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第9章 新たな希望と変わる世界
第70話ー⑥ 残された子供たち
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平和な昼を過ごし、あっという間に夜の帳が降りた頃――
「奏多ちゃん、今日もお風呂気持ちよかったね」
「ええ、そうですね」
水蓮と奏多は暁の自室ですごしていた。
「ねえ、奏多ちゃんはずっとここにいてくれるの?」
「そうですね……そうできたら嬉しいけれど、でも……」
「でも?」
「学校があるので、明日の朝には帰らないといけないんですよ」
「そう……なんだ」
しゅんとする水蓮。
「でもまたお休みになったら遊びに来ますから。それまでの我慢ですよ」
奏多はそう言って、水蓮の頭を撫でる。
「うん……」
「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか。もう遅いですから」
それから奏多たちは布団に潜る。
「おやすみ、水蓮」
「おやすみなさい」
そしてすやすやと寝息を立てて、水蓮は眠りについた。
奏多は水蓮の寝顔を見つめ、
「きっと水蓮は大丈夫ですね」
そう呟いた。
ここで過ごした2日間、水蓮は施設の生徒たちと仲良くやっていることを知った奏多。
自分が来るまでもなかったかもしれませんね――そう思いながら、奏多も目を閉じる。
「うふふ。やっぱり暁さんの匂いがします」
そして奏多は眠りについたのだった。
* * *
『すい、れん……ごめんね。ママのせいで……』
少しずつ身体が石化する女性は目に涙を溜めながらそう言った。
『ママ!? ママは悪くないんだよ。スイが、スイが悪い子だから!!』
そして水蓮の視界の端に石化した男性が映る。
『パパ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――』
水蓮はそう言いながら、目から大粒の涙を流す。
『泣かないで……水蓮は、笑顔が一番、だか、ら』
そして完全に石化する水蓮の母親。
『ママ――!』
そう言って水蓮が母の石像に触れると、水蓮が触れた場所からゆっくりとヒビが入り、そのまま粉々に砕け散った。
『うっうぅ……なんで』
パパ、ママ……ごめんなさい。スイが悪い子だから――
* * *
翌朝――。
目を覚ました奏多は着替えを済ませ、職員室で日課の朝練を始めた。
「~♪」
そして1時間ほどバイオリンを弾いた奏多は、水蓮が眠る部屋に戻ると――
「これ、は!?」
その部屋は水蓮を中心に石化していた。
「パパ、ママ……」
「水蓮!!」
水蓮は奏多の声に反応がなく、まったく動く気配がなかった。
「もしかして、暴走ですか……? でも、なんで急に……」
「ごめんなさい、スイが悪い子だから――」
意識はないまま言葉を発する水蓮を見た奏多は、水蓮が暴走ではなく夢にうなされているのだと察する。
何とか目を覚まさせないと――そう思った奏多は、水蓮の方へ向かう。
「水蓮、起きてください! もう朝ですよ?」
奏多はそう言いながら水蓮に近づくが、水蓮が目を覚ます様子はなかった。
どうしたら水蓮に声が届くのでしょうか……いえ、今は考え込んでいる場合じゃ、ありませんね。暁さんならきっとこのまま突き進むに違いありません――!
そして奏多は何とか水蓮の傍まで到達した。
「ここからどうしたら……」
「ママ、ママ……ごめんなさい、スイのせいで。ごめんなさい……」
ごめんなさい――?
そして水蓮の頬に涙が流れたのを見た奏多は、はっとして水蓮をそっと抱きしめる。
「怖い夢を見ているのですね。水蓮、大丈夫です。私がここにいますから」
抱きしめている腕に何となく違和感があると思った奏多は、ゆっくりと自分の腕に視線を向けた。
これは――!?
水蓮に触れている両腕が少しずつ石化を始めていることを知る奏多。
「水蓮の能力ですか……」
このまま水蓮に触れていたら、自分は石化してしまうのでは――? 奏多はふとそう思う。
「でも今ここで私が水蓮から離れれば、水蓮は暴走してしまうかもしれない……だったら――」
そして奏多は水蓮に視線を向ける。
「ちょっと無謀だったかもしれませんが、きっと暁さんならこうしますよね」
それからゆっくりと目を覚ます水蓮。
「奏多、ちゃん……!?」
目の前で石化していく奏多を見た水蓮は驚愕の表情をする。
「なんで!? またスイが……スイのせい、なの??」
そう言って目に涙をためる水蓮。
「水蓮、おはようございます。私は大丈夫ですよ」
奏多は笑顔で水蓮にそう告げた。
「嫌だ……奏多ちゃんもママみたいになっちゃうの? 嫌だよお」
「大丈夫です。水蓮が大丈夫ってそう思えば、きっと!」
「でも、でも!!」
きっと水蓮なら大丈夫――奏多はそう信じ、ゆっくりと口を開く。
「水蓮? 水蓮のその力はとてもすごいんですよ? 使い方を考えたら、ヒーローにだってなれます。いっぱいの人を助けることができます。でもそうなるには、水蓮が自分の力を好きにならないといけません」
奏多は水蓮の顔をまっすぐに見て、そう言った。
「好きに、なる?」
奏多からの思いがけない言葉に、きょとんとする水蓮。
「ええ。水蓮はスーパーヒーローです。だからその力で私のことを助けてくれませんか? 水蓮にしか、できないことなんです」
額に汗を浮かべつつも、笑顔で水蓮にそう告げる奏多。
「……スイ、奏多ちゃんを助けたい! スイしかできない力で、奏多ちゃんを助ける!!」
「はい」
そして水蓮は石化した奏多の腕に触れる。
「お願い……奏多ちゃんを助けて。お願い、お願い――」
水蓮は目を閉じて、念じ続けた。そして――
「水蓮!!」
奏多の声を聴いた水蓮はそっと目をあける。
するとそこには元通りの奏多がいた。
「奏多ちゃん……」
目に再び涙をためる水蓮。そして奏多はそんな水蓮をそっと抱きしめた。
「ありがとう、水蓮。水蓮のおかげで、私は助かったんですよ。偉かったですね。水蓮はとってもいい子です」
「よかった、よかったよお」
「よしよし……」
それから水蓮はしばらく泣き続けた。
数分後――。
「奏多ちゃん、手痛くないですか?」
「ええ、すっかり元通りですよ? ほら!」
奏多はそう言いながら、水蓮に両手を見せる。
「本当だ……よかった」
ほっと息を吐く水蓮。奏多はそんな水蓮を見ながら、
「――怖い夢を、見ていたんですか?」
とそう尋ねる。
「うん。パパとママとお別れした時の夢だったの。スイがパパとママを石にして、それで……」
そう言って俯く水蓮。
「そうですか……でも、私は同じようにはならなかった。それは水蓮が成長している証拠です」
そう言って水蓮に微笑む奏多。
「奏多ちゃん……」
奏多の方を見て、再び目を潤ませる水蓮。
「そういえば、ゴーグルがなくても目を見られるようになりましたね?」
「あ……ほんとだ!! スイ、このまま奏多ちゃんの目を見られる!!」
もしかして能力を制御できるようになったのでしょうか? そうだとしたら、これは水蓮にとって大きな進歩ですね――
「ふふふ。じゃあこのままみんなのところへ行きましょう。水蓮の綺麗な目を見てもらわないと」
「うん!!」
それから奏多と水蓮は食堂に向かったのだった。
水蓮と奏多が食堂に着くと、生徒たちが集まっていた。
「おはよう……って水蓮!? ゴーグルが!」
ゴーグルのない水蓮を見て、びっくりした様子の剛。
そうですよね。いきなり水蓮のこの姿を見れば、驚くのも無理はありませんね――
「うふふ、水蓮はもう平気なんですよね?」
奏多が水蓮の方を見てそう言うと、
「えっへん!」
水蓮は自慢げに、腰に手を当ててそう言った。
「え~、水蓮ちゃんがどうしたんですかあ☆」
そう言ながら、凛子と織姫が駆け寄る。
「うふふ。じゃあ朝ご飯を食べましょうか! みんなで一緒に」
その言葉を聞いた生徒たちは笑顔になり、水蓮を中心に全員で朝食を摂り始めた。
そしてこの日の朝は、食堂からいつもより生徒たちの笑い声が響いていたのだった。
「奏多ちゃん、今日もお風呂気持ちよかったね」
「ええ、そうですね」
水蓮と奏多は暁の自室ですごしていた。
「ねえ、奏多ちゃんはずっとここにいてくれるの?」
「そうですね……そうできたら嬉しいけれど、でも……」
「でも?」
「学校があるので、明日の朝には帰らないといけないんですよ」
「そう……なんだ」
しゅんとする水蓮。
「でもまたお休みになったら遊びに来ますから。それまでの我慢ですよ」
奏多はそう言って、水蓮の頭を撫でる。
「うん……」
「それじゃあ、そろそろ寝ましょうか。もう遅いですから」
それから奏多たちは布団に潜る。
「おやすみ、水蓮」
「おやすみなさい」
そしてすやすやと寝息を立てて、水蓮は眠りについた。
奏多は水蓮の寝顔を見つめ、
「きっと水蓮は大丈夫ですね」
そう呟いた。
ここで過ごした2日間、水蓮は施設の生徒たちと仲良くやっていることを知った奏多。
自分が来るまでもなかったかもしれませんね――そう思いながら、奏多も目を閉じる。
「うふふ。やっぱり暁さんの匂いがします」
そして奏多は眠りについたのだった。
* * *
『すい、れん……ごめんね。ママのせいで……』
少しずつ身体が石化する女性は目に涙を溜めながらそう言った。
『ママ!? ママは悪くないんだよ。スイが、スイが悪い子だから!!』
そして水蓮の視界の端に石化した男性が映る。
『パパ……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――』
水蓮はそう言いながら、目から大粒の涙を流す。
『泣かないで……水蓮は、笑顔が一番、だか、ら』
そして完全に石化する水蓮の母親。
『ママ――!』
そう言って水蓮が母の石像に触れると、水蓮が触れた場所からゆっくりとヒビが入り、そのまま粉々に砕け散った。
『うっうぅ……なんで』
パパ、ママ……ごめんなさい。スイが悪い子だから――
* * *
翌朝――。
目を覚ました奏多は着替えを済ませ、職員室で日課の朝練を始めた。
「~♪」
そして1時間ほどバイオリンを弾いた奏多は、水蓮が眠る部屋に戻ると――
「これ、は!?」
その部屋は水蓮を中心に石化していた。
「パパ、ママ……」
「水蓮!!」
水蓮は奏多の声に反応がなく、まったく動く気配がなかった。
「もしかして、暴走ですか……? でも、なんで急に……」
「ごめんなさい、スイが悪い子だから――」
意識はないまま言葉を発する水蓮を見た奏多は、水蓮が暴走ではなく夢にうなされているのだと察する。
何とか目を覚まさせないと――そう思った奏多は、水蓮の方へ向かう。
「水蓮、起きてください! もう朝ですよ?」
奏多はそう言いながら水蓮に近づくが、水蓮が目を覚ます様子はなかった。
どうしたら水蓮に声が届くのでしょうか……いえ、今は考え込んでいる場合じゃ、ありませんね。暁さんならきっとこのまま突き進むに違いありません――!
そして奏多は何とか水蓮の傍まで到達した。
「ここからどうしたら……」
「ママ、ママ……ごめんなさい、スイのせいで。ごめんなさい……」
ごめんなさい――?
そして水蓮の頬に涙が流れたのを見た奏多は、はっとして水蓮をそっと抱きしめる。
「怖い夢を見ているのですね。水蓮、大丈夫です。私がここにいますから」
抱きしめている腕に何となく違和感があると思った奏多は、ゆっくりと自分の腕に視線を向けた。
これは――!?
水蓮に触れている両腕が少しずつ石化を始めていることを知る奏多。
「水蓮の能力ですか……」
このまま水蓮に触れていたら、自分は石化してしまうのでは――? 奏多はふとそう思う。
「でも今ここで私が水蓮から離れれば、水蓮は暴走してしまうかもしれない……だったら――」
そして奏多は水蓮に視線を向ける。
「ちょっと無謀だったかもしれませんが、きっと暁さんならこうしますよね」
それからゆっくりと目を覚ます水蓮。
「奏多、ちゃん……!?」
目の前で石化していく奏多を見た水蓮は驚愕の表情をする。
「なんで!? またスイが……スイのせい、なの??」
そう言って目に涙をためる水蓮。
「水蓮、おはようございます。私は大丈夫ですよ」
奏多は笑顔で水蓮にそう告げた。
「嫌だ……奏多ちゃんもママみたいになっちゃうの? 嫌だよお」
「大丈夫です。水蓮が大丈夫ってそう思えば、きっと!」
「でも、でも!!」
きっと水蓮なら大丈夫――奏多はそう信じ、ゆっくりと口を開く。
「水蓮? 水蓮のその力はとてもすごいんですよ? 使い方を考えたら、ヒーローにだってなれます。いっぱいの人を助けることができます。でもそうなるには、水蓮が自分の力を好きにならないといけません」
奏多は水蓮の顔をまっすぐに見て、そう言った。
「好きに、なる?」
奏多からの思いがけない言葉に、きょとんとする水蓮。
「ええ。水蓮はスーパーヒーローです。だからその力で私のことを助けてくれませんか? 水蓮にしか、できないことなんです」
額に汗を浮かべつつも、笑顔で水蓮にそう告げる奏多。
「……スイ、奏多ちゃんを助けたい! スイしかできない力で、奏多ちゃんを助ける!!」
「はい」
そして水蓮は石化した奏多の腕に触れる。
「お願い……奏多ちゃんを助けて。お願い、お願い――」
水蓮は目を閉じて、念じ続けた。そして――
「水蓮!!」
奏多の声を聴いた水蓮はそっと目をあける。
するとそこには元通りの奏多がいた。
「奏多ちゃん……」
目に再び涙をためる水蓮。そして奏多はそんな水蓮をそっと抱きしめた。
「ありがとう、水蓮。水蓮のおかげで、私は助かったんですよ。偉かったですね。水蓮はとってもいい子です」
「よかった、よかったよお」
「よしよし……」
それから水蓮はしばらく泣き続けた。
数分後――。
「奏多ちゃん、手痛くないですか?」
「ええ、すっかり元通りですよ? ほら!」
奏多はそう言いながら、水蓮に両手を見せる。
「本当だ……よかった」
ほっと息を吐く水蓮。奏多はそんな水蓮を見ながら、
「――怖い夢を、見ていたんですか?」
とそう尋ねる。
「うん。パパとママとお別れした時の夢だったの。スイがパパとママを石にして、それで……」
そう言って俯く水蓮。
「そうですか……でも、私は同じようにはならなかった。それは水蓮が成長している証拠です」
そう言って水蓮に微笑む奏多。
「奏多ちゃん……」
奏多の方を見て、再び目を潤ませる水蓮。
「そういえば、ゴーグルがなくても目を見られるようになりましたね?」
「あ……ほんとだ!! スイ、このまま奏多ちゃんの目を見られる!!」
もしかして能力を制御できるようになったのでしょうか? そうだとしたら、これは水蓮にとって大きな進歩ですね――
「ふふふ。じゃあこのままみんなのところへ行きましょう。水蓮の綺麗な目を見てもらわないと」
「うん!!」
それから奏多と水蓮は食堂に向かったのだった。
水蓮と奏多が食堂に着くと、生徒たちが集まっていた。
「おはよう……って水蓮!? ゴーグルが!」
ゴーグルのない水蓮を見て、びっくりした様子の剛。
そうですよね。いきなり水蓮のこの姿を見れば、驚くのも無理はありませんね――
「うふふ、水蓮はもう平気なんですよね?」
奏多が水蓮の方を見てそう言うと、
「えっへん!」
水蓮は自慢げに、腰に手を当ててそう言った。
「え~、水蓮ちゃんがどうしたんですかあ☆」
そう言ながら、凛子と織姫が駆け寄る。
「うふふ。じゃあ朝ご飯を食べましょうか! みんなで一緒に」
その言葉を聞いた生徒たちは笑顔になり、水蓮を中心に全員で朝食を摂り始めた。
そしてこの日の朝は、食堂からいつもより生徒たちの笑い声が響いていたのだった。
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