白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼

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第3章 毒リンゴとお姫様

第20話ー⑨ 動き出す物語

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 僕が医務室に着いた頃、まゆおは誰かと会話しているようだった。

 まゆお以外の喋り声が聞こえないことから、きっと電話で話しているのだろう。

 盗み聞きは趣味ではないけれど、つい聞き耳を立ててしまう。

「……ありがとう、狂司君」

 え? 今、狂司君って……なんでまゆおが狂司の連絡先を?

 いや、狂司がまゆおのスマホの番号を知っていたのかな。

 でも一体、何の話を……。

 そして僕はまゆおの電話が終わったころに、医務室に入った。



「聞きたいこと……?」

 まゆおが僕の顔をまっすぐに見つめながら、僕に問う。

「うん。『ポイズン・アップル』といろはちゃんのこと」
「なんで、それを……」
「何だっていいことだよ。ねえ、教えてよ」

 そうか。狂司は『ポイズン・アップル』のことをまゆおに話したんだ……

 でも狂司はなんでいろはが『ポイズン・アップル』被害者だってわかったんだろう。

「キリヤ君、聞いてる?」
「う、うん」

 そういうまゆおの顔はいつもは見せない真剣な顔つきをしていた。

 どうやらまゆおは僕が真実を語るまで、諦めるつもりはないみたいだ。

 今のまゆおに隠し事はできなさそうだ。変に隠せば、僕たちの関係は悪くなるかもしれない。そうなるくらいなら、真実を伝える方が最善だと僕は判断した。

「わかった、話すよ」

 そして僕は『ポイズン・アップル』と今のいろはの状況をまゆおに伝えた。

 まゆおは驚きもせずに終始、僕の話を黙って聞いている様子だった。

 やっぱり狂司から大体のことは聞いていたんだね。

「これが真実」
「いろはちゃんを救う方法はないの?」
「聞かなくてもわかっているんでしょ?」

 僕がそう告げると、まゆおは決意を込めた眼差しでいろはを見つめて、

「……僕は僕のやるべきことをやるだけだよ」

 そう答えた。

「わかった。僕も僕ができることをするよ。まゆお、一緒にいろはを救おう」
「うん」

 まゆおはそう言って頷き、僕とまゆおはその思いを確かめるように見つめ合ったのだった。



 俺が医務室に戻るとキリヤが用事を済ませて戻ってきているようだった。そしてなぜか二人は真剣な顔で見つめ合っていた。

「何かあったのか?」

 見つめ合う二人に疑問を抱いていた俺は、そう言ってキリヤたちに問う。

 そしてそんな俺にキリヤは笑顔で答えた。

「いろははきっと大丈夫って、そう話していたんだ」
「そうか……そうだな! きっといろはは大丈夫だ!」

 キリヤたちは今の状況を前向きに考えようとしている。だったら俺も俺ができることをするんだ。ここの教師として、俺にしかできないことを……

 それからしばらく俺たちはいろはの様子を伺った。



 数時間後、いろはは目を覚ます。

「んん。……あ、れ。アタシ……」

 目覚めたいろはに一番に声を掛けるまゆお。

「いろはちゃん、大丈夫!? どこか痛くない!?」

 その勢いに少し驚くいろは。

「どうしたの、まゆお!? アタシは大丈夫!! 痛いところもないよ! 心配してくれて、あんがとね」

 そのいろはの姿を見たまゆおはほっとしていた。

 そして僕自身もいろはが目覚めてくれたことにほっとしていた。

「いろは、無理はダメだからね。今日はこのままここで休んで」

 僕は真剣な顔でいろはにそう告げる。

 そしていろはは不服そうな顔をして、

「……わかった。でもそんなに大したことはないんだよ? いつものことだし」

 口をとがらせてそう答えた。

「いろはちゃん。無理はダメ! いつものことだとしても、それが積み重なって、大事になることだってあるんだから」
「……うん。わかった」

 しゅんとするいろは。

「さみしくならないように、僕がずっとここにいるから」

 まゆおはいろはに優しく答える。

「ありがとう、まゆお」

 そしていろはも笑顔で返す。

「先生。どうやら僕たちは邪魔ものみたいだね」
「ああ。そうみたいだな」

 僕と先生は視線を合わせ、医務室を出ることにした。



 そして自室に向かう廊下にて。

「キリヤ、ありがとな。いろはのことを教えてくれて」
「僕は最善のことをしただけだよ」

 キリヤはそう言って、笑った。

「そういうところにいつも助けられるんだよな」
「ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいよ」
「……キリヤは聞かないのか。今の状況。勘のいいキリヤなら、何かに気が付いているんじゃないか?」

 俺は探るようにキリヤへそう問いかけた。

「もし気が付いていたとしても、先生から教えてくれるまでは聞かないよ。僕は先生の口から真実を聞きたい。だから先生が言ってくれるまで、僕は信じて待つよ」

 キリヤは何かを察しているかのようにそう答える。

「そうか。わかった……ちゃんと解決したら、すべてを話すよ」
「うん。待ってる」

 キリヤ、ごめんな。でも……ありがとう。

 そして俺たちはそれぞれの自室に戻った。



 自室に戻った僕は少しの罪悪感を抱えていた。

 先生を信じて待つといいつつ、本当は真相を知ってしまっているということ。そして研究所の特別機動隊に協力しているということ。

 僕は先生に嘘をついている。

 ――でもこれはきっと仕方のないこと。

 僕もすべてが片付いたら、先生に真実を語ろうと思う。

 こんな気持ちをかかえたまま、前に進んでは行けないから。

「早くこの事件を解決しなくちゃ。いろはやまゆおだけじゃなく、僕自身の為にも……」
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