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18 伯爵家を出て行く時
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「リリアンがいないと何だか寂しいわ。
最近、お茶をする時はリリアンが楽しい話を沢山して場を盛り上げてくれたから、いないと静かですわね」
全くそんなことは思っていないけど、この男と久しぶりに二人きりでお茶をすることが苦痛な私は、心にもないことを口にしていた。
「私はずっとローラと二人で過ごしたいと思っていたから、君とお茶が出来て嬉しいよ」
「……嘘つき」
「ローラ……?」
無意識にボソッと本音が出てしまった……
「ふふ……、何でもないですわ」
「ローラ。もうすぐ私達は結婚するが、私は君を大切にすると約束する。
君を裏切ることは絶対にしない。君だけを愛する。だから、ずっと私と一緒にいて欲しい」
アストン様が縋るように私を見つめている。
リリアンとの不貞がバレたと思っていて、私に婚約破棄されたくないからと必死なのね。なんて見苦しい男なの……
そんなアストン様を見て、心の中がスーッと冷えていく。
貴方の愛なんて信じられない。この男は、不貞がバレたことを知っても謝ることすらしないのね。
「レイ様、何を心配しているのか分かりませんが大丈夫ですわ。
私は婚約破棄がしたいだなんて、無駄なことは絶対に言いませんから」
笑顔でそのことを告げれば、アストン様の瞳が不安で揺れているのが分かった。
「婚約破棄だなんて冗談でも言わないでくれ。
ただ私は……、ローラに……」
「そろそろよろしいでしょうか?
私も引っ越しに向けて色々と準備がありまして忙しいのです」
引っ越しの準備と聞いて、アストン様が安堵の表情を浮かべている。
アストン侯爵家に引っ越す準備をしていると勘違いしているようだ。
「忙しいのに時間を取らせて悪かったね。
また来るよ」
そう言ってアストン様は帰って行った。
その後も、あの男は毎日のように私に会いに来る。私一人で相手にするのが大変だから、しつこくリリアンもお茶に誘ったのに断られてしまった。残念……
最近のリリアンは私を避けるようになり、全く絡んで来なくなってしまった。私の知らない所で何かがあったのだと思う。お父様かお義母様あたりに厳しく注意をされたのかもしれない。
そして、あっという間に結婚式の前日になっていた。
「マリー、これを貴女にあげるわ」
「お嬢様……、そんな高価な物は頂けませんわ。
退職することをどうかお許し下さい。本当はお嬢様と一緒に侯爵家に行きたかったのですが、母が体調を崩しやすくなっているので、実家の側にいて安心させたいのです。
これからもずっとお側に置いて欲しかったので、本当に残念です……」
私の専属メイドをずっとしてくれていたマリーは、私が嫁ぐのに合わせてこの伯爵家の使用人を退職することになっている。マリーは実家に帰って幼馴染と結婚することが決まっているらしい。
マリーの地元には果樹園が沢山あって、美味しい果物が沢山あるのだとよく話をしてくれた。
そんなマリーに、私が使っていた宝石を幾つかあげようと思ったのだが、真面目なマリーは遠慮して受け取ろうとはしないようだ。
「何かあった時のために持っていて。
今までの感謝の気持ちよ。ずっと側にいてくれてありがとう」
「ありがとうございます。
お嬢様、本当にアストン様と結婚されるのでしょうか?
……申し訳ありません。これは愚問ですね。
もし結婚生活で辛いことがあったら、いつでも私に会いに来て下さいね。美味しい果物を沢山ご馳走しますわ」
マリーは私がいなくなることに気付いているのかもしれない。知っていながら、気付かないふりをしてくれているようだ。
確かに、最近の私は前とは違う私になってしまったから、いつも私の側にいたマリーなら気付いてもおかしくはない。
愛していた婚約者を避けて冷たい態度を取るようになってしまったし、リリアンにはどんな態度を取られても我慢して受け止めていたのに、今は遠慮なくやり返して、言い負かすくらいのことを平気でやるようになってしまった。
こんな私の変化に気付かないのは、亡くなった母以外に興味のない父と、疎遠になってしまった兄くらいかしら。義母は、私とアストン様に何かあったことに薄々気付いているかもしれないが、私が結婚式当日にいなくなるとまでは思っていないはず。
「いつかマリーの家族に会ってみたいわ。マリーの旦那様を紹介してもらうのも楽しみね」
「はい。お待ちしております。
お嬢様、どうかお幸せに……」
「ありがとう。マリーも幸せになってね」
◇◇
翌日の明け方、マクラーレン様の協力もあり、私は無事に伯爵家から出て行くことが出来た。
公爵家の暗部の人が私の部屋の外まで迎えに来てくれて、邸から少し離れた場所には、マクラーレン様が待っていてくれた。
「シーウェル嬢。このまま馬車を走らせたらもう後戻りは出来ないが、後悔はしないか?」
「はい。後悔はしません。よろしくお願い致します」
「分かった。出発しよう」
そして馬車は走り出す……
最近、お茶をする時はリリアンが楽しい話を沢山して場を盛り上げてくれたから、いないと静かですわね」
全くそんなことは思っていないけど、この男と久しぶりに二人きりでお茶をすることが苦痛な私は、心にもないことを口にしていた。
「私はずっとローラと二人で過ごしたいと思っていたから、君とお茶が出来て嬉しいよ」
「……嘘つき」
「ローラ……?」
無意識にボソッと本音が出てしまった……
「ふふ……、何でもないですわ」
「ローラ。もうすぐ私達は結婚するが、私は君を大切にすると約束する。
君を裏切ることは絶対にしない。君だけを愛する。だから、ずっと私と一緒にいて欲しい」
アストン様が縋るように私を見つめている。
リリアンとの不貞がバレたと思っていて、私に婚約破棄されたくないからと必死なのね。なんて見苦しい男なの……
そんなアストン様を見て、心の中がスーッと冷えていく。
貴方の愛なんて信じられない。この男は、不貞がバレたことを知っても謝ることすらしないのね。
「レイ様、何を心配しているのか分かりませんが大丈夫ですわ。
私は婚約破棄がしたいだなんて、無駄なことは絶対に言いませんから」
笑顔でそのことを告げれば、アストン様の瞳が不安で揺れているのが分かった。
「婚約破棄だなんて冗談でも言わないでくれ。
ただ私は……、ローラに……」
「そろそろよろしいでしょうか?
私も引っ越しに向けて色々と準備がありまして忙しいのです」
引っ越しの準備と聞いて、アストン様が安堵の表情を浮かべている。
アストン侯爵家に引っ越す準備をしていると勘違いしているようだ。
「忙しいのに時間を取らせて悪かったね。
また来るよ」
そう言ってアストン様は帰って行った。
その後も、あの男は毎日のように私に会いに来る。私一人で相手にするのが大変だから、しつこくリリアンもお茶に誘ったのに断られてしまった。残念……
最近のリリアンは私を避けるようになり、全く絡んで来なくなってしまった。私の知らない所で何かがあったのだと思う。お父様かお義母様あたりに厳しく注意をされたのかもしれない。
そして、あっという間に結婚式の前日になっていた。
「マリー、これを貴女にあげるわ」
「お嬢様……、そんな高価な物は頂けませんわ。
退職することをどうかお許し下さい。本当はお嬢様と一緒に侯爵家に行きたかったのですが、母が体調を崩しやすくなっているので、実家の側にいて安心させたいのです。
これからもずっとお側に置いて欲しかったので、本当に残念です……」
私の専属メイドをずっとしてくれていたマリーは、私が嫁ぐのに合わせてこの伯爵家の使用人を退職することになっている。マリーは実家に帰って幼馴染と結婚することが決まっているらしい。
マリーの地元には果樹園が沢山あって、美味しい果物が沢山あるのだとよく話をしてくれた。
そんなマリーに、私が使っていた宝石を幾つかあげようと思ったのだが、真面目なマリーは遠慮して受け取ろうとはしないようだ。
「何かあった時のために持っていて。
今までの感謝の気持ちよ。ずっと側にいてくれてありがとう」
「ありがとうございます。
お嬢様、本当にアストン様と結婚されるのでしょうか?
……申し訳ありません。これは愚問ですね。
もし結婚生活で辛いことがあったら、いつでも私に会いに来て下さいね。美味しい果物を沢山ご馳走しますわ」
マリーは私がいなくなることに気付いているのかもしれない。知っていながら、気付かないふりをしてくれているようだ。
確かに、最近の私は前とは違う私になってしまったから、いつも私の側にいたマリーなら気付いてもおかしくはない。
愛していた婚約者を避けて冷たい態度を取るようになってしまったし、リリアンにはどんな態度を取られても我慢して受け止めていたのに、今は遠慮なくやり返して、言い負かすくらいのことを平気でやるようになってしまった。
こんな私の変化に気付かないのは、亡くなった母以外に興味のない父と、疎遠になってしまった兄くらいかしら。義母は、私とアストン様に何かあったことに薄々気付いているかもしれないが、私が結婚式当日にいなくなるとまでは思っていないはず。
「いつかマリーの家族に会ってみたいわ。マリーの旦那様を紹介してもらうのも楽しみね」
「はい。お待ちしております。
お嬢様、どうかお幸せに……」
「ありがとう。マリーも幸せになってね」
◇◇
翌日の明け方、マクラーレン様の協力もあり、私は無事に伯爵家から出て行くことが出来た。
公爵家の暗部の人が私の部屋の外まで迎えに来てくれて、邸から少し離れた場所には、マクラーレン様が待っていてくれた。
「シーウェル嬢。このまま馬車を走らせたらもう後戻りは出来ないが、後悔はしないか?」
「はい。後悔はしません。よろしくお願い致します」
「分かった。出発しよう」
そして馬車は走り出す……
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