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第5章 新しい出会い
第35話ー① 七夕
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マリアの能力が消失してから、2か月。すっかり梅雨の季節になっていた。
たまに見える晴れ間に、もうすぐ夏なんだと思いつつも連日の雨で暁や生徒たちの気分は少々下がり気味になっていた。
「もうすぐ夏がくるんだな」
暁は教室の窓から外を眺めながらそう言った。
「そんな雨続きの空を見ながら言われてもねぇ。全然説得力がないですよ、先生?」
暁の独り言に、凛子が笑いながら反応する。
「わかってるさ! でもたまに晴れ間が見えるだろう? そういう時に、もうすぐ夏だなって思う日が増えたなって言う独り言であって……」
「人の上げ足ばっかり取って、ほんっとにお前は心の狭いやつだな」
しおんは暁と凛子の会話を聞き、凛子に挑発するようにそう言った。
「私はただ自分の意見を言っただけなんですけどね☆ そっちこそ、人の上げ足とってないで、ギターの練習でもしたらどうですか?」
「はあ、やんのか!!」
凛子の言葉に声を荒げて立ち上がるしおん。
「ええ、いいですよお。この間の続きでもしましょうか? 今度こそ、粉々にしてあげます☆」
いがみ合うしおんと凛子。
「ちょ、お前ら!」
暁が二人を見ておろおろとしていると、織姫はそんなことはどうでもいいと言った感じで暁たちを見向きもせずに立ち上がると教室を出て行った。
織姫のその一連の動きの速さに、全員が目を丸くしていた。
そして静まる教室。
それから話の腰を折られたしおんと凛子は黙って着席して、黙々とノルマに取り組むのだった。
「織姫は今日も相変わらずか……」
暁は織姫が出て行った扉を見つめて、そんなことを呟いた。
暁は織姫が自分を敵視するだけではなく、クラスになじむ様子もないことを案じていた。
やはりこの施設に連れてこられたことをよく思っていないのかもしれないな。ここに来たばかりの頃は、みんな大体同じことを思うのがほとんどだし。
せっかく出会えたなら、俺はもっと織姫と仲良くなりたいし、ここでの生活を楽しんでもらいたいな――と暁はそう考えていた。
「どうしたら、織姫はここでの暮らしを楽しむことができるんだろうな……」
暁はそう呟いて、授業が終わるまでの間、織姫のことをずっと考えていた。
教室を出た織姫は、自室に戻っていた。
自室の椅子に座り、ぼーっとしている織姫。
「このまま能力がなくなるまで、私は適当に過ごせばいいんだ」
織姫は寂しそうな顔でそんなことを呟く。
ここに来てから3か月。私は未だにクラスになじめていない。でもどうせ私のことなんて誰も相手にしないだろうし、私から皆さんに寄っていく勇気もない――。
「私はここでも孤独で、誰の目にも映らないのですね……。でもそれでいいの。ずっとそうだったんだもの」
自分が傷つくくらいなら、いっそのこと孤独で良い――織姫はそう思いながら、ベッドに寝転んだ。
そして織姫はベッドで寝転んでいると、部屋にある壁掛けのカレンダーが目に入る。
「もうすぐ私の誕生日ですか……」
7月7日は織姫がこの世に生を受けた記念日。そして七夕……。
カレンダーを見る織姫の目が鋭くなる。
織姫は七夕が大嫌いだった。名前負けしている自分に落胆し、みじめに思ってしまうから。
「なんで織姫なんて名前……」
約14年前の7月7日、織姫は本星崎の家に生まれた。
家はとても裕福でお金に困ることもなかった織姫は、何不自由なく暮らしていた。
唯一何かあるとすれば、両親は共働きで忙しく、ほとんど家には帰ってこなかったことだった。
しかし両親が家にいなくとも、織姫の世話は家に使えるお手伝いさんがしていたため、織姫が生活に困ることはなかった。
「お嬢様、今度は何をして遊びますか?」「お嬢様、何が食べたいですか?」
「お嬢様……」
織姫の周りにはたくさんのお手伝いさんが常にいて、織姫がほしいものは何でも手に入り、食べたいものはすぐに用意された。
織姫は十分、幸せ者のはずだった……でも――。
「明日の授業参観はお父さんとお母さんと一緒にやりますからね! 楽しみにしていてください!」
帰りの会の時に先生は教壇に立ちながら、教室にいる児童たちにそう告げる。
「はーい!」「家のお父さんも明日が楽しみだって言ってた!」「家のお父さんもね――」
先生の話を聞いた児童達は、そう言って翌日の授業参観に心を躍らせているようだった。
そんな教室での声を聞きながら、織姫は机に肘をついて、窓の外を見つめていた。そして悲し気な表情で、
「お父さんとお母さんか……」
誰にも聞こえない小さな声でそんなことを呟いていた。
織姫は家に着くと、ベテランお手伝いの神谷に尋ねる。
「明日の授業参観って、父様と母様は来られるの?」
神谷は少し困った顔をしながら、織姫の肩に手をのせて告げた。
「難しいでしょうね……。ですから私が、ご主人様たちの代わりに織姫お嬢様の授業参観に参ることになっております」
「そう、なんだ……。やっぱり父様も母様も無理なんだね」
「そんなに気を落とさないでください。私がご主人様たちの分まで、お嬢様と一緒に楽しみますから」
そう言って、神谷は織姫に微笑んだ。
「ありがとう」
織姫は神谷にそう告げて、とぼとぼと自分の部屋に戻っていった。
部屋に入った織姫は、そのままベッドに倒れこんだ。
「……仕事なら、仕方ないよね」
それから織姫はしばらくベッドに顔を伏せたままでいた。
会社を経営する両親は仕事人間で、織姫の物心がついたときにはもう両親は織姫の傍にはいなかった。
淋しい……。もっとそばにいたい――。
織姫は両親に対して、内心そう思っていたけれど、その気持ちを誰にも告げられずにいた。この気持ちを伝えてしまうと、両親が困らせてしまうような気がしたからだ。
二人のそんな顔はみたくない……。眼中になくてもいいから、私のことを嫌わないでいてほしい――織姫はいつしか両親に対してそう思うようになっていた。
そしてそんなある日のこと。織姫の従妹である神宮寺奏多が、織姫の家を訪れた。
たまに見える晴れ間に、もうすぐ夏なんだと思いつつも連日の雨で暁や生徒たちの気分は少々下がり気味になっていた。
「もうすぐ夏がくるんだな」
暁は教室の窓から外を眺めながらそう言った。
「そんな雨続きの空を見ながら言われてもねぇ。全然説得力がないですよ、先生?」
暁の独り言に、凛子が笑いながら反応する。
「わかってるさ! でもたまに晴れ間が見えるだろう? そういう時に、もうすぐ夏だなって思う日が増えたなって言う独り言であって……」
「人の上げ足ばっかり取って、ほんっとにお前は心の狭いやつだな」
しおんは暁と凛子の会話を聞き、凛子に挑発するようにそう言った。
「私はただ自分の意見を言っただけなんですけどね☆ そっちこそ、人の上げ足とってないで、ギターの練習でもしたらどうですか?」
「はあ、やんのか!!」
凛子の言葉に声を荒げて立ち上がるしおん。
「ええ、いいですよお。この間の続きでもしましょうか? 今度こそ、粉々にしてあげます☆」
いがみ合うしおんと凛子。
「ちょ、お前ら!」
暁が二人を見ておろおろとしていると、織姫はそんなことはどうでもいいと言った感じで暁たちを見向きもせずに立ち上がると教室を出て行った。
織姫のその一連の動きの速さに、全員が目を丸くしていた。
そして静まる教室。
それから話の腰を折られたしおんと凛子は黙って着席して、黙々とノルマに取り組むのだった。
「織姫は今日も相変わらずか……」
暁は織姫が出て行った扉を見つめて、そんなことを呟いた。
暁は織姫が自分を敵視するだけではなく、クラスになじむ様子もないことを案じていた。
やはりこの施設に連れてこられたことをよく思っていないのかもしれないな。ここに来たばかりの頃は、みんな大体同じことを思うのがほとんどだし。
せっかく出会えたなら、俺はもっと織姫と仲良くなりたいし、ここでの生活を楽しんでもらいたいな――と暁はそう考えていた。
「どうしたら、織姫はここでの暮らしを楽しむことができるんだろうな……」
暁はそう呟いて、授業が終わるまでの間、織姫のことをずっと考えていた。
教室を出た織姫は、自室に戻っていた。
自室の椅子に座り、ぼーっとしている織姫。
「このまま能力がなくなるまで、私は適当に過ごせばいいんだ」
織姫は寂しそうな顔でそんなことを呟く。
ここに来てから3か月。私は未だにクラスになじめていない。でもどうせ私のことなんて誰も相手にしないだろうし、私から皆さんに寄っていく勇気もない――。
「私はここでも孤独で、誰の目にも映らないのですね……。でもそれでいいの。ずっとそうだったんだもの」
自分が傷つくくらいなら、いっそのこと孤独で良い――織姫はそう思いながら、ベッドに寝転んだ。
そして織姫はベッドで寝転んでいると、部屋にある壁掛けのカレンダーが目に入る。
「もうすぐ私の誕生日ですか……」
7月7日は織姫がこの世に生を受けた記念日。そして七夕……。
カレンダーを見る織姫の目が鋭くなる。
織姫は七夕が大嫌いだった。名前負けしている自分に落胆し、みじめに思ってしまうから。
「なんで織姫なんて名前……」
約14年前の7月7日、織姫は本星崎の家に生まれた。
家はとても裕福でお金に困ることもなかった織姫は、何不自由なく暮らしていた。
唯一何かあるとすれば、両親は共働きで忙しく、ほとんど家には帰ってこなかったことだった。
しかし両親が家にいなくとも、織姫の世話は家に使えるお手伝いさんがしていたため、織姫が生活に困ることはなかった。
「お嬢様、今度は何をして遊びますか?」「お嬢様、何が食べたいですか?」
「お嬢様……」
織姫の周りにはたくさんのお手伝いさんが常にいて、織姫がほしいものは何でも手に入り、食べたいものはすぐに用意された。
織姫は十分、幸せ者のはずだった……でも――。
「明日の授業参観はお父さんとお母さんと一緒にやりますからね! 楽しみにしていてください!」
帰りの会の時に先生は教壇に立ちながら、教室にいる児童たちにそう告げる。
「はーい!」「家のお父さんも明日が楽しみだって言ってた!」「家のお父さんもね――」
先生の話を聞いた児童達は、そう言って翌日の授業参観に心を躍らせているようだった。
そんな教室での声を聞きながら、織姫は机に肘をついて、窓の外を見つめていた。そして悲し気な表情で、
「お父さんとお母さんか……」
誰にも聞こえない小さな声でそんなことを呟いていた。
織姫は家に着くと、ベテランお手伝いの神谷に尋ねる。
「明日の授業参観って、父様と母様は来られるの?」
神谷は少し困った顔をしながら、織姫の肩に手をのせて告げた。
「難しいでしょうね……。ですから私が、ご主人様たちの代わりに織姫お嬢様の授業参観に参ることになっております」
「そう、なんだ……。やっぱり父様も母様も無理なんだね」
「そんなに気を落とさないでください。私がご主人様たちの分まで、お嬢様と一緒に楽しみますから」
そう言って、神谷は織姫に微笑んだ。
「ありがとう」
織姫は神谷にそう告げて、とぼとぼと自分の部屋に戻っていった。
部屋に入った織姫は、そのままベッドに倒れこんだ。
「……仕事なら、仕方ないよね」
それから織姫はしばらくベッドに顔を伏せたままでいた。
会社を経営する両親は仕事人間で、織姫の物心がついたときにはもう両親は織姫の傍にはいなかった。
淋しい……。もっとそばにいたい――。
織姫は両親に対して、内心そう思っていたけれど、その気持ちを誰にも告げられずにいた。この気持ちを伝えてしまうと、両親が困らせてしまうような気がしたからだ。
二人のそんな顔はみたくない……。眼中になくてもいいから、私のことを嫌わないでいてほしい――織姫はいつしか両親に対してそう思うようになっていた。
そしてそんなある日のこと。織姫の従妹である神宮寺奏多が、織姫の家を訪れた。
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