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第2章 変動

第10話ー① 人生の分かれ道

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 そして奏多とのデートから数週間が経ったある日のこと。

 俺は奏多からプロポーズともとれる告白をされたわけだが……。そんなことがあっても、俺と奏多の関係は何一つ変わってはいなかった。

 そんな俺は教室にある自分の机で、それぞれの学習ノルマに取り組む生徒たちを見守っていた。

 今日もいつも通りに生徒たちはそれぞれのノルマを終えていく。それはいつもと変わらない日常。平穏とはこういうことを言うのだろうな……。

 そんなことを考えつつ、俺は穏やかに過ごしていた。

 そして授業の終了時間が近づく。

 教室内を見るといつものようにまゆおが残っているのはもちろんだが、ここ最近は剛も最後まで残って勉強をしていた。

 自分の進路を決めた剛は、これまで以上に授業に取り組み、自習も頑張っている。少しやりすぎかなとは思ったが、それでも俺はそんな剛の姿を静かに見守ることにしていた。

 そして授業の終了時間間際のこと。俺は残っている生徒たちに声を掛ける。

「まゆお、どんな感じだ?」
「……あと、1問です。頑張ります」
「そうか。あと少しみたいだし、頑張れよ」
「はい……」

 そういえば、まゆおは最近『頑張る。やってみる』といったポジティブな言葉を使うようになったと思う。

 いろはと行動するうちに、少しずつだけどまゆおも変わり始めているのかもしれない。そんなまゆおの成長は俺にとっても嬉しいことだった。

 成長したまゆおを感じた俺は、教師でよかったと心からそう思ったのである。



 授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、剛は荷物をまとめて教室を出て行った。

 そしていつもなら授業が終わると、すぐに教室を後にするまゆおが、今日は珍しく教室に残ったまま俺に相談事を持ち掛けてきた。

「先生……最近の剛君、なんだか無理しているように思います……寝る間も惜しんで勉強していたり、授業の後もずっと机に向かっているみたいなんですよね。僕、それがなんだか心配で……」

 まゆおはそう言いながら、不安な表情をしていた。

 確かに今の剛を見て、不安になる気持ちはわからなくもない。でも俺は、俺みたいになりたいと言ってくれた剛を応援したかった。だから剛が無理をしていることは承知の上で、見守っていることをまゆおに伝えた。

「そうか……まゆおにはそう見えるんだな。心配してくれてありがとう……実はな、剛は教師になるために今、すごく頑張っているところなんだよ。俺はあいつを応援したい。だからまゆおも剛を見守っていてやってくれないか」

 俺はまゆおにそう言い聞かせる。

 まゆおは少し不安そうな顔をしたままだったが、自分を納得させるように頷いた。

「……わかりました。そういうことなら。ただ、なんだか頑張りすぎていた昔の自分を見ているみたいで、不安で……もし剛君に何かあったらって思っただけなんです。けど、先生が付いているなら安心ですね」

 そしてまゆおは俺に一礼した後、教室を後にした。

 まゆおは一人一人のことをちゃんと見ているんだなと俺は思った。言葉だけではなく、ちょっとした行動から、相手のことを思って心配できるのは、本当にすごいことだと思う。まゆおのそういう姿勢は、とても立派で尊敬するところかもしれない。

「俺ももっと周りをみられるようにならないとな」

 剛が憧れる教師であり続けるために、俺も頑張ろうと思えた。

 そして俺は教室をあとにした。



 夕食後、いつものように片づけを終えた俺は職員室で報告書をまとめる。

「今日は通常授業と……それから内容は……」

 毎日書いていると、さすがになれてくるのか、初めは1時間ほどかかっていた報告書も今では15分程度で作成できるようになっていた。

「俺も成長しているってことかもな!」

 なんてことを言いつつ、俺は報告書を書き終える。

 そして俺は湯船につかるため、施設の建物内に併設されている大浴場へ向かった。

 その途中で、誰もいないはずの食堂の明かりがついているのが見える。

「あれ、消し忘れかな……」

 俺は食堂を覗くと、剛が食堂で一人、タブレットに向かい勉強していた。

「……剛、がんばっているみたいだな」

 俺は邪魔しまいと、静かに食堂を後にして、大浴場に向かった。



 そして、その日の晩……事件は起こった。

 それはみんなが寝静まっている深夜のことだった。

 突然鳴り響く爆発音。その音で俺は目を覚ました。

「な、なんだ!?」

 そしてそれからしばらくして、まゆおが職員室へやってくる。

「先生!! 剛君が!!!」

 俺はまゆおと共に剛の部屋を目指した。

 剛の部屋に着くと、キリヤの能力で鎮火した後があった。

「これは……」

 そして剛の肩をゆすりながら声を掛けるキリヤ。

「剛? ねえ! 聞こえてる? 何か言ってよ!!」

 ベッドに横たわったまま、動かない剛。

 俺の存在に気が付く、キリヤ。

「先生! 剛が!!」
「暴走、か……でもなんで」
「もしかして勉強し過ぎのストレスで……」

 まゆおがなんとなく言った一言に、俺ははっとした。

 俺はまゆおに言われて 剛が無理をしていたことに気が付いていたはずだ。

 それなのに、俺は剛の心の変化に気づけなかった。

「俺は……」
「先生、どうする?」

 キリヤは俺に意見を求めてきたが、俺はすぐに答えられなかった。

「……とりあえず、研究所に連れて行かないと。ここで僕たちができることはもうないよ……」

 そう言ったのはまゆおだった。

 キリヤは剛を見つめ、頷く。

「先生、剛を研究所に連れて行ってあげて」
「……あ、ああ」

 我に返った俺は急いで研究所に連絡をした。

 俺はエントランスゲートで迎えの車が来るのを待った。

 真冬の深夜に外で待つなんて、とても正気な沙汰とは思えない。

 しかし俺は剛の部屋にいることが耐えられなかった。

 キリヤやまゆおに責められるような気がして、怖かったんだ。

 そしてしばらくしてから研究所から迎えの車が到着する。

 俺は剛の部屋に戻ると、剛を背負って車まで運び、俺もその車に乗り込んだ。

 隣で眠っている剛を見て、俺はとても苦しい気持ちになった。

「ごめんな、剛……俺がもっとちゃんと見てやれたら……」

 そして車は研究所に向かっていった。
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