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35 再会

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 最悪な別れをしてからずっと顔を合わせていなかった。声を聞くのもあの日以来。
 しかし、幼馴染で恋人だったその男と過ごした時間はあまりにも長く、久しぶりであっても声を間違えるはずはない。

「やっぱり、マリアだ……
 見違えるほど変わってしまって気づかなかったが、声で分かったよ」

 ああ、間違いない。綺麗な茶色の髪に無駄に整った顔をした騎士服がよくお似合いの男は、間違いなくテッドだわ。
 んっ? 別れた時はすごく感じ悪くて、私とは顔も合わせたくないような態度だったくせに、仕事中で同僚が沢山いるからなのか、やたら感じよく話しかけてきたわ。
 ……何だか幻滅する。こうやって表向きは良い人そうに振る舞って、裏で私を馬鹿にして浮気をしていたんでしょ?
 ドリスさんを愛していて結婚の約束をしているとか言っておきながら簡単に別れたみたいだし。
 やっぱりテッドは、王都に来て遊び人の騎士になってしまったのね。最低な男……。幼馴染であっても、もう関わりたくはないわ。

 テッドはずっと探していた〝真実の愛〟の相手のマリアに再会出来たことを純粋に喜んでいたのだが、マリアにその気持ちが伝わることはない。
 マリアは、テッドが自分を探していたことや復縁を希望していることなど全く知らなかったし、最悪な別れをした元恋人としか思っていないので、感じよく話しかけられても警戒心しかなかったのだ。
 しかし、その場にいた騎士達はマリアに熱のこもった目を向けるテッドの気持ちにすぐ気付いていた。

「部隊長、そちらの美しい人は部隊長のお知り合いの方ですか?」

「マリアさんと部隊長が知り合い?
 えー! こんな綺麗な人と知り合いだから、部隊長はモテても誰も相手にしなかったんですね」

 周りの騎士達やヘクターは、興味津々にマリアを見て勝手なことを言っているが、マリア本人からすればそれは嫌な視線で不愉快でしかなかった。

 私の前では綺麗だとか褒めて、裏では田舎娘だとかダサいとか言ってみんなで笑うんでしょ? もう騎士には騙されないわ!
 テッドと今さら話すことはないし、適当なことを言ってさっさと帰ろう。

「テッドさん、お久しぶりです。騎士のお仕事を頑張っていらっしゃるのですね。お元気そうで何よりですわ」

「マリア……?」

「これから約束がありますので、私はこれで失礼させていただきます。ご機嫌よう」

 マリアは公爵家で鍛えられた完璧な作り笑顔と、他人行儀な口調でテッドに挨拶をした。そして、カミラから学んだ完璧な礼をし、さっとその場から立ち去る。
 昔のマリアなら、感情を爆発させてテッドを殴ったかもしれない。しかし、人前でそんなことをしても恥をかくのは自分。こんな時は大人の女性らしく、隙のない完璧な笑顔で相手を拒絶するのが一番だとカミラやクレアお嬢様から学んでいた。

 もう今までの私とは違うのよ。
 テッドなんて、今さら相手にする価値もないわ。

 勤務中のテッドや他の騎士達は、マリアを追いかけてくることはなく、その日はそれで終わった。

 王都騎士団は王都の街中の警備も担当しているから、歩く時は注意した方がいいわね。王都は広くて人が沢山いるから、テッドには会わないだろうと思っていたけど、その考えは甘かった。次は王都騎士団を徹底的に避けて行動するようにしよう。

 ところが、それから少ししてマリアはアンから食事会に誘われる。

「クリフが職場の同僚達に、出会いの場が欲しいから女の子と食事会がしたいと頼まれたらしくて……
 どうしても人数が足りないから、マリアも来てもらってもいいかい?
 クリフが私達の結婚式に招待したいメンバーらしいから、私も式の前に挨拶をしておきたいと思って引き受けてしまったんだよ。
 途中で帰ってもいいから、少しだけ来てくれたら助かる」

 アンさんの結婚式が関係するなら断れないわ。
 でも、アンさんには私の元恋人が王都騎士団にいるって打ち明けておこう。お世話になっているアンさんに隠し事は良くないもの。

 アンには、元恋人が騎士ということは打ち明けていたが、王都騎士団にいるとは話していなかった。
 マリアから最近の出来事や王都騎士団の元恋人の話を聞いたアンは、無理に参加しなくてもいいと言ってくれる。しかし、アンの友人は恋人がいる人ばかりで、食事会に誘える人は限られているらしい。そのことを聞いていたマリアは、今回だけは参加することにした。

 そして食事会の当日、アンは気合を入れてマリアにヘアメイクをする。
 服やバッグ、靴のコーディネートまで完璧にしてくれて、目立ちたくないマリアは少し困ってしまった。

 私はアンさんより目立ちたくないのに……

「マリアの元恋人が来るかもしれないから、今日はいつもより更に綺麗にしておいたよ。
 自分を捨てた元恋人には、綺麗になって幸せそうにしている姿を見せるのが一番の復讐になるからね」

 メラメラと闘志を燃やすアンを見て、マリアは何も言えなかった。


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