白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

文字の大きさ
6 / 501
第1章 始まり

第1話ー⑤ 出会い

しおりを挟む
「キリヤ、お前!! 俺まで巻き添えになるところだっただろうが!!」

 俺に押し倒された剛は尻もちをつきながら、キリヤに文句をぶつけていた。

「剛なら、当たっても死なないって思ったからね。怒ったなら、謝るよ。ごめんね」

 キリヤは冷ややかな笑顔で剛に告げた。

「も、もうあの時みたいに死にかけるのはごめんだからな!」

 この二人は昔、何かあったのか?なんとなく剛が怯えているような……

「さて、暁先生。僕から逃げ切れるかな……」

 キリヤは俺に不敵な笑みを浮かべる。

「やべぇよ、先生。あいつがあの状態になると誰も手が付けられないんだよ」

 確かに今までのキリヤとは思えないほどの力の増強がみられる。

「これはさすがに……」

 俺の力でも防ぎきれるだろうか…もし防ぎきれたとしても、もしかしたら剛に傷を負わせてしまうかもしれない……さて、どうする。

「そうだ先生、時間は!!」

 時計に目を向けると、制限時間の15分を過ぎていた。

「キリヤ、待て。タイムアップだ」

 こんなことでキリヤの感情は抑えられないかもしれないが、打てる手は打っておくべきだ。

 するとキリヤは少し考えてから冷静になった。

「……そうか。じゃあ今回は僕たちの負けだね」

「ああ。じゃあとりあえず開始地点に戻ろうか。他のみんなはもう集まっているかもしれないからな」

 キリヤがわかってくれたみたいでよかった。

 俺はそう思いつつ、胸をなでおろす。

 もしあのまま続けていたら、キリヤは制御不能になって俺も剛もキリヤ自身も大変なことになっていたかもしれない。今回は事なきを得て、俺は安心した。 

 それから俺と剛、キリヤはグラウンドへ向かって歩き出した。

 グラウンドに向かう途中で俺の後方を歩いていた剛が隣に来て、そっと俺に耳打ちした。

「先生は他の大人と違うみたいだから、信じてもいいって思った」

「そうか。ありがとな」

「それと、先生が言うような心から強い人間になれるように努めるよ」

 そう言って、剛は微笑んだ。

「ああ」

 そして俺もそんな剛に笑顔で返した。

 剛の変わりたいという気持ちに触れ、俺は嬉しくなった。

 それは教師にならなければ、きっと出会うことのなかった喜びの感情。

 俺はこの時、教師になれて良かったと心底思ったのである。



 俺たちがグラウンドにつくと他の生徒たちが集まっていた。

「勝敗は!? どっちの勝利?」

 いろはが俺たちに詰め寄ってくる。

「勝負は暁先生の勝ちだ。俺もキリヤも時間内に捕まえられなかったからな」

「ええええ! じゃあアタシたちセンセーの言いなりなわけ? 最悪じゃん!」

 生徒たちは表情が強張る。

「ぼ、僕たち、どうなるの、かな……」

 俺はまゆおの顔を見て、レクリエーションの時にまゆおにだけ会わなかったことを思い出した。

「あれ? そういえばレクリエーションの間、まゆおの姿だけ見ていないけど、どこに行っていたんだ?」

 まゆおはおろおろしながら、答えた。

「こ、こで攻撃の、チャンス、を、ま待っていた、いたんです」

「嘘つけーい! どうせ怖くて、隠れていたんでしょうが!」

「ご、ごめんなさーい……」

 まゆおといろはのやり取りに思わず、生徒たちは笑みがこぼれていた。

「まあそんなわけで、これでレクリエーションは終了。勝ったのは俺だから、お前たちは何でも俺の言うことを聞いてもらうからな!」

 ごくりと息をのむ生徒たち。

「そうだな……じゃあ、これから何か悩みや相談事があれば、俺に相談すること! 以上!!」

「……え?」

 思わずあっけにとられる生徒たち。

「それだけ?」

「ああ。」

「何でも言うこと聞かせられる権利なのに?」

「そうだ。」

「もっと行動範囲を狭めるとか規則を厳しくするとかじゃなくて?」

「ああ。いいか? 相談事があるときは俺に必ずしろよ! 俺はこのクラスの担任なんだからな!!」

「……」

 沈黙の後、笑いが起こった。

「センセーやっぱり最高!! チョー面白いじゃん!!」

「そ、そんなに笑うことじゃないだろう? 可笑しかったか?」

「いや最高だぜ、暁先生!!」

 全員とはいかないが、受け入れてくれた生徒たちもいるみたいでよかった。今回のレクリエーション企画は概ね成功ってことかな。

「先生。いきなりですけど、相談いいですか?」

 俺が満足げにしていると、真一は手を挙げ、俺に問う。

「ああ。構わないぞ。なんでも言ってくれ」

「本当に何でもいいんですね。じゃあ相談しますけど、先生って白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームなんですか?」

 真一の質問を聞き、先ほどまで和やかだった生徒たちの雰囲気は急に張り詰めた。

 レクリエーションの冒頭で見た光景、そして各々のバトルで見せられた力。生徒たちは少なからず、疑問を持っていたようだ。

「……そうだ。俺はお前たちと同様に白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームだ」

 俺のその答えに、驚きを隠せない生徒たち。

 しかし真一だけは、冷静に俺への質問を続けた。

「やっぱり。じゃあその能力は無効化って感じですかね」

「正解。俺の能力は確かに無効化だ」

「そうですか。……もう一つ大きな疑問があります。先生って、成人していますよね? なぜ、能力が消失していないんですか?」

 その質問には他の生徒たちも興味津々のようだった。

 確かにこのことに疑問を持つのは不思議なことではない。やはりこのクラスの生徒たちには話しておくべきかもしれないな。

 これから彼らの前で能力を使うこともあるだろうからな。

「この話は教室に戻ってからにしよう。ちょっと長くなるからな」

 真一はそれで納得したようで、小さく頷くと建物の中に入っていった。

「みんなも戻ろうか」

 そして俺たちは教室へ向かった。



 教室に戻る途中で、キリヤはあることを考えていた。

 二十歳を過ぎても能力が消えていないのに、普通に外の世界で生活していたのか……。

 もしかして僕たちの中の誰かもそういう可能性があるんじゃ……。

 それがもし僕やマリアだったら……。

 考えながら歩くキリヤを見て、心配そうにするマリア。

「キリヤ……」

「どうした?マリア」

「ん。なんだか怖い顔をしていたから」

「大丈夫。僕はいつも通りだよ」

「……なら、いいけど」

 マリアは事あるごとに僕のことを思ってくれる。

 それが僕にとってはとても嬉しいことだった。

 その度に僕はマリアとの家族の絆を確かに感じていた。

 僕とマリアの間には何人たちとも踏み入れさせない。

 政府の犬であるあいつには特に、だ。

 しかし成人しているのにも関わらず、白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームの能力が消失していないあいつのことは少し気になる…

 とりあえず今はあいつの話を聞いてみるか。

 悩んでいても答えなんて出ないから。

 そして僕たちは教室へ向かった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...