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第9章 新たな希望と変わる世界

第68.5話ー① パジャマパーティー

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 水蓮との入浴を終えた織姫は、水蓮を職員室に送っていた。

「今日もとっても気持ちよかったね、織姫ちゃん!」

 水蓮は正面を見ながら、織姫にそう告げた。

「ええ。そうですね!」

 織姫は水蓮の方を見て、そう言いながら微笑んだ。

「うん!」

 水蓮は前を向いたまま、そう答える。

 いつもこうなんですよね。お風呂の時や授業の時はちゃんと顔を見てくれるのに――

 そんなことを思いながら、水蓮の横顔を見つめる織姫。

 そして職員室に着くと、

「じゃあ、おやすみなさい!」

 水蓮はそう言って急いで職員室の中へ入っていった。

「おやすみ、なさい……」

 もしかしてですが……私が嫌われているだけなんでしょうか――?

 そんなことを思いながら、少しだけ悲しい気持ちになる織姫。

「はあ。とりあえず、私も部屋に戻りましょうか」

 そして織姫は自室に戻るために、女子の生活スペースへと向かったのだった。



 女子の生活スペースにて――

「私が何か嫌われることをしたのかな」

 そんなことを呟きながら、トボトボと歩く織姫。すると、

「織姫ちゃん! そんなため息ついてどうしたんです?」

 そう言って凛子が織姫の隣に立っていた。

「ああ、凛子さん……実は――」

 そして織姫は偶然会った凛子に、水蓮が自分を嫌っているのではないかという話をする。

「あはは☆ そんなことを心配していたんですかあ?」
「そ、そんなに笑わないでくださいよ! 私にとっては、かなり深刻な問題です!!」

 織姫は拳を握り、それを小さく振りながらそう言った。

「でもそれって私もですよお?」
「……え?」
「私と一緒の時も、あまり顔を見てくれないですね☆」
「そう、なんですか……?」
「はい☆」

 そうとも知らず、私は――

 そう思いながら、織姫は握っていた拳をほどいた。

「……私が考えすぎなだけってことですか。はああ」
「あはは☆ あんまり考えすぎるのも辛くなりますから。考えるのは適度にですよお?」
「はは、そうですね」
「私達にストレスは毒ですからねえ。一瞬で未来も夢も奪いかねないです」

 そう言って微笑む凛子。

 未来も夢も奪いかねない、か。私にどんな未来があるのかわからない。でも凛子さんには有名な女優さんになるっていう夢があり、それを叶えるかもしれない未来がある。夢があるって素敵だな……私だってと思うけれど、でも――

 そう思いながら、俯く織姫。

「どうしました?」

 俯く織姫を心配そうに見つめる凛子。

 それに気が付いた織姫は顔を上げて、

「あ、いえ。何でもないです」

 そう言って笑った。

「そうですかあ……」

 そう呟き、考える素振りをする凛子。

「あ、あの……?」

 何か、不快な思いにさせてしまったのでしょうか――

 そう思いながら、凛子を見つめる織姫。

「やっぱり距離感でしょうか。うーん……よし!」
「え!? 何がよしなのでしょう?」
「織姫ちゃん、今夜はパジャマパーティーをしましょう! 私はもっと織姫ちゃんと仲良くなりたいですし☆」

 凛子は満面の笑みでそう言った。

「パ、パジャマパーティー??」

 聞いたことのないワードに織姫は混乱する。

 それってどんなパーティーなんでしょう。パジャマのパーティーってことですし、きっとドレスコードはパジャマなんですよね。
 でもどこでそんなパーティーを? 今からお茶や食べ物の準備始めたら、パーティーの開始は遅い時間になってしまいます。明日も授業があるのに、そんな不健康なこと――

「織姫ちゃん? また考えすぎてます??」

 そう言って織姫の顔を覗き込む凛子。

 そして凛子の顔が近くにあることに気が付いた織姫ははっとする。

「あ、す、すみません! でも凛子さん! 今からパーティーだなんて、時間的にも健康面的にも良くないです! 明日も授業なんですよ? パーティーをするのなら、もっと事前に行っていただかないと! それに、そのようなパーティーに見合ったパジャマなんて、私持ってきていないです!!」

 織姫の若干早口なその言葉を聞き、凛子はきょとんとしていた。


「あ、あの! ちゃんと聞いていますか!?」

「…………ぷっ。あはははは!」

「な、なぜ笑うのですか!」

「だ、だって! 織姫ちゃんって一体どんなパーティーを想像しているんですかあ! もしかして、おしゃれな会場で優雅にお茶やお菓子を嗜むようなパーティーを想像しているんですかあ?」


 大笑いする凛子に困惑する織姫。

「え……だって、凛子さんはパーティーとおっしゃいましたよね?」
「い、言いましたけど、でも違いますよお。パジャマパーティーって、ただのお泊り会ってことです☆ 知らないんですかあ?」

 それを聞いた織姫は顔を真っ赤にして、

「そ、そうならそうと初めにそう言ってくださいよ!!」

 胸の前で握った拳をぶんぶんと振りながらそう言った。

「だって知らないなんて思わないじゃないですかあ☆ 同い年だから、共通認識だと思ったんですって! あはははは!」
「も、もおおお~」

 織姫は両手で顔を覆い、その場に座り込んだ。

「じゃあ行きましょう! レッツ! パジャマパーティーです☆」

 そう言って凛子は織姫の手を引いて歩き出す。
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