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14 香水

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 マクラーレン様は公爵令息なだけあって、ダンスがとてもお上手だった。
 アストン様とのダンスは苦痛で全然楽しくなかったけど、マクラーレン様とのダンスは踊りやすく、話も楽しくてあっという間に曲が終わってしまう。
 曲が終わったので、セシリアの所に戻ろうとしている途中……

「ローラ、待たせて悪かったね」

 その声の人物を見て現実に引き戻される。
 もう戻って来たのね。先に帰るから戻って来なくても良かったのに。
 しかも、隣にいるマクラーレン様からはまた殺気のようなものを感じる。この男を本気で怒っているようだ。そんなマクラーレン様を見たら、私は自然と冷静になれた。

 その時、アストン様からリリアンと同じ香水の匂いがしてくるのが分かった。
 自分の匂いを付けるなんて、まるで動物のマーキングみたいね……
 あの女がわざとやっているに違いない。それなら、私もリリアン達を困らせてやろうかしら?
 私もこの男と馬鹿な義妹のせいでどんどん悪女になっていってるわ。

「レイ様のご友人は香水がお好きなのかしら?
 このきつい匂いは、どこかで嗅いだことがある匂いですわ」

 ちょっと大きめの声で、ストレートに言い過ぎてしまったかしら?
 すると、あのアストン様の顔色が見る見る悪くなる。感情を隠すのが上手い人なのに、余程焦っているようだ。
 そんな私達のやり取りを、マクラーレン様は面白そうに見ている。

「確かにきつい匂いだな。こんな下品な匂いの香水を付けるなんて、アストン卿も友人は選ぶべきだ。
 他の人に匂いが移るほど臭い香水を夜会に付けてくるなんて、その友人は非常識だと言われても仕方がない」

 マクラーレン様も、周りに聞こえるような大きな声でハッキリと非常識だと言ってくれた。確かにリリアンは非常識な女なのよ。
 援護してくれて心強いわ。

「……申し訳ありません。気が付きませんでした。
 ローラ、気分を害してすまない」

 格上の公爵令息であるマクラーレン様に言われてしまったら、この男も素直に謝るしかないと考えたようだ。
 少し離れたところにいるリリアンは、私達のことを探るようにじっと見ている。本気でアストン様が好きなら、同じ香水の匂いをぷんぷんさせて、ここまで来て庇ってあげるくらいのことをして欲しかったわ。

 その時、セシリアが私達の所に来てくれる。
 あの表情は何かを企んでいるわね……

「フローラ、大丈夫? 少し離れてる所にも臭い香水の匂いがしてきたから心配していたのよ。
 最近、貴女は体調が悪かったから、強い匂いを嗅いで気分が悪くなったりしてない?」

 セシリアもマクラーレン様も、さっきからリリアンの香水の匂いをボロクソ言っている。
 ……ふっ! 香水の匂いがきついリリアンが、周りからチラチラ見られて顔が引き攣っているわ。
 そしてアストン様は死んだような顔になっている。

「セシリア、心配してくれてありがとう。
 実は……、少し気分が悪いわ。この匂いは私の苦手な匂いなのよ」

「まあ! 大変。今すぐに帰りましょう。
 アストン様からきつい香水の匂いがするから、馬車は別にした方がいいわね。
 私とルイスで送っていくわ」

「そうだな。きつい匂いをぷんぷんさせている者と一緒の馬車に乗ったら、馬車酔いをしてしまう。
 アストン卿。シーウェル嬢はセシリアと私で送って行くがよろしいか?」

「セシリア、マクラーレン様、ありがとうございます。よろしくお願い致します」

 私は、アストン様が返事をする前に二人に返事をしてしまった。
 これでこの男は拒否出来ないはず……

「申し訳ありません。私の大切な婚約者のローラをよろしくお願い致します。
 ローラ、気を付けて帰るんだよ。またすぐに会いにいくから待っていてくれ」

 弱々しく謝るアストン様が小さく見えた。
 それよりもこの男はここまで私達にコケにされたのに、またうちに来るつもりなのね。またリリアンに接待を頼もうかしら。

 
◇◇


「控室で抱き合って〝愛してる〟なんて言っていたわよ」

「ああ。あの二人は最悪だったな……」

 帰りの馬車でセシリアとマクラーレン様から、あの二人が控室の中で抱き合っていたと報告を受ける。
 やはりあの時のように、私に隠れて逢い引きをしていたようだ。

「気分の悪くなるものを見せてしまってごめんなさい。
 セシリアとマクラーレン様には、私がいなくなった後、あの二人が不貞をしていたと証言して欲しいのです。
 何から何まで協力してもらって、本当に申し訳ありません」

「私達はいいのよ。親友が困っていたら助けたいって思うのは当然でしょ?
 でも……、いなくなった後なんて言われたら、何だか悲しくなるわ。本当に家を出るの?」

「ええ。私はもうあの二人に会いたくないし、あの家から出て行きたいの……」

「……寂しくなるわ」

 セシリアは悲しげな目をしていて、そんな彼女を見た私は胸がズキズキと痛んでいた。

 
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