は、今はただ彼の傍に行くべきだと思った。
「はあ、はあ……」
そして優香はキリヤ君の部屋の前に着く。
「ふう。よし」
呼吸を整えた優香は部屋の扉を叩いた。
「……」
しかしその部屋から返事はなかった。
「うーん」
いつもの私ならここで諦めるけど、今日は違うんだから――!
「入るよ!」
そう言って優香はドアノブに手を掛けた。
「開いてる……」
そして優香はそのまま扉を開けると真っ暗な部屋の中、ベッドの上で膝を抱えて小さくなっているキリヤを見つけた。
「いるじゃん」
そして優香はキリヤ君の前に行く。
「何が大丈夫だって?」
「……」
優香の問いかけにキリヤからの答えはなかった。それから優香は何も言わず、キリヤの隣に座る。
「何も言わなくてもいいから、黙って聞いていて」
「……」
優香の言葉を聞いても、俯いたままピクリとも動かないキリヤ。
――何も言わなくてもいいとは言ったけど、無反応か。
そう思いつつ、そのまま話を始める優香。
「私がまだ施設に来たばかりの頃、良い子でいなくちゃいけないって思って我慢していたでしょ?」
――あの時の私は今度はうまくやらなくちゃってそう思って、一人で苦しんでいた。でも、君が……キリヤ君が本当の私を見つけてくれたんだよ。
その当時のことを優香は思い返しながら、キリヤに話していった。
「――突然部屋に入ってきて、僕を信じろ! なんて言っていたよね。あれからもう2年くらい経つんだよ。時間の流れって早いよね」
「……」
「私はキリヤ君に本当の自分でいてもいいって言われて、すごく救われたんだ。君があの時のことをどう思っているかはわからないけど、でも私にとって大事な出来事だったって思ってる」
「……」
「だから今度は、私が君の助けになりたい。キリヤ君、何でもいい。私に話してよ、君の今の気持ちをさ」
優香はそう言ってキリヤに微笑んだ。
そしてキリヤは伏せていた顔を上げる。その目は赤くなって、瞼は腫れていた。
きっと帰ってからずっと泣いていたんだろうな……これじゃ、せっかくの美形な顔が台無しだよ――そう思いながら、その顔を見つめる優香。
「ごめんね、優香。僕、優香にひどいことを言ったのに」
「気にしなくていいんだよ。辛いときは誰だって余裕がないものなんだから」
「ありがとう」
そう言ってキリヤは無理やり笑顔を作った。
こんなに苦しそうな笑顔のキリヤ君を、私は初めて見たかもしれない――
優香はキリヤの顔を見てそう思った。
それからキリヤは座り直し、ゆっくりと話し始める。
「僕、さっき優香に言われてようやく気が付いたんだ。僕は任務の為なんかじゃなくて、自分の為に慎太と過ごしていたんだってこと。自分ができなかった青春の日々を慎太と過ごすことで疑似体験していたんだなって」
「そう、なんだ……」
やっぱり別々じゃなくて、一緒に行動すればよかったのかな――
そんなことを思い、暗い表情になる優香。
「あはは、呆れちゃうでしょ? 優香に釘を刺されていたはずなのにね」
優香はゆっくりと首を横に振る。
「……そんなことないよ。私が逆の立場でも同じことをしたと思うから」
「優香はそんなヘマなんてしない。これは、僕の甘さが招いた結果だよ」
そう言って、顔を伏せるキリヤ君。
「……キリヤ君はさ、私と違ってずっと保護施設で生活してきたわけじゃない? 外の世界に憧れを持つことは何の不思議もないんだよ」
「でも、僕は――!」
キリヤはそう言って、両手の拳を握りしめる。
「それに私ならって言うもしもの話をしたって、仕方のないことだと思うんだ。君は君の心に従って行動したんでしょ?」
「そう、だね」
そう言いながら、キリヤは拳の力を抜いていく。
それを見た優香は優しい笑顔を作って、
「それは人間らしくて素敵なことだよ。それに慎太君はどうだった? キリヤ君と一緒にいて楽しそうだった?」
そう問いかけた。
そしてキリヤはゆっくりと顔を上げて、
「ずっと馬鹿なことばっかやって、笑っていたかな」
嬉しそうに微笑みながら優香にそう言った。
良かった。少しは元気になってくれたのかな――
そう思いながら、ほっとする優香。
「じゃあ間違ってなかったんだよ。無理に保護していたら、その時の慎太君の幸せを奪ってしまったかもしれないでしょ」
「……でもその結果がこの状況なら、幸せを奪ってでも保護するべきだったんじゃないかって僕は思うんだ」
キリヤは悲し気な表情でそう言うと、
「結果論に過ぎないよ。遅かれ早かれきっと同じだったと思う。君がどのくらい慎太君に関わるかどうかの違いくらいで。彼の中には『ポイズン・アップル』があったんだから」
優香はキリヤの顔をまっすぐに見てそう言った。
「でも――」
「彼は残された大切な時間を楽しんでいたんでしょ? キリヤ君のおかげで慎太君は幸せだったんじゃないのかなって思うんだ」
「……」
「彼と過ごした時間をなかったことにしない為、キリヤ君が今やれることは何だと思う?」
優香の問いにキリヤは俯くと、
「僕が今やれること……」
ぽつりとそう呟いた。
「うん」
「いつまでも後悔しないこと、かな」
キリヤは優香の方を向いてそう言うと、
「そうだね」
と優香は笑顔でそう答えたのだった。
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