白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第2章 変動

第8話ー② 白の少女

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 全ての検査を終えた俺は、建物内に併設されているカフェに来ていた。

 このカフェは、主に研究所で働く職員の休憩スペースとして利用されているが、俺のように検査をするために来た一般人でも、この場所の利用はできるようになっていた。

「俺はいつまでこのままなんだろうな」

 そのカフェにある一脚の椅子に腰を掛けている俺は、無意識にため息交じりの独り言を呟いていた。

 検査を終え、施設へ帰宅することを許されていたけれど、こんな気持ちのままで施設には戻れないと思い、俺はこの場所から動けずにいた。

「はあ」

 俺が大きなため息をつくと、後ろから声がした。

「そんな大きなため息をつくと、幸せが逃げてしまうよ」

 声がした方を向くと、そこには銀髪で青い瞳のきれいな女性が立っていた。

「す、すみません……。なんだか、いろいろ考えちゃって」
「ほうほう。では、お姉さんが聞いてあげよう。何があったんだい?」

 そう言って、その女性は目の前の椅子に腰かける。

「あの、あなたは何者なんですか? ここではお会いしたことないような……」

 その馴れ馴れしく接してくる女性に、俺は猜疑心を抱く。

 俺は高校2年生からこの研究所に住んでいたけれど、一度もこんなきれいな女性に会ったことはなかった。

「それは失敬した! 私は、白銀《しろがね》ゆめか。今はここでカウンセラーのようなものをしている」
「カウンセラー?」
「ああ。と言っても一般的なカウンセラーではないんだけどね」

 そして白銀さんは自分がここへ来た理由を話してくれた。

 もともと外でカウンセラーとして働いていた白銀さんは、暴走してしまった子供たちに何かをしたいと考え、今年の春からこの研究所で勤めているらしい。

「わざわざこんなところで働くなんて、私もなかなかの変わり者だろう?」

 やれやれといった顔をしながら、笑っている白銀さん。

 しかし俺はそんな彼女の姿がとてもかっこいいと思った。

「そんなこと、ないです。やりたいことのために、行動できるなんてすごいことですよ」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。私は私にできることをやるだけ。その為にここへ来たんだからね」

 そういった彼女の瞳はとてもまっすぐで美しかった。

「そういえば君は……三谷暁君、だろう? SS級クラスにして、政府公認の施設でS級クラスの子供たちの教師をやっている」
「え、俺のこと、知っているんですか?」
「この業界に勤めている人間で、君のことを知らない人はいないよ! 成人を超えた今でも能力が衰えることもなく、能力を使いこなす神の使い……」
「神の使い?」
「おっと、これは口が滑った。……でも君は特別ってこと。そんな君だから、生徒たちを導いて幸せにすることができるかもしれないね。私も……」

 最後に言った言葉は聞き取れなかったが、たぶん白銀さんは俺を励まそうとしてくれたんだと思った。

「あの。ありがとうございます! 俺、自分の能力がなくならないことがたまに不安になることがあって……他の人と同じように生きたいのに、それが叶わないのかなって、そう思って悶々としていたんです」

 俺は白銀さんの言葉から、力をもらっていた。

 まさか初めて出会った人にこんなに心を開くなんて……。

「白銀さんの話を聞いていたら、同じように生きようとしなくてもいいんじゃないかって思えました。俺にしかできない方法で、俺らしく生きていく。それを続けていけば、いつか俺は俺の能力のことを好きになれるような気がします」

 俺の顔は自然に笑顔になっていた。

 それを見た白銀さんは安心したのか、微笑みながら俺に告げる。

「ふふふ。君は君らしくいてくれれば、十分すぎるよ。それが誰かを救う行為だからね」

そう言いながら、白銀さんは椅子を立ち上がった。

「さて、君も元気になったみたいだし、私はもう行くよ。私を待っている子供たちがいるからね。じゃあまた! 何かあれば、また相談してくれ。私は君の力になりたいと思っているから!」

 そして白銀さんはカフェを出て、自分の仕事に戻っていった。

「俺らしくいる、か……そうだな」

 悩むことなんてなかった。この人生を不自由に思うかどうかは俺の問題。俺はこの力がなければ、経験できないことがたくさんあっただろう。

 多くの出会いと経験は、『白雪姫症候群この力』のおかげだ。

 今はこの力のことを好きじゃないけど、好きになろうとすることはできる。生徒たちが自分の力を信じるみたいに、俺も俺自身の力を信じる。


 ――そして俺はこれから多くの子供たちを救っていくんだ。


 俺と同じように辛い思いをさせたくないからな!

 俺は飲みかけのコーヒーを一気に飲み干してから、施設に戻っていった。



 帰宅途中、行きの時と同じように車の窓から外に目を向けると、太陽は完全に沈み、空には星たちが瞬き始めているのが見えた。

「ちょっと遅くなりすぎたかな」

 そういえば、キリヤと一緒に夕食を食べる約束をしていたっけ。帰りが遅くて怒っているかもしれない……。帰ったら、謝らなくちゃな。

 そして車は施設に到着する。



 俺は施設に到着すると、帰りの遅い俺のことを心配してくれていたのか、生徒たちがゲートで迎えてくれた。

「センセー、遅いよ! もう晩御飯済ませちゃったじゃん!」
「朝と昼は食べられないから、夜は一緒に食べようって言ったのは先生なのにね!」

 キリヤがそっぽを向きながら、嫌味っぽく俺に言う。

「ごめんな! ちょっと検査に手間取ちゃってさ!」

 俺は頭をかきながら、キリヤたちに陳謝する。

 でも本当は自分のことに打ちのめされていたのだが、その事実は俺の胸に秘めることにした。

「ほらほら、二人とも。先生のことが好きなのはわかりますけれど、そんなに責めないであげてください。先生だって、本当はみんなと晩御飯を食べたかったかもしれないでしょう?」

 奏多はキリヤといろはに諭すように告げる。

「そう……だよね。先生だって検査で疲れているのに。ごめんね、先生」

 キリヤは申し訳なさそうに、俺に告げた。

「いや。俺の方こそ、約束守れなくてごめんな。明日は一緒に夕食を摂ろう」
「うん!」

 笑顔になるキリヤ。そして俺たちの様子を微笑みながら、見守る奏多。

 こういう奏多の気遣いが、本当にありがたいと俺は思った。

「では! ここで立ち話もなんですから、食堂に参りましょうか、先生?」
「そうだな! 俺も腹減ったし……」

 そして俺たちは食堂へ向かった。



 いつもならもう片づけが済んで食べ物は何も置いていない時間だが、帰りが遅い俺のために奏多たちが取り置きをしておいてくれたようだ。

 そして俺の帰りを聞きつけた生徒たちが、次々に食堂にやってくる。

「先生の好きなから揚げも残っていますぞ!」

 結衣がお皿に乗ったから揚げを俺のところへ持ってきてくれた。

「ありがとな、結衣!」
「先生、野菜も食べなきゃダメ」

 マリアはそう言いながら、サラダの乗ったお皿を持ってくる。

「いつも助かるよ、ありがとな!」

 そして気が付けば、俺の机の周りには生徒たちが笑顔で集まっていた。

「先生! 今回の検査結果はどうだった?」

 剛は俺の顔を覗き込むように問いかける。

「いつもと一緒さ。何も変わってないって」
「そうか……」

 俺の返答に申し訳ないことを聞いてしまったと言わんばかりの顔の剛。

「いや、別にいいんだよ! 俺はこの力のおかげでみんなに会えたんだからさ! 剛が落ち込むことなんてないさ!」

 その言葉を聞いた剛は安堵したのか「ありがとな、先生」と笑顔で小さく答えた。

 そしてそれから俺たちは今日の出来事や研究所であったことを話し、会話を楽しんだ。



 食堂の片づけを終え、俺は職員室に戻った。

 すると剛が職員室の扉の前で待っているのが見えた。

「どうしたんだ? こんなところで」
「ちょっと相談したいことがあって……」

 剛が珍しくまじめな顔で俺に言った。

 きっと何か大切なことなんだろう。こんなにまじめな剛は見たことがない。

「そうか。じゃあ中で話そうか」

 そして俺は剛と職員室に入っていった。
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