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第10章 未来へ繋ぐ想い
第82.5話 キリヤの見た世界
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キリヤと優香が戻ってきて数日後。休暇を言い渡されていたキリヤがS級施設に足を運んでいた。
「せっかくの休暇なのに、実家には行かなくていいのか?」
暁は食堂でコーヒーを飲むキリヤを前にそう言った。
「まあ、そのうちね。今は先生の顔を見たい気分だったから」
そう言って微笑むキリヤ。
「ま、まあそう言われて嬉しくないはずはないけど……」
やっぱりまだ父親との関係は改善していないんだな――
そんなことを思いながらキリヤを見つめる暁。
「大丈夫。近いうちに顔を出すよ。マリアに会いたいし、それに……」
「ん?」
「あの人……ううん。義父さんとちゃんと話したいから」
キリヤは照れながらそう言った。
「……そうか」
もう昔のキリヤとは違うってことなんだろうな――
そう思いながら目の前にいるキリヤを見て、暁は微笑んだ。
「実はさ。僕が時空のはざまに落ちて、飛ばされた世界がこことは少し違った世界でね」
「ほう」
「その世界には『白雪姫症候群』なんて無くて、みんな普通の人生を送っていたんだ。僕も、先生も」
「え、俺もいたのか!?」
そう言って驚く暁を見たキリヤは、
「うん!」
と言って笑った。
「その世界の俺のことを聞きたいところだけど、キリヤも話したいことがあるんだよな」
「順を追って話すね!」
それからキリヤはその世界であったことを暁に話した。
「――それで先生に言われて、僕は父さんと仲良くなれたってことなんだよ。どこにいても、先生は先生なんだなって!」
「ははは。俺のことじゃないのに、なんだかそう言ってもらえて嬉しいよ! でも良かったな。父親とちゃんと話せていたなんてな」
「うん……」
そう言って優しく微笑むキリヤ。
キリヤに会ったばかりの頃は、こんな温かい笑顔を見られるなんて思ってもなかったな――
マリアからキリヤと父親のことを聞いていて、このままうまくいかないんじゃないかと思っていた親子関係は、繋がるはずもなかった場所で繋がったんだなと不思議な感覚になる暁。
「先生?」
ボーっとしている暁を心配に思ったキリヤはそう言って暁の顔を覗き込む。
「ああ、ごめん。なんか昔のことを思い出していたんだ」
「昔の事?」
きょとんとするキリヤ。
「キリヤと出逢ったばかりの頃をな」
「うわ!! そんな恥ずかしい時の事を思い出さないでよ!!」
キリヤは両手で顔を覆いながらそう言った。
「あはは! そんな顔を見る日が来るなんて、当時の俺は知らないんだろうな」
「もう!!」
キリヤは顔を赤くしながら、頬を膨らませる。
「あはは! でも良かったよ。お父さんと、仲直りできるといいな」
暁が笑顔でそう言うと、
「うん!」
キリヤも笑顔でそう返した。
それからキリヤは何かを思い出したような顔をすると、
「あ、そうだ。先生に聞きたいことがあったんだ」
手をポンっと鳴らしてそう言った。
「聞きたいこと……?」
「そう。えっと……先生って、新しい学校を創ろうとしていない?」
キリヤは暁の顔をまっすぐに見てそう言った。
「ああ。それって所長から聞いたのか?」
「ううん。未来で知った。僕は、先生が創る未来の学校を知っている」
そう言ってキリヤの表情が曇った。
「そう、か」
キリヤは俺に何が言いたいんだろう……表情から察するに、良い未来だったとは考えにくい――
「何があったんだ?」
「……やめたほうが良い」
キリヤは重い口調でそう告げる。
「え?」
やめたほうが良いって――?
「その学校を作るのはやめたほうが良いよ!!」
キリヤは強い眼差しで、暁にそう訴えた。
キリヤがこうまでして言うのには、きっと意味があるのだろう――
そう思った暁はキリヤの顔をまっすぐに見つめ、
「理由を、教えてくれるか?」
静かにそう言った。
「わかった――」
それからキリヤは、未来に行ってからのことを話し始める。
「数年後、学校を創った先生はその学園の初代の学園長になるんだ。でもその後、所長が病気で倒れて、先生は研究所の所長も兼任することになる」
「――所長が病気に!?」
今の元気な姿からは、到底想像もできないけど――
暁は目を丸くしながら、キリヤの話に耳を傾け続ける。
「そう。そしてその心労がたたって、先生は眠りにつく。二度と目覚めることのない眠りに――」
二度と目覚めない眠り? それって、もしかして――
「二度目の暴走か……?」
暁がそう問うと、キリヤは静かに頷いた。
「そして先生が眠りについた後は、奏多が学園長代理と研究所の所長を引き受けるんだ。しばらくはそれでよかったんだけど、でも奏多も病気をして、それでね……」
キリヤは悲し気な顔をした。
未来ではそんなことになっているなんて――
そう思いながら、暁は俯く。
「それから先生のところでお世話になっていたっていう最上さん……最上水蓮さんが学園長に就任して、研究所は政府の管轄になったんだ」
はっとして顔を上げる暁。
「え、水蓮が!? それに、研究所もまた政府の元に……?」
「そうだよ。だからやめよう。新しい学校なんて必要ない。僕は先生がいて、たくさんの思い出が詰まっているこの場所のままで良いって思うんだ」
キリヤはまっすぐに暁の方を見てそう言った。
キリヤが見てきた未来は、このままいけば俺が辿る未来なのかもしれない。確かにキリヤの言う通り、やめる方がみんなの為だってことはわかるけど――
「……俺は、やめない」
「なんで!? 話、聞いてなかったの!!?」
キリヤは声を荒げてそう言った。
「聞いていたよ。一言一句漏らさずにな。でも俺はやめない。キリヤに何と言われてもだ!!」
「このままじゃ、誰も幸せになれないって言っているんだよ? 先生も、奏多だって! それなのに――」
「キリヤは?」
「え……?」
同じ未来を辿らない可能性だってあるはずだ。俺はその可能性に賭ける――
「俺や奏多に起こることはわかった。でも、その中にキリヤの話はなかったな」
「……うん。僕は、僕の存在はこの世界から消えていたからね。たぶん未来から戻って来られなかったんだと思う。でも――!」
「なら、この世界は大丈夫だ!」
そう言って満面の笑みをする暁。
「へ……?」
「それはキリヤがいなかったらって言う未来だろ? じゃあきっと同じ未来にはならないさ! だって……この世界にはキリヤがいるから」
俺が思う可能性。それは、キリヤのことだから――
「僕……?」
「そうだ」
俯くキリヤ。
「僕一人がいたって、何も――」
「そんなことはないさ! キリヤが戻って来たことで、きっとまた未来が変わる。それに俺だってキリヤの話から未来を知った。だからそれを聞いて、俺たちがどう行動するかを考えて行けばいいんじゃないか?」
「でも、防ぎようのない未来だったら……」
そう言ってキリヤは膝に乗せている両手の拳を握る。
「そん時はそん時だ!」
「もう、適当だなあ」
ため息交じりにそう言うキリヤ。そしてその顔には笑顔が戻っていた。
「あはは! でもさ、キリヤが見た未来だけが正解ってわけじゃないだろ? これから俺たちは俺たちだけの未来を創っていこう。生きていれば、可能性は無数にあるんだからさ!」
暁はそう言って、ニッと歯を見せて笑う。
「うん。そう、だね。先生の言う通りだ!」
「じゃあ、キリヤ。俺の夢を応援してくれるか?」
暁が笑顔でそう問うと、
「仕方ないなあ。でも、無理な時はちゃんと言ってね! 僕もあんな未来にはしたくない。先生の助けになりたんだ!!」
キリヤは意気込みながらそう答えた。
キリヤがそう言ってくれるのは、とても頼もしいな――
「わかったよ。何かあれば、絶対にキリヤに相談する! それと奏多にもな……そういう時、言わないと怒られそうだし」
そう言って暁は頭を掻いた。
「あはは! あ、そういえば! 奏多とはどうなの? 向こうの世界の先生と奏多は婚約とかしていたけど!!」
「あ、キリヤにはまだ言ってなかったな! 実はさ――」
それから暁とキリヤは楽しく会話を続け、その日を終えたのだった。
そして翌日。優香と合流して、暁とキリヤは共に『白雪姫症候群』の元となる力を宿す一族が暮らしている神社へ向かうことになったのだった。
「せっかくの休暇なのに、実家には行かなくていいのか?」
暁は食堂でコーヒーを飲むキリヤを前にそう言った。
「まあ、そのうちね。今は先生の顔を見たい気分だったから」
そう言って微笑むキリヤ。
「ま、まあそう言われて嬉しくないはずはないけど……」
やっぱりまだ父親との関係は改善していないんだな――
そんなことを思いながらキリヤを見つめる暁。
「大丈夫。近いうちに顔を出すよ。マリアに会いたいし、それに……」
「ん?」
「あの人……ううん。義父さんとちゃんと話したいから」
キリヤは照れながらそう言った。
「……そうか」
もう昔のキリヤとは違うってことなんだろうな――
そう思いながら目の前にいるキリヤを見て、暁は微笑んだ。
「実はさ。僕が時空のはざまに落ちて、飛ばされた世界がこことは少し違った世界でね」
「ほう」
「その世界には『白雪姫症候群』なんて無くて、みんな普通の人生を送っていたんだ。僕も、先生も」
「え、俺もいたのか!?」
そう言って驚く暁を見たキリヤは、
「うん!」
と言って笑った。
「その世界の俺のことを聞きたいところだけど、キリヤも話したいことがあるんだよな」
「順を追って話すね!」
それからキリヤはその世界であったことを暁に話した。
「――それで先生に言われて、僕は父さんと仲良くなれたってことなんだよ。どこにいても、先生は先生なんだなって!」
「ははは。俺のことじゃないのに、なんだかそう言ってもらえて嬉しいよ! でも良かったな。父親とちゃんと話せていたなんてな」
「うん……」
そう言って優しく微笑むキリヤ。
キリヤに会ったばかりの頃は、こんな温かい笑顔を見られるなんて思ってもなかったな――
マリアからキリヤと父親のことを聞いていて、このままうまくいかないんじゃないかと思っていた親子関係は、繋がるはずもなかった場所で繋がったんだなと不思議な感覚になる暁。
「先生?」
ボーっとしている暁を心配に思ったキリヤはそう言って暁の顔を覗き込む。
「ああ、ごめん。なんか昔のことを思い出していたんだ」
「昔の事?」
きょとんとするキリヤ。
「キリヤと出逢ったばかりの頃をな」
「うわ!! そんな恥ずかしい時の事を思い出さないでよ!!」
キリヤは両手で顔を覆いながらそう言った。
「あはは! そんな顔を見る日が来るなんて、当時の俺は知らないんだろうな」
「もう!!」
キリヤは顔を赤くしながら、頬を膨らませる。
「あはは! でも良かったよ。お父さんと、仲直りできるといいな」
暁が笑顔でそう言うと、
「うん!」
キリヤも笑顔でそう返した。
それからキリヤは何かを思い出したような顔をすると、
「あ、そうだ。先生に聞きたいことがあったんだ」
手をポンっと鳴らしてそう言った。
「聞きたいこと……?」
「そう。えっと……先生って、新しい学校を創ろうとしていない?」
キリヤは暁の顔をまっすぐに見てそう言った。
「ああ。それって所長から聞いたのか?」
「ううん。未来で知った。僕は、先生が創る未来の学校を知っている」
そう言ってキリヤの表情が曇った。
「そう、か」
キリヤは俺に何が言いたいんだろう……表情から察するに、良い未来だったとは考えにくい――
「何があったんだ?」
「……やめたほうが良い」
キリヤは重い口調でそう告げる。
「え?」
やめたほうが良いって――?
「その学校を作るのはやめたほうが良いよ!!」
キリヤは強い眼差しで、暁にそう訴えた。
キリヤがこうまでして言うのには、きっと意味があるのだろう――
そう思った暁はキリヤの顔をまっすぐに見つめ、
「理由を、教えてくれるか?」
静かにそう言った。
「わかった――」
それからキリヤは、未来に行ってからのことを話し始める。
「数年後、学校を創った先生はその学園の初代の学園長になるんだ。でもその後、所長が病気で倒れて、先生は研究所の所長も兼任することになる」
「――所長が病気に!?」
今の元気な姿からは、到底想像もできないけど――
暁は目を丸くしながら、キリヤの話に耳を傾け続ける。
「そう。そしてその心労がたたって、先生は眠りにつく。二度と目覚めることのない眠りに――」
二度と目覚めない眠り? それって、もしかして――
「二度目の暴走か……?」
暁がそう問うと、キリヤは静かに頷いた。
「そして先生が眠りについた後は、奏多が学園長代理と研究所の所長を引き受けるんだ。しばらくはそれでよかったんだけど、でも奏多も病気をして、それでね……」
キリヤは悲し気な顔をした。
未来ではそんなことになっているなんて――
そう思いながら、暁は俯く。
「それから先生のところでお世話になっていたっていう最上さん……最上水蓮さんが学園長に就任して、研究所は政府の管轄になったんだ」
はっとして顔を上げる暁。
「え、水蓮が!? それに、研究所もまた政府の元に……?」
「そうだよ。だからやめよう。新しい学校なんて必要ない。僕は先生がいて、たくさんの思い出が詰まっているこの場所のままで良いって思うんだ」
キリヤはまっすぐに暁の方を見てそう言った。
キリヤが見てきた未来は、このままいけば俺が辿る未来なのかもしれない。確かにキリヤの言う通り、やめる方がみんなの為だってことはわかるけど――
「……俺は、やめない」
「なんで!? 話、聞いてなかったの!!?」
キリヤは声を荒げてそう言った。
「聞いていたよ。一言一句漏らさずにな。でも俺はやめない。キリヤに何と言われてもだ!!」
「このままじゃ、誰も幸せになれないって言っているんだよ? 先生も、奏多だって! それなのに――」
「キリヤは?」
「え……?」
同じ未来を辿らない可能性だってあるはずだ。俺はその可能性に賭ける――
「俺や奏多に起こることはわかった。でも、その中にキリヤの話はなかったな」
「……うん。僕は、僕の存在はこの世界から消えていたからね。たぶん未来から戻って来られなかったんだと思う。でも――!」
「なら、この世界は大丈夫だ!」
そう言って満面の笑みをする暁。
「へ……?」
「それはキリヤがいなかったらって言う未来だろ? じゃあきっと同じ未来にはならないさ! だって……この世界にはキリヤがいるから」
俺が思う可能性。それは、キリヤのことだから――
「僕……?」
「そうだ」
俯くキリヤ。
「僕一人がいたって、何も――」
「そんなことはないさ! キリヤが戻って来たことで、きっとまた未来が変わる。それに俺だってキリヤの話から未来を知った。だからそれを聞いて、俺たちがどう行動するかを考えて行けばいいんじゃないか?」
「でも、防ぎようのない未来だったら……」
そう言ってキリヤは膝に乗せている両手の拳を握る。
「そん時はそん時だ!」
「もう、適当だなあ」
ため息交じりにそう言うキリヤ。そしてその顔には笑顔が戻っていた。
「あはは! でもさ、キリヤが見た未来だけが正解ってわけじゃないだろ? これから俺たちは俺たちだけの未来を創っていこう。生きていれば、可能性は無数にあるんだからさ!」
暁はそう言って、ニッと歯を見せて笑う。
「うん。そう、だね。先生の言う通りだ!」
「じゃあ、キリヤ。俺の夢を応援してくれるか?」
暁が笑顔でそう問うと、
「仕方ないなあ。でも、無理な時はちゃんと言ってね! 僕もあんな未来にはしたくない。先生の助けになりたんだ!!」
キリヤは意気込みながらそう答えた。
キリヤがそう言ってくれるのは、とても頼もしいな――
「わかったよ。何かあれば、絶対にキリヤに相談する! それと奏多にもな……そういう時、言わないと怒られそうだし」
そう言って暁は頭を掻いた。
「あはは! あ、そういえば! 奏多とはどうなの? 向こうの世界の先生と奏多は婚約とかしていたけど!!」
「あ、キリヤにはまだ言ってなかったな! 実はさ――」
それから暁とキリヤは楽しく会話を続け、その日を終えたのだった。
そして翌日。優香と合流して、暁とキリヤは共に『白雪姫症候群』の元となる力を宿す一族が暮らしている神社へ向かうことになったのだった。
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