81 / 501
第2章 変動
第15話ー⑦ 大事件発生
しおりを挟む
その日の夕食。戻ってきた俺のもとに生徒たちが集まる。
「センセー大丈夫だった!? 手とか足とかちゃんとついてる!?」
「いろはちゃん。先生も疲れているんだから、そんなに言い寄ったら……」
生徒たちは突然いなくなった俺のことをすごく心配しているようだった。
「みんな、ありがとな。心配かけて、ごめん」
「無事に帰ってきたなら、それでいいよ。おかえり、先生」
そう言って、微笑むマリア。
「そういえば、狂司君は……」
結衣が心配そうに俺に問う。
そして俺は狂司が施設を出たことを伝えた。
「家族の都合なら仕方ないですね。もっと仲良くなりたかったので、残念です……」
まゆおはそう言って、残念そうな顔をする。
俺は今回のことに他のみんなを巻き込まない為、事実は伏せることにした。
何も知らない生徒たちは、狂司が出て行ってしまったことを残念に思っているようだった。
しかし事実を知るキリヤと優香は複雑な表情でみんなをみていたな。
二人には本当に申し訳ないと思っている。
でもこのことは施設に帰る途中に、三人で決めたことだった。
「狂司は、反政府組織の人間らしい」
俺がそう告げると、キリヤたちは少々驚いた顔をしていた。
「今回の誘拐は、政府を揺するためだったってこと……?」
「ああ、俺を人質にして、そうするつもりだったみたいだよ」
「そんな……」
驚くキリヤの隣で冷静な顔をしながら優香は口を開く。
「彼って少し普通の子とは違う感じがありましたよね。私はレクリエーションの時に思いましたが、なんだか戦い慣れしているように感じました」
「え、優香は狂司のことを気が付いていたんだ……」
「まあ、なんとなくですけど。それと烏丸君は大人の方と話すことも慣れているような、そんな印象もありましたね」
そう言って、口元に指を添える優香。
優香がそこまで狂司のことを把握していたなんて正直驚いた。
俺は狂司のことに何も気が付けなかった。だからもし俺が狂司のことに気が付けていたら、今回の事件は防げたかもしれない……。
「先生? 大丈夫?? 狂司たちに何かされた!?」
考え込む俺にキリヤは不安そうな顔で覗き込んだ。
「あ、大丈夫! ありがとうな、キリヤ。いや、優香はやっぱり優秀だなって思ってさ!」
キリヤの言葉にはっとした俺は、そう言いながら優香に笑いかけた。
「ありがとうございます、先生。……それにしても烏丸君がまさかスパイだったなんて」
「ああ、そうだな」
確かに優香が言っていたことも頷ける。
狂司は少し大人っぽい印象があったが、年上相手に対等どころかそれ以上に大人びた話し方をしていた。常に大人たちと関わっていなければ、そうはならないだろう。
それを思うと、狂司がただの生徒ではないことに気が付くきっかけはたくさんあったのに、俺はそれに気が付くことができなかったわけだ。本当に不甲斐なく思う……。
「まあでもさ、今回のことがあってわかったこともあるわけでしょ? だったら、狂司が施設に来てくれたことに意味はあったわけだよね!」
キリヤのその何気ない言葉に俺は救われたような気がした。
問題は山積みなんだから、いつまでもくよくよなんてしていられないな……。
俺はそう思ったのだった。
「ああ、そうだな。確かにキリヤの言う通りだ」
俺はキリヤの言葉に、頷きながら微笑んだ。
「それで先生? 施設に皆さんにはどうご説明をするおつもりですか? まさか烏丸君がスパイだったんだ! なんてストレートの言うわけじゃないですよね?」
真剣な顔で俺にそう問う優香。
そして俺は足を止めて、キリヤと優香の顔を見ながら答えた。
「ああ。それならもう考えてある……。今はまだ、事実は伏せておいて、いつか話す時が来たら、みんなにも話そうって思うんだ。……どうかな?」
俺の問いに、キリヤたちは顔を見合わせてから、
「「賛成」」
と答えたのだった。
それから俺たちは施設に向かった。
今はまだ真実を話す時ではない。もしかしたら、そんな時は永久に来ないかもしれない。それならそれでいいんだ。
俺は食堂にいる他の生徒たちの笑う姿を見ながら、狂司のことを自分の胸に秘める覚悟を決めたのだった。
それから俺たちはいつものように生徒たちと夕食を楽しんだ。
「センセー大丈夫だった!? 手とか足とかちゃんとついてる!?」
「いろはちゃん。先生も疲れているんだから、そんなに言い寄ったら……」
生徒たちは突然いなくなった俺のことをすごく心配しているようだった。
「みんな、ありがとな。心配かけて、ごめん」
「無事に帰ってきたなら、それでいいよ。おかえり、先生」
そう言って、微笑むマリア。
「そういえば、狂司君は……」
結衣が心配そうに俺に問う。
そして俺は狂司が施設を出たことを伝えた。
「家族の都合なら仕方ないですね。もっと仲良くなりたかったので、残念です……」
まゆおはそう言って、残念そうな顔をする。
俺は今回のことに他のみんなを巻き込まない為、事実は伏せることにした。
何も知らない生徒たちは、狂司が出て行ってしまったことを残念に思っているようだった。
しかし事実を知るキリヤと優香は複雑な表情でみんなをみていたな。
二人には本当に申し訳ないと思っている。
でもこのことは施設に帰る途中に、三人で決めたことだった。
「狂司は、反政府組織の人間らしい」
俺がそう告げると、キリヤたちは少々驚いた顔をしていた。
「今回の誘拐は、政府を揺するためだったってこと……?」
「ああ、俺を人質にして、そうするつもりだったみたいだよ」
「そんな……」
驚くキリヤの隣で冷静な顔をしながら優香は口を開く。
「彼って少し普通の子とは違う感じがありましたよね。私はレクリエーションの時に思いましたが、なんだか戦い慣れしているように感じました」
「え、優香は狂司のことを気が付いていたんだ……」
「まあ、なんとなくですけど。それと烏丸君は大人の方と話すことも慣れているような、そんな印象もありましたね」
そう言って、口元に指を添える優香。
優香がそこまで狂司のことを把握していたなんて正直驚いた。
俺は狂司のことに何も気が付けなかった。だからもし俺が狂司のことに気が付けていたら、今回の事件は防げたかもしれない……。
「先生? 大丈夫?? 狂司たちに何かされた!?」
考え込む俺にキリヤは不安そうな顔で覗き込んだ。
「あ、大丈夫! ありがとうな、キリヤ。いや、優香はやっぱり優秀だなって思ってさ!」
キリヤの言葉にはっとした俺は、そう言いながら優香に笑いかけた。
「ありがとうございます、先生。……それにしても烏丸君がまさかスパイだったなんて」
「ああ、そうだな」
確かに優香が言っていたことも頷ける。
狂司は少し大人っぽい印象があったが、年上相手に対等どころかそれ以上に大人びた話し方をしていた。常に大人たちと関わっていなければ、そうはならないだろう。
それを思うと、狂司がただの生徒ではないことに気が付くきっかけはたくさんあったのに、俺はそれに気が付くことができなかったわけだ。本当に不甲斐なく思う……。
「まあでもさ、今回のことがあってわかったこともあるわけでしょ? だったら、狂司が施設に来てくれたことに意味はあったわけだよね!」
キリヤのその何気ない言葉に俺は救われたような気がした。
問題は山積みなんだから、いつまでもくよくよなんてしていられないな……。
俺はそう思ったのだった。
「ああ、そうだな。確かにキリヤの言う通りだ」
俺はキリヤの言葉に、頷きながら微笑んだ。
「それで先生? 施設に皆さんにはどうご説明をするおつもりですか? まさか烏丸君がスパイだったんだ! なんてストレートの言うわけじゃないですよね?」
真剣な顔で俺にそう問う優香。
そして俺は足を止めて、キリヤと優香の顔を見ながら答えた。
「ああ。それならもう考えてある……。今はまだ、事実は伏せておいて、いつか話す時が来たら、みんなにも話そうって思うんだ。……どうかな?」
俺の問いに、キリヤたちは顔を見合わせてから、
「「賛成」」
と答えたのだった。
それから俺たちは施設に向かった。
今はまだ真実を話す時ではない。もしかしたら、そんな時は永久に来ないかもしれない。それならそれでいいんだ。
俺は食堂にいる他の生徒たちの笑う姿を見ながら、狂司のことを自分の胸に秘める覚悟を決めたのだった。
それから俺たちはいつものように生徒たちと夕食を楽しんだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
38
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる