上 下
444 / 501
アフターストーリー

第1話ー④ 決着

しおりを挟む
「いやいやいや! 僕の実家だよ、じゃないでしょ!? そんな話、聞いてないよ!? それに私、今日は菓子折りの一つも……」

 そう言って肩を落とす優香。

「か、菓子折り!? いらないよ、そんなの! ただの里帰りなんだから!」
「キリヤ君がそうでも、私は違うでしょ!? ああ、粗相がないようにしないと」

 優香はそう言いながら、そわそわとしていた。

 そんな優香を見て、キリヤはクスクスと笑う。

「な、なんで笑うの!?」
「いつもの冷静な優香じゃないなって思って」
「そ、それはそうでしょ!! だ、だって、その……」

 そう言ってもじもじする優香。

「あ! もしこのまま付き合っていたら、いつかはそういうことになるかもしれないもんね!」
「なんかいろいろと腹が立つ言い方だけど、まあそうよね」

 そう言ってキリヤを睨む優香。

 僕、何か悪いことをいったのかな――

 そう思いながら困り顔をして、キリヤは優香を見つめた。

「あ、えっと……じゃあ――」

 そう言って、キリヤがインターホンを押そうとすると、

「ちょっと待って! 心の準備があ!!」

 優香はそう言ってキリヤに泣きつく。

「えええ……」

 キリヤがそんな優香に困っていると、

「キリヤ、優香!!」

 そう言いながら駆けてくる一人の少女の姿があった。

 そしてその少女は並んで立つキリヤと優香に抱き着いた。

「久しぶり! ずっと会いたかった」
「マリア! 僕も会いたかったよ!!」

 キリヤはそう言いながら、飛び込んできたマリアの背中をぽんぽんと叩く。

「おかえり、キリヤ」
「ただいま、マリア」

 そう言って微笑みあうキリヤとマリア。

 そしてそんな2人の会話を嬉しそうに聞いてる優香だった。



 ――桑島家。

 キリヤたちを連れたマリアは、そのままリビングへ向かい、

「ただいま、お母さん。キリヤたち連れてきたよ」

 リビングにいた母に笑顔でそう言った。

「あら! 予定より早かったのね!! おかえりなさい、キリヤ! マリアも」

 母さん、昔から変わらないな。相変わらず、マリアに似て綺麗だ――

「う、うん。えっと――ただいま、母さん。久しぶり」

 キリヤは照れながら、母にそう言った。

「うふふ。あれ、後ろにいる子は?」

 キリヤの後ろにいた優香を見つけたキリヤの母は、首を傾げてそう言った。

「ああ、えっと――」
「あ、わかった! キリヤの未来のお嫁さんね!! だから一緒に来たんでしょ?」

 キリヤの母は両手の指を合わせて、嬉しそうに笑い、そう言った。

「え、あ、違っ――わないけど……まだそういうじゃないからっ!!」
「うふふ」

 キリヤたちの会話を聞いていた優香は一歩前に出ると、

「あ、の! 私、糸原優香と申します。キリヤ君とその……交際させていただいております。不束者ではございますが、お見知り置きください」

 そう言って頭を下げた。

「あら、礼儀正しいのね! えっと、私も不束な母ではございますが、お見知り置きを!」

 そう言ってキリヤの母も頭を下げる。

「優香、相変わらずなんだね」

 マリアはそう言って楽しそうに笑う。

「あら、マリアも知り合いなの?」
「うん。施設で一緒だった。優香は私と同い年だけど、飛び級してキリヤと一緒に卒業したの」
「飛び級!? すごいのね~」

 感心しながら、キリヤの母は頷いた。

「いえいえ、そんな私なんてまだまだです」
「勉強もできて、面倒見も良くて……私もたくさんお世話になったの」

 マリアは優香の方を見て、微笑みながらそう言った。

「まあ! それはたくさんおもてなしをしないとだわ! 優香ちゃん、ゆっくりしていってね!」

 そう言ってキリヤの母は優香に微笑んだ。

「あ、ありがとうございます!」

 優香も嬉しそうにそう言って、微笑んだのだった。

「じゃあ荷物もあって大変だろうし、いったんキリヤたちは部屋でくつろいできたら? それにもうすぐ夕食だしね」
「夕食の準備なら、私もお手伝いを――」

 優香がそう言うと、キリヤの母は優香の方に手を乗せて、

「優香ちゃんはお客様なんだから、ゆっくりしていて? ほら、キリヤ! エスコートしてあげなくちゃ! 男の子でしょ?」

 そう言ってからキリヤにウインクをした。

 エスコート!? そうだよね、たまには男らしくしないと――!

「うふふ。それでは、よろしくお願いしますね、キリヤ君?」
「うん、任せて!」

 それから母は何かを思い出したような顔をし、

「あ、そうだ! お父さんにも挨拶してきたら? 久しぶりに帰ってきたんだから」

 そう言ってからニコッと笑った。

「うん、そうだね。わかった!」

 そしてキリヤは優香の方を向き、

「優香も、いいかな?」

 真面目な顔でそう言った。

「う、うん!」

 それからキリヤと優香は、仏壇がある和室へやってきた。

「この人って?」
「お父さん――前のお父さんの仏壇だよ」
「前の、お父さん……」

 目を丸くして、仏壇とキリヤを交互に見る優香。

「そう。僕が5歳の時に交通事故で亡くなってね……だから、今のお父さんは本当のお父さんじゃないんだ」

 そう言って悲しそうに笑うキリヤ。

「そう、だったんだ」
「じゃあ、これ」

 そう言ってキリヤは優香に線香を手渡す。

「1日に2回も線香をあげるなんてね」

 キリヤは線香を見つめながら、そう呟いた。


「あげられるときは極力あげたほうがいいよ。私もこの前お母さんのお墓に言ったけど、早く来ていればよかったって思ったからさ」

「そうなんだね。じゃあ、これからはなるべくこの場所へ来るようにするよ。そうじゃないと、お父さんも悲しむかもしれないからさ」


 キリヤは仏壇にある生前の父の写真を見ながら、そう言って微笑んだ。

 それからキリヤは線香を立てて、手を合わせる。

 ただいま、父さん。やっとここへ帰ってこれたよ。なかなかただいまが言えなくてごめんね。またすぐに出なくちゃいけないけど、今度はもっと早く帰ってくるからね――

「じゃあ、今度は優香だよ」
「はい!」

 それから優香も線香を立て手を合わせ、キリヤの父に挨拶を済ませた。

「優香、ありがとう」
「なんでお礼?」

 そう言って首を傾げる優香。

「父さん、喜んだかなって思って」

 その言葉に優香は、

「そうだと、いいな」

 そう言って嬉しそうに笑った。

「うん。きっとそうだよ!」

 それからキリヤと優香は見つめ合い、微笑みあった。

「――じゃあ僕の部屋に行こうか! 数年ぶりだから、すごく汚れているかもしれないけど……」

 キリヤはそう言って頭を掻いた。

「あはは。そうしたら、2人で片付けよう。私、部屋の片づけは得意なんだから!」
「そうだったね。それじゃ、よろしくお願いします」

 それからキリヤたちは部屋へと向かったのだった。
しおりを挟む

処理中です...