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11 リリアンの本音
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セシリアやマクラーレン様と定期的に会い、計画を練る日々を送っていたある日の夕食時、珍しく父が話しかけてくる。
「フローラ。教会から連絡がきたんだが、お前とアストン卿の結婚式の司式は大神官様がなさるそうだ。
大神官様は我が国の聖職者のトップを務める、大変高貴な方だ。そのような方が司式をしてくれるなんて、とても光栄なことだぞ。結婚式が今から楽しみだな」
「まあ! 大神官様が司式を?
緊張してしまいますわ。粗相のないように気をつけます」
「ああ。結婚式の準備は抜かりなく行うように」
父は笑顔で話しているが、私の結婚式にそこまで興味がないことなど知っている。
私が具合が悪くて寝込んでいても、一度も様子を見に来ることすらしなかった父。しかし義母は飲み物を持って来てくれたり、何かあったのかと声を掛けてくれたりした。父よりも、義母の方が私の本当の家族だと思っている。
それよりも、マクラーレン様の仕事の早さには驚きだわ。
実はこのことは、裏でマクラーレン様が動いてくれている。大神官様というとても偉い人が司式をする結婚式ならば、絶対に当日キャンセルは出来ないだろうという理由から動いてくれたのだ。
大神官様はマクラーレン様の大伯父で、未婚で孫がいないからと、彼のことをとても可愛がってくれているらしい。最近は高齢で物忘れもあるからと、あまり公式な場には出てこないらしいが、結婚式の司式なら出来るだろうからとマクラーレン様が頼んでくれたようだ。
……ふと、私のことを蔑むような目で見ているリリアンに気付いてしまった。
リリアンは食事の場では、父や義母の目を気にしているのか、ほとんど喋らずに黙っていることが多い。父の前では猫被りをしているのだと思う。
いつもならあの不愉快なリリアンの視線は知らんぷりして流すけど、そんなに私が気になるなら、今日は私から話を振ってあげるわ。
「お父様。私はもうすぐ嫁ぎますが、リリアンの婚約者は探さないのでしょうか?
もう学園を卒業しておりますし、そろそろ決めた方がいいのでは?
いつまでもお相手が見つからないようでは可哀想ですわ」
まさか、自分の話を父にされると思っていなかったリリアンは、一瞬驚いた表情をした後に私を鋭い目で見つめていた。この場で何を言われたとしても、父の前では我慢して黙っているのがリリアンなのだ。
「フローラ、大丈夫だ。リリアンの婚約者探しは前からずっとしている。しかし、色々な事情があってなかなか難しいのだよ」
見つからないのね……。リリアンは社交界で評判はよろしくないものね。特に年上の奥様達からは、マナーがなっていないと嫌われているもの。私達と同世代の息子のいる奥様方に嫌われたら、縁談の話なんて来るわけがない。
義母に悪いから、そこまでのことは言えないけれど……
「リリアンはとても可愛いから、すぐ見つかるわ」
「お義姉様、心配して下さってありがとう」
この女はこんな時だけは、私に可愛らしくお礼を言ってくるのだ。
本当に二重人格者みたい。
夕食後、部屋に戻った後、ドアがノックされる。
……来たわね。私が返事をする前にドアが勢いよく開けられた。
「ちょっと、さっきは何なのよ!
私に婚約者がいないからって馬鹿にしないでちょうだい。
お義姉様だって、レイモンド様と上手くいってないくせに!」
その言葉を聞いて確信した。やはりリリアンは、私があの男の不貞を知っていることに気付いている。
私が苦しんでいるのが楽しくて、あの蔑む目を向けていたのかと思うと、リリアンにも、リリアンに愛を囁いていたあの男に対しても虫唾が走る。
「私があの方と上手くいかなくても、仲が悪くても、正式な婚約者なのよ。
殿方と仲良くしていても他人は他人。たとえ二人きりで過ごすほど親しくしていても、ただの友人は友人なの。
人の婚約者とちょっと親しく出来たくらいのことで勝ち誇るのはいいけど、第三者から見たらただのはしたない女にしか見えないのよ。
早く誰かと婚約したいと思うなら、自分の行動を改めるべきね。嫁ぎ先が見つからないからと、格下の貴族や親子ほど年の離れた殿方に嫁ぐのは嫌なんでしょう?」
私がリリアンにここまで厳しいことを言うのは、初めてだと思う。
そんな私の話を聞いて、リリアンはわなわなと震えていた。
ふふ……。正論を言われて悔しそうだわ。
我慢しないで言い返すと、こんなにスッキリするのね。良い子でいるのをやめたら、こんなに気持ちが楽になるとは思わなかったわ。
「何なのよ……。アンタなんか、幸せな結婚なんてさせないんだから」
ついに本音が出たわね、と思った次の瞬間、バシッと頬に強い衝撃が……
「キャー! リリアンお嬢様、やめて下さいませ。
誰か、伯爵様と奥様をお呼びして!」
マリーが大声で騒いでくれたお陰で、すぐに父と義母がやって来た。
何があったのかと問われたマリーは、私達の会話の内容やリリアンが逆上して私の頬を殴ったことなど全て告げ口していた。マリーって、口には出さないけど、リリアンのことが大嫌いなのだと思う。
「リリアン! 貴女はこの部屋の出入りを禁止したはずです。早く出て行きなさい。
挙句の果てに、フローラに暴力を振るうなんて……」
「お前はしばらく謹慎だ。部屋から出ることを禁止する。連れて行け」
その時の私は頬を殴られたことよりも、リリアンが謹慎させられることに対してショックを受けていた。
あの男が来た時にリリアンを呼んで相手をさせていたから、あんな女でもいないと不便なのよね。
「フローラ。教会から連絡がきたんだが、お前とアストン卿の結婚式の司式は大神官様がなさるそうだ。
大神官様は我が国の聖職者のトップを務める、大変高貴な方だ。そのような方が司式をしてくれるなんて、とても光栄なことだぞ。結婚式が今から楽しみだな」
「まあ! 大神官様が司式を?
緊張してしまいますわ。粗相のないように気をつけます」
「ああ。結婚式の準備は抜かりなく行うように」
父は笑顔で話しているが、私の結婚式にそこまで興味がないことなど知っている。
私が具合が悪くて寝込んでいても、一度も様子を見に来ることすらしなかった父。しかし義母は飲み物を持って来てくれたり、何かあったのかと声を掛けてくれたりした。父よりも、義母の方が私の本当の家族だと思っている。
それよりも、マクラーレン様の仕事の早さには驚きだわ。
実はこのことは、裏でマクラーレン様が動いてくれている。大神官様というとても偉い人が司式をする結婚式ならば、絶対に当日キャンセルは出来ないだろうという理由から動いてくれたのだ。
大神官様はマクラーレン様の大伯父で、未婚で孫がいないからと、彼のことをとても可愛がってくれているらしい。最近は高齢で物忘れもあるからと、あまり公式な場には出てこないらしいが、結婚式の司式なら出来るだろうからとマクラーレン様が頼んでくれたようだ。
……ふと、私のことを蔑むような目で見ているリリアンに気付いてしまった。
リリアンは食事の場では、父や義母の目を気にしているのか、ほとんど喋らずに黙っていることが多い。父の前では猫被りをしているのだと思う。
いつもならあの不愉快なリリアンの視線は知らんぷりして流すけど、そんなに私が気になるなら、今日は私から話を振ってあげるわ。
「お父様。私はもうすぐ嫁ぎますが、リリアンの婚約者は探さないのでしょうか?
もう学園を卒業しておりますし、そろそろ決めた方がいいのでは?
いつまでもお相手が見つからないようでは可哀想ですわ」
まさか、自分の話を父にされると思っていなかったリリアンは、一瞬驚いた表情をした後に私を鋭い目で見つめていた。この場で何を言われたとしても、父の前では我慢して黙っているのがリリアンなのだ。
「フローラ、大丈夫だ。リリアンの婚約者探しは前からずっとしている。しかし、色々な事情があってなかなか難しいのだよ」
見つからないのね……。リリアンは社交界で評判はよろしくないものね。特に年上の奥様達からは、マナーがなっていないと嫌われているもの。私達と同世代の息子のいる奥様方に嫌われたら、縁談の話なんて来るわけがない。
義母に悪いから、そこまでのことは言えないけれど……
「リリアンはとても可愛いから、すぐ見つかるわ」
「お義姉様、心配して下さってありがとう」
この女はこんな時だけは、私に可愛らしくお礼を言ってくるのだ。
本当に二重人格者みたい。
夕食後、部屋に戻った後、ドアがノックされる。
……来たわね。私が返事をする前にドアが勢いよく開けられた。
「ちょっと、さっきは何なのよ!
私に婚約者がいないからって馬鹿にしないでちょうだい。
お義姉様だって、レイモンド様と上手くいってないくせに!」
その言葉を聞いて確信した。やはりリリアンは、私があの男の不貞を知っていることに気付いている。
私が苦しんでいるのが楽しくて、あの蔑む目を向けていたのかと思うと、リリアンにも、リリアンに愛を囁いていたあの男に対しても虫唾が走る。
「私があの方と上手くいかなくても、仲が悪くても、正式な婚約者なのよ。
殿方と仲良くしていても他人は他人。たとえ二人きりで過ごすほど親しくしていても、ただの友人は友人なの。
人の婚約者とちょっと親しく出来たくらいのことで勝ち誇るのはいいけど、第三者から見たらただのはしたない女にしか見えないのよ。
早く誰かと婚約したいと思うなら、自分の行動を改めるべきね。嫁ぎ先が見つからないからと、格下の貴族や親子ほど年の離れた殿方に嫁ぐのは嫌なんでしょう?」
私がリリアンにここまで厳しいことを言うのは、初めてだと思う。
そんな私の話を聞いて、リリアンはわなわなと震えていた。
ふふ……。正論を言われて悔しそうだわ。
我慢しないで言い返すと、こんなにスッキリするのね。良い子でいるのをやめたら、こんなに気持ちが楽になるとは思わなかったわ。
「何なのよ……。アンタなんか、幸せな結婚なんてさせないんだから」
ついに本音が出たわね、と思った次の瞬間、バシッと頬に強い衝撃が……
「キャー! リリアンお嬢様、やめて下さいませ。
誰か、伯爵様と奥様をお呼びして!」
マリーが大声で騒いでくれたお陰で、すぐに父と義母がやって来た。
何があったのかと問われたマリーは、私達の会話の内容やリリアンが逆上して私の頬を殴ったことなど全て告げ口していた。マリーって、口には出さないけど、リリアンのことが大嫌いなのだと思う。
「リリアン! 貴女はこの部屋の出入りを禁止したはずです。早く出て行きなさい。
挙句の果てに、フローラに暴力を振るうなんて……」
「お前はしばらく謹慎だ。部屋から出ることを禁止する。連れて行け」
その時の私は頬を殴られたことよりも、リリアンが謹慎させられることに対してショックを受けていた。
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