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03 会いたくない
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私の様子がおかしいことに気付いたセシリアは、フラつく私の体を支えてその場から連れ出してくれた。
そして今は、セシリアとマクラーレン公爵令息と三人で庭園のベンチに座っている。
「フローラ、先に謝っておくわ。こんな時にズケズケと聞いてしまうことを許してね。
……あの部屋の中にアストン様がいたの?」
私はセシリアを見て黙って頷く。
「……何を見たの? 何かよろしくない取引でもしていた?」
「抱き合ってた……」
「は?」
「リリアンを……愛してるって言って抱きしめてた……」
義妹の名前を出した瞬間、涙が溢れてくる。
愛する婚約者からの裏切りだけでもこんなに辛いのに、その相手が義妹ということが更にショックだったのだ。
「……信じられないわ。アストン様はフローラを溺愛しているようにしか見えなかったから」
「リリアンも……、愛してるって……言って……っ!」
泣く私を優しく抱きしめてくれるセシリア。
親友に抱きしめられたことで、余計に涙が止まらなくなってしまう。
「とりあえず、今日は帰ろう。
きっとあの男と女は、何事も無かったかのように戻ってくるはずだ。今日はあの二人に会うのは辛いだろうから先に帰った方がいい。
私とセシリアでシーウェル伯爵令嬢を送っていこう。気分が悪くなったから先に帰ると、使用人に言付けを頼んでおけば大丈夫だ」
「そうね……。ここにいるのも良くないわ。
このまま人目に付かないように帰りましょう」
「マクラーレン様……、申し訳ありません。
セシリア、巻き込んでしまってごめんね」
ボロボロになった私は、二人の優しさに甘えることにした。
その夜はショックでなかなか眠れなかった。婚約した時は嬉しくて眠れなかったのに、今は裏切られて眠れなくなるなんて……
翌日、私は気分が悪いと言って部屋にこもっていた。眠れなかった私は顔色が悪く、目の下にクマができていたので、本当の病人のように見えていたようだ。更に食欲もなかったので、心配したメイド達によって侍医を呼ばれてしまう。
「疲れが溜まっているのでしょう。
季節の変わり目は体調を崩しやすいですから、無理せずに安静にして下さい」
「先生、ありがとうございました」
侍医が優しい先生で良かった。仮病だとか言われなかったから、しばらくは部屋にこもっていよう。
私とリリアンはお互いの部屋を行き来するほど仲が良い義姉妹ではなかったから、部屋にいれば顔を見なくて済む。今はあの子を見て冷静でいれる自信がない。
しかし、その日の午後に最も会いたくない人物が来てしまうのであった。
「お嬢様、アストン様がいらしゃいました」
私の専属メイドのマリーが、レイ様の来訪を教えてくれる。事情を知らないマリーは、彼が来て私が喜ぶと思っているようだ。
「具合が悪いからお会い出来ないとお伝えして」
「あの、お嬢様を見舞いたいとすでにこちらにいらしております」
「……」
しくじったわ……
私達は仲のいい婚約者同士だったし、もうすぐ結婚するからと、自由にお互いの家や部屋に行き来していた。それに、具合が悪い時に彼がお見舞いに来てくれることを今までの私は喜んでいたから、家令やメイド達はいつも通りに彼を邸に招き入れてしまったのだと思われる。
私がマリーとやり取りをしている間に、彼は私の部屋に入ってきてしまった。
「ローラ、大丈夫かい?
昨夜は、君が具合が悪くなって先に帰ったと聞いて心配していたんだ。
体調の悪い君の側を離れてしまってすまなかった」
なんて演技の上手な人なんだろう。
レイ様の表情も私を見つめる目も、心から心配してくれているようにしか見えない。
でも、今はそんな彼の姿を見るのはとても辛かった。
昨夜はあんな裏切りをしておきながら、何事もなかったかのように、こうやって私のお見舞いに来るなんて……
「……うっ。き、気持ち悪い」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「レイ様……、気持ちが悪くて吐き気がするので、しばらくお見舞いは遠慮していただけると……」
吐きそうになっていた私は、この一言を話すだけで精一杯だった。
「ローラ、すごく具合が悪そうだ。ここまで酷いとは思わなかったよ。
急に会いに来て悪かった。また来るよ」
レイ様は私の額にキスをして帰って行った。
彼が退室してすぐ……
「うっ……うぅ」
私はトイレに駆け込み、嘔吐してしまった。
「お嬢様……、大丈夫ですか?
体調が更に悪くなっているように見えますわ」
「……そのうち治るとは思うのだけど、こんな感じだからレイ様がお見舞いに来ても、勝手に部屋に通すことはやめてくれると助かるわ。
こんなみっともない姿を見せたくないのよ。家令やメイド長たちにも伝えておいてくれる?」
「はい。先程はお嬢様に確認せずに通してしまって申し訳ありませんでした。メイド長たちには私から伝えておきます」
「マリー、頼んだわよ」
これでレイ様がお見舞いに来ても、勝手に部屋に入って来れないだろう。
しかし、彼はそれから毎日のようにお見舞いにやってくる。私の好きなお菓子や花などを持って会いに来てくれる彼は、周りからは婚約者を大切にする素敵な令息にしか見えないだろう。
私の家族や伯爵家の使用人達から評判の良い彼が、リリアンと不貞をしているだなんて誰が信じてくれる?
彼に会いたくなかった私は、具合が悪いことを理由に面会を断っているが、それをいつまでも続けることは難しいだろう。
あと三ヶ月後には彼と結婚する予定なのに、このままでいいの?
どちらにしても、ずっと逃げ続けることは出来ないのよね……
そんな日々を送っていたら、ついにあの女が私の部屋にやって来る。
そして今は、セシリアとマクラーレン公爵令息と三人で庭園のベンチに座っている。
「フローラ、先に謝っておくわ。こんな時にズケズケと聞いてしまうことを許してね。
……あの部屋の中にアストン様がいたの?」
私はセシリアを見て黙って頷く。
「……何を見たの? 何かよろしくない取引でもしていた?」
「抱き合ってた……」
「は?」
「リリアンを……愛してるって言って抱きしめてた……」
義妹の名前を出した瞬間、涙が溢れてくる。
愛する婚約者からの裏切りだけでもこんなに辛いのに、その相手が義妹ということが更にショックだったのだ。
「……信じられないわ。アストン様はフローラを溺愛しているようにしか見えなかったから」
「リリアンも……、愛してるって……言って……っ!」
泣く私を優しく抱きしめてくれるセシリア。
親友に抱きしめられたことで、余計に涙が止まらなくなってしまう。
「とりあえず、今日は帰ろう。
きっとあの男と女は、何事も無かったかのように戻ってくるはずだ。今日はあの二人に会うのは辛いだろうから先に帰った方がいい。
私とセシリアでシーウェル伯爵令嬢を送っていこう。気分が悪くなったから先に帰ると、使用人に言付けを頼んでおけば大丈夫だ」
「そうね……。ここにいるのも良くないわ。
このまま人目に付かないように帰りましょう」
「マクラーレン様……、申し訳ありません。
セシリア、巻き込んでしまってごめんね」
ボロボロになった私は、二人の優しさに甘えることにした。
その夜はショックでなかなか眠れなかった。婚約した時は嬉しくて眠れなかったのに、今は裏切られて眠れなくなるなんて……
翌日、私は気分が悪いと言って部屋にこもっていた。眠れなかった私は顔色が悪く、目の下にクマができていたので、本当の病人のように見えていたようだ。更に食欲もなかったので、心配したメイド達によって侍医を呼ばれてしまう。
「疲れが溜まっているのでしょう。
季節の変わり目は体調を崩しやすいですから、無理せずに安静にして下さい」
「先生、ありがとうございました」
侍医が優しい先生で良かった。仮病だとか言われなかったから、しばらくは部屋にこもっていよう。
私とリリアンはお互いの部屋を行き来するほど仲が良い義姉妹ではなかったから、部屋にいれば顔を見なくて済む。今はあの子を見て冷静でいれる自信がない。
しかし、その日の午後に最も会いたくない人物が来てしまうのであった。
「お嬢様、アストン様がいらしゃいました」
私の専属メイドのマリーが、レイ様の来訪を教えてくれる。事情を知らないマリーは、彼が来て私が喜ぶと思っているようだ。
「具合が悪いからお会い出来ないとお伝えして」
「あの、お嬢様を見舞いたいとすでにこちらにいらしております」
「……」
しくじったわ……
私達は仲のいい婚約者同士だったし、もうすぐ結婚するからと、自由にお互いの家や部屋に行き来していた。それに、具合が悪い時に彼がお見舞いに来てくれることを今までの私は喜んでいたから、家令やメイド達はいつも通りに彼を邸に招き入れてしまったのだと思われる。
私がマリーとやり取りをしている間に、彼は私の部屋に入ってきてしまった。
「ローラ、大丈夫かい?
昨夜は、君が具合が悪くなって先に帰ったと聞いて心配していたんだ。
体調の悪い君の側を離れてしまってすまなかった」
なんて演技の上手な人なんだろう。
レイ様の表情も私を見つめる目も、心から心配してくれているようにしか見えない。
でも、今はそんな彼の姿を見るのはとても辛かった。
昨夜はあんな裏切りをしておきながら、何事もなかったかのように、こうやって私のお見舞いに来るなんて……
「……うっ。き、気持ち悪い」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「レイ様……、気持ちが悪くて吐き気がするので、しばらくお見舞いは遠慮していただけると……」
吐きそうになっていた私は、この一言を話すだけで精一杯だった。
「ローラ、すごく具合が悪そうだ。ここまで酷いとは思わなかったよ。
急に会いに来て悪かった。また来るよ」
レイ様は私の額にキスをして帰って行った。
彼が退室してすぐ……
「うっ……うぅ」
私はトイレに駆け込み、嘔吐してしまった。
「お嬢様……、大丈夫ですか?
体調が更に悪くなっているように見えますわ」
「……そのうち治るとは思うのだけど、こんな感じだからレイ様がお見舞いに来ても、勝手に部屋に通すことはやめてくれると助かるわ。
こんなみっともない姿を見せたくないのよ。家令やメイド長たちにも伝えておいてくれる?」
「はい。先程はお嬢様に確認せずに通してしまって申し訳ありませんでした。メイド長たちには私から伝えておきます」
「マリー、頼んだわよ」
これでレイ様がお見舞いに来ても、勝手に部屋に入って来れないだろう。
しかし、彼はそれから毎日のようにお見舞いにやってくる。私の好きなお菓子や花などを持って会いに来てくれる彼は、周りからは婚約者を大切にする素敵な令息にしか見えないだろう。
私の家族や伯爵家の使用人達から評判の良い彼が、リリアンと不貞をしているだなんて誰が信じてくれる?
彼に会いたくなかった私は、具合が悪いことを理由に面会を断っているが、それをいつまでも続けることは難しいだろう。
あと三ヶ月後には彼と結婚する予定なのに、このままでいいの?
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