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第6章 家族

第45話ー③ 少女たちの出会いの物語

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「ど、どこにいくの?」

 そう言われた結衣は足を止め、

「はて。私はどこに行こうとしたんでしょうか」

 唖然としながらそう言うと、さっきまで不安そうな顔をしていたマリアは笑顔になっていた。

「え、なんで笑うのですか!!」
「結衣ちゃん、おもしろい。こっちきて!」

 そう言って、今度はマリアが結衣の腕を掴んで走り出した。

「えっと、ここは?」

 シアタールームと書かれた扉の前に結衣達はいた。

「この時間なら、ここに誰も来ない」

 そう言って結衣たちはシアタールームの中へ。

「なんか悪いことしてるみたい」

 マリアはそう言って笑っていた。

「よかった」
「え?」

 マリアはきょとんとして、結衣の顔を見つめた。

「だってマリアちゃん、ずっと不安そうな顔をしていたから!」

 そう言うと、マリアは俯き、結衣の隣に座った。


「また私、何にもできなかったなって思って。私のせいでキリヤがどんどん冷たくなっていく気がするの……それが悲しくて」

「ああいうことってよくあるんですか?」

「……たまに。先生が私達に何かしようとしているのを見つけるたびに、ああやって先生にひどいことをするの」


 なるほど。だから他のクラスメイト達は動じないのですね――。

 クラスの雰囲気をなんとなく悟った結衣はそう思いつつ、小さく頷いた。

「びっくりしたよね、ごめんね」

 そう言って、また不安そうな顔をするマリア。

「あはは。確かにびっくりしましたが、マリアちゃんと話すきっかけになったので万事OKです!」

 そう言って結衣は指で丸を作って、マリアに笑いかけた。

 そして結衣のその顔を見たマリアも笑顔になった。

「結衣ちゃ……結衣。これからお友達になろう。結衣と一緒だと、なんだか落ち着くの」
「もちろんです! 私もずっとお友達になりたいと思っておりましたので!!」

 それから結衣とマリアは一緒に過ごすようになったのだった――。



「――とまあ、こんな感じですね! 涙腺崩壊案件でしたでしょ?」
「涙腺崩壊とまではいかないが、2人が仲良くなったのはそんなきっかけがあったんだな」
「ふふふ」

 それからも結衣は、マリアとの思い出を暁に語った。喧嘩した時のことやお互いの誕生日を祝いあった事。悲しいときは二人で支え合って乗り越えたこと。

 その話を聞いて、暁は自分の知らない2人を見た気がしていた。


「この話をしたことはマリアちゃんには内緒ですぞ! たぶんこういう話をしたって言うと、マリアちゃんは恥ずかしいって言いながら怒りますからね」

「ははは! それはそれで見てみたいと思うけどな!」

「卒業までは喧嘩なくいきたいので、やめてくだされ!」


 そう言って口を尖らせる結衣。そしてその顔は少し寂しさを含んでいた。

 たぶん、マリアとの別れが寂しいのだろう。ずっと同じ時を過ごしてきた親友で家族。別れが寂しくないはずがないよな――。

「わかったよ! 残りの時間は大切にな!」

 暁がそう言って結衣に微笑むと、

「はいなのです!」

 そう言って結衣も笑顔で暁に返した。



 それから結衣と別れた暁は職員室に戻った。

「マリアと結衣にあんな思い出があったなんてな。親友っていいな」

 そう言いながら、暁は職員室に机に荷物を下ろす。

 そしてスマホを手に取ると、たくやからチャットが届いていた。

『暁! 元気でやってるか!! この間、中学の同窓会があって、暁の話をしたら、みんな会いたがってたぞ! また帰ってくるときは連絡くれよな!』
「たくや……」

 暁はそのチャットに嬉しくなって、すぐに返信した。

『必ず連絡するよ! ありがとう、たくや!』

 そしてスマホを机に置き、PCを起動する。

「よし! 報告書やるか!」

 友人からの連絡で元気をもらった暁は、また会うその日まで頑張ろうと誓ったのだった。
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