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第8章 猫と娘と生徒たち
第59話ー② 僕の一歩
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――職員室。暁は授業の報告書をまとめていた。
そして暁はふと先ほどの手紙のことを思い出していた。
「まさか、いろはからの手紙だなんてな。ってことは、もしかしてキリヤはいろはに会ったのか? まあでもまゆおはきっと今頃、嬉しそうにあの手紙を読んでいるんだろうな」
そんなことを呟きながら、暁は報告書を進めていた。
すると職員室の扉が突然開き、その扉の前にはまゆおの姿があった。
「まゆお? どうしたんだ、いきなり? いろはの手紙に何か書いてあったのか??」
まゆおは何も言わず、そのまま暁に歩み寄る。そして暁の目の前に立ち、
「先生! 先生は僕の父さんの連絡先を知っていますよね? 父さんと……話がしたいんです」
まっすぐに暁の目を見て、そう言った。
い、いきなりどうしたんだ? それに――
「なぜ、俺が連絡先を知っていると思ったんだ?」
暁はゆっくりとまゆおにそう尋ねる。
「兄さんのことがあったから、です。あれから兄さんの状況が僕の方に伝わらないのは、たぶん僕以外の家族とやり取りをしているからじゃないかと思いました」
「ほう……」
まゆおのいう通りで、まゆおの兄の武雄のことは研究所からまゆおの父親へ直接連絡をすることになっていた。
研究の進捗や武雄の状態などの個人に関わることは暁に直接伝わることはないが、父親の連絡先くらいなら知ろうと思えば、暁も知ることができる立場にあった。
「兄さんからは父さんたちが行方不明だって聞いていたけれど、それも僕の警戒心を解くための嘘、だったんだろうなって」
そう言って俯くまゆお。
まゆおは兄さんにそんなことを言われていたのか――。
「先生、お願いします! 僕、どうしても父さんと会って話したいんです!!」
まっすぐなまゆおの目を見た暁は、
「……わかった」
静かにそう言って、頷いた。
「ありがとうございます、先生!!」
そう言って微笑むまゆお。
まゆおは本気なんだな。それと、逃げずに父親と向き合うって決めたのか――
そんなことを思い、暁は少し口角を上げて、まゆおを見つめた。
しかし暁はまゆおの過去のデータを思い出し、まゆおと家族との面会を単純に済ませていいものではないと思った。
またまゆおが傷つくことになるかもしれない。それは、避けたい――そんなことを思い、暁はまゆおにとある条件を持ちかける。
「会って話すのはいい。でも、条件がある!」
「え、条件……?」
「ああ。まず一つ。直接の連絡は俺が取るということ。もう一つは親父さんと会話をしていいのはこの施設限定だ。そして、その話し合いに俺も立ち会う。その三つの条件をのむなら、いいぞ」
暁は優しい笑顔でまゆおにそう告げる。
そして何かを察したまゆおは暗い表情になり、
「先生は、僕の過去を……」
そう呟いた。
データは読まないって、まゆおたちにはそう言ったのにな――
「ああ、ごめんな。生徒たちのデータを読まないと決めていたんだが、やっぱり一度は目を通すべきだって思って」
暁は申し訳なさそうにそう言った。
すると、まゆおは笑顔を作り、
「いいえ。良いんです。いつかは知られることでしたから」
優しい声でそう答えた。
「ありがとう。……でももっと早くにまゆおの過去を知っていれば、兄さんとのことも何とかできたんじゃないかって、俺はすごく後悔してるんだ」
そう、俺がもしもまゆおと兄の関係を知っていたら、あの時2人きりになんてしなかった。だから――
「先生が後悔することじゃないです。あれは僕が悪かったんですから」
まゆおは暁を安心させようとしているのか、笑顔でそう言っていた。
「まゆお……。でも、やっぱり俺が近くで見守っていたら状況は違ったはずだ。だから――!」
「心配、してくれていたんですね。嬉しいです」
まゆおはそう言って微笑んだ。
「え……」
「先生がそうやって心配してくれるから、僕はまだここにいられるのかもしれません。だから自分を責めないでください。その想いだけで、僕は嬉しいです」
俺は生徒たちの抱える問題に何もしてやれないことで不甲斐なさを感じていたけれど、今の俺にしてやれることは抱える問題を解決することじゃなかったんだな――。
そんなことを思い、今まで自分が何とかしなくちゃいけないと思っていたことが恥ずかしくなる暁。
今の俺がやるべきことは、まゆおや生徒たちが自分で困難を乗り越えられると信じて、見守ることなのかもしれない。だって解決するだけの力をまゆおも他の生徒たちも持っているんだから――そう思った暁だった。
「自分の力で前に進もうとしていたんだな。まゆおも……」
暁はまゆおから顔を背け、自分だけに聞える小さな声でそう呟いた。
「先生?」
「ああ、ごめんな。えっと……やっぱり俺は、まゆおのことを心配してやることしかできない。結局、根本的な問題を解決するのはまゆお自身でしかないからな」
暁は笑顔でそう言った。
「はい。だから僕は、父さんと話そうって思ったんです。あの時のことを謝りたい。そして父さんたちにちゃんと恩返しをしたいって思ったから」
「そうなんだな」
今回のことはまゆおなりにちゃんと考えて、出した答えだったんだな――
「それに、父さんとの話し合うことが僕の力を消すためには、必要な出来事だと思っています!」
「……そうか。もう逃げないんだな、まゆお」
「はい、逃げません。僕はここを出て、またいろはちゃんに会わないといけませんから」
そう言って微笑むまゆお。
「そうか……じゃあ俺は、その手伝いをしないとだな!」
「ふふ、ありがとうございます!」
それからまゆおは笑顔で職員室を後にした。
「あのまゆおが……そうか」
暁は施設に来たばかりの頃のまゆおの姿をふと思い出していた。
初めてのレクリエーションで、震えたまま一人だけその場から動けなかったまゆおが、今は自分の過去に蹴りをつけようと前を向いている。
本当に強くなったな――と暁はそう思いながら微笑んだ。
「そういえば、さっきのあの条件……」
俺がまゆおを傷つかないためにと提案した条件だったけど――
「見守るだけとは言ったが、これは最低限の配慮だってことで」
それから暁はまゆおの父親へ連絡を入れ、1週間後にまゆおの父親が施設へ訪れることとなったのだった。
そして暁はふと先ほどの手紙のことを思い出していた。
「まさか、いろはからの手紙だなんてな。ってことは、もしかしてキリヤはいろはに会ったのか? まあでもまゆおはきっと今頃、嬉しそうにあの手紙を読んでいるんだろうな」
そんなことを呟きながら、暁は報告書を進めていた。
すると職員室の扉が突然開き、その扉の前にはまゆおの姿があった。
「まゆお? どうしたんだ、いきなり? いろはの手紙に何か書いてあったのか??」
まゆおは何も言わず、そのまま暁に歩み寄る。そして暁の目の前に立ち、
「先生! 先生は僕の父さんの連絡先を知っていますよね? 父さんと……話がしたいんです」
まっすぐに暁の目を見て、そう言った。
い、いきなりどうしたんだ? それに――
「なぜ、俺が連絡先を知っていると思ったんだ?」
暁はゆっくりとまゆおにそう尋ねる。
「兄さんのことがあったから、です。あれから兄さんの状況が僕の方に伝わらないのは、たぶん僕以外の家族とやり取りをしているからじゃないかと思いました」
「ほう……」
まゆおのいう通りで、まゆおの兄の武雄のことは研究所からまゆおの父親へ直接連絡をすることになっていた。
研究の進捗や武雄の状態などの個人に関わることは暁に直接伝わることはないが、父親の連絡先くらいなら知ろうと思えば、暁も知ることができる立場にあった。
「兄さんからは父さんたちが行方不明だって聞いていたけれど、それも僕の警戒心を解くための嘘、だったんだろうなって」
そう言って俯くまゆお。
まゆおは兄さんにそんなことを言われていたのか――。
「先生、お願いします! 僕、どうしても父さんと会って話したいんです!!」
まっすぐなまゆおの目を見た暁は、
「……わかった」
静かにそう言って、頷いた。
「ありがとうございます、先生!!」
そう言って微笑むまゆお。
まゆおは本気なんだな。それと、逃げずに父親と向き合うって決めたのか――
そんなことを思い、暁は少し口角を上げて、まゆおを見つめた。
しかし暁はまゆおの過去のデータを思い出し、まゆおと家族との面会を単純に済ませていいものではないと思った。
またまゆおが傷つくことになるかもしれない。それは、避けたい――そんなことを思い、暁はまゆおにとある条件を持ちかける。
「会って話すのはいい。でも、条件がある!」
「え、条件……?」
「ああ。まず一つ。直接の連絡は俺が取るということ。もう一つは親父さんと会話をしていいのはこの施設限定だ。そして、その話し合いに俺も立ち会う。その三つの条件をのむなら、いいぞ」
暁は優しい笑顔でまゆおにそう告げる。
そして何かを察したまゆおは暗い表情になり、
「先生は、僕の過去を……」
そう呟いた。
データは読まないって、まゆおたちにはそう言ったのにな――
「ああ、ごめんな。生徒たちのデータを読まないと決めていたんだが、やっぱり一度は目を通すべきだって思って」
暁は申し訳なさそうにそう言った。
すると、まゆおは笑顔を作り、
「いいえ。良いんです。いつかは知られることでしたから」
優しい声でそう答えた。
「ありがとう。……でももっと早くにまゆおの過去を知っていれば、兄さんとのことも何とかできたんじゃないかって、俺はすごく後悔してるんだ」
そう、俺がもしもまゆおと兄の関係を知っていたら、あの時2人きりになんてしなかった。だから――
「先生が後悔することじゃないです。あれは僕が悪かったんですから」
まゆおは暁を安心させようとしているのか、笑顔でそう言っていた。
「まゆお……。でも、やっぱり俺が近くで見守っていたら状況は違ったはずだ。だから――!」
「心配、してくれていたんですね。嬉しいです」
まゆおはそう言って微笑んだ。
「え……」
「先生がそうやって心配してくれるから、僕はまだここにいられるのかもしれません。だから自分を責めないでください。その想いだけで、僕は嬉しいです」
俺は生徒たちの抱える問題に何もしてやれないことで不甲斐なさを感じていたけれど、今の俺にしてやれることは抱える問題を解決することじゃなかったんだな――。
そんなことを思い、今まで自分が何とかしなくちゃいけないと思っていたことが恥ずかしくなる暁。
今の俺がやるべきことは、まゆおや生徒たちが自分で困難を乗り越えられると信じて、見守ることなのかもしれない。だって解決するだけの力をまゆおも他の生徒たちも持っているんだから――そう思った暁だった。
「自分の力で前に進もうとしていたんだな。まゆおも……」
暁はまゆおから顔を背け、自分だけに聞える小さな声でそう呟いた。
「先生?」
「ああ、ごめんな。えっと……やっぱり俺は、まゆおのことを心配してやることしかできない。結局、根本的な問題を解決するのはまゆお自身でしかないからな」
暁は笑顔でそう言った。
「はい。だから僕は、父さんと話そうって思ったんです。あの時のことを謝りたい。そして父さんたちにちゃんと恩返しをしたいって思ったから」
「そうなんだな」
今回のことはまゆおなりにちゃんと考えて、出した答えだったんだな――
「それに、父さんとの話し合うことが僕の力を消すためには、必要な出来事だと思っています!」
「……そうか。もう逃げないんだな、まゆお」
「はい、逃げません。僕はここを出て、またいろはちゃんに会わないといけませんから」
そう言って微笑むまゆお。
「そうか……じゃあ俺は、その手伝いをしないとだな!」
「ふふ、ありがとうございます!」
それからまゆおは笑顔で職員室を後にした。
「あのまゆおが……そうか」
暁は施設に来たばかりの頃のまゆおの姿をふと思い出していた。
初めてのレクリエーションで、震えたまま一人だけその場から動けなかったまゆおが、今は自分の過去に蹴りをつけようと前を向いている。
本当に強くなったな――と暁はそう思いながら微笑んだ。
「そういえば、さっきのあの条件……」
俺がまゆおを傷つかないためにと提案した条件だったけど――
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