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第10章 未来へ繋ぐ想い

第84話ー④ お父さんとお母さん

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 ――S級施設にて。

 授業後、水蓮は暁の自室で奏多が来るのを心待ちにしていた。

 水蓮はベッドの上に座りながら、足をブラブラと揺らす。

「ミケさん、今日は奏多ちゃんが来ます! 楽しみだね!!」

 水蓮は微笑みながらミケの方を見て、そう言った。

「にゃーん」
「先生とお出かけしてから来ると言っていました! だから、会うのはもう少しの我慢です!」

 ミケは頷きながら、「にゃ!」と答える。

「奏多ちゃんと何して遊ぼうかな。えへへ」

 そう言って嬉しそうに微笑む水蓮。

 それからしばらくして、奏多が施設にやってきた。

 職員室に奏多が入ってきたタイミングで、水蓮は自室を飛び出し、

「奏多ちゃーん!」

 そう言って奏多に抱きつく。

「あら、水蓮。お久しぶりですね。元気にしておりましたか?」
「はい! 元気、元気でした!!」

 そう言って奏多に笑顔を向ける水蓮。

「うふふ。いい子ですね!」

 奏多はそう言って水蓮の頭を撫でる。

「よし、水蓮。今日はこれからお話があるんだ!」
「お話……?」

 暁の言葉に首をかしげる水蓮。

「ええ、とっても大事なお話です」
「わかりました」

 大事なお話? それってなんだろう――?

 それから水蓮は、首を傾げながら暁たちと共に自室に向かった。



「お話ってなあに?」

 ベッドに座った水蓮は暁と奏多の方を見てそう言った。

 そして暁と奏多は顔を合わせてから頷くと、

「水蓮。俺は水蓮のパパになろうと思う!」

 暁は笑顔でそう言った。

「え?」
「そして私がママになります」

 先生がスイのパパ、奏多ちゃんがママ――?

 水蓮はぽかんとしたまま、暁たちを見ていた。

「おーい、聞いてるか?」
「うふふ。驚いているのかもしれませんね」

 そう言って笑う奏多。

「――はっ! スイのパパが先生で、ママが奏多ちゃん……!?」
「そうだ! 嫌、か……?」

 暁が不安な顔をすると、水蓮はその胸に飛び込む。

「嫌じゃない。スイのパ……お父さんとお母さんは先生と奏多ちゃんがいい!」
「よかった」
「ですね」

 そう言って顔を見合わせて微笑む暁と奏多。

「そうだ! スイのお話も聞いてくれますか」
「ああ、何でも言っていいぞ」
「ええ」
「スイのパパとママの、お話です」

 その言葉を真剣な表情で聞く暁と奏多。

 もしかしたら、スイが悪い子だって思われるかもしれない。嫌われちゃうかもしれない。それでも、聞いてほしいから――

「かな……お母さんにはちょっとだけお話したけど、せ……お父さんには言っていないので!」

 慣れない言葉に噛み噛みになりながら、水蓮はそう言った。

「無理にお父さんって言わなくてもいいんだぞ? 慣れるまでは先生で――」
「ありがとう。でも、スイはできる子なので!」
「お、おう!!」
「それで話の続きです――」

 そして水蓮は両親との思い出を語り始める。

 母と焼いたクッキー、父と走り回った近所にある公園の広場。そして家の中はいつも笑顔であふれていたこと。

 そのすべてが水蓮にとってかけがえのない思い出だったことを暁たちは察したのだった。

「スイは、パパとママが大好きでした。でも……スイが、パパとママを石にして、それで――」

 そう言って俯く水蓮。

「その先は言わなくてもいいのですよ、水蓮」

 奏多はそう言って水蓮をそっと抱きしめる。

 ちゃんと言わなくちゃ。スイのことを、ちゃんと知ってもらわなきゃ――

「……そんなスイでも、2人は子供にしてくれますか? またスイは悪いことをしてしまうかもしれないけど、スイと家族になってくれますか……?」

 水蓮は声を震わせてそう言った。

「ええ、もちろん。私はどんな水蓮でも大好きでいられる自信がありますよ」

 奏多は満面の笑みで水蓮にそう告げた。

「……ありがとう、お母さん」
「もちろん、俺もだよ。水蓮のパパに負けないくらい、水蓮のことを大事にする! それと、たくさん外で遊ぼうな!!」

 暁はそう言って歯を見せながら、ニッと笑った。

「うん!!」
「うふふ。じゃあ私たちはこれから本当の家族、ですね!」
「そうだな!」

 水蓮は両手を合わせると、

「あ! じゃあ今日は3人で眠れるね!!」

 暁と奏多の方を見て笑顔でそう言った。

「ええ、そうですね!!」

 顔を見合わせて微笑む奏多と水蓮。

「あ、それはそれと言うか――」

 そう言ってオロオロとする暁。

「えー。お父さん、冷たい」
「あーあ。父親失格ですね」

 しょんぼりとする水蓮の頭を撫でながら、奏多はそう言った。

「わ、わかったって!! というか2人共、息が合いすぎだろっ!!」
「ふふふ」「あはは!」

 暁の自室では楽しい笑い声が響いたのだった。



 その日の夜。水蓮たちはまた3人並んで、川の字で眠った。

 しかしそれは以前とは違い、今度は本当の家族としてのカタチ――。




 パパ、ママ。スイには新しいお父さんとお母さんができました。でもパパとママのことは忘れないよ。

 これからスイはパパとママの分までたくさん生きる。だからスイのことを見守っていてほしいな。スイが幸せになるその日まで――



「んん……」

 水蓮が目をこすりながら体を起こすと、先に起きて身体を起こした奏多が、

「水蓮? おはよう」

 そう言って微笑んだ。

「おはよう、お母さん」

 その声を聞き、着替えていた暁は水蓮の方を見る。

「お、水蓮おはよう!」
「あ、お父さんもおはよう~」



 水蓮は新たな家族と共に、幸せな未来へと進んで行くのでした。
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