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第6章 家族

第45.5話ー① 素直じゃない ~暁のいない2日間~

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 今回のお話は、暁が地元に帰省していた2日間で起きた出来事。



 食堂。今日も生徒たちはいつもように朝食を楽しんでいた。

「へっぽこギタリスト君は食べる量もへっぽこなのねぇ」
「はあ!? 俺の本気はこんなもんじゃねぇ! 見てろよ、不人気アイドル!!」

 凛子の挑発に乗ったしおんは、茶碗に白米をたくさん盛り付けるとそれを勢いよく食べ始めた。

「はあ。馬鹿なの……」

 そんなしおんを横目に、真一はため息交じりにそう言った。

「先生もいないんだし、みんな仲良くしないとダメだからね!」

 まゆおはしおんと凛子の前に立ち、そう言った。

「出たよ、まゆおのいい子ちゃん」

 真一がぼそっと呟く。

「僕は先生からみんなのことを頼まれているんだ。だからこの2日間は問題なく終えたいだけだよ」

 まゆおが真一にそう言うと真一はため息をついて、

「そう。じゃあ頑張って」

 そう言って立ち上がり食器を片付けて、食堂を出て行った。

「ちょっと! 真一君! ……本当にわかったのかな」
「まゆお、気張りすぎても疲れるだけ。いつも通りでいいんだよ」

 マリアはそう言ってまゆおに微笑む。

「あ、はい。桑島さん、ありがとうございます!」
「でもこの光景もいつも通りと言えばいつも通りですな」
「ふふ。確かに」

 そう言って微笑みあうマリアと結衣。そんな2人の隣で黙々と朝食を摂る織姫。

「本星崎さんは、いつも対応が落ち着いているよね」

 まゆおは織姫にそう声を掛けた。

「そうでしょうか」

 織姫は首をかしげながら、そう言った。

「確かにそうですな! さすがは奏多殿の親戚! 佇まいがいつも美しいのですよ!」
「うんうん」
「あ、ありがとう……」

 織姫は照れながらそう言った。

「くそっ! アイドル、てめぇ!!」

 織姫たちの和やかな空気をしおんの大声が遮った。

「ああ、また……」

 そう言ってまゆおはしおんたちの前に戻った。



 ――織姫の自室にて。

 食事を終えた織姫はマリアと結衣と別れてから、自室に戻っていた。

「あの野蛮人がいないだけで、なんだかいつもと違う朝に感じたわね」

 そんなことを言いながら、織姫はいつもの暁の行動を思い出す。

 そう言えば、毎朝私が食べている隣にやってきて、毎回どうでもいい話をしていたな。『今日は何をするんだ』とか『今日のから揚げはいつもと違うぞ』とか。思い返せば、思い返すほどばかばかしい話ばかりね――そう思いつつ、心がモヤつく織姫。

「べ、別に寂しいわけじゃ!!」

 って私、誰に言っているんだろう――。

「はあ。もう何なのよ……」

 織姫はため息をつき、それから何をするでもなくその日を終えたのだった。

 そして翌日の食堂。今朝も昨日と同じように賑やかな朝食だった。凛子としおんが喧嘩をして、それをまゆおが仲裁。そんなまゆおに茶々を入れる真一。そしてそれを見守るマリアと結衣。

 それはいつもと変わらない日常なのに、やはり何かが足りないと寂しく思う織姫。

「はあ」
「ため息なんて、どうしたんです? 織姫ちゃん?」

 結衣は心配そうに織姫に尋ねた。

「え、私……ため息なんてついていました?」

 結衣に言われた言葉に、きょとんとする織姫。

「うん。結構深めのね」
「そうですか……」

 マリアさんが言うから間違いないと織姫はそう思い、また小さなため息を吐く。

「何かあった?」

 マリアは心配そうな表情をして、織姫の顔を覗き込む。

「いえ、ただ何か足りないものがある気がして」

(それが何なのか私にもわからないけれど……)

「足りないもの……?」

 そう言って結衣は首をかしげていた。

「なんだろうね」
「まあ、きっとわからないってことは気のせいかもしれません。お気になさらず」
「そう? だったらいいけど」
「あ、マリアちゃん! そう言えば先生は今日お戻りになるんでしたっけ?」

 結衣の言った言葉にドキッとする織姫。

(え、今のは……?)

「そう。夕食くらいには戻るって言っていたかな」
「そうでしたか!」
「何かあるの?」
「いえ、先生が貸してほしいと言っていた漫画を読み終えたので、渡してあげようかなと思って!」
「へえ」

 マリアたちの何気ない会話の中で出る、『先生』というワードに反応する織姫。そして同時に胸が熱くなるのを感じていた。

(この感覚って何……?)

 そう思いながら、織姫は俯いた。

「織姫? 下向いてどうしたの?」

 マリアは俯く織姫を心配そうに見つめてそう言った。

「いえ、何でもないです」

 それから織姫は食器を片付けて、食堂の出口に向かう。

「織姫??」

 マリアの声を背中で聞きながら、織姫は何も言わず食堂を出て行った。
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