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44 辺境の地
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「マリア姉ちゃん、今日のご飯は何?」
「今日はジャガイモのスープと、チーズを貰ったからパンに挟んで食べようかと思っているの」
「またジャガイモ? でも、マリア姉ちゃんの料理は兄ちゃんが作った料理より美味しいから我慢するよ」
「私の料理を美味しいって言ってくれるのはカールだけよ。実家の弟や妹はそんな風に言ってくれなかったもの。ありがとう!」
「えっ? 兄ちゃんもマリア姉ちゃんの料理は美味しいって言ってたよ。兄ちゃんは無口だけど、マリア姉ちゃんが家のことをしてくれるから助かるって言ってた!」
逃げ出した後、マリアは眠らずに山の中を歩き続けた。しかし方向音痴のマリアは、王都とは反対の方向に歩いてしまう。さらに、小屋の高い窓から飛び降りた時に足を痛めていたらしく、時間が経ってから痛みだして足を引きずって移動していた。食べる物もなく疲労が溜まっていたマリアは、小屋から逃げ出した数日後には力尽きて山の中で倒れてしまう。
そんなマリアを助けてくれたのが、木こりの兄弟のカールとダニーだった。カールはマリアの一つ年上の青年でダニーはまだ十歳のかわいい男の子だ。
汚れた格好でボロボロになっていたマリアを見たカールは、貧しい農家から逃げ出してきた訳ありの娘だと勘違いして、しばらく家にいていいと言ってくれた。
タダ飯を食べるのは悪いと思ったマリアは、体が動けるようになると、食事の準備や掃除、洗濯などをするようになる。
足の痛みもなくなってきたし、これなら少しくらい歩いても大丈夫だわ。そろそろここを出て王都に戻ろうかしら。みんな心配しているだろうし、いつまでもここにいるわけにはいかない。早く帰ってクレアお嬢様に会いたい。
元気になったマリアは、初めてカールにここに自分が来た事情を打ち明けた。そして、そろそろ王都に戻りたいということを話すが、その時になってここが隣国寄りの辺境の地であることを知る。しかもこの土地は辺境なだけあって、少し道を間違えると魔物が多く住む物騒な場所に入ってしまうらしい。カール達が保護する前にマリアが魔物に襲われずにいたことは、奇跡に近いとまで言われた。
更に今の季節は魔物が活発に活動する時期なので、もう少し待った方がいいと言われ、魔物が怖いマリアは、しばらくカール達の家にいることにした。
「マリア、この前は子守りをしてくれたから助かったよ。うちの子供達がマリアとまた遊びたいって言ってたんだ。
これ、うちで作ったバターとチーズだけど良かったら食べておくれ」
「いつもありがとうございます。おばさんのくれるチーズが大好きなんで、とっても嬉しいです!
子守りならいつでも言って下さいね」
カールの家に居候をするマリアは、気がつくと近所の人達とも仲良くなっていた。会えば愛嬌よく挨拶をするマリアは、近所のおばさんや子供達とすぐに仲良くなり、子守りや畑仕事を手伝うようにしたら近所の人から受け入れられていたのだ。
このおばさんはカールの家の近くで酪農をしていて、何かあるとこうやってバターやチーズをくれるので、とっても助かっていた。
「ところで、マリアとカールはいつ結婚するんだい?
ダニーも懐いているんだし、早くした方がいいね。
お祝いのケーキくらいは焼いてやるから、決まったら早めに教えておくれ」
突然、おばさんの口から結婚というあり得ない言葉が出てきた。
もしかして、私とカールがそんな仲だって思われている? 近所の人には、悪い奴から逃げている途中でカールに助けてもらったって話はしてあるのに。
同年代の男の人の家に長く世話になりすぎたのがよくなかったのかも。
カールは無口だけど優しいから、何も言わずに私を置いてくれただけなのに、何だか悪かったなぁ。
「おばさん、私とカールはそんな関係じゃないです。カールは優しいから、魔物が落ち着く時期までここにいた方がいいって言ってくれただけですよ。
私は時期がきたら、大切な人が待っている王都に戻るつもりです」
大切な人とはクレアお嬢様のことだ。しかし、事情を知らないおばさんは……
「ええー? 私達はみんなマリアとカールは恋仲なのかと思っていたんだよ。
カールは口数は少ないが、真面目でいいヤツなんだ。早くに両親を亡くしてね……。まだ幼かったダニーの面倒をみながら、ここまで頑張ってきたんだよ。優しくて子煩悩だから亭主にするならオススメの男だ」
「ふふ……。カールがいい人なのは分かってます。きっと素敵な人が現れますよ。
私はどうしても王都に戻らなければならないので……」
「そうかい……。それは残念だよ」
このおばさんとのやり取りが、後に大きな波乱を呼ぶことになる。
「今日はジャガイモのスープと、チーズを貰ったからパンに挟んで食べようかと思っているの」
「またジャガイモ? でも、マリア姉ちゃんの料理は兄ちゃんが作った料理より美味しいから我慢するよ」
「私の料理を美味しいって言ってくれるのはカールだけよ。実家の弟や妹はそんな風に言ってくれなかったもの。ありがとう!」
「えっ? 兄ちゃんもマリア姉ちゃんの料理は美味しいって言ってたよ。兄ちゃんは無口だけど、マリア姉ちゃんが家のことをしてくれるから助かるって言ってた!」
逃げ出した後、マリアは眠らずに山の中を歩き続けた。しかし方向音痴のマリアは、王都とは反対の方向に歩いてしまう。さらに、小屋の高い窓から飛び降りた時に足を痛めていたらしく、時間が経ってから痛みだして足を引きずって移動していた。食べる物もなく疲労が溜まっていたマリアは、小屋から逃げ出した数日後には力尽きて山の中で倒れてしまう。
そんなマリアを助けてくれたのが、木こりの兄弟のカールとダニーだった。カールはマリアの一つ年上の青年でダニーはまだ十歳のかわいい男の子だ。
汚れた格好でボロボロになっていたマリアを見たカールは、貧しい農家から逃げ出してきた訳ありの娘だと勘違いして、しばらく家にいていいと言ってくれた。
タダ飯を食べるのは悪いと思ったマリアは、体が動けるようになると、食事の準備や掃除、洗濯などをするようになる。
足の痛みもなくなってきたし、これなら少しくらい歩いても大丈夫だわ。そろそろここを出て王都に戻ろうかしら。みんな心配しているだろうし、いつまでもここにいるわけにはいかない。早く帰ってクレアお嬢様に会いたい。
元気になったマリアは、初めてカールにここに自分が来た事情を打ち明けた。そして、そろそろ王都に戻りたいということを話すが、その時になってここが隣国寄りの辺境の地であることを知る。しかもこの土地は辺境なだけあって、少し道を間違えると魔物が多く住む物騒な場所に入ってしまうらしい。カール達が保護する前にマリアが魔物に襲われずにいたことは、奇跡に近いとまで言われた。
更に今の季節は魔物が活発に活動する時期なので、もう少し待った方がいいと言われ、魔物が怖いマリアは、しばらくカール達の家にいることにした。
「マリア、この前は子守りをしてくれたから助かったよ。うちの子供達がマリアとまた遊びたいって言ってたんだ。
これ、うちで作ったバターとチーズだけど良かったら食べておくれ」
「いつもありがとうございます。おばさんのくれるチーズが大好きなんで、とっても嬉しいです!
子守りならいつでも言って下さいね」
カールの家に居候をするマリアは、気がつくと近所の人達とも仲良くなっていた。会えば愛嬌よく挨拶をするマリアは、近所のおばさんや子供達とすぐに仲良くなり、子守りや畑仕事を手伝うようにしたら近所の人から受け入れられていたのだ。
このおばさんはカールの家の近くで酪農をしていて、何かあるとこうやってバターやチーズをくれるので、とっても助かっていた。
「ところで、マリアとカールはいつ結婚するんだい?
ダニーも懐いているんだし、早くした方がいいね。
お祝いのケーキくらいは焼いてやるから、決まったら早めに教えておくれ」
突然、おばさんの口から結婚というあり得ない言葉が出てきた。
もしかして、私とカールがそんな仲だって思われている? 近所の人には、悪い奴から逃げている途中でカールに助けてもらったって話はしてあるのに。
同年代の男の人の家に長く世話になりすぎたのがよくなかったのかも。
カールは無口だけど優しいから、何も言わずに私を置いてくれただけなのに、何だか悪かったなぁ。
「おばさん、私とカールはそんな関係じゃないです。カールは優しいから、魔物が落ち着く時期までここにいた方がいいって言ってくれただけですよ。
私は時期がきたら、大切な人が待っている王都に戻るつもりです」
大切な人とはクレアお嬢様のことだ。しかし、事情を知らないおばさんは……
「ええー? 私達はみんなマリアとカールは恋仲なのかと思っていたんだよ。
カールは口数は少ないが、真面目でいいヤツなんだ。早くに両親を亡くしてね……。まだ幼かったダニーの面倒をみながら、ここまで頑張ってきたんだよ。優しくて子煩悩だから亭主にするならオススメの男だ」
「ふふ……。カールがいい人なのは分かってます。きっと素敵な人が現れますよ。
私はどうしても王都に戻らなければならないので……」
「そうかい……。それは残念だよ」
このおばさんとのやり取りが、後に大きな波乱を呼ぶことになる。
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