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第8章 猫と娘と生徒たち

第63話ー① 夢に向かう者たち

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 冬の寒さがすっかりとなくなり、桜のつぼみが膨らみ始めた頃。

 今年度卒業する生徒たちの卒業の日が近づいていた。

「またさみしくなるな……」

 そんなことを呟きながら、教室を見渡す暁。

「毎年のことですが、先生も相変わらずですなあ」

 そう言って笑う結衣。

「だってさ……本当のことなんだから仕方がないだろう? それに、結衣もまゆおも真一も……俺がここに来たときからここにいたから、長い付き合いになるわけだし……」

 肩を落としながらそう言う暁。

「そういえば、僕たち3人の方がここでの生活は先輩でしたね!」
「確かにそうですな!」

 笑いながらそう言うまゆおの言葉に、結衣はそう言ってポンと手を打った。

「初期メンバーはこれでみんないなくなっちゃうわけですか。それは確かに寂しいと思うのもわかりますです!」
「だろ……?」

 ため息交じりにそう言う暁。

「でも今は織姫ちゃんもりんりんもおりますし、それにかわいい愛娘の水蓮ちゃんもいるじゃないですか。きっとこれからも変わらず楽しい場所であると私は思うのです」
「そうですよぉ。私が1人いれば、生徒100人分くらいになります☆」

 凛子はそう言って、ウインクをした。

「それはないだろ……」

 しおんがボソッとそう呟いた。

「しおん君? 言いたいことがあるのなら、もっと大きな声で言ってくれませんかあ?」
「……はっ! 寝てた!! で、凛子は俺に何か言ったか?」

 しおんは白々しい顔で凛子にそう告げると、

「最後の最後まで腹立たしいですねぇ。無能力者をいたぶるのはいかがなものかと思いますが、きっと神様は私のことだけ見逃してくれますよね☆」

 凛子はそう言って、にっこりと笑う。

「わ、悪かったって! さすがに死ぬから!! 本当にやめてくれ!」
「あらあら。いつから『謝罪』というものを覚えたのでしょうね、しおんくぅん?」

 そう言って立ちあがる凛子。

「はああ? それくらい俺だってできるし! 俺、ガキじゃねえし!!」

 しおんもそう言って勢いよく立ち上がると、2人はにらみ合った。

「こらこら! お前たち、いい加減にしろって!!」
「「ふん」」

 しおんと凛子はそう言ってそっぽを向いた。

 まったく、この2人は――

 そう思いながらため息をつく暁。

 しおんも凛子も口ではああいう癖に、ちゃんとお互いのことを見守っているんだよな――

 そして暁はしおんと凛子を交互に見て、微笑んだ。

 この光景も4月からは見ることもないのか、と思うとやっぱり少し寂しい気持ちになる。でも4人はそれぞれの夢に向かって旅立つんだ。だからちゃんと見送ろう。それが卒業する4人にできる最善のことだから――。

 そして暁たちはいつもの授業を終えたのだった。



 夕食後。

 片付けを終えた暁は水蓮が結衣とお風呂に行っている間に、報告書をまとめていた。

「これで、よしっと……今日の仕事は終わりだー」

 そう言って背伸びをする暁。

 そういえば、キリヤにも結衣たちの卒業のことを知らせておこうかな――

 そう思った暁は、キリヤにメッセージを送る。

『久しぶり、キリヤ! 元気にしてるか? もうすぐ結衣たちが卒業なんだよ。時間の流れは早いよな。
 それでさ! 外に出たら、みんなそれぞれの夢のために頑張るんだって言っていたよ!!
 3月まではいるって言っていたし、会いに来てくれてもいいからな! じゃあ、仕事頑張れよ』

「これでよしっと……キリヤ、どんな反応をするかな。近々、真一たちに会う! って言って施設に来るかもしれないな」

 そう呟きながらニヤニヤする暁。

 すると、ミケが暁の足元までやってきて、

『暁、この間の件はどうなった?』

 と尋ねた。

「あ、そうだったな。そういえば、あれから所長から何の音沙汰もないな……」
『やれやれ。あまり時間はないと言っただろう? 早めに蜘蛛の少女に合わせてほしいものだな』

 ミケはため息交じりにそう言った。

「わ、わかったよ! とりあえずキリヤに連絡もしたし、返信が来たらその時にキリヤから所長と優香に伝えてもらうさ」
『頼んだぞ』

 そう告げて、ミケは暁の自室へと入っていった。

「でも所長が俺との約束を忘れるなんて……忙しいのかな」

 とりあえず今はキリヤからの返信を待とう――そう思った暁だった。
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