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第7章 それぞれのサイカイ

第57話 歩き出す彼ら

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 みぞれが降り注ぐ施設のグラウンド。

 それを静かに窓から見つめる真一。

「もしかしてあの木の下に行けないのが寂しいのか?」

 しおんはそう言いながら、真一の隣にやってきた。

「……寂しいわけじゃない。でもあの木の下でゆっくりと音楽を聴いていないとうずうずするっていうか」
「へえ。あそこって真一にとってはパワースポットみたいなもんなのな」

 しおんはそう言いながら、真一が見ている木の方を見つめた。

「まあそんな感じ」
「でもここを出たら、もうあの木の下にはいけないわけだろう? だったら、今のうちに慣れておくのもありなのかもな」
「そう、だね。代わりの場所が必要みたいだ」
「代わりならあるだろう?」

 しおんはそう言って、ニコッと微笑む。

 そんなしおんを見て、真一は首をかしげた。そして――

「もしかして、俺の隣だ! とかそんなこと言おうとしてない?」

 あきれ顔でそう告げる。

「おお、さすが真一! 大正解!!」
「やっぱり……」

 ため息交じりにそう言う真一。

「なんだよ! もっと喜べよな!!」
「あー、はいはい」
「微妙に傷つくな……」

 それからしおんは、

「まあ、でもさ! 真一はもう1人じゃないって言ったろ? これからあの木の下で1人になる必要はない。俺がお前の隣で、お前の大好きな音楽を一緒に楽しむんだからさ!」

 満面の笑みで真一にそう言った。

「……まあ、そうだね。確かに今の僕にはもうあの場所は必要なのかも。しおんがいてくれるのならさ」

 真一はそう言って「ふっ」と笑い、窓から離れた。

「ああ、おい! どこ行くんだ?」
「練習。だってそのために来たんでしょ」

 それを聞いたしおんは笑顔になり、急いで真一の隣へ向かって歩いた。

「待ってって!! なあ、それで今度の新曲だけどさ……」
「それもいいけど、あの曲ももっと詰めたい」

 そう言いながら、楽しそうに並んで歩く真一としおんだった。


 * * *


 親戚たちから蔑まれて育った僕が、誰かと一緒に何かをやるだなんて、とても考えられなかった。

 幼い頃の僕は、1人でも生きられることを証明して、親戚を見返してやる。そして復讐してやるってことばかり考えていた。

 でも今は違う。隣にいてくれる存在がいて、そして大好きな音楽モノがある。

 一度は諦めそうになった夢。

 僕はまた、その夢に向かって歩き出すんだ――!


 * * *


 しおんの自室にて――。

「しおん、またそこのリフで躓くの? もっと簡単なものにしてもいいけど??」
「大丈夫だって! 必ずものにしてやっからさ!!」
「そう。わかった。その言葉を信じるよ」
「おう! 任せとけって!!」



 それぞれの『サイカイ』がきっかけとなり、彼らはまた歩み始めたのかもしれない。
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