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第10章 未来へ繋ぐ想い

第85話ー② 別れの時

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 暁とミケが話した、その日の晩の事。

「あれ、ここは?」

 暁は真っ白な空間にいた。

 もしかして、俺は――

 そしてきょろきょろと周りを見渡す暁。

『あははは! お前はあの時と同じだな』

 その声の方を向く暁。

「え、俺……?」
『おう! 久しぶりだな!!』

 そう言ってニコッと笑うもう一人の暁。

 もしかしてこれが暴走時に見る、夢の世界か――?

『あ、もしかして! 自分がまた暴走したんじゃないかって不安になってるだろ?』
「あ、ああ」

 二度目の暴走が起これば、どんな未来が待ってるのか――それをキリヤから聞いていた暁は、今の状況に焦りを感じていた。

『あはは! 違う、違う! 今回は、俺が呼んだんだよ!』
「呼んだ……?」
『そう! まあ俺ってよりは、そこの百獣の王様かな』

 もう一人の暁がそう言う先に、艶々の毛並みをしたライオンが佇んでいた。

「もしかして、『獣人化ビースト』の……」
『お前、やっぱりリアクションが昔と変わらないな』
「え!? そうか!?」

 覚えてないとはいえ、さすがに同じだったとは……少し恥ずかしいな――

「そ、それで俺を呼んだ理由って……」
『私はずっとお主の中でお主を見てきた』

 思ったより低く重みのあるそのライオンの声に、暁はゴクリと唾を飲み込む。

「あ、ああ」
『お主の誠実さ。そしてまっすぐな熱意。私はそんなお主を欲した。だが、私の物にするのは惜しいと思ったのだ』
「どういう、ことだ……?」

 そう言って首を傾げる暁。

『お主の感情は、周りの人間に影響されて構築されたもの。お主だけを切り取ったところで、大した力にはならないという事だ』
「は、はあ」

 確かに。いろんな人のおかげで今の俺があるの事実だ――

 ライオンはゆっくりと上を向くと、

『私は、次の魂を求めることにした』

 淡々とそう言った。

「……え?」

 暁が目を丸くしていると、ライオンはまた暁の方を見て、

『別れの時だ、暁。お主はもう私の力などなくとも、十分に強い心を持っている。その熱い思いをしかと周りのものに伝染させ、よき未来を築いていけ』

 咆哮するかのように口を大きく開き、そう言った。

「は、はい!」
『それと、今まで本当にすまなかった。私は多くの物をお主から奪ってしまった』

 そう言って頭を下げるライオン。

獣人化ビースト』が原因で、確かにいろんなものを失った。けれど……それと同じくらい、俺は大切なものをたくさん手に入れているよ――

「お前がいなかったら、今の俺はなかった。たくさんの出会い、そして様々な経験。初めは辛いことばかりだって思っていたけど、でも俺は幸せだった。だから……ありがとな!」

 暁はそう言って微笑んだ。

『そう思っていたのなら、私も存在価値はあったのかもしれない。――さあ時間だ。お主は元の世界へ戻れ。そして、もうこの世界に来るんじゃないぞ』
「ああ。わかった……それと、もう一人の俺! ありがとな!! そして、さよならだ」

 暁は寂しそうにそう言って、ライオンの隣に立つもう一人の自分の方を見た。

『おう! 学校の新設、頑張れよな!! ここで見守っているから』
「ああ!!」
『じゃあ、出口はあっちだよ』

 もう一人の暁はそう言って指を差す。すると、そこには大きな穴が出現した。

「ありがとう……」

 暁はそう言ってから、その穴を潜ったのだった。


 * * *


 ――翌朝。

 目を覚ました暁は、頬に涙が流れていることに気が付く。

「俺……」
「お父さん、おはよう――泣いてる!? どうしたの? 怖い夢でも見た!?」

 水蓮は心配そうな顔で暁にそう言った。

「あはは。そうかもな。でも、全部終わったんだよ……」

 暁はそう言って微笑みながら、水蓮の頭に手を乗せた。

「それならいいけど……あ、ミケさんも心配して起きてきた」

 そう言ってミケは暁の前にちょこんと座る。

「にゃーん」

 はっとする暁。

 ミケさんの言葉が、わからない――

「そっか。俺、本当に……」

 そして再び涙を流す暁。

「お、お父さん!? どうしたの?? えええ?」
「にゃーん」

 それから暁は涙を拭うと、

「ミケさん、ごめんな。もうミケさんの言葉が、わからないみたいなんだ」

 そう言って精一杯の笑顔をミケに向けた。

「ミケさんの言葉なんて、わかるわけないじゃない? スイもずっとわからないよ?」

 水蓮はそう言って首を傾げる。

「ああそうだけど、そうじゃないんだよ」
「ん??」
「にゃーん」

 それから数日間、暁はミケと過ごしたがあの夢を見た日以来、ミケの声を聞くことはなかった。

 そして数日後に研究所に向かった暁は、能力の検査をしていた。

「暁君! 能力値が『無効化』のC級まで数値が落ちているね!!」

 所長はモニターを見ながら、嬉しそうに暁へそう告げる。

「やっぱり、そうですか」

 嬉しそうな所長とは対照的に、淡々とそう言う暁。

 優香と同じように、俺の中にあったもう一つの魂がいなくなったから……なんだろうな――

「え? 一体、何があったの!?」

 暁たちと共にモニターを見ていたキリヤは、その結果を見て目を丸くしていた。

「ああ、俺の中にいたもう一つの魂が出て行ったんだ。だからもう俺は『ゼンシンノウリョクシャ』じゃなくなったんだよ」

 暁はそう言ってキリヤに微笑んだ。

「そっか……先生はもう――よかったね! 本当によかった!!」

 キリヤは嬉しそうな顔でそう言ったのだった。

「ああ」

 それから暁は帰宅するために研究所の廊下を歩いていると、

「暁先生!」

 背後からそう呼ばれて、振り返った。

 すると、そこには微笑みながらゆっくりと暁の方に歩いてくるゆめかの姿があった。

「あ、白銀さん! お久しぶりです!!」

 暁は笑顔でそう答える。

「聞いたよ、『獣人化ビースト』の能力が消失したらしいじゃないか」
「はい! ……でもいざなくなると、なんだか寂しいようなそんな感じですね」

 そう言って苦笑いをする暁。

「ははは! 私も能力が消失した時は、似たようなことを思ったかもしれないね。なんにしても、おめでとう」
「はい、ありがとうございます!」

 暁はそう言って満面の笑みで答えた。

「あ、それとなんだけど……新設する学校の資料はどうなっているんだい?」

 ゆめかはニヤニヤと笑いながらそう言った。

「あ……」

 ゆめかに言われてから、作成途中の資料のことを思い出し、青ざめた表情をする暁。

 しまった。そうだった――!

「まさか……能力消失に浮かれて、出来ていない! なんてことは――」
「し、仕上げます! 今すぐに!!」
「あはは! でも、無理はしないようにね」
「はい!! それじゃ、失礼します!!」

 そう言って暁はゆめかに頭を下げると、廊下を一目散に駆けていった。

「廊下を走ると危ないよ! それと、入り口に八雲君が待機しているからね!!」
「ありがとうございます!!」

 それから暁は施設に戻って行ったのだった。
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