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第4章 過去・今・未来
第29話ー⑥ 風は吹いている
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職員室を飛び出した僕は、真一の部屋の前までやってきた。
「どうやってこの扉をあけようか……」
そう呟きながら、目の前にある簡単には開かない扉をどうするか考えを巡らせた。
さっきみたいに扉に鍵がかかっていなければいいけど、きっと真一のことだから今度は鍵を閉めているに違いない。
「そうだ……能力をうまく使えば、開けられるかも」
そして僕は床に手を当てて、植物の能力を発動した。
床から伸びた蔦は扉の隙間を通り、閉められていた鍵を開ける。
「よし」
そして僕は扉を開けて、部屋の中へ入った。それから僕はその部屋の中を見渡すと、さっきと同様に音楽を聴いている真一を見つけた。
きっとさっきみたいに僕が部屋に入ってきたことなんて気が付いていないんだろうね。
そんなことを思いつつ、僕は真一が寝転ぶベッドに近づき、先ほどと同じように真一のヘッドホンを取り上げた。
「ちょっといい?」
その僕の声を聞いた真一はとても不機嫌そうな表情をしていた。
「出て行ってよ。キリヤと話すことなんて何もない!」
真一は声を荒げながら、そう言った。
「真一がなくても、僕はある! 13年前の事故のこと」
僕のその言葉を聞いた真一は一瞬だけ目を見開き、それから冷静な口調で、
「……知ったんだね、あの事故のこと」
俯きながら小さな声でそう言った。
13年前の12月25日。この日は家族で一日遅れのマリアの誕生日パーティとクリスマスパーティをする予定だった。
空の雲行きは怪しく、今日は天気予報で雪が降ることが発表されていた。
「お父さん、今日は何時に帰ってくるの?」
出掛けのお父さんに、僕はいつもと同じその問いを投げかけた。
「そうだな。今日はマリアの誕生日パーティ兼クリスマスパーティだしな……仕事が終わったら、急いで帰るよ」
そう言ってお父さんは僕の頭を撫でながら微笑んだ。
「うん、待ってるからね! 絶対、絶対早く帰ってきてよ!」
僕がそう言うと、
「ああ! バイクをすっ飛ばして帰ってくるから、楽しみに待ってろよ!」
お父さんは笑顔でそう答えた。
この時の僕は、まさかもうこの笑顔を見ることがなくなるなんて思ってもみなかったんだ……。
そしてその日の昼過ぎから天気予報で言っていた通り、外は雪がちらつき始めた。
僕は幼稚園の帰り道に降ってきた雪を見て、テンションが上がっていた。
「わあ! 雪だー!! お母さん、今日はホワイトクリスマスになるね!」
僕はそう言いながら、空に両手を広げる。
「うふふ、そうね。そういえばマリアが生まれた日も雪が降っていて、一面が銀世界できれいだったなあ」
お母さんは昔のことを思い出しながら、微笑んでいた。
「そうだったんだ! きっとマリアは雪の神様に好かれているんだね!!」
僕はお母さんの背中でスヤスヤと眠るマリアにそう言った。
「うふふ。そうかもしれないわね」
それから僕たちは雪道を楽しく歩き、家路についた。
「雪、強くなってきたね……」
帰宅した僕は窓の外を眺めながら、お母さんにそう言った。
「そうね。お父さん、大丈夫かしら……。バイクだし、転倒事故を起こしたりしなければいいけれど」
お母さんは窓の外を見ながら、お父さんのことを心配していた。
そしてお母さんの心配は、最悪の結果で現実となることに――。
僕たちが帰宅してから数時間後。僕の家に突然、一本の電話が入った。
「え……そんな」
「お母さん、どうしたの?」
悲しそうな顔をするお母さんが心配で、僕はそう尋ねた。
「あのね、キリヤ。お父さんが……」
それは帰宅途中だったお父さんが車と衝突して、そのまま帰らぬ人となったという警察からの知らせだった。
「あの日は猛吹雪だったんだ。だからあの事故は仕方がなかったんだよ。真一の両親が起こしたくて起こした事故じゃないんだ」
「……」
真一は何も言わず、ただ黙って座っていた。
「真一?」
「……そう、だったんだ」
「うん。だから真一が僕に罪悪感を覚えることはないよ。それに真一だって、あの事故の被害者だろう。だったら、真一が悪いなんてことはない。それに真一の両親だって」
僕がそう告げると、真一は両手で拳を作り、それを膝に乗せて強く握りしめた。
「でも、それが真実だったとしても……周りは」
僕は真一の言葉を遮って、
「周りが何を言おうが、僕たちの思いは僕たちにしかわからないんだ。だから何も知らない人たちの言うことなんて、気にすることはないよ!」
そう言いながら真一の顔を覗き込んだ。
すると真一は強く握りしめていた拳をほどき、両手を布団につけて天井を見つめた。
「はあ……そうだね。僕は何に怯えていたんだろう。僕は本当にそうなるかどうかなんてわかりもしない妄想に捕らわれていたのかもしれない」
真一はいつものクールな口調でそう言った。
「ああ。でもよかったー。真一が何ともなくて……。もう本当に心配したんだからね」
僕はいつもの雰囲気に戻った真一にホッと胸を撫でおろした。
「相変わらず心配性すぎ。……まあそれがキリヤのいいところなんだと思うけど」
「そ、そうかな!」
「でも僕のことは心配しなくてもいいよ。僕は一人でも生きていけるから」
少しくらいは真一の心を開くことができたかななんて思っていたけど、結局いつも通りか。
そんなことを思いつつ、僕はため息交じりに答える。
「またそんなことを……」
「これが僕だから。僕は僕の道を進んでいくだけ」
熱くも冷たくもない、いつもの無関心な態度でそう答える真一。
「……いつか仲間とか友情とかを熱く語る真一も見てみたいけど」
「それは一生ないから」
「即答!? もう少し悩んでくれても……まあいっか。いつもの真一なら、僕はそれでいいよ」
そして僕は真一の部屋を出た。
真一がなぜ一人にこだわるのかはわからなかったけど、でもこれで事故のことを悩むこともなくなるんじゃないかと僕は思った。
「夕食まで時間もあるし、マリアとテレビでも観ようかな」
そして僕は、自室へと向かったのだった。
「どうやってこの扉をあけようか……」
そう呟きながら、目の前にある簡単には開かない扉をどうするか考えを巡らせた。
さっきみたいに扉に鍵がかかっていなければいいけど、きっと真一のことだから今度は鍵を閉めているに違いない。
「そうだ……能力をうまく使えば、開けられるかも」
そして僕は床に手を当てて、植物の能力を発動した。
床から伸びた蔦は扉の隙間を通り、閉められていた鍵を開ける。
「よし」
そして僕は扉を開けて、部屋の中へ入った。それから僕はその部屋の中を見渡すと、さっきと同様に音楽を聴いている真一を見つけた。
きっとさっきみたいに僕が部屋に入ってきたことなんて気が付いていないんだろうね。
そんなことを思いつつ、僕は真一が寝転ぶベッドに近づき、先ほどと同じように真一のヘッドホンを取り上げた。
「ちょっといい?」
その僕の声を聞いた真一はとても不機嫌そうな表情をしていた。
「出て行ってよ。キリヤと話すことなんて何もない!」
真一は声を荒げながら、そう言った。
「真一がなくても、僕はある! 13年前の事故のこと」
僕のその言葉を聞いた真一は一瞬だけ目を見開き、それから冷静な口調で、
「……知ったんだね、あの事故のこと」
俯きながら小さな声でそう言った。
13年前の12月25日。この日は家族で一日遅れのマリアの誕生日パーティとクリスマスパーティをする予定だった。
空の雲行きは怪しく、今日は天気予報で雪が降ることが発表されていた。
「お父さん、今日は何時に帰ってくるの?」
出掛けのお父さんに、僕はいつもと同じその問いを投げかけた。
「そうだな。今日はマリアの誕生日パーティ兼クリスマスパーティだしな……仕事が終わったら、急いで帰るよ」
そう言ってお父さんは僕の頭を撫でながら微笑んだ。
「うん、待ってるからね! 絶対、絶対早く帰ってきてよ!」
僕がそう言うと、
「ああ! バイクをすっ飛ばして帰ってくるから、楽しみに待ってろよ!」
お父さんは笑顔でそう答えた。
この時の僕は、まさかもうこの笑顔を見ることがなくなるなんて思ってもみなかったんだ……。
そしてその日の昼過ぎから天気予報で言っていた通り、外は雪がちらつき始めた。
僕は幼稚園の帰り道に降ってきた雪を見て、テンションが上がっていた。
「わあ! 雪だー!! お母さん、今日はホワイトクリスマスになるね!」
僕はそう言いながら、空に両手を広げる。
「うふふ、そうね。そういえばマリアが生まれた日も雪が降っていて、一面が銀世界できれいだったなあ」
お母さんは昔のことを思い出しながら、微笑んでいた。
「そうだったんだ! きっとマリアは雪の神様に好かれているんだね!!」
僕はお母さんの背中でスヤスヤと眠るマリアにそう言った。
「うふふ。そうかもしれないわね」
それから僕たちは雪道を楽しく歩き、家路についた。
「雪、強くなってきたね……」
帰宅した僕は窓の外を眺めながら、お母さんにそう言った。
「そうね。お父さん、大丈夫かしら……。バイクだし、転倒事故を起こしたりしなければいいけれど」
お母さんは窓の外を見ながら、お父さんのことを心配していた。
そしてお母さんの心配は、最悪の結果で現実となることに――。
僕たちが帰宅してから数時間後。僕の家に突然、一本の電話が入った。
「え……そんな」
「お母さん、どうしたの?」
悲しそうな顔をするお母さんが心配で、僕はそう尋ねた。
「あのね、キリヤ。お父さんが……」
それは帰宅途中だったお父さんが車と衝突して、そのまま帰らぬ人となったという警察からの知らせだった。
「あの日は猛吹雪だったんだ。だからあの事故は仕方がなかったんだよ。真一の両親が起こしたくて起こした事故じゃないんだ」
「……」
真一は何も言わず、ただ黙って座っていた。
「真一?」
「……そう、だったんだ」
「うん。だから真一が僕に罪悪感を覚えることはないよ。それに真一だって、あの事故の被害者だろう。だったら、真一が悪いなんてことはない。それに真一の両親だって」
僕がそう告げると、真一は両手で拳を作り、それを膝に乗せて強く握りしめた。
「でも、それが真実だったとしても……周りは」
僕は真一の言葉を遮って、
「周りが何を言おうが、僕たちの思いは僕たちにしかわからないんだ。だから何も知らない人たちの言うことなんて、気にすることはないよ!」
そう言いながら真一の顔を覗き込んだ。
すると真一は強く握りしめていた拳をほどき、両手を布団につけて天井を見つめた。
「はあ……そうだね。僕は何に怯えていたんだろう。僕は本当にそうなるかどうかなんてわかりもしない妄想に捕らわれていたのかもしれない」
真一はいつものクールな口調でそう言った。
「ああ。でもよかったー。真一が何ともなくて……。もう本当に心配したんだからね」
僕はいつもの雰囲気に戻った真一にホッと胸を撫でおろした。
「相変わらず心配性すぎ。……まあそれがキリヤのいいところなんだと思うけど」
「そ、そうかな!」
「でも僕のことは心配しなくてもいいよ。僕は一人でも生きていけるから」
少しくらいは真一の心を開くことができたかななんて思っていたけど、結局いつも通りか。
そんなことを思いつつ、僕はため息交じりに答える。
「またそんなことを……」
「これが僕だから。僕は僕の道を進んでいくだけ」
熱くも冷たくもない、いつもの無関心な態度でそう答える真一。
「……いつか仲間とか友情とかを熱く語る真一も見てみたいけど」
「それは一生ないから」
「即答!? もう少し悩んでくれても……まあいっか。いつもの真一なら、僕はそれでいいよ」
そして僕は真一の部屋を出た。
真一がなぜ一人にこだわるのかはわからなかったけど、でもこれで事故のことを悩むこともなくなるんじゃないかと僕は思った。
「夕食まで時間もあるし、マリアとテレビでも観ようかな」
そして僕は、自室へと向かったのだった。
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