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第2章 変動

第12話ー② 新しい出会い

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 俺は優香と狂司を連れて、建物内を説明しながら回った。

「ここが教室な。それで……」

 俺たちが教室の前を歩いていると、そこへいろはとまゆおが現れる。

「お! もしかして新入り!? よろしく!!」
「あの、はじめまして……」

 いろはとまゆおはそれぞれ声を掛ける。

「はじめまして。私は糸原優香と申します。これからよろしくお願いします」
「烏丸狂司です。よろしくお願いします」

 優香は笑顔を作りながら答え、狂司は丁寧に頭を下げてから答えていた。

「優香ちゃんと狂司君ね! よろしく! アタシは速水いろはだよ! で、こっちはまゆお!」

 いろはは楽しそうに自己紹介をした後、まゆおに指を差す。

 まゆおは少々戸惑いつつ、丁寧な口調でいろはのフリに答えた。

「狭山まゆおです。よろしくお願いします」

 頑張ったまゆおの姿を見て、嬉しそうに笑ういろは。そして目線を俺の方に向けて、

「これで自己紹介も済んだね! で、センセーたちは何してたの?」

 俺たちにそう問いかける。

「二人にこの施設の中を案内していたんだ。あ、そうだ! いろは! 優香を女子の生活スペースに案内してくれないか? 俺じゃ、あそこはいけないから……」

 いろはは目を輝かせると、俺のお願いを快く請けてくれた。

「じゃあいこっか、優香ちゃん!!」

 そしていろはは楽しそうに優香を連れて、女子の生活スペースへ向かっていった。

「じゃあ俺たちは男子の生活スペースの方に行こう。まゆお、案内を頼めるか?」
「はい。僕でよければ……」

 それから俺たちはまゆおの案内で男子の生活スペースへ向かった。



 それぞれの生活スペースは、建物の上層階にある。男子は4階、女子は5階。ちなみに3階にはシアタールームと大浴場が入っている。

「俺もちゃんとここに来るのは初めてだから、なんだか新鮮だな」

 男子の生活スペースに来た俺は、開口一番そう告げる。

 俺は生徒たちが普段生活をしているこの場所に来たことがあまりない。剛が暴走した時に一度だけ来ているが、その時には見ている余裕なんてなかったからな……。

 そして自分もここで過ごした期間があるものの、自室に閉じ込められていたことからまじまじと見るのは初めてだった。

 共同スペースにはミニキッチンがあったり、冷蔵庫や電子レンジが設置してあった。そして大きなテレビもあって、ここでみんな揃ってテレビを観たりするらしい。

「すごいな!! 俺の部屋にあるテレビとは比べものにならない大きさだ! いいな……俺もこれからここでテレビを観ようかな……」

 初めて見るの光景に俺のテンションは上がりきっていた。

「狂司君の案内で来たはずなのに、先生が一番楽しそうですね」

 まゆおは微笑みながら、俺にそう言った。

 はしゃぐ俺を見て、まゆおはしょうがないなと思っていたのだろう。

 そうだ思うと、自分の行動を少し恥ずかしく思った。

 俺が子供みたいにはしゃいでどうするんだ!

 そんなことを心で叫んだ後、

「そ、そうだった! 狂司のために来たのにな! 悪い、悪い!!」

 頭をかきながらまゆおたちにそう言った。

「大丈夫ですよ。でも先生って、案外子供っぽいところもあるんですね。僕よりもずっと年上だったから、もっとクールな感じをイメージしていたんですけど……でも仲良くなれそうで安心しました!」

 そういって狂司は無邪気に笑った。

 子供っぽいって……。まあ、確かにそんな行動はしたけれども。

 でも俺も無邪気に笑う狂司を見て、想像しているよりも年相応なんだと思い、なんだか安心した。

「……狂司はそういう顔もできるんだな」
「そりゃ僕だって、まだまだ子供ですからね。確かに周りにはよく大人びているとは言われますけど」

 狂司は腰に手を当てて、そう言いながら笑っていた。

 狂司を初めて見た印象は、すごく大人びた少年だって思った。行動や言葉遣いとか、大人慣れしている様子が窺えたから。でも狂司はまだ小学生だ。普段は大人に合わせて接しているのかもしれないけれど、本当は子供らしくありたいのかもな。

 そんなことを思い、俺は狂司を見て笑った。

 それからそこへキリヤがやってきた。

「おはよう、まゆお。……あ! もしかして新しい子?」
「キリヤ君、おはよう。そうだよ。今、ここの案内をしていたんだ」
「そっか! 僕は桑島キリヤ。ここでは最年長なんだ。何かあったら、何でも相談してね」

 そういって優しく狂司に微笑むキリヤ。

「ありがとうございます。僕は烏丸狂司です。よろしくお願いします」

 狂司はしっかりとした口調でキリヤに答えた。

「ふふふ。見た目通りにすごくしっかりしてそうだ。これなら心配なさそうだね。じゃあ、僕はこれで!」

 そしてキリヤは自室に戻っていった。

「キリヤ君はここのリーダーみたいな人なんだ。とても頼りになるし、優しい人だよ。何かあったら、頼るといい」
「へえ……そうですか。もし何かあれば、そうします!」

 狂司は去っていくキリヤの背中を見ながら、そう言った。

 なんだか一瞬キリヤを……いや。俺の気のせいか……。

 それからまゆおはこれから狂司が使うことになる部屋に案内した。

「ここがこれから狂司君の使う部屋だよ」

 そこは机とベッドだけがある、シンプルな部屋。

「何もないですね」

 狂司はその部屋の正直な感想を述べる。

 確か俺が初めてここへ来た時も同じことを思ったな。

 俺はそんなことをしみじみと思い出していた。

「まあここから好きなようにカスタマイズしていってくれたらいいさ。ネット通販とかも使えるから、それで好きなものを買い足せばいい! 俺もみんなもそうしているからさ」
「ええ。わかりました」
「……そういえば。荷物が少ないみたいだけど、狂司君の他の荷物は何時頃届くのかな?」

 まゆおは手荷物の少ない狂司を見て尋ねる。

「僕、荷物はこれだけなんですよ」

 そういって持っているリュックを見せる狂司。

「そうなのか!? テレビゲームとかそういうのも持ってきてもよかったんだぞ!?」
「ゲームって……そこまでお子様でもないですよ!」

 少し不機嫌そうに答える狂司。

「そうか、そうか。それは悪かった!」

 小学生と言えば、テレビゲームが好きだろうと思い込んでいたが、実際はそんなこともないみたいだ。その認識を改めないとな……。

 でも狂司はゲームをやらないのなら、どんな趣味があるんだろう。もしかしてキリヤみたいに、植物の世話とか……? もしくは大人っぽく読書とかかな。

 いつか話してくれる日が来るといいなと、俺は狂司を見ながらそう思ったのである。



 それから俺たちは部屋に狂司を残し、二人で食堂へ向かった。

「まゆお、どうだ? 狂司とは仲良くやっていけそうか?」
「そうですね。狂司君は年齢の割に大人びているし、空気を読んで行動できそうなタイプだなと僕は思いました。問題を起こすタイプにも見えないですし、きっと彼とはうまくやっていけそうだと思います」

 まゆおは嬉しそうに狂司のことを語っていた。

 そんなまゆおを見ているとなんだか俺も嬉しくなり、微笑んでいた。

「それに今までいなかったタイプの子だから、みんなにとっても良い方に向かいそうですね」

 その話を聞くに、まゆおは狂司のことを大変気に入ったようだった。

 これから寝食を共にする新しい仲間。どんな楽しい思い出をつくっていけるのかが今から楽しみだ。
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