婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ

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16 結婚指輪

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 翌日、私は結婚指輪を注文していた宝石店に来ていた。

「結婚指輪のサイズの変更ですか?」

「ええ……。もし、アストン侯爵家にまだ指輪を納品していないなら、今すぐにサイズを直して欲しいのよ。
 実は最近まで臥せっていたら少し痩せてしまったようで、先にこちらの店で作って頂いた婚約指輪が緩くなってしまったの。このままでは指輪を落として失くしてしまうわ。だから、前のサイズよりも一号小さくしてもらえるかしら?」

「まだ納品前なので可能でございます」

「助かるわ。このことはアストン侯爵家には秘密にして下さる?
 臥せって痩せたなんて知られたら、心配をかけてしまうから」

「勿論でございます。ところで、婚約指輪はお持ちになっていますか?
 そちらの指輪もサイズ直しをさせて頂きます」

「うっかり忘れてしまったのよ。最近、結婚式前で何かと忙しいから、落ち着いたらまた店に来るようにするわ。その時にお願い出来るかしら?」

「はい。お待ちしております」

 痩せて指輪が緩くなってしまったのは本当のことだったが、こんなにあっさりとサイズ直しをしてくれるとは思わなかった。

 リリアンと私の指のサイズは一緒だ。
 急遽、結婚することになっても、当日の朝に結婚指輪を用意することは難しいだろう。だから式では、私と指輪のサイズが一緒だという理由で、そのまま私に用意した指輪を使う可能性が高い。
 リリアンはぷくぷくした可愛らしい指をしていて、無理をして私と同じサイズの指輪をはめていたようにも見えたけど、一号くらいなら小さくなっても大丈夫よね?
 ふふっ……。どうせ後で新しい指輪を強請るのだから、結婚式の日くらいは我慢して着けてちょうだい。
 ああ、私はどんどん嫌な女になっていってるわ……

 宝石店から帰った後、こっそりと家出の荷物の準備をしていると、またアストン様が来たと知らされる。
 あの男は毎日のようにやって来て、一体何が目的なのかしら?
 またリリアンを呼んで、あの男の相手をしてもらおうかと思ったのだが…… 

「……気分が悪いから会えないと言っていたの?」

「はい。今日はお茶をご一緒するのは遠慮したいそうです」

 リリアンに声を掛けに行ってくれたメイドから、信じられないことを言われてしまった。
 あのリリアンが過去に体調不良を訴えたのは、学園のテストの日とか、学園で問題を起こして両親と一緒にお呼び出しを受けた日くらいだったはず。信じられないわね……
 後で部屋にお見舞いに行ってあげようかしら? 私が具合が悪かった時に、リリアンは私の部屋に来てくれたのだから、今度は私が行く番よね。

 とりあえず応接室に行くと、笑顔のアストン様に出迎えられた。

「ローラ、会えて嬉しいよ。
 具合は大丈夫かい? 昨日も具合が悪そうにしていたから心配になってしまってね……
 君の好きなチョコを持って来たんだ。一緒に食べよう」

 最近の私達の関係は誰が見てもギクシャクしているのに、この人はよく笑顔を作れるわね。
 裏で女遊びをし、婚約者の前では完璧な笑顔を作って、ある意味で本当に貴族らしい人だわ。
 私なんて、表面上は今までと同じように振る舞うつもりでいたのに、リリアンが関係を匂わせてきたり、牽制してくるような態度をとってきたから、最近では怒りを我慢出来なくなり、態度に出てしまっているのに。

「レイ様、来て下さってありがとう。
 今日はリリアンが体調不良らしいのです。
 私が具合の悪い時に心配して部屋まで来てくれたので、今度は私がリリアンの部屋に行ってあげようかと思っているのですが、レイ様も一緒に来て下さいますよね?
 レイ様とリリアンが一緒に私の部屋に来て下さった時、私はとても嬉しかったのです。きっとリリアンも喜んでくれると思いますわ」

 ここまで言えば、この男は断れないだろう。

「……それは大変だ。しかし、私が行っても良いのだろうか?」

「ええ。リリアンはレイ様にお会いしたら、すぐに元気になれるでしょうから」

「分かったよ……。その代わり、その後は二人きりで過ごしてもらえるかい?」

「分かりました。後でお茶をしましょう」

 本当は二人でなんて過ごしたくないけど、少しお茶をしたら帰ってもらおうかしら。

 アストン様を連れてリリアンの部屋の前まで行き、ドアをノックして返事を待つことなく、直ぐにドアを開けて部屋に入ってみた。
 入室を拒否されて内側から鍵を閉められたくなかったのもあるが、リリアンが私の部屋に来た時も返事を待たずに勝手に入ってきたことがあったので、そのままやり返してやりたかったのだ。
 こんなマナー違反なことをする私はもう淑女とは言えないけど、もうすぐ家を出て貴族令嬢は辞めるのだから、気にしないことにした。

 リリアンは、私とアストン様がいきなり部屋に入って来た姿を見て絶句していた。


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