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第6章 家族

第44話ー③ 変わらない関係

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 食堂内。中央テーブルに武雄が一人で座っていた。

「お待たせ」

 そう言いながら、まゆおは武雄の元へと戻った。

「先生とは話せたか?」

 そう言って、まゆおに微笑む武雄。

「うん……」

 まゆおはそんな武雄に苦笑いで返した。

 それからまゆおは武雄の正面の椅子に座る。

「それで、大事な話って……」
「そうだったな! ……実はさ、父さんたちが行方不明なんだ。それでまゆおなら何か知っているかなってそう思ってさ」
「え!? 一緒に暮らしているんじゃないの?」

 まゆおは驚いて目を見開きながら、そう武雄に言った。

「俺は数年前に家を出たんだよ。それでそれっきりで……この間、久しぶりに実家へ戻ったら、もうそこに家はなくってさ」
「そんな……」
「その様子じゃ、まゆおも知らないみたいだな……」

 しゅんとする武雄。

「僕も探すの手伝うよ!」

 まゆおは武雄の顔をまっすぐに見て、そう答えた。

 そしてそんなまゆおの顔を見た武雄は、万遍の笑みを浮かべて、

「ありがとう」

 そう言ったのだった。


「兄さんは父さんたちを探すために、わざわざここまで……。ごめんね、兄さん。僕、兄さんが何か企んでここへ来たんじゃないかって疑ってた。でも違ったんだね……」

「昔のこともあったし、仕方ないさ! ……それでまゆお。俺のことは許してくれるのか……? 昔、ひどいことをしてしまった俺のことを」

「……許すよ。もちろん。それに、ひどいことをしたのは僕も同じ。兄さんたちにあんなことを……」


 まゆおは俯く。

「いいんだ。もういいんだよ。俺も父さんたちももうまゆおのことは恨んでない。だから、まゆお。これからは仲よくしよう。俺はちゃんとまゆおと家族でありたいんだ」
「兄さん……」

 その言葉にまゆおは目に涙を浮かべる。

「まゆおは、俺のかわいい弟だからな!」

 そう言って、まゆおに笑いかける武雄。

「ありがとう、兄さん。……そうだ! せっかく来てくれたのに、お茶の一つも出さなくてごめんね。今、用意するからちょっと待ってて」

 そう言って立ち上がるまゆお。

「おう」

 それを笑顔で見つめる武雄。


 ――しかし、その笑顔はとても不気味なものだった。


 まゆおはキッチンスペースに向かって歩いていく途中で、背後に殺気を感じた。

 まゆおが振り返ると、まゆおの真後ろには鎌のように手の先を尖らせて、それをまゆおに振り降ろそうとする武雄の姿があった。

「う……」

 それを間一髪で避けたまゆおだったが、頬には切り傷ができていた。

「はあ、よけられたか……ちゃんと剣道の練習はしているみたいだな。あんなことがあったのに、まだ剣道を続けているなんて、意外だったけど」
「兄さん……これは何のつもりなの」

 まゆおは息をのみ、武雄にそう問いかける。

「何って……わかるだろ? まゆおを殺そうとしただけだよ」
「え……」

 その言葉に動揺するまゆお。


「まさか本気で仲直りなんてできるとか思った? 無理無理無理無理ぃ! ここでまゆおを殺さないと俺の気が収まるわけがないだろう??」

「僕を、殺す……?」

「ああ。そうだ! その為に俺はこの力をもらったんだ。このの力を!!」


 武雄はそう言って、先ほど鎌になった手を不敵な笑みで見つめた。

「この力があれば、俺はまゆおにだって負けない! 俺はまゆおを殺すために家族と普通の人生を捨てたんだからなあ!」

 聞き覚えのある言葉に、はっとするまゆお。

「え、毒リンゴってまさか……」
「もしかしてまゆおも知ってんのか? ま、そんなことどうでもいいか……。どうせ、お前はここで死ぬんだからな」

 そう言いながら、不気味な笑顔をまゆおに向ける武雄。

「おかしいと思ったんだ……。先生のことを知っていたり、急にここへ一人でくるなんて」
「今更気が付いても遅いんだよ! 俺をここに入れた時点でもうお前の未来は決まったんだからな!! じゃあとりあえず死んでくれ、まゆお?」

 兄はそう言って、再び手の先を尖らせるとまゆおに向かって襲い掛かる。

 白雪姫症候群スノーホワイト・シンドロームの力の源は、感情の強さと心の在り方。

 そして憎悪の感情を力の源としている武雄は、まゆおに攻撃するごとに力が増し、その攻撃の速さが増していった。

 攻撃の手段を持たないまゆおは武雄からの攻撃をよけることが精一杯だった。

「いつまでそうしていられるかな!!」
「兄さん! こんなことしても何もならないよ! このままじゃ、兄さんの身体は!!」

 まゆおは武雄へ必死にそう呼びかけるが、兄にその言葉な届くことはなかった。

「俺はまゆおを殺せたらそれでいいんだ! 俺の人生はもうとっくに終わってんだよ!!」
「そんな――」

 まゆおがひるんだその一瞬に、武雄は思いっきり鎌を振る。

 そしてまゆおはその攻撃をよけたものの、足がもつれて尻もちをつく。

 武雄はそんなまゆおの喉元に、尖らせた指先を向けた。

「これで終わりだな、まゆお」

 そして息を飲む、まゆお。

 僕はここまでなのか――。

 まゆおがそう思った時、まゆおの脳裏にいろはの姿がよぎる。

『――絶対にまた会おうね!』

 そう言って別れ際に微笑むいろはの顔を思い出したまゆお。

「僕は生きるなくちゃいけない。またいろはちゃんに会うために!!」

 そしてまゆおは朝の出来事で偶然テーブルの下に落ちていたフォークを手に取り、のど元に突き付けられた武雄の手をそのフォークで払った。

「くそっ!! さっさと死んでいればよかったのに――」

 そう言いながら、俯く武雄。

「僕は約束したんだよ。またいろはちゃんと会うって。だからこんなところでは死ねない!」
「ちっ……殺してやる殺してやる殺してやる!」

 そして武雄の力の増強を察したまゆお。その姿を見たまゆおは息を飲み、構えの姿勢取った。

 武雄は両手を鎌の形にして、

「死ねえええええ!」

 そう言ってまゆおに振り降ろしていく。

 まゆおは、次々に振り降ろされるその鎌をフォーク一本で全て防いでいった。

「いつまでそうしていられるかなあああ!」

 手を振り降ろすたびに憎悪の感情が膨らんでいく武雄。そして攻撃の速さも増していった。

 次々と攻撃を繰り出す武雄に、まゆおは徐々に焦りを感じ始める。

 ――このままじゃ、もう。

 まゆおがそう思った時、武雄の動きが急に止まった。

「はあ、はあ。兄、さん……?」

 まゆおは覗き込むように武雄に問うと、武雄は何も答えずその場に倒れた。

「兄さん!」

 そしてまゆおは武雄のそばに寄り、その身体を起こす。

「兄さん? 武雄兄さん!! ねえ! 返事をしてよ!!」

 しかしまゆおがどれだけ声を掛けても武雄から返事が返ってくることはなかった。

「もしかして、暴走して心が崩壊したんじゃ……」

 そんな不安を抱いたまゆおは、

「先生を呼んで来なくちゃ」

 そう言って職員室へと向かったのだった。
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