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第4章 過去・今・未来
第29話ー⑤ 風は吹いている
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翌朝、目を覚ました僕は顔を洗おうと自室にある洗面台に向かった。
「僕、いつの間に眠ったんだろう……それになんか身体もだるい」
嫌なことを考えたまま寝落ちしたせいもあって気分も優れず、そして体調もあまりいいとは言えなかった。
それから僕は洗面台も前に立ち、そこにある鏡に目を向けた。そしてそこに映る自分を見ると明らかに顔色は悪く、目の下にもクマがあったりととてもひどい顔をしていた。
「ひどい顔だな……」
そんなことを呟き、さらに気分が重くなる。
いつもならこんなことで何とも思わない朝なのに、今日はなんだか誰とも会いたくないと思った。
「あーあ。今日は休もう……」
それから僕は再びベッドに寝転んだ。
そしてベッドの転がっている音楽プレイヤーとヘッドホンを手に取り、音楽を再生した。するとそこから僕の耳にいつもの歌が流れ始めた。
授業の時間になっても僕は教室には向かわず、自室に籠ったまま過ごしていた。何かするでもなくずっとベッドに横たわり、ひたすらヘッドホンから流れてくる音楽聴いていた。
「なんか、おかしい……」
僕はいつものように好きな歌を聴いているはずなのに、なぜか歌の内容が全く入ってこなかった。
「音量が低いわけでもない。それなのに、なんで歌詞に込められた想いが伝わってこないんだ」
いつもなら聴いているだけでやる気が出る歌なのに、今はただ流れているだけの音になっていた。
「きっと体調が悪いせいだ。だから少し休めば、きっと元に戻るよね」
そして僕は音楽に意識を向けようとしたけれど、昨夜のキリヤの話をふと思い出した。
僕の両親が引き起こした事故で、キリヤの父親は命を落としていた。そしてまだその時のことを割り切れていないところを見ると、キリヤにとってあの事故は父親を失い、心に大きな傷を負うことになる一件だったわけだ。
そしてキリヤの母親が再婚することになったのも、あの事故で父親が亡くなったことが理由だったということ。つまりキリヤが能力者になったのは、間接的ではあるけれど僕の親が原因ということになる。
キリヤを不幸にしてしまったのは、僕たちってことだ。
それに気が付いた僕は、キリヤの未来を奪った罪悪感から胸が苦しくなる。
「こんな思いになるくらいなら、あの時に死んでいたかったな……」
そんなことを呟くと、急に音楽が聴こえなくなった。
「ちょっと! 何、不穏なこと言ってるの!」
キリヤが僕の耳からヘッドホンを取り上げていた。そして少し怒っているような顔をしていた。
「キリヤ? なんでここに……?」
僕は突然目の前に現れたキリヤに驚き、そう問いかけた。
するとキリヤは腰に手を当てて、
「なんでって……真一がなかなか教室に来ないから、心配になってきたんだよ! ノックしても返事はないし……もし真一に何かあったらって思って、それで勝手に部屋に入っちゃった……」
申し訳なさそうに笑いながらそう答えた。
≪なんでそんなこと、言うんだよ≫
「はあ。何でもないよ。ただ体調が良くなかっただけ」
僕はあきれ声でキリヤにそう言った。
「でも昨日の夜、様子がおかしかったよね? だから心配で……」
≪なんで、そんなに僕のことなんて――≫
そのキリヤの表情は本気で僕を心配しているようだった。
でも僕がキリヤに心配される資格なんてない。昨夜のキリヤが原因で暴走したとしても、それは当然の報いだからだ。
「大丈夫だから。もう放って置いてよ」
僕がキリヤに冷たく伝えると、
「放っておけないよ。真一は僕の友達だろ? 心配して当然だよ!」
キリヤは笑いながらそう答えた。
「僕はキリヤの友達なんかじゃないよ」
僕はキリヤから目をそらしながらそう言った。
「真一がどう思っていても、僕は真一の友達だと思っているよ」
キリヤは優しい声で僕にそう告げた。
≪僕の両親がキリヤの父親を……キリヤを不幸にしたのは、僕たちなんだって!!≫
「そういうの、やめてくれよ……僕は友達とか仲間とかそんなものはいらないんだって! だからもうさっさと出て行けよ!! 僕は一人がいいんだっ!!」
そして僕は自分の能力を使って、キリヤを部屋の外に吹き飛ばした。
それから「はあ」とため息を吐いた僕は、その場に両手と両ひざをついて俯いた。
「これでいいんだ。これで……真実を知ったら、きっとキリヤは僕を憎むに決まってる。だったら、そうなる前に距離を置いた方がいいんだ」
信じたくなる前に遠ざければ、僕はまた傷つかずに済む――。
僕はもう誰も信じないって決めたんだ。だから一人じゃないと、孤独じゃないとダメだ。誰かと一緒になんて、いられないよ……。
真一に追い出された僕は、しばらく真一の部屋の前で座り込んでいた。
「……真一、どうしたんだよ」
僕はそれからトボトボと教室に戻った。
教室に戻ると、一人で戻ってきた僕の元に先生が来る。
「その様子だと、うまくいかなかったんだな」
「……うん」
そして席に着いた僕は勉強を始めるが、真一のことが気がかりで勉強は手に着かず、今日のノルマは達成できなかった。
それから授業後、僕は先生と共に職員室へ。
僕は真一の過去を知るために、政府がまとめた真一のデータを見ることにした。
「ほら」
先生はそう言いながら、引き出しの中にある真一の個人データの記載された資料を僕に差し出す。
「先生はこれを読んだことあるの?」
僕は受け取りながら、先生にそんなことを問う。
「前にも言ったが、俺は簡単なプロフィール欄しか読んでいない。だから真一の過去のことは俺も一切知らない」
「そうなんだ……」
確かにそんなことを言っていたよね。先生らしいっちゃ、らしいけど。
でも僕は知りたい。真一のことをもっと……。
「ここに記されていることが真実かどうかなんて、本人にしかわからないからな!」
先生は腕を組みながら、笑顔でそう告げた。
「そう、だね……」
先生の言う事も一理ある。だからこれにはデマが書いてある可能性も捨てきれないわけだ。だけど僕は少しでも真一のことを知ることができるのなら、これは読む価値のあるものだと思う。
そして僕は受け取った資料を黙って見つめた。
「そこに何が書かれているとしても、キリヤはこれを読むって決めたんだろう? どう思うかはキリヤの自由だ。でも本当の真実は本人しかわからない。そのことだけは忘れないでくれ」
「うん。わかった」
それから僕は先生から受け取ったその資料を読み始める。
するとそこには驚きの内容が記されていた。
「13年前のあの事故に、真一も関わっていたんだ……」
そういえば昨日の夜、僕はあの事故でお父さんが亡くなったことをまゆおに話していた。僕がまゆおに話した後、真一が立っていることに気が付いたけど、たぶんもっと前から真一はその場にいて、その時の話を聞いていたはずだ。
もしかして真一はその事故のことを気にして、僕を友達なんかじゃないって……。
「先生、真一は僕のせいで部屋から出てこられないんだ。13年前の事故が原因で……」
先生は僕の言葉に少し驚いた顔をした。
「え、事故って……もしかしてキリヤの父さんが亡くなったっていう、あの事故のことか?」
「うん」
「でも、なんで……」
そう言って先生は首をかしげていた。
僕は不思議そうな顔をする先生に、データを読んでたどり着いた自分の答えを告げる。
「ここの記述では、真一の両親が事故を起こしたってある。だから真一は両親の起こした事故が原因で、僕の父さんの命を奪ってしまったことに罪悪感を抱いているんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど……」
確かにあの事故は悲しかった。僕にとって、今でも忘れられないほどの出来事となている。
でもだからって、僕は事故を起こしてしまった真一の両親のことも、ましてや一人だけ生き残ったという真一のことも恨んでなんかいない。
「僕、真一の部屋に行ってくる!」
そう言って、僕は職員室を飛び出した。
僕はちゃんと伝えなくちゃいけない。あの事故は起こるべくして起こってしまったこと。そして真一が罪悪感を抱く必要なんかないってことを……。
「僕、いつの間に眠ったんだろう……それになんか身体もだるい」
嫌なことを考えたまま寝落ちしたせいもあって気分も優れず、そして体調もあまりいいとは言えなかった。
それから僕は洗面台も前に立ち、そこにある鏡に目を向けた。そしてそこに映る自分を見ると明らかに顔色は悪く、目の下にもクマがあったりととてもひどい顔をしていた。
「ひどい顔だな……」
そんなことを呟き、さらに気分が重くなる。
いつもならこんなことで何とも思わない朝なのに、今日はなんだか誰とも会いたくないと思った。
「あーあ。今日は休もう……」
それから僕は再びベッドに寝転んだ。
そしてベッドの転がっている音楽プレイヤーとヘッドホンを手に取り、音楽を再生した。するとそこから僕の耳にいつもの歌が流れ始めた。
授業の時間になっても僕は教室には向かわず、自室に籠ったまま過ごしていた。何かするでもなくずっとベッドに横たわり、ひたすらヘッドホンから流れてくる音楽聴いていた。
「なんか、おかしい……」
僕はいつものように好きな歌を聴いているはずなのに、なぜか歌の内容が全く入ってこなかった。
「音量が低いわけでもない。それなのに、なんで歌詞に込められた想いが伝わってこないんだ」
いつもなら聴いているだけでやる気が出る歌なのに、今はただ流れているだけの音になっていた。
「きっと体調が悪いせいだ。だから少し休めば、きっと元に戻るよね」
そして僕は音楽に意識を向けようとしたけれど、昨夜のキリヤの話をふと思い出した。
僕の両親が引き起こした事故で、キリヤの父親は命を落としていた。そしてまだその時のことを割り切れていないところを見ると、キリヤにとってあの事故は父親を失い、心に大きな傷を負うことになる一件だったわけだ。
そしてキリヤの母親が再婚することになったのも、あの事故で父親が亡くなったことが理由だったということ。つまりキリヤが能力者になったのは、間接的ではあるけれど僕の親が原因ということになる。
キリヤを不幸にしてしまったのは、僕たちってことだ。
それに気が付いた僕は、キリヤの未来を奪った罪悪感から胸が苦しくなる。
「こんな思いになるくらいなら、あの時に死んでいたかったな……」
そんなことを呟くと、急に音楽が聴こえなくなった。
「ちょっと! 何、不穏なこと言ってるの!」
キリヤが僕の耳からヘッドホンを取り上げていた。そして少し怒っているような顔をしていた。
「キリヤ? なんでここに……?」
僕は突然目の前に現れたキリヤに驚き、そう問いかけた。
するとキリヤは腰に手を当てて、
「なんでって……真一がなかなか教室に来ないから、心配になってきたんだよ! ノックしても返事はないし……もし真一に何かあったらって思って、それで勝手に部屋に入っちゃった……」
申し訳なさそうに笑いながらそう答えた。
≪なんでそんなこと、言うんだよ≫
「はあ。何でもないよ。ただ体調が良くなかっただけ」
僕はあきれ声でキリヤにそう言った。
「でも昨日の夜、様子がおかしかったよね? だから心配で……」
≪なんで、そんなに僕のことなんて――≫
そのキリヤの表情は本気で僕を心配しているようだった。
でも僕がキリヤに心配される資格なんてない。昨夜のキリヤが原因で暴走したとしても、それは当然の報いだからだ。
「大丈夫だから。もう放って置いてよ」
僕がキリヤに冷たく伝えると、
「放っておけないよ。真一は僕の友達だろ? 心配して当然だよ!」
キリヤは笑いながらそう答えた。
「僕はキリヤの友達なんかじゃないよ」
僕はキリヤから目をそらしながらそう言った。
「真一がどう思っていても、僕は真一の友達だと思っているよ」
キリヤは優しい声で僕にそう告げた。
≪僕の両親がキリヤの父親を……キリヤを不幸にしたのは、僕たちなんだって!!≫
「そういうの、やめてくれよ……僕は友達とか仲間とかそんなものはいらないんだって! だからもうさっさと出て行けよ!! 僕は一人がいいんだっ!!」
そして僕は自分の能力を使って、キリヤを部屋の外に吹き飛ばした。
それから「はあ」とため息を吐いた僕は、その場に両手と両ひざをついて俯いた。
「これでいいんだ。これで……真実を知ったら、きっとキリヤは僕を憎むに決まってる。だったら、そうなる前に距離を置いた方がいいんだ」
信じたくなる前に遠ざければ、僕はまた傷つかずに済む――。
僕はもう誰も信じないって決めたんだ。だから一人じゃないと、孤独じゃないとダメだ。誰かと一緒になんて、いられないよ……。
真一に追い出された僕は、しばらく真一の部屋の前で座り込んでいた。
「……真一、どうしたんだよ」
僕はそれからトボトボと教室に戻った。
教室に戻ると、一人で戻ってきた僕の元に先生が来る。
「その様子だと、うまくいかなかったんだな」
「……うん」
そして席に着いた僕は勉強を始めるが、真一のことが気がかりで勉強は手に着かず、今日のノルマは達成できなかった。
それから授業後、僕は先生と共に職員室へ。
僕は真一の過去を知るために、政府がまとめた真一のデータを見ることにした。
「ほら」
先生はそう言いながら、引き出しの中にある真一の個人データの記載された資料を僕に差し出す。
「先生はこれを読んだことあるの?」
僕は受け取りながら、先生にそんなことを問う。
「前にも言ったが、俺は簡単なプロフィール欄しか読んでいない。だから真一の過去のことは俺も一切知らない」
「そうなんだ……」
確かにそんなことを言っていたよね。先生らしいっちゃ、らしいけど。
でも僕は知りたい。真一のことをもっと……。
「ここに記されていることが真実かどうかなんて、本人にしかわからないからな!」
先生は腕を組みながら、笑顔でそう告げた。
「そう、だね……」
先生の言う事も一理ある。だからこれにはデマが書いてある可能性も捨てきれないわけだ。だけど僕は少しでも真一のことを知ることができるのなら、これは読む価値のあるものだと思う。
そして僕は受け取った資料を黙って見つめた。
「そこに何が書かれているとしても、キリヤはこれを読むって決めたんだろう? どう思うかはキリヤの自由だ。でも本当の真実は本人しかわからない。そのことだけは忘れないでくれ」
「うん。わかった」
それから僕は先生から受け取ったその資料を読み始める。
するとそこには驚きの内容が記されていた。
「13年前のあの事故に、真一も関わっていたんだ……」
そういえば昨日の夜、僕はあの事故でお父さんが亡くなったことをまゆおに話していた。僕がまゆおに話した後、真一が立っていることに気が付いたけど、たぶんもっと前から真一はその場にいて、その時の話を聞いていたはずだ。
もしかして真一はその事故のことを気にして、僕を友達なんかじゃないって……。
「先生、真一は僕のせいで部屋から出てこられないんだ。13年前の事故が原因で……」
先生は僕の言葉に少し驚いた顔をした。
「え、事故って……もしかしてキリヤの父さんが亡くなったっていう、あの事故のことか?」
「うん」
「でも、なんで……」
そう言って先生は首をかしげていた。
僕は不思議そうな顔をする先生に、データを読んでたどり着いた自分の答えを告げる。
「ここの記述では、真一の両親が事故を起こしたってある。だから真一は両親の起こした事故が原因で、僕の父さんの命を奪ってしまったことに罪悪感を抱いているんじゃないかと思ったんだ」
「なるほど……」
確かにあの事故は悲しかった。僕にとって、今でも忘れられないほどの出来事となている。
でもだからって、僕は事故を起こしてしまった真一の両親のことも、ましてや一人だけ生き残ったという真一のことも恨んでなんかいない。
「僕、真一の部屋に行ってくる!」
そう言って、僕は職員室を飛び出した。
僕はちゃんと伝えなくちゃいけない。あの事故は起こるべくして起こってしまったこと。そして真一が罪悪感を抱く必要なんかないってことを……。
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