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第3章 毒リンゴとお姫様

第20話ー④ 動き出す物語

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 マリアが食堂に向かう少し前のこと。

「あ、マリア!」

 僕は廊下でマリアとシロにあった。

「キリヤくん、こんばんは」

 シロはペコリとキリヤに挨拶をする。

「シロ、えらいね! ちゃんと挨拶できた」

 マリアはそう言いながら、シロに微笑みかける。

 そしてその言葉で嬉しそうに笑うシロ。

「相変わらず、二人は仲良しだね。本当の姉妹みたいだ」
「じゃあ、キリヤはシロのお兄ちゃんだね」

 そう言って、微笑むマリア。

 そんなマリアを見て、僕まで笑顔になる。

「マリアはシロが来てから、すごく毎日が楽しそうだね。そんなマリアを見ていると僕まで嬉しいよ」
「ありがとう、キリヤ。確かに毎日が楽しい。本当の妹ができたみたいで。キリヤが私を大切にしてくれる理由がわかった気がする」

 そう言って、マリアは嬉しそうに笑った。

 僕はそんなマリアの言葉を聞き、少し恥ずかしくて顔が熱くなる。

「キリヤ、顔が真っ赤。恥ずかしいの?」
「も、もう! 僕のことはいいから!!」
「ふふふ。キリヤ、かわいい」

 楽しそうなマリアの顔を見ることができて、本当によかった。

 先生に出会うまでの僕は、マリアに随分苦労を掛けたと思っている。

 あの時の僕は信頼と依存をはき違えていたから。

 そんなことを考えていると、マリアが心配そうな表情で僕を覗き込む。

「キリヤ? どうしたの?」
「いや。マリアと兄妹でよかったなって思っていただけだよ」
「そう。私もキリヤと兄妹でよかったって思ってる。ありがとう、キリヤ」
「うん。こちらこそ」

 そして僕らは微笑みあった。

 それからしばらくの間、僕はマリアと雑談を楽しんだのだった。



 マリアとの話に夢中になっていた僕は、シロの姿がないことに今更ながら気が付く。

「そういえば、シロは……?」
「本当だ……。どこに行ったんだろう? 私、ちょっと探してくる! じゃあまた!!」

 そう言ってマリアはシロを探すため、走っていってしまった。

「マリアもすっかりお姉さんだな」

 そんなマリアの姿を微笑ましく思いながら見送った僕は、自室に戻るために歩き出そうとした時、ポケットの中にあるスマホが振動していることに気が付く。

 ――着信 所長

 僕はスマホをタップして、電話に応じる。


「はい。桑島です」

『こんにちは、キリヤ君。その後、調子はどうだい?』

「はい。いつも通りですよ」

『そうか。それならよかった』

「それで、どうしたんですか? 所長から電話なんて珍しいですよね?」

『そうだね。いや、実は……キリヤ君は進路決まったのかなっと思ってね』

「進路、ですか……」


 所長はなんでいきなりそんなことを僕に尋ねるんだろう。ただ単純に僕の今後を心配してくれているだけってことなのかな。

 僕は所長の問いを聞き、そんな考えを巡らす。

『もしまだ決まっていないのなら、一度研究所でインターンシップをしてみないかと思ったわけだよ!」』
「インターンシップですか?」

 所長からのその提案に僕は顎に手を当てつつ、少し考える。

 確かに僕の進路は、まだ決まってはいない。

 そして僕は奏多のようにプロのヴァイオリニストを目指しているわけでもないし、先生のように教師に憧れていたわけでもない。

 それに僕は生涯、能力が消えることはないから外の世界での自由はない。

 不自由な今の自分に与えられている選択肢は、限りなく少ないことに僕は気が付いた。

 そう考えると一度、研究所の仕事を見てみるのもありかもしれない。

「わかりました。インターンシップに参加させてください」

 そして僕はインターンシップの参加を希望することに決めた。

『ああ、わかった。日程は追って連絡するよ』
「よろしくお願いします!」
『じゃあ、また』
「あ、あの!! ちょっと聞きたいことがあって……」
『なんだい?』

 電話を切ろうとしていた所長を静止して、僕は所長に質問した。

「実は、暁先生のことなんですが……今朝からちょっと様子が変だなって思って。何かあったんですか?」

 所長は少し沈黙をしたのち、口を開いた。

『……そうか。もし君に真相を聞く覚悟があるのなら、明日、研究所に来てくれないか? ついでにインターンシップの概要も伝えておきたいからね』

 その深刻そうな口ぶりから、先生に何かあったことは明白だった。

 覚悟があるのなら、か……。でも僕は先生の力になりたいと思っている。

 だから、もう僕の答えは決まっていた。

「行きます。その真相を教えてください!」

 そして僕は電話を切った。

 先生は一体何を抱えているのだろう。先生のために僕ができることって……

「……まずは明日。研究所で話を聞くことからだよね」

 そして僕は自室に戻った。



 電話を切る所長。そしてその前には白銀ゆめかの姿があった。

「キリヤ君はなんて言っていたんだい? 所長殿?」

 ゆめかは楽しそうに笑ってそう言った。

「インターンシップは参加するみたいだ」
「そのあとは何の話をしていたのかな?」

 ニコニコと所長に問うゆめか。

「……暁君の異変についてかな」
「キリヤ君には真実を話すつもりなのかい?」
「ああ。だってそれが君の知る未来なんだろう?」

 所長がゆめかにそう告げると、

「さて、どうだったかな」

 そう言って、ゆめかは笑ったのだった。
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