15 / 41
14 香水
しおりを挟む
マクラーレン様は公爵令息なだけあって、ダンスがとてもお上手だった。
アストン様とのダンスは苦痛で全然楽しくなかったけど、マクラーレン様とのダンスは踊りやすく、話も楽しくてあっという間に曲が終わってしまう。
曲が終わったので、セシリアの所に戻ろうとしている途中……
「ローラ、待たせて悪かったね」
その声の人物を見て現実に引き戻される。
もう戻って来たのね。先に帰るから戻って来なくても良かったのに。
しかも、隣にいるマクラーレン様からはまた殺気のようなものを感じる。この男を本気で怒っているようだ。そんなマクラーレン様を見たら、私は自然と冷静になれた。
その時、アストン様からリリアンと同じ香水の匂いがしてくるのが分かった。
自分の匂いを付けるなんて、まるで動物のマーキングみたいね……
あの女がわざとやっているに違いない。それなら、私もリリアン達を困らせてやろうかしら?
私もこの男と馬鹿な義妹のせいでどんどん悪女になっていってるわ。
「レイ様のご友人は香水がお好きなのかしら?
このきつい匂いは、どこかで嗅いだことがある匂いですわ」
ちょっと大きめの声で、ストレートに言い過ぎてしまったかしら?
すると、あのアストン様の顔色が見る見る悪くなる。感情を隠すのが上手い人なのに、余程焦っているようだ。
そんな私達のやり取りを、マクラーレン様は面白そうに見ている。
「確かにきつい匂いだな。こんな下品な匂いの香水を付けるなんて、アストン卿も友人は選ぶべきだ。
他の人に匂いが移るほど臭い香水を夜会に付けてくるなんて、その友人は非常識だと言われても仕方がない」
マクラーレン様も、周りに聞こえるような大きな声でハッキリと非常識だと言ってくれた。確かにリリアンは非常識な女なのよ。
援護してくれて心強いわ。
「……申し訳ありません。気が付きませんでした。
ローラ、気分を害してすまない」
格上の公爵令息であるマクラーレン様に言われてしまったら、この男も素直に謝るしかないと考えたようだ。
少し離れたところにいるリリアンは、私達のことを探るようにじっと見ている。本気でアストン様が好きなら、同じ香水の匂いをぷんぷんさせて、ここまで来て庇ってあげるくらいのことをして欲しかったわ。
その時、セシリアが私達の所に来てくれる。
あの表情は何かを企んでいるわね……
「フローラ、大丈夫? 少し離れてる所にも臭い香水の匂いがしてきたから心配していたのよ。
最近、貴女は体調が悪かったから、強い匂いを嗅いで気分が悪くなったりしてない?」
セシリアもマクラーレン様も、さっきからリリアンの香水の匂いをボロクソ言っている。
……ふっ! 香水の匂いがきついリリアンが、周りからチラチラ見られて顔が引き攣っているわ。
そしてアストン様は死んだような顔になっている。
「セシリア、心配してくれてありがとう。
実は……、少し気分が悪いわ。この匂いは私の苦手な匂いなのよ」
「まあ! 大変。今すぐに帰りましょう。
アストン様からきつい香水の匂いがするから、馬車は別にした方がいいわね。
私とルイスで送っていくわ」
「そうだな。きつい匂いをぷんぷんさせている者と一緒の馬車に乗ったら、馬車酔いをしてしまう。
アストン卿。シーウェル嬢はセシリアと私で送って行くがよろしいか?」
「セシリア、マクラーレン様、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
私は、アストン様が返事をする前に二人に返事をしてしまった。
これでこの男は拒否出来ないはず……
「申し訳ありません。私の大切な婚約者のローラをよろしくお願い致します。
ローラ、気を付けて帰るんだよ。またすぐに会いにいくから待っていてくれ」
弱々しく謝るアストン様が小さく見えた。
それよりもこの男はここまで私達にコケにされたのに、またうちに来るつもりなのね。またリリアンに接待を頼もうかしら。
◇◇
「控室で抱き合って〝愛してる〟なんて言っていたわよ」
「ああ。あの二人は最悪だったな……」
帰りの馬車でセシリアとマクラーレン様から、あの二人が控室の中で抱き合っていたと報告を受ける。
やはりあの時のように、私に隠れて逢い引きをしていたようだ。
「気分の悪くなるものを見せてしまってごめんなさい。
セシリアとマクラーレン様には、私がいなくなった後、あの二人が不貞をしていたと証言して欲しいのです。
何から何まで協力してもらって、本当に申し訳ありません」
「私達はいいのよ。親友が困っていたら助けたいって思うのは当然でしょ?
でも……、いなくなった後なんて言われたら、何だか悲しくなるわ。本当に家を出るの?」
「ええ。私はもうあの二人に会いたくないし、あの家から出て行きたいの……」
「……寂しくなるわ」
セシリアは悲しげな目をしていて、そんな彼女を見た私は胸がズキズキと痛んでいた。
アストン様とのダンスは苦痛で全然楽しくなかったけど、マクラーレン様とのダンスは踊りやすく、話も楽しくてあっという間に曲が終わってしまう。
曲が終わったので、セシリアの所に戻ろうとしている途中……
「ローラ、待たせて悪かったね」
その声の人物を見て現実に引き戻される。
もう戻って来たのね。先に帰るから戻って来なくても良かったのに。
しかも、隣にいるマクラーレン様からはまた殺気のようなものを感じる。この男を本気で怒っているようだ。そんなマクラーレン様を見たら、私は自然と冷静になれた。
その時、アストン様からリリアンと同じ香水の匂いがしてくるのが分かった。
自分の匂いを付けるなんて、まるで動物のマーキングみたいね……
あの女がわざとやっているに違いない。それなら、私もリリアン達を困らせてやろうかしら?
私もこの男と馬鹿な義妹のせいでどんどん悪女になっていってるわ。
「レイ様のご友人は香水がお好きなのかしら?
このきつい匂いは、どこかで嗅いだことがある匂いですわ」
ちょっと大きめの声で、ストレートに言い過ぎてしまったかしら?
すると、あのアストン様の顔色が見る見る悪くなる。感情を隠すのが上手い人なのに、余程焦っているようだ。
そんな私達のやり取りを、マクラーレン様は面白そうに見ている。
「確かにきつい匂いだな。こんな下品な匂いの香水を付けるなんて、アストン卿も友人は選ぶべきだ。
他の人に匂いが移るほど臭い香水を夜会に付けてくるなんて、その友人は非常識だと言われても仕方がない」
マクラーレン様も、周りに聞こえるような大きな声でハッキリと非常識だと言ってくれた。確かにリリアンは非常識な女なのよ。
援護してくれて心強いわ。
「……申し訳ありません。気が付きませんでした。
ローラ、気分を害してすまない」
格上の公爵令息であるマクラーレン様に言われてしまったら、この男も素直に謝るしかないと考えたようだ。
少し離れたところにいるリリアンは、私達のことを探るようにじっと見ている。本気でアストン様が好きなら、同じ香水の匂いをぷんぷんさせて、ここまで来て庇ってあげるくらいのことをして欲しかったわ。
その時、セシリアが私達の所に来てくれる。
あの表情は何かを企んでいるわね……
「フローラ、大丈夫? 少し離れてる所にも臭い香水の匂いがしてきたから心配していたのよ。
最近、貴女は体調が悪かったから、強い匂いを嗅いで気分が悪くなったりしてない?」
セシリアもマクラーレン様も、さっきからリリアンの香水の匂いをボロクソ言っている。
……ふっ! 香水の匂いがきついリリアンが、周りからチラチラ見られて顔が引き攣っているわ。
そしてアストン様は死んだような顔になっている。
「セシリア、心配してくれてありがとう。
実は……、少し気分が悪いわ。この匂いは私の苦手な匂いなのよ」
「まあ! 大変。今すぐに帰りましょう。
アストン様からきつい香水の匂いがするから、馬車は別にした方がいいわね。
私とルイスで送っていくわ」
「そうだな。きつい匂いをぷんぷんさせている者と一緒の馬車に乗ったら、馬車酔いをしてしまう。
アストン卿。シーウェル嬢はセシリアと私で送って行くがよろしいか?」
「セシリア、マクラーレン様、ありがとうございます。よろしくお願い致します」
私は、アストン様が返事をする前に二人に返事をしてしまった。
これでこの男は拒否出来ないはず……
「申し訳ありません。私の大切な婚約者のローラをよろしくお願い致します。
ローラ、気を付けて帰るんだよ。またすぐに会いにいくから待っていてくれ」
弱々しく謝るアストン様が小さく見えた。
それよりもこの男はここまで私達にコケにされたのに、またうちに来るつもりなのね。またリリアンに接待を頼もうかしら。
◇◇
「控室で抱き合って〝愛してる〟なんて言っていたわよ」
「ああ。あの二人は最悪だったな……」
帰りの馬車でセシリアとマクラーレン様から、あの二人が控室の中で抱き合っていたと報告を受ける。
やはりあの時のように、私に隠れて逢い引きをしていたようだ。
「気分の悪くなるものを見せてしまってごめんなさい。
セシリアとマクラーレン様には、私がいなくなった後、あの二人が不貞をしていたと証言して欲しいのです。
何から何まで協力してもらって、本当に申し訳ありません」
「私達はいいのよ。親友が困っていたら助けたいって思うのは当然でしょ?
でも……、いなくなった後なんて言われたら、何だか悲しくなるわ。本当に家を出るの?」
「ええ。私はもうあの二人に会いたくないし、あの家から出て行きたいの……」
「……寂しくなるわ」
セシリアは悲しげな目をしていて、そんな彼女を見た私は胸がズキズキと痛んでいた。
390
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる