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第2章 変動
第11話ー② 旅立ち
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「もうすぐ一年か」
俺は職員室に戻る途中、窓からの見えるグラウンドを眺め、そんなことを呟いた。
そう俺がここへきて、もうすぐ1年になる。
そしてこの1年は、本当にいろんなことがあったななんて俺はそんなことを思っていた。
初めは生徒たちともうまくいかないことが多かったし、キリヤにはかなり嫌われていたっけ。
「そういえば初日に追いかけっこをしたな。みんな全力で俺を殺しに来てたっけ……」
俺はしみじみと初日の追いかけっこのことを思い出す。
それからも俺の誕生日レクリエーションがあったり、アニメの鑑賞会があったり……奏多の演奏会もしたな。
「奏多は留学、か……」
俺はふと奏多のことを思い、さみしさを感じていた。
今思えば、あの演奏会の準備の時から、奏多と過ごす時間が増えたと思う。
何かあると、奏多はいつも俺のそばにいてくれた。それが俺にとってどれだけありがたいことだったか……。俺って本当、奏多に頼ってばかりだな。
でもこれからはそれがなくなる……。
「それは少し嫌だな……」
俺は不意にそんな言葉を発していた。
それに気が付いた俺はとっさに左手で口をつぐむ。
こんなこと言っても仕方がないのにと俺はそんなわかりきったことを思い、俯いた。
でも本当はずっとそばにいてくれたら、なんて思ってしまうときもある。
……でも俺がいくらそんなことを思っても、そんなのは俺のわがままでしかない。
俺と奏多は教師と生徒。それ以上の関係を望むことは許されないのだから。
それはわかっている、でも……
「俺は奏多のこと……」
それ以上は口にできなかった。
そして俺は窓の外を見ながら考える。
「今の俺が奏多にしてあげられることって何だろう」
ぼーっと外を眺めていると、後ろから声がした。
「こんなところで何をしているのですか、先生?」
いつもと変わらない顔で俺に微笑みかける奏多の姿がそこにあった。
「奏多……。実はな、もうすぐ卒業の奏多に何かできないかなって思っててさ……って本人に相談してもだよな!」
「ふふふ。いいですよ。私のために考えてくださって、ありがとうございます」
そう言って嬉しそうに笑う奏多。そんな奏多の笑顔に、俺の心は温かくなる。
そして奏多は顎に指を添えて考えるしぐさをする。
「そうですね……では!」
それから奏多は思いついた案を俺の耳元でそっと伝える。
奏多の女の子らしい優しい香りに少しドキッとしつつ、俺は奏多の提案に耳を傾けた。
「それはいいな! やろう!!」
「ふふふ。今から楽しみです!」
そして俺は奏多と職員室へ向かった。
――みんながこれから進んでいく未来への希望とこれまでの感謝の気持ちを込めて、演奏会をしたい!
それが奏多の提案だった。
俺と奏多は演奏会に向け、準備を始めた。
衣装やどんな選曲、それから会場等の確認。
会場の確認と言っても、開催場所はこの施設内だから、俺がすることはほとんどない。
俺はただ、奏多ともう少し長くいたいとそう思っただけなのかもしれない。
今後はこうやって一緒に何かをすることは、もうなくなるのだから……。
そして俺は隣で楽しそうに話す奏多を見て、物悲しさを感じていた。
そんな俺の顔をみて、奏多は心配そうな顔をする。
「先生? どうかされたんですか? 具合でも悪いのですか?」
「いや、至って健康だよ。でも、なんだろうな。もうすぐ奏多とはこういう時間が無くなるって思うと、なんだかさみしくてな」
「もしかして……ずっとここにいてほしいって思っています?」
いつもの意地悪な顔で奏多は言った。
「……そう、かもな。たぶんずっと奏多にはそばにいてほしいと思っているよ。でも世界で活躍する奏多もみたいとも思うんだ」
そして俺の言葉を聞いた奏多は立ち上がり、俺に近づくと、そのままそっと俺の背中に手を回す。
「離れていても、気持ちはいつも先生のそばにいますよ。私は先生のことをこんなに大好きなんですから」
奏多の言葉から、まっすぐな思いが俺に伝わる。
そしてその思いに俺も素直に反応していた。
「ありがとう、奏多」
そう言って俺も奏多をそっと抱きしめた。
俺と奏多は教師と生徒だ。
だからそれ以上の関係は求めちゃいけない。
でも今は少しだけなら。
二人の間には幸せな時間が流れていた。
そのあと、俺と奏多は少し照れながら笑いあい、準備を再び始めたのだった。
それから数日後。俺は奏多の演奏会の準備を進めつつ、普段通りの生活もこなしていた。
そしてキリヤは俺と奏多の行動に何か気がついたのか、最近の奏多との関係性について聞いてきた。
「で、結局どうなの? 付き合うことになったの? 最近、二人でこそこそ何かしているよね?? ね!!」
「そういうわけでもないんだが……ま、まあ二人で何か企画しているのはほんとだよ。それで俺と奏多の関係が何かってわけではないから!!」
「ふーん。そっか。何もない、ね……」
そしてキリヤは疑うように俺を見つめ、そう言った。
「なんでそんな目をするんだよ!!」
「いや、別に……」
何か知っていそうなキリヤだが、どうやら話すつもりはなさそうだ……。
「とにかく! 楽しみにしていてくれ! もうすぐわかるから!」
「わかったよ。……ちなみにだけど。奏多が卒業したら、もう生徒と教師の関係じゃないんだし、好きにしたらいいと僕は思っているから」
「だから!!」
そう言い残し、キリヤは自室へ戻っていった。
キリヤは奏多のことが好きのはずなのに、いいのだろうか。さっきのはまるで応援しているような言い方だったけど……。
そんなことを思いつつ、俺は残っている仕事を片付けた。
俺は職員室に戻る途中、窓からの見えるグラウンドを眺め、そんなことを呟いた。
そう俺がここへきて、もうすぐ1年になる。
そしてこの1年は、本当にいろんなことがあったななんて俺はそんなことを思っていた。
初めは生徒たちともうまくいかないことが多かったし、キリヤにはかなり嫌われていたっけ。
「そういえば初日に追いかけっこをしたな。みんな全力で俺を殺しに来てたっけ……」
俺はしみじみと初日の追いかけっこのことを思い出す。
それからも俺の誕生日レクリエーションがあったり、アニメの鑑賞会があったり……奏多の演奏会もしたな。
「奏多は留学、か……」
俺はふと奏多のことを思い、さみしさを感じていた。
今思えば、あの演奏会の準備の時から、奏多と過ごす時間が増えたと思う。
何かあると、奏多はいつも俺のそばにいてくれた。それが俺にとってどれだけありがたいことだったか……。俺って本当、奏多に頼ってばかりだな。
でもこれからはそれがなくなる……。
「それは少し嫌だな……」
俺は不意にそんな言葉を発していた。
それに気が付いた俺はとっさに左手で口をつぐむ。
こんなこと言っても仕方がないのにと俺はそんなわかりきったことを思い、俯いた。
でも本当はずっとそばにいてくれたら、なんて思ってしまうときもある。
……でも俺がいくらそんなことを思っても、そんなのは俺のわがままでしかない。
俺と奏多は教師と生徒。それ以上の関係を望むことは許されないのだから。
それはわかっている、でも……
「俺は奏多のこと……」
それ以上は口にできなかった。
そして俺は窓の外を見ながら考える。
「今の俺が奏多にしてあげられることって何だろう」
ぼーっと外を眺めていると、後ろから声がした。
「こんなところで何をしているのですか、先生?」
いつもと変わらない顔で俺に微笑みかける奏多の姿がそこにあった。
「奏多……。実はな、もうすぐ卒業の奏多に何かできないかなって思っててさ……って本人に相談してもだよな!」
「ふふふ。いいですよ。私のために考えてくださって、ありがとうございます」
そう言って嬉しそうに笑う奏多。そんな奏多の笑顔に、俺の心は温かくなる。
そして奏多は顎に指を添えて考えるしぐさをする。
「そうですね……では!」
それから奏多は思いついた案を俺の耳元でそっと伝える。
奏多の女の子らしい優しい香りに少しドキッとしつつ、俺は奏多の提案に耳を傾けた。
「それはいいな! やろう!!」
「ふふふ。今から楽しみです!」
そして俺は奏多と職員室へ向かった。
――みんながこれから進んでいく未来への希望とこれまでの感謝の気持ちを込めて、演奏会をしたい!
それが奏多の提案だった。
俺と奏多は演奏会に向け、準備を始めた。
衣装やどんな選曲、それから会場等の確認。
会場の確認と言っても、開催場所はこの施設内だから、俺がすることはほとんどない。
俺はただ、奏多ともう少し長くいたいとそう思っただけなのかもしれない。
今後はこうやって一緒に何かをすることは、もうなくなるのだから……。
そして俺は隣で楽しそうに話す奏多を見て、物悲しさを感じていた。
そんな俺の顔をみて、奏多は心配そうな顔をする。
「先生? どうかされたんですか? 具合でも悪いのですか?」
「いや、至って健康だよ。でも、なんだろうな。もうすぐ奏多とはこういう時間が無くなるって思うと、なんだかさみしくてな」
「もしかして……ずっとここにいてほしいって思っています?」
いつもの意地悪な顔で奏多は言った。
「……そう、かもな。たぶんずっと奏多にはそばにいてほしいと思っているよ。でも世界で活躍する奏多もみたいとも思うんだ」
そして俺の言葉を聞いた奏多は立ち上がり、俺に近づくと、そのままそっと俺の背中に手を回す。
「離れていても、気持ちはいつも先生のそばにいますよ。私は先生のことをこんなに大好きなんですから」
奏多の言葉から、まっすぐな思いが俺に伝わる。
そしてその思いに俺も素直に反応していた。
「ありがとう、奏多」
そう言って俺も奏多をそっと抱きしめた。
俺と奏多は教師と生徒だ。
だからそれ以上の関係は求めちゃいけない。
でも今は少しだけなら。
二人の間には幸せな時間が流れていた。
そのあと、俺と奏多は少し照れながら笑いあい、準備を再び始めたのだった。
それから数日後。俺は奏多の演奏会の準備を進めつつ、普段通りの生活もこなしていた。
そしてキリヤは俺と奏多の行動に何か気がついたのか、最近の奏多との関係性について聞いてきた。
「で、結局どうなの? 付き合うことになったの? 最近、二人でこそこそ何かしているよね?? ね!!」
「そういうわけでもないんだが……ま、まあ二人で何か企画しているのはほんとだよ。それで俺と奏多の関係が何かってわけではないから!!」
「ふーん。そっか。何もない、ね……」
そしてキリヤは疑うように俺を見つめ、そう言った。
「なんでそんな目をするんだよ!!」
「いや、別に……」
何か知っていそうなキリヤだが、どうやら話すつもりはなさそうだ……。
「とにかく! 楽しみにしていてくれ! もうすぐわかるから!」
「わかったよ。……ちなみにだけど。奏多が卒業したら、もう生徒と教師の関係じゃないんだし、好きにしたらいいと僕は思っているから」
「だから!!」
そう言い残し、キリヤは自室へ戻っていった。
キリヤは奏多のことが好きのはずなのに、いいのだろうか。さっきのはまるで応援しているような言い方だったけど……。
そんなことを思いつつ、俺は残っている仕事を片付けた。
応援ありがとうございます!
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